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間章 4 戦場の爪痕

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 第1空挺団第1普通科大隊第1中隊は、小隊単位で展開し、行動を開始した。


 軽装甲機動車や、高機動車を主装備にした、自動車化部隊である。


 地雷原やIED等に対処するために、施設中隊爆発物等処理隊の隊員が、同行する。


 施設中隊爆発物等処理隊の隊員と共に、地雷や爆発物を探知する、専門の探知犬もいる。


 タイムスリップ後、大日本帝国内での動乱や開戦後の部隊行動で、敵側が仕掛けた地雷や爆発物に対して、人間や探知器だけでは、不十分だった。


 そのため、陽炎団警備部から警察犬を借りるか、新世界連合軍連合陸軍叉は大日本帝国陸軍から、軍用犬を借りていたが、南方作戦前に菊水総隊、破軍集団、防衛局長官直轄部隊の陸上自衛隊施設科部隊に探知犬を導入した。


 探知犬という名称ではあるが、他の軍用犬や警察犬と変わらない。


 爆発物の探知を専門であるが、爆発物だけでは無く、対人捜索も可能である。


 第2次世界大戦時に導入されていた、軍用犬の攻撃犬は、存在しない。


 史実でも、大日本帝国陸海軍でも、攻撃犬という軍用犬が、存在した。


 有名な攻撃犬の種類で言えば、ソ連が運用した爆弾犬であろう。


 爆弾を身体に巻き付けて、敵戦車の下に潜り込み、自爆する。


 実際、連合国軍との日本本土防衛戦時にも、北海道に侵攻した、ソ連極東軍が使役した爆弾犬は脅威であった。


 この時は、人間対人間の戦闘の影で、陽炎団警備部の警察犬とソ連軍爆弾犬の戦闘も行われていた。


 これだけでも、動物愛護団体が激怒しそうな事例だが、問題はそれだけでは済まなかった。


 これらの戦闘で、冬眠から目覚めた羆が凶暴化、見境無く人間を襲うという二次被害が発生した、恐らく狂犬病に感染していたらしい爆弾犬に噛まれたソ連兵を捕食し、狂犬病に感染した羆による被害報告も上がっている。


 現在、大日本帝国陸軍北部方面軍は、731部隊を再編して新設した陸海軍防疫部隊本部と共同で対策を講じている状態である。


 話が逸れたが、攻撃犬は、攻勢時及び守勢時でも幅広く戦地に投入され、前線部隊の兵士たちと共に奮戦した。


 しかし、白兵戦決戦思想による突撃戦法では、多くの攻撃犬が突撃した兵士たちと同じく命を落とした。


 近代戦の前では、攻撃犬は、無力だった。


 皮肉ではあるが、大日本帝国陸軍の白兵戦決戦思想の問題点が、連合国軍の各軍部から攻撃犬廃止を決定する原因の1つとなった。


 陸上自衛隊で運用されている探知犬(陸自での呼称)は、駐屯地叉は宿営地、野営地での警備(駐屯地警衛隊等が運用)、施設科部隊と衛生科部隊が爆発物及び負傷者の捜索目的で、運用する探知犬のみである。


