表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
229/452

マレーの虎 第18章 ジットラ・ライン攻防戦 1 天王山の戦い

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 ハリマオ率いる抵抗軍が、石垣達也2等海尉を通じて、全面的な協力を表明してから、一週間後・・・





 マレー半島攻略を任されている、大日本帝国陸軍南方軍第25軍は、ジットラ・ライン要塞陣地攻略のために、第5歩兵師団を投入する事を、決定した。


 第5歩兵師団と共に、ジットラ・ライン要塞陣地攻略のために、菊水総隊陸上自衛隊第12機動旅団第13普通科連隊、新世界連合軍連合陸軍総軍アメリカ太平洋陸軍第4空挺軍第4空挺師団第43空挺旅団戦闘団第431空中強襲大隊と、第43航空大隊第431ヘリコプター中隊等が、参加している。


 師団司令部では、師団長以下幕僚たちが詰めており、第13普通科連隊、第431空中強襲大隊等の上級幹部たちが、顔を揃えている。


「ハリマオ率いる抵抗軍から、もたらされた情報によれば、ジットラ・ライン要塞陣地は、未来人の記録通りでは無く、要塞は既に完成状態である。英印軍1個師団と、マレー人で編成された准旅団が、数個編成されており、重機関銃から重砲までが、配備されている。防御陣地もいくつもあり、防御陣地が薄い場所は、無数の地雷原や、対人対戦車阻止陣地が、存在している」


 南方軍司令部から派遣された、情報将校が、説明する。


「第5歩兵師団参謀部の基本作戦としては、パルチザンからもたらされた情報を元に、地雷原や、対人対戦車阻止陣地が少ない、要塞陣地の最も強固な部分に、全兵力を投入し、攻略するのが、効果的と考えています」


 第5歩兵師団参謀長である少将が、地図を見ながら説明をする。


「さらに、作戦開始と同時に、ハリマオ率いる抵抗軍が、内部で、攪乱工作を行います。いかに強固と言っても、外部と内側からの攻撃には、耐えられないでしょう」


 各地の戦況が思わしくない以上は・・・南方作戦の天王山とも言うべき、ジットラ・ライン要塞陣地を早期攻略するのは、理に適った作戦だ。


 第5歩兵師団は、歩兵科編成の歩兵師団の中では珍しく、歩兵聯隊麾下に戦車大隊を編成せず、機甲科編成の機甲師団に類する編成を、行っている。


 第5歩兵師団麾下に第5戦車団を編成し、麾下に九七式中戦車と、九五式軽戦車で編成された、2個戦車大隊がある。


 対歩兵戦及び対歩兵支援戦車に対しては、十分な打撃力を発揮できる。


 万が一にも、対重戦車戦を想定した戦車が登場しても、陸上自衛隊若しくは連合陸軍アメリカ陸軍が対処できる。


「第13普通科連隊は、第12機動旅団より第12特科隊から1個中隊、他科から1個小隊ずつ派遣され、それらを編成した第13普通科戦闘団を組織しています。普通科中隊下の小銃小隊には、万が一にも第5戦車団の戦車の対処を越える戦車が現れた時に備え、110ミリ個人携帯対戦車弾を、常時携行させます」


 第13普通科戦闘団長(第13普通科連隊長)の1等陸佐が、ジットラ・ライン要塞陣地の資料を見ながら告げる。


「第431空中強襲大隊を基幹とした戦闘団は、第431航空大隊のUH-60A及びCH-47Dに分乗し、ファストロープ降下叉は強行着陸で、歩兵部隊を展開させます」


 戦闘団長(第431空中強襲大隊長)の中佐が、展開手順を説明する。


「旅団長及び上級指揮官たちに、念を押すが・・・」


 第5師団長が、口を開いた。


「これまでの報告では、菊水総隊陸海空軍及び新世界連合軍でも、1940年代の軍隊相手に、少なからずの被害が出ている。諸君等も未来の資料等で知っているだろうが、50年後のアメリカ軍の精鋭部隊約200人が、まともな軍事教練を受けていない民兵部隊に苦戦し、回転翼機を失っている。絶対に敵を過小評価するな!」


