間章 1 決死の空挺作戦
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
ゴー・サインが出ると共に、菊水総隊陸上自衛隊第1空挺団第1普通科大隊を乗せた、航空自衛隊のC-130Hは、フィリピン・クラーク空軍基地を離陸した。
自衛隊だけでも、2個普通科大隊と、1個特科中隊等の完全装備隊員と、資材が積み込まれているため、C-130Hと、C-2だけでも、それなりの数が空に浮いている。
これだけでは無く、新世界連合軍連合陸軍空挺部隊や、朱蒙軍陸軍空挺部隊の、人員、資材を共に積み込んだ、連合空軍輸送機部隊、朱蒙軍空軍輸送機部隊が、参加しているため、空を覆い尽くす勢いである。
大日本帝国陸海軍も、空の神兵と言わしめる挺進集団と、海軍陸戦隊空挺部隊も投入している。
落下傘装具を身に付けた水主は、第1普通科大隊本部に随行するため、大隊長と同じく1番機に搭乗している。
「民間人が、俺たちと一緒に落下傘降下するなんて、元の時代では、あり得ない話ですね」
大隊本部中隊に所属する、情報小隊の陸曹が、告げた。
「まったくだ。カメラマンさんは、危険に飛び込む事に、何の躊躇いも無いのか?」
誰かの質問に対し、水主は答えた。
「危険に飛び込まなければ、特ダネには出会えない。君たちにとって、銃が危険な場所から脱出する術なら、私の武器は、カメラだ。カメラが危険な場所から、脱出させてくれる」
「そこまでの度胸があるのでしたら、自衛隊に入隊してくれれば良かったのに・・・」
誰かが、告げる。
「危険を顧みない精神を持つ者が、自衛隊ばかりに行っては、世の中が衰退する。世の中には、さまざまな者たちが暮らしているが、俺のように、危険を顧みない職業人は、大勢いる。しかし、上司や先輩や同僚の中には、そういった精神を持つ者の存在を、許さない者もいる。だから、世間的には少ないと思われがちだが、俺以上の精神を持つ者も多い」
水主が言い終えた後、突然、機体が激しく揺れた。
それだけでは無く、外から無数の炸裂音が響く。
「何だ!?」
「いきなりの、歓迎パーティーかよ!!?」
1番機に搭乗する、第1普通科大隊本部及び本部中隊の隊員たちが、口々に叫ぶ。
「降下10分前!!」
大隊長の見山が、叫ぶ。
彼を先頭に、本部要員及び本部中隊の隊員たちが、降下準備に、とりかかる。
最後尾が、水主や、専属護衛の金澤と武藤である。
水主は、素早く最終点検を行う。
「降下5分前!!」
後部ランプが開放され、外気が流れ込む。
後続の機が、対空砲火を受けている様子が、視界に飛び込む。
後部ランプの天井に設置されているランプが、赤色から緑色に変わった。
「降下開始!!」
合図と共に、見山が飛び降りる。
そこから、次々と隊員たちが、機外に飛び出す。
水主の番となり、機外へ身を躍らせた。
ワイヤに設置したフックによって、落下傘が開傘される。
そのまま落下速度が低下し、低速で落下する。
落下しながら、周りの状況を見回すと、猛烈な対空砲火の光景が、目に入った。
何機かの輸送機が、対空放火を受けて、墜落していく光景が、目に飛び込む。
そのまま水主は、落下傘で降下し、地面に着地する。
素早く落下傘を外し、リュックサックから防弾ヘルメットを、取り出した。
それを被ると、デジタルカメラを取り出した。
「水主さん!」
専属護衛の武藤が、89式5.56ミリ小銃折曲式銃床を持ったまま、姿を現した。
「怪我は、ありませんか?」
「問題無い。動作は、身体が覚えている」