 因みに、駐屯地警衛隊等の警備部隊が運用する探知犬は、海上自衛隊及び航空自衛隊の警備犬と、同じである。


 爆発物等処理隊の隊員を先導に、第1普通科大隊第1中隊の各小隊は、前進する。


 先導を歩く探知犬が、立ち止まる。


「止まれ!」


 爆発物等処理隊の陸曹が、89式5.56ミリ小銃折曲式銃床を構えたまま、手を挙げる。


 それを合図に、小隊長が、手話で停止の合図を出す。


 爆発物等処理隊の陸曹は、89式5.56ミリ小銃折曲式銃床の銃口を下ろし、周囲を念入りに見る。


 すると目の前に、ピアノ線が見えた。


 陸曹は、探知犬の頬を撫でる。


 探知犬は、安全性向上のために、犬用鉄帽と、犬用防弾チョッキ(迷彩塗装されている)を着込ませているため、頭を撫でる事はできない。


 陸曹は、ポーチから道具を、取り出した。


 ピアノ線は、旧式の手榴弾に接続されていたが、それだけでは無い・・・


「やってくれるな・・・」


 陸曹が、つぶやく。


 爆発物は、手榴弾だけでは無かった。


 巧妙に偽装された、航空爆弾に隣接していた。


「もしも、ピアノ線に引っかかり、手榴弾が爆発すれば、この航空爆弾にも誘爆し、俺たちは、お陀仏だった」


 陸曹は、慎重にピアノ線を切断し、手榴弾の信管も外した。


「しかも、この爆弾・・・日本軍のだ」


 普通科の陸曹が、つぶやく。


「危ない、危ない。まさか、味方の爆弾で、全滅なんて事になったら、洒落にならないところだった」


 この辺りは、大日本帝国陸海空軍航空部隊の爆撃機部隊による制圧爆撃や、支援爆撃等で、大量の爆弾が投下されていた。


 その中の不発弾を敵が鹵獲し、前進する自分たちに対して、使うつもりだったのだろう。





 爆発物等処理隊の隊員と、探知犬による爆発物除去作業の姿を、水主はカメラにおさめた。


「いつの時代にも、このような光景を見ない日は無いな・・・」


 水主は、不発弾の写真も撮る。


 不発弾は、何らかの原因によって砲弾、ロケット弾、爆弾等が炸裂せず、そのまま存在し続ける事を言う。


 原因としては、着弾時に着弾地点が柔らかく信管が適切な衝撃を確認できず、起爆の条件を満たさなかった場合や、起爆装置等が劣化し、炸裂しない場合等がある。


 不発弾は、敵味方を問わず、問題視される。


 不発だったとはいえ、一定の破壊力を有するため、後々に何らかの原因で作動する事がある。


 作動した場合、本来の目的とは異なる対象を、破壊叉は危害を与えてしまう。


 今回の場合、不発弾を回収した敵勢力が、地雷に転用させて使用している。


 幾多の戦場を駆け抜けて水主は、このような光景を、何度も見ている。


 現代戦においても、非正規戦闘で用いられるIED等は、不発弾を利用した物が多い。


 治安維持部隊は、自分たちが敵に対して使った兵器を、そのまま返されるのである。


 不発弾の問題は、市民生活に重大な危機を与えるだけでは無く、治安維持部隊等の将兵たちの士気にも影響する。


 自衛隊でも、第2次世界大戦時の不発弾や機雷が発見され、不発弾処理に出動する例がある。


 現代日本で発見される不発弾は、第2次世界大戦時の爆弾と世間は思っているが、実際は第2次世界大戦時の不発弾だけでは無い。


 実際、戊辰戦争時の官軍叉は幕府軍の砲弾等も発見され、自衛隊が出動した事例も存在する。


 パレンバン地方での戦闘でも、大日本帝国陸海軍の野砲や重砲だけでは無く、陸上自衛隊、朱蒙軍陸軍、新世界連合軍連合陸軍の榴弾砲、迫撃砲から発射された砲弾も、不発弾として発見されている。


