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マレーの虎 第20章 ジットラ・ライン攻防戦 3 要塞陥落

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 菊水総隊陸上自衛隊第13普通科戦闘団、大日本帝国陸軍南方軍第25軍第5歩兵師団が、ジットラ・ライン要塞陣地への攻勢を開始したのと同時に、ジットラ・ライン要塞陣地奥深くに潜入した、ハリマオ率いる抵抗軍も、行動を開始した。


 武器弾薬集積所、車輌格納庫、地下通路、通信施設に設置した時限式爆弾が、一斉に起爆した。


「爆発を確認。次の作戦に移るぞ!」


 指揮官格の1人が、56式自動歩槍を持って、部下たちに叫んだ。


 他の部下たちも、AK-47や56式自動歩槍だけでは無く、RPG-2やM72といった、擲弾発射器や、携帯式対戦車ロケット弾等を装備している。


「では、自分たちは、着陸地点を確保します」


「俺たちは、高射砲陣地と、それを繋ぐ通路を破壊する。時間は、20分しか無い。迅速にやれ」


 2人の指揮官が、別れた。


 彼らの役目は、野砲陣地や歩兵陣地、地下通路等の位置情報を教えるだけでは無い。


 ハリマオ率いる抵抗軍所属の潜入工作員たちは、攻勢開始と同時に、通信網の遮断、要塞陣地全域に張り巡らされた地下通路を遮断し、それが完了すると、次の作戦に移行する。


 新世界連合軍連合陸軍アメリカ陸軍ヘリボーン部隊の着陸地点確保、及び高射砲陣地の無力化である。


 通信網が遮断されたため、野砲陣地及び高射砲陣地は、大混乱していた。


「至急、伝令兵を出せ!何が起きているか把握しろ!!」


 高射砲陣地の指揮官である少佐が、兵卒に叫ぶ。


「サー!」


 兵卒が挙手の敬礼をして、高射砲陣地指令室を、飛び出そうとした時・・・


「失礼します!要塞司令官からの緊急連絡を、お伝えに上がりました!」


 切羽詰まった状態にも関わらず、異常が付く程の律儀な口調と、生真面目な態度で、マレー兵が、指令室に入ってきた。


「何だ?」


 少佐は、あまりに落ち着いたマレー兵の、態度と行動に、不信感を募らせるが、今は、そんな事を言っている場合では無い。


「高射砲陣地は、占拠されました!」


「?」


 伝令兵の言葉に、少佐が首を傾げた。


 一瞬だけ、言葉の意味が分からなかったが、その言葉の意味は、すぐにわかった。


 伝令兵の後ろから、見慣れない自動小銃を携行した、マレー兵たちが姿を現し、銃口をこちらに向けていた。


「目の前にいる将校以外は、殺せ!」


 伝令兵の言葉と共に、自動小銃の銃口が、一斉に火を噴いた。


「くっ!」


 少佐は、ホルスターから拳銃を抜くが・・・


 伝令兵に変装していた、パルチザン兵の動きの方が、速かった。


「ぐがっ!?」


 少佐は腹部に、強烈な拳撃を受け、地面に倒れた。


「生憎と、貴方に抵抗、自決されたら、困りますので・・・今は、この程度にしておきます」


 どうやら、伝令兵に変装したパルチザン兵が、リーダー格のようだ。


「隊長!防空砲兵たちを無力化し、高射砲を掌握しましたが・・・」


「何か、問題か?」


「捕虜は、いかがいたしましょうか?同志の中には、イギリス人に恨みを持つ者も、いますが・・・」


「いかなる事があっても、戦う力を失った者は殺すな。我らイスラムの戦士は、誓いと約束を、命尽きるまで守る」


 指揮官の言葉に部下が、捕虜への保護を徹底した。


「ここを爆破する。急いで爆弾を設置しろ!」


「「「はっ!!」」」


 工作兵たちが懐から、C-4爆薬を取り出し、指令室に設置する。


 通信網を遮断しても、それは一時的であるため、回復不可能にするには、直接破壊しなければならない。


 高射砲陣地の無力化が完了し、着陸地点確保に向かった部隊も、問題無く制圧した。


 数台のトラックや装甲車が現れたが、携行式対戦車火器の前には無力だった。





 ジットラ・ライン要塞陣地中枢にある要塞司令部の位置も、ハリマオたちの情報提供で、完全に把握され、要塞陣地に配備された、部隊の退避路まで伏撃部隊等が配置されていた。