水主はそう言って、デジタルカメラを構える。
付近で、無事に着地した隊員たちの様子を、素早く撮影する。
「2人とも、大丈夫か!?」
金澤が、M14A1を持って現れた。
「問題ありません」
「同じく」
2人の回答を聞き、金澤は、すぐに移動するように、指示を出した。
「第1普通科大隊は、当初の行動計画通り、パレンバン飛行場攻略を、開始する」
金澤の説明を受けながら、前進すると・・・
無数の銃声や砲声が、耳に入ってきた。
パレンバン飛行場を守備するオランダ軍と、第1普通科大隊が、戦闘を開始していた。
素早く、空中投下された81ミリ迫撃砲L16を回収した普通科中隊が、迫撃砲弾を半装填し、命令を待っていた。
「撃て!!」
指揮官からの合図と共に、一斉に迫撃砲が、咆吼を上げた。
水主は、迫撃砲が咆吼を上げた瞬間を、撮影する。
迫撃砲が、発射される瞬間だけでは無い。
迫撃砲を運用する隊員たちの表情までを、コンマ1秒も見逃さす、撮影した。
発射された迫撃砲弾は、パレンバン飛行場を防衛する防御陣地に、降り注ぐ。
防御陣地攻略を命じられた第1普通科大隊第1中隊は、中隊下の迫撃砲小隊による火力支援を受けながら、攻略を開始する。
「前方の速射砲陣地に向けて、マルヒトを撃ち込め!」
中隊長が双眼鏡で確認しながら、最前衛に展開している小銃小隊に、指示する。
「了解!」
小隊長の2等陸尉が、手話で合図をする。
空中投下された、01式軽対戦車誘導弾を回収した、射手が構える。
小型軽量化等がされた、携行式対戦車誘導弾である。
照準、射撃が1人で行える携行式対戦車火器であり、発射後、命中まで誘導する必要が無い。
射手は、ダイレクトヒットモードにセットし、速射砲陣地に照準を合わせる。
「ロック完了!」
「発射!!」
「発射!!」
発射の号令を受けて、射手が、01式軽対戦車誘導弾を発射する。
01式軽対戦車誘導弾は、2つの発射機能を有する。
戦車や装甲車の弱点である上面攻撃を行う、トップアタックモードと、そのまま直接攻撃を行うダイレクトヒットモードがある。
主力戦車等を撃破可能な対戦車弾は、土嚢で構築された速射砲陣地に直撃し、土嚢もろとも吹き飛ばした。
01式軽対戦車誘導弾を持つ射手が、対戦車誘導弾を撃ち込んだ時・・・側面まで近付いてきたオランダ兵に気付いた。
「っ!!」
01式軽対戦車誘導弾を地面に置き、レッグホルスターから、9ミリ拳銃を抜いた。
通常、01式軽対戦車誘導弾等を装備する射手は、89式5.56ミリ小銃等の小銃を携行する事は無く、拳銃のみである。
射手が、9ミリ拳銃の引き金を引こうとした時・・・目の前で火炎が走り、オランダ兵たちを、地獄の業火が包み込む。
携帯放射器を携行した普通科隊員が、火炎放射を行ったのだ。
「速射砲陣地を攻略した。これより、前進する」
最前衛に配置されている小銃小隊長が、中隊長に報告した。
前進する小銃員たちは、89式5.56ミリ小銃折曲式銃床の銃口に、89式多用途銃剣を装着した状態で突撃する。
突撃する小銃員を援護するために、5.56ミリ機関銃MINIMIを装備した機関銃員が、連発射撃する。
分隊単位で、塹壕に潜んでいるオランダ兵に、M26破片手榴弾を手榴弾ポーチから取り出して、一斉に投擲する。
M26破片手榴弾が炸裂し、塹壕を吹き飛ばす。
他の塹壕でも接近戦が行われ、陸自隊員が、89式5.56ミリ小銃折曲式銃床に装着した89式多用途銃剣を、オランダ兵の胸元に突き刺す。