 蘭独軍等の捕虜からの情報では、不発弾周辺に取り残された負傷兵の救護活動中に、不発弾が炸裂し、従軍医師や看護婦を巻き込んだ事が、報告された。


 爆発物等処理隊の隊員数人が、普通科隊員たちを下げさせた状態で、地雷に転用された不発弾の除去作業を開始した。


 携行装備品のみで、慎重に不発弾の信管を外す。


 その光景も、水主は撮影する。


 パレンバンの要所を確保した連合空挺部隊は、周辺の安全確認を終えた後、工兵や施設科隊員を引き抜いて、周辺での不発弾処理を行った。


 その時の写真も、何枚も保存されているが、不発弾の中には、子供の遊び場にあった物もある。


「敵も、なり振り構わず。という状況に追い込まれているのか・・・」


 水主は、不発弾の無力化作業を眺めながら、つぶやく。


 彼が張り付いた小隊は、大隊本部から派遣される、施設小隊と、輸送小隊が到着するまで、待機する事になった。


 いくら無力化した不発弾だとは言え、その破壊力は脅威である。


 きちんと処理するまでは、離れる訳にはいかない。


「ここで爆破する事は、できないのでしょうか?」


 水主の護衛である武藤が、つぶやく。


「それも、1つの手でしょうが・・・迂闊に爆破処理すれば、敵にこちらの位置を、気づかれる可能性もあります。何事も、安全に事を進める、方針なのでしょう」


 水主は、カメラを構えながら、解説する。


 確かに現代戦では、その場で治安維持部隊が爆破処理する場合があるが、あれでも周辺の安全には抜かりない。


 安全に爆破する事を、心がけている。





 第1普通科大隊が、行動を開始してから、1日後・・・


 小さな町を、発見した。


 町では、戦闘が行われているのか、各地で銃声が響いていた。


「味方だ!!」


 第1中隊長が、随行員たちと共に、連合陸軍アメリカ陸軍部隊に、叫んだ。


 合図を受けて、中隊長が、連合陸軍アメリカ陸軍部隊に近づく。


「そちらの指揮官は、誰か?」


 中隊長が聞くと、1人の将校が答える。


「私だ!」


 指揮官を発見すると、お互いに官姓名を名乗った。


 彼らは、連合陸軍アメリカ陸軍歩兵旅団戦闘団に所属する、歩兵大隊1個中隊である。


「状況は?」


「我々が市街に入った時に、手荒い歓迎を受けた」


「住民は?」


「市街に入った時から、姿を見ていない。恐らく、屋内に隠れているのだろう」


 ある程度の状況を聞くと、第1普通科大隊第1中隊は、連合陸軍アメリカ陸軍部隊の支援に協力する事にした。


「周囲を警戒しつつ、行動しろ!」


 中隊長が、部下たちに注意する。


 小隊単位で、市街に展開した。


 軽装甲機動車を前衛に出し、普通科隊員たちが、左右に展開する。


 2階建ての建物から、軽機関銃による銃撃を受けた。


「伏せろ!」


 小隊長が、物陰に隠れながら叫ぶ。


 軽装甲機動車に搭載されている、12.7ミリ重機関銃の銃口を向けた。


 防弾楯と装甲板に守られているため、銃手の安全は最低限保障される。


 機関銃手は、12.7ミリ重機関銃を、発射する。


 MINIMIを構えた機関銃手が、引き金を引く。


「手榴弾!!」


 小隊陸曹が叫び、手榴弾ポーチから手榴弾を持って、窓に投擲する。


 手榴弾が炸裂すると、機関銃による銃撃は、収まった。


 小規模なゲリラ戦を受けるが、本格的な攻勢を受ける事は、無かった。


 しかし、市街地でのゲリラ戦であるため、攻撃は巧妙であり、思わぬ場所から銃撃を受け、負傷者を出した。


「足を撃たれた!」


 隊員の1人が、足を撃たれて、地面に倒れる。


「後方に、運べ!」


 他の隊員たちが、後方に運ぶ。


 軽装甲機動車の12.7ミリ重機関銃や、MINIMIによる砲火が集中し、市街地に潜むゲリラ兵を、次々と倒していく。


 第1中隊に所属する狙撃班も、狙撃ポイントを見つけると、味方部隊を援護するために、M24対人狙撃銃を構える。


 市街地での戦闘であるため、敵も狙撃兵が配置していた。


 狙撃手は、連合陸軍アメリカ陸軍部隊の狙撃手と連携し、敵狙撃兵を無力化する。


 M24対人狙撃銃の狙撃眼鏡を覗く狙撃手は、照準を合わせると、引き金を引く。


 銃口から弾丸が発射され、敵狙撃兵を仕留める。


 槓杆を引き、空薬莢を排出し、次弾を装填する。


 狙撃手は、淡々と機械的に、この作業を繰り返す。


 そこには、感情の入る余地は無い。


 なぜなら、感情が入れば躊躇いが生まれ、その躊躇いが、味方を死に追いやるからだ。





 連合陸軍アメリカ陸軍部隊と、第1空挺団第1普通科大隊第1中隊が、町の中心部に迫ると、白旗を掲げた背広の男が現れた。


「敵対の意思が無いのなら、ゆっくり出てこい!」