 中核となった部隊は、連合陸軍総軍イタリア・アジア軍第11山岳准旅団山岳歩兵大隊の1個中隊である。


 この下に、第13普通科連隊レンジャー隊と、第25軍編成下のコマンド部隊である挺進隊が、組み込まれている。


 彼らは山岳戦専門の戦闘部隊であり、高度な登山技術とサバイバル技術、山岳兵特有の個人戦闘技術を有する精鋭部隊である。


 特にイタリア・アジア軍傘下のイタリア陸軍山岳部隊は、アジア地域特有の山岳戦術を習得する精鋭たちである。


 第11山岳准旅団山岳歩兵大隊、第A()中隊は、ARX-160を携帯している。


 山岳戦であるため、個人が携行できる装備は制限されるため、戦闘効率の向上と対人、対物戦闘の確実性を確保するため、5.56ミリ小銃弾でも、7.62ミリ小銃弾でも無く、6.8ミリ新小銃弾を使用する。


「思った通り・・・敵は、退避路の安全を確保するか」


「退避路は、前線部隊の退避するルートであると同時に、増援部隊の移動ルートでもある。安全を確保するのは、間違いでは無い・・・しかし」


「最初から、予備ルートに部隊を展開するのは、退却を決定している事を、敵にわざわざ教えているようなものだ」


 A中隊長である大尉と、第13普通科連隊レンジャー隊長の1等陸尉、そして、挺進隊指揮官である中佐が、無線で交信した。


 ジットラ・ライン要塞陣地の主要退避路には、ジットラ・ライン要塞陣地の弾薬庫から奪った榴弾砲の砲弾や、迫撃砲の砲弾等を、地雷や手榴弾で掛け合わせて造ったIEDを、設置している。


 新世界連合軍や自衛隊、朱蒙軍の対IED仕様にされた車輌でも、無事にはすまないレベルのIEDを設置しているため、戦車や装甲車による脱出や移動は、不可能である。


 ハリマオたちの情報で、主要退避路は英印軍しか使わないため、民間人が使用する事が無い事は、すでに把握済みである。


 極力、要塞内にいる民間人が、巻き添えにならないようにするため、情報収集は徹底されている。

 

「要塞の司令官は、慎重派のようだ。通信網の遮断と地下通路の破壊で、主力部隊を即応展開できないと見るや、主力部隊を後方に退却させるという判断を、即座に下すのだからな」


 大尉が、つぶやく。


「映画やアニメ等では、こういう場合、攻略部隊は、深追いしないのが通例だが?」


「攻略目的なら、通例だろう。慎重派の指揮官は、当然、追撃される事を想定している。どんな罠を張っているか、猿でもわかる」


 1尉の言葉に大尉が答えた後、ルート上に別の部隊が現れた。


「お出ましだ」


 大尉の言葉に1尉は、施設科隊員に合図を送る。


 予備の退避路には、対人障害システムの障害Ⅰ型と、左右の路上脇にⅡ型を敷設している。


「スタンバイ、スタンバイ・・・今だ!」


 1尉は双眼鏡で、目標を確認しながら、施設科隊員に合図を出した。


「起爆!」


 対人障害システムの起動で、路上と路上脇に設置した対人障害が、一斉に起爆する。


 ジットラ・ライン要塞陣地から、後退命令を受けた主力の1個旅団の歩兵部隊は、行軍ルートの路上の爆発に、パニックを起こした。


「隊列が乱れた!撃て!!」


 1尉の号令と共に、2脚を立てた64式7.62ミリ小銃及び89式5.56ミリ小銃の十字砲火が開始された。


 これに加えて、MINIMIと隊員1名で運搬、射撃が可能な60ミリ迫撃砲M6C-210が、火を噴く。


 別の高地からは、A中隊による十字砲火と、九五式軽戦車を中核とした挺進兵からの突撃を受けた。





 ジットラ・ライン要塞司令部では、主力部隊が後退中に、伏撃戦を受け、壊滅した事が報告された。


「何だと!!」


 司令部にある机を叩き、要塞司令官が、立ち上がった。


 主力部隊であり、ジットラ・ライン要塞陣地に配備されている部隊の中では、精鋭揃いの部隊であったが、地下通路が破壊され、部隊の即応展開ができず、通信網も遮断され、防御陣地の詳細な情報が把握できなかったため、司令官判断で、1個旅団を後退させ、予備の1個旅団で残存部隊を掌握し、撤退するはずだったが、撤退に使用するルートは敵が待ち構えている。