C-2輸送機から空中投下された重迫牽引車と、120ミリ重迫撃砲RTを回収した、特科大隊第1中隊は、重迫撃砲を展開した。
「パレンバン市から、飛行場への増援部隊が出動した!第1普通科大隊本部中隊の情報小隊から、報告があった。我々は、増援部隊に砲撃をするぞ!」
中隊長である2等陸尉が、叫ぶ。
「半装填よし!!」
「撃てぇぇぇ!!」
指揮官の合図で、装填手が手を離した。
120ミリ重迫撃砲の砲口が、吼える。
機動性と榴弾砲並の威力を有する重迫撃砲は、機動力重視の特科部隊(第1空挺団、水陸機動団、即応機動連隊)に配備されており、普通科部隊でも師団編成下の普通科連隊では、専門の重迫撃砲中隊、旅団編成下の普通科連隊では、本部管理中隊に重迫撃砲小隊が編制されている。
展開した120ミリ重迫撃砲が、一斉に砲撃を開始する。
水主は、その光景をコンマ数秒も見逃さず、写真に収める。
「迫撃砲!!」
金澤が叫び、水主を庇うように伏せさせる。
迫撃砲弾が近くに直撃し、炸裂した。
吹き飛ばされた土が、雨のように降り注ぐ。
「敵襲!!」
敵の勢力圏内であるため、第1特科中隊が展開した場所も、安全とは言い難い。
数人の兵士が、水主の目の前に現れた。
「伏せていろ!!」
叫びながら、金澤が、M14A1を構えて、発砲する。
武藤も89式5.56ミリ小銃折曲式銃床を構えて、3点射制限射撃で引き金を引く。
第1特科中隊の前方にも、小隊規模の敵が現れた。
特科隊員も、89式5.56ミリ小銃折曲式銃床で敵部隊を無力化する。
「陣地転換!陣地転換!」
中隊長が叫び、特科隊員たちは、すばやく別の場所に移動する準備をした。
水主は、120ミリ重迫撃砲の牽引準備をしている所を、1枚撮影する。
その時、どこからか飛んで着た弾丸が、特科隊員の首に被弾する。
水主は、首に被弾した特科隊員の元に駆け寄り、手持ちの救急キットから、止血帯を取り出した。
「おい!しっかりしろ!意識を、しっかり持て!」
水主は、大声で話しかけながら、首を負傷した特科隊員に、応急処置を施す。
「大隊本部に、運ぶぞ!」
水主が、駆け寄った特科隊員たちに注意事項を伝達しながら、大隊本部中隊衛生小隊の元へ搬送するよう告げた。
担架が用意され、水主に注意された事を守り、担架に乗せられた。
そのまま高機動車に乗せて、随行員1人が、負傷隊員に話しかける。
「随分と、手慣れていますね・・・」
「・・・・・・」
武藤が、水主の応急処置から搬送まで行動を見ながら、金澤に話しかける。
飛行場の防御陣地を攻略した第1中隊は、そのまま飛行場に雪崩込み、飛行場制圧を行った。
C-2輸送機から空中投下された重火器や、軽装甲機動車等の回収も無事成功し、飛行場確保に投入された。
さらに、別の方向から大日本帝国陸軍南方軍挺進集団第2挺進団1個歩兵大隊が、防御陣地を突破し、飛行場に突入した。
飛行場内は、蜂の巣を突いたような撃戦となった。
第2挺進集団の歩兵大隊は、二式手動装填式小銃や拳銃、手榴弾を携行しているため、史実のように、拳銃と手榴弾だけで戦う事態は無い。
2方向からの突撃に、飛行場守備隊の指揮官は、飛行場防衛が不可能と判断し、残存部隊に退却の指示を出した。
飛行場守備隊の退却を確認した見山は、安全のために飛行場内に爆発物が仕掛けられていないか、第1中隊に捜索を命じた。
飛行場に爆弾が設置されていない事を確認すると、第1普通科大隊を、飛行場に進出させた。
飛行場を制圧して終わりでは無く、第1空挺団施設中隊第1施設小隊と、挺進集団工兵部隊が、放棄された機材や資材と、持ち込んだ機材と資材を使って、飛行場の復旧作業を行った。