 防弾仕様のハンヴィーから、M4を構えたアメリカ兵が、叫ぶ。


「もう十分だろう!!我々は降伏する!中にいる兵士たちも、同じ気持ちだ!!」


 背広の男が、叫ぶ。


「中にいる兵士たちに、武器を持たず、出てこいと伝えろ!」


 小銃小隊長が、叫ぶ。


 背広の男が振り返り、建物に向かって叫ぶ。


「武器を持たずに、出てくるんだ!」


 背広の男の言葉に、しばらくして、中からぞろぞろと、兵士や腕章を付けた民兵たちが、現れた。


「交戦者と、非交戦者に分けろ!」


 小銃小隊長の命令で、部下たちが、投降する兵士たちに伝える。


「中に怪我人がいる、衛生兵を頼む」


 民兵の1人が、小銃小隊長の2等陸尉に告げる。





 水主は、少し離れた所で、投降兵たちの様子を見ていた。


 第1普通科大隊本部中隊から、衛生員たちが現れる。


「どうしたんです?」


 水主は、金澤に尋ねた。


「何でも、建物の中に負傷者が、いるそうです」


「?」


 水主の脳裏に、疑問が浮かんだ。


(負傷者?)


 水主は、カメラを構えた。


 倍率を上げて、彼らの表情を見た・・・


(これは・・・!!)


 水主は、直感した。


「罠だ!!!」





「罠!?」


「?」


 突然の叫び声に、小隊は、即応できなかった。


「今だ!!」


 投降した民兵の1人が叫び、民兵たちが、懐から手榴弾を取り出した。


「何ぃ!!?」


 小隊長が、驚く。


 民兵たちは、駆け付けた衛生員たちに向けて、手榴弾を投擲する。


 即応できなかったが、事前に警告を受けたため、衛生員たちはできる限り、その場から離れて地面に伏せた。


 手榴弾が炸裂するが、幸いにも衛生員たちが、大事になる事は無かった。


 周囲に展開していた小銃小隊の隊員たちが、89式5.56ミリ小銃折曲式銃床だけでは無く、M4を携行した連合陸軍アメリカ兵たちも、手榴弾を投げた投降兵たちに、銃弾を浴びせた。


「衛生員が、負傷した!」


 手榴弾を投擲した投降兵たちを無力化した後、負傷した衛生員たちの元へ、他の隊員たちが駆け付ける。





「何て事だ・・・」


 金澤が、つぶやく。


 水主たちも、衛生員たちの元へ駆け付け、負傷の度合いを確認する。


 救急パックから、応急処置器具の止血帯を取り出し、炸裂時の破片等が突き刺さった箇所の止血を行った。


 連合陸軍アメリカ陸軍部隊にも衛生兵がいるため、衛生員たちの救護処置を行う。


 判断が早かったため、衛生員たちが、大事になる事は無かった。


 もしも、水主が警告を発しなかったら、衛生員たちは何の対応もできず、爆死していただろう。


「どうして・・・?衛生員は、怪我人の手当てをする専門要員なのに・・・」


 武藤が、つぶやく。


「これが、戦場の残酷な一面です。確かに、衛生要員たちは、医療従事者であるため、人道面で戦闘時にも保護される場合もありますが・・・戦闘が激化し、追い詰められたら、このような行動は、度々見られます」


 水主が、答える。


 史実でも、第2次世界大戦後期になると、戦闘中の混乱等で、衛生兵が、攻撃を受ける場合が発生した。


 特に衛生兵は、高度な専門的知識が求められるため、補充が利きにくい特殊兵科である。


 さらに、衛生兵がいなくなれば、部隊の士気は低下し、作戦行動に支障を来した。


 そのため、ヨーロッパ戦線、太平洋戦線では、意図的に衛生兵が攻撃される事例もあった。


 もちろん、すぐに対策が施され、衛生兵を示す衛生腕章や、ヘルメットにある衛生兵の印を外し、一般兵と変わらない軍装で、行動する事も多かった。


 衛生兵自身も、自己の安全を守るために、歩兵携行火器を携行する場合がある。


 だが、傷病兵の救護と治療が任務であるため、小銃や拳銃を携行しても、歩兵のように大量の予備弾薬や、予備手榴弾を、携行する事はできない。


 この時、将校も同じように意図的に狙われていた(対策として、士官の階級章を外し、兵卒や下士官の階級章を付けていた・・・若しくは、完全に外していた)。


 投降した正規兵及び非正規兵は、連合陸軍シンガポール陸軍に、引き渡された。


 各地での報告では、投降する正規兵及び非正規兵の中には、投降したふりをした状態で、抵抗した事例が上がった。

 間章 4をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますがご了承ください。

 次回の投稿は11月22日を予定しています。


 なお、活動報告で報告しました、外伝1は、本日10時に投稿予定となっています。

 こちらもよろしくお願いします。

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