「・・・・・・」


 要塞司令官は、肩を落とした。


 過酷な自然環境にも屈せず、莫大な資金と労働者を使って完成させたジットラ・ライン要塞は、ヨーロッパ戦線でのマジノ線と言わしめる要塞陣地だった。


 しかし、内部に潜り込んだ抵抗勢力による破壊工作と攪乱工作で、要塞に設置された重砲や高射砲が無力化されただけでは無く、弾薬集積所や車輌格納庫に収容されていた大量の武器、弾薬と戦車や装甲車が破壊された。


 さらに、欺瞞情報が飛び交い・・・


 現地民の徴募兵たちで編成した義勇軍部隊が、日本軍に内通しているという噂が、日本軍の攻略が、開始される以前から流れていたのだが、事実、軍事物資及び移動手段、通信手段を破壊する際の手際の良さから、疑心暗鬼が確信に変わり、集団パニックでの暴走から同士撃ちが各所で発生した。


 上級部隊からの指示を仰げない以上・・・現地部隊の裁量で決定が下るのは、やむを得ないが・・・


 抵抗勢力が内部に潜り込んでいるのだから、敵の狙いは、味方同士の同士撃ちが狙いであるのは一目瞭然だ。


 少し考えればわかる事であるが、敵の攻勢開始と同時に、後方の退路や通信手段を失った状況下では、冷静な判断もできないだろう。


 要塞司令官は、どうにか無事な通信回線を使って、混乱を収拾したが・・・


 もはや、ジットラ・ライン要塞陣地の陥落は、時間の問題である。


 クアラルンプール司令部に、援軍を何度も、要請しているが・・・


 今だに、連絡が無い。


 その頃・・・


 ジットラ・ライン攻略の開始と、時を同じくして、クアラルンプールでも、軍施設に限定された、テロが同時多発的に発生し、クアラルンプール司令部は、その対処に忙殺されていた。


 それ以前から、ジットラ・ライン要塞陣地とクアラルンプールを結ぶ要衝で、物資や兵員を輸送中に、嫌がらせ程度から大規模なものまで、様々な妨害が行われ、真面に派遣する事もままならなかったという裏事情もある。


 そういった事情が、様々な憶測や疑念を生み出していた。


「閣下!残存部隊及び予備部隊の先任指揮官たちの指揮下で、司令部及び周辺の地下陣地に、防御線を構築しています。抵抗すれば、ある程度の時間稼ぎはできますが・・・どこまで、持つか・・・」