普通科部隊や歩兵部隊も、予め決められた所定の場所に、防御陣地を構築する。
「そこと、そこに、MINIMIを、設置しろ!」
敵が使っていた塹壕や、トーチカ等を簡易に修復し、敵の攻勢に対して十字砲火を行えるように隊を配置する。
普通科中隊下の81ミリ迫撃砲L16も配置され、飛行場奪還に来た敵部隊に対し、集中砲火を浴びせられるよう設置する。
水主は、飛行場に設置された、第1普通科大隊本部に、顔を出した。
「各部隊からの報告では、予定通りに、パレンバン地方の制圧を完了しました」
科長の1人が、報告している。
「連合国軍からの、大規模反撃の兆しは?」
「情報小隊が展開し、周辺を確認しましたが、そのような兆しは、ありません」
「朱蒙軍海兵隊第11海兵旅団は?」
見山が、地図を見下ろしながら、聞く。
「現地民兵部隊、及び義勇軍からのゲリラ戦等により、足止めを受けています」
作戦計画では、スマトラ島等の攻略を担当する南方軍第16軍第38歩兵師団が、スマトラ島に上陸する事になっている。
朱蒙軍海軍海兵隊第11海兵旅団が、パレンバン地区の海岸線に上陸し、連合空挺部隊と合流し、制圧した交通路及び油田の安全確保を取りつつ、掃討戦を行い、パレンバンを掌握する。
さらに第38歩兵師団が、スマトラ島に上陸し、島全域を掌握する。
パレンバン地方に空挺降下し、パレンバンの制圧を行おうとした時、かなりの抵抗を受けたが、それでも、ある程度の戦闘を行ったオランダ軍は、すぐさま退却した。
「飛行場修復の状況は?」
「施設小隊が全力を上げて、修復を急がせています。ある程度、修復できれば、プロペラ機の離着陸は、可能です」
施設小隊長の2等陸尉が、報告する。
水主は、見山たちの話に聞きながら、メモ帳にペンを走らせていた。
彼は、反戦カメラマンであるが、写真だけで戦争の残酷さ等を伝える訳では無い。
記事も書く。
水主は、本部での話や、取材内容をメモし終えると、外に出て、防御陣地に向かった。
防御陣地では、第1普通科大隊の隊員たちが、小休止をとっていた。
修復した塹壕やトーチカで、1人の隊員が、煙草を咥えて火をつけていた。
水主は、戦闘の真っ只中で、小休止をとる彼らの姿を、1枚とった。
気分を落ち着かせるのは、煙草だけでは無い。
煙草を吸う者もいれば、背嚢からクッキーやビスケットを出して、口に入れている者もいる。
「貴方も、いかがですか?」
隊員の1人が、板チョコを割って、水主に差し出した。
「いただきます」
板チョコを受け取り、口に入れる。
チョコの甘さと苦みが、口の中に広がる。
生死の境である戦闘状態から、解放されると、一気に身体の疲労が襲ってくる。
甘い物を食べる事により、一気に襲いかかった疲労がとれる。
歴戦の兵士でも、疲労が溜まった状態では、満足に戦う事はできない。
歴戦の兵士は、常に短い小休止の中で、疲労を回復する術を持っている。
その方法は、甘い物を口に入れる、煙草を吸う、目を閉じて短時間の睡眠をとるである。
疲労が溜まった状態で、次の戦闘に入ると、判断能力低下、気力の低下等が発生し、命令の誤認や正確な射撃が、できなくなる等の事態を招く。
水主も、戦場カメラマンであるから、兵士たちの小休止がいかに大切か、理解している。
間章 決死の空挺作戦をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますがご了承ください。
次回の投稿は11月13日を予定しています。