「・・・・・・」


 司令官としては、何も答えられなかった。


 すでに、ジットラ・ライン要塞陣地は、陥落したようなものだ。


 敵は、掃討戦に移行している。


 司令部及び周辺に立て籠もっても・・・


 敵が攻めてこなければ、抵抗は無意味だ。


 その時、司令部天井の電灯が消えた。


「なっ!?」


「やはり、こうなるか!!」


 司令部に届いた報告の中に、発電所区でスペース・アグレッサー軍と戦闘中というのが、あった。


 つまり、発電所が占拠され、主電源を、落とされたという事だ。


「予備電源を、起動します」


 司令部要員の1人が告げた後、電灯が再び光を取り戻した。


「至急!発電所区に、部隊を投入して、奪還させろ!!」


「サー!!」


 幕僚の叫び声に、将校が挙手の敬礼をして、駆け出した。


「クアラルンプール司令部から連絡です」


 通信参謀が、通信文を持って、報告した。


「現在の戦況に付き・・・増援部隊を、ジットラ・ラインに投入する事は困難である、以上です」


「・・・・・・」


 司令官は、椅子に深く腰掛けた。


 見捨てられた・・・


 その言葉が、浮かんだ。





 ジットラ・ライン要塞陣地攻略開始から6時間後・・・


 第5歩兵師団第5自動車化旅団司令部に、ジットラ・ライン要塞司令官から、降伏の申し入れがあった。


 旅団司令部は旅団長命令で、作戦行動中の全部隊に停戦命令を出し、上級部隊である第5歩兵師団司令部に詳細を報告した。


 報告を受けた第5歩兵師団司令部は、降伏の申し入れを受け入れた。





 後続部隊であり、後方の防衛と警備を任されている、連合陸軍のシンガポール陸軍部隊が到着すると、降伏したイギリス軍、インド軍、マレー義勇軍将兵の武装解除、及び移送と、負傷兵の手当てが行われた。


「すぐに外科手術が必要な重傷兵は、チヌークに乗せろ!」


「軽傷兵は、応急処置を施し、トラックに乗せろ!」


 SAR21を携行した、シンガポール陸軍兵士たちが叫び、捕虜たちの負傷の度合いを確認した後、連合空軍に属する、シンガポール空軍のCH-47SD[チヌーク]2機に、重傷兵を担架で搬送した。


 周囲には、M113装甲兵員輸送車と、バイオニクス25歩兵戦闘車が、警戒配置に着いていた。


「隊長!!」


「どうした!?」


 シンガポール陸軍大尉に、無線兵が緊急報告した。


「指揮系統を外れた、ゲリラ部隊が出現したとの事です!至急、部隊を派遣し、対ゲリラ戦作戦を、実施せよと!」


「急いでやれと言っても、ここも、人手が足りないんだぞ!」


 大尉は司令部からの、無茶な命令を聞いて愚痴る。


 シンガポール陸軍は、他の連合陸軍に加盟する陸軍と異なり、戦闘部隊として活動する事は、ほとんど無い。


 主に、連合支援軍陸軍部隊と共に、兵站防衛及び警備と、輸送路の安全確保、制圧地域及び保護地域の治安維持、指揮系統から逸脱した、正規兵部隊叉は投降部隊と現地民で編成された、民兵等の非正規交戦者との接触、及び武装解除等の交渉といった、PKO活動が主である。


 地味な任務にもかかわらず、極めて難易度が高い。


 シンガポール陸軍は、これらの任務を、90パーセントの確率で成功させている。


 成功の秘訣として、彼らは他の常任理事国と違い、直接的な戦闘に参加しておらず、現地民兵や現地に駐留する正規軍の、個人的叉は集団的な憎悪の対象に、ならないからだ。


 むろん、カナダ陸軍も同じ任務を熟しているが、戦闘部隊にも積極的に部隊を派遣しているため、時にはシンガポール陸軍に、丸投げする事もある。


 新世界連合軍の常任理事国であるシンガポール軍は、他の加盟国軍と比べると、陸海空のバランスは、とれているが、人員は少ない。


 それでも、新世界連合軍の中では、地球の半分近い地域に、部隊を投入している(因みに、これに次ぐのは、自衛隊である)。


 新世界連合軍、朱蒙軍、自衛隊に対して、このような統計結果が出ている。


 もっとも、一番の苦労する軍は、シンガポール軍であり、一番の楽をする軍は、アメリカである。


 理由としては、アメリカ軍は、戦闘前の段階では、積極的に武器を使わずに現地民等に接触するが、戦闘後は控えている。


 それに対し、シンガポール軍は、戦闘後に現地民や命令系統を失った正規軍と、武器を使わずに接触している。


「まったく、厄介事は、全部俺たちに任せる・・・という事か・・・」


 大尉は、ぶつぶつ言いながらも、交渉部隊と対ゲリラ部隊を編成した。


「何度も任務を完遂してきたから、わかっているだろうが、武力による解決では無く、知力による解決が任務だ。対話による交渉で、投降させるように」


 彼も、何度目かわからない訓示を行って、彼らを送り出した。





 いつの時代でも、どんな場所でも、彼らのような存在は、必要である。

 マレーの虎 第20章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますがご了承ください。

 次回の投稿は10月23日を予定しています。

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