 師団長である中将が、喝を入れる。





 第5歩兵師団第5戦車団特務戦車隊に所属する戦車兵たちが、自分が乗り込む戦車の整備を行っていた。


 彼らの戦車は、八九式中戦車である。


「火炎燃料の補給が、完了しました!」


 砲手(伍長)が、砲塔ハッチから顔を出し、車長である軍曹に声をかける。


「我々の初陣が、目前だ。しっかり、整備しておけよ。何といっても、この戦車の初陣でもあるからな!」


 車長が気合いの入った声で、部下たちに告げる。


 第5戦車団特別戦車隊が保有する戦車は、第5戦車団に所属する九七式中戦車や、九五式軽戦車で編成された、3個戦車大隊とは違う。


 八九式中戦車の五七粍戦車砲搭載の砲塔では無く、新たに開発された砲塔だ。


 撃ち出されるのは、戦車砲弾では無く、火炎である。


 特別戦車隊の中戦車及び軽戦車は、火炎放射戦車である。


 大日本帝国陸軍では、歩兵携行の九三式小火炎放射器叉は、一〇〇式火焔発射機が存在する。


 これらの火炎放射器は、日中戦争及び太平洋戦争で、陣地攻撃及び対ゲリラ戦等に多用された。


 防衛戦に転化された戦争後期では、火炎放射器の運用は難しくなったが、フィリピン攻略作戦時では、菊水総隊陸上自衛隊の普通科及び施設科の携帯放射器と並び、トーチカや地下壕戦には、効果絶大だった。


 しかし、火炎放射兵の問題点は、他の諸外国と変わらない。


 火炎放射器は射程が短く、放射時間も長くない。


 さらに重量物であるため、歩兵が携行し、前進すれば狙撃兵等から絶好の標的になる等の戦闘時の問題点がある。


 未来から渡された記録を下に、火炎放射戦車に注目した陸軍省は、一部の八九式中戦車後期型を、火炎放射戦車として改造した。


 名称も、八九式火焔放射戦車とされ、2種類ある。


 火焔放射砲塔を搭載した壱型と、車体機銃及び砲塔後部の機銃を撤去し、車載式仕様にした、火炎放射器を装備した弐型である。


 八九式火焔放射戦車弐型の場合は、九〇式五七粍戦車砲があるため、機関銃陣地等への攻撃も可能であり、砲撃後、塹壕叉はトーチカに接近し、射程の短い火炎を浴びせ、敵をあぶり出す。


「こいつに乗るのは、徐州会戦以来だ・・・」


「せ、整列!!」


 声を聞いて振り向いた車長たちは、その人物の姿を見て慌てて、整列した。


「そのままでいい」


 20代後半の青年将校は、八九式火焔放射戦車10輛を見回した後、振り返った。





 ジットラ・ライン要塞陣地攻略の準備が、整えられている頃・・・ジットラ・ライン要塞陣地内では、ハリマオ率いる抵抗軍の工作員が潜入し、通信施設や観測所に爆弾を設置する。


「爆破時刻を、明日の早朝に合わせろ」


 周囲を見張っている工作員が、時限爆弾を設置する工作員に告げる。


「合わせた」


 通信施設に爆弾を設置した。


「よし、次だ」


 ジットラ・ライン要塞陣地は、複数の箇所に通信施設や観測所があり、要塞陣地攻略に迫ってくる戦車部隊や歩兵部隊を見つければ、巧妙に隠された要塞砲群から榴弾の雨が降る。


 複数の歩兵陣地や、自然のバリケードと人工のバリケードによって、敵部隊は、身動きがとりにくく、少数の部隊でも、増援部隊が駆け付ける時間は、十分に確保されている。


 通信機器は有線通信であるため、通信ケーブル防護態勢も、万全である。


 正直に言えば、ジットラ・ライン要塞陣地内で攪乱工作及び破壊工作をするのも、非常に難しい。


 現地民を雇用しているため、彼らの裏切りに備えた対策は、何重にも行われている。


 ハリマオ率いる抵抗軍ができる、破壊工作及び攪乱工作の効果は、20分程度である。


 それ以上になると、すぐに大部隊が、主要地下道や、秘密の地下道から現れる。


 彼らの話では、20分で十分のようだが・・・





 インド洋に進出した第4空母戦闘群と、イージス艦[あしがら]、汎用護衛艦[あさひ]は、インド本土への航空攻撃の準備を整えていた。


[フォッシュ]の飛行甲板では、空対空短射程ミサイルと、空対空視界外射程ミサイルを搭載したラファールMと、AAMS叉はAM39を搭載した対地、対艦攻撃機としての、ラファールMが、発艦準備をしている。


[フォッシュ]の前衛に展開する[あしがら]の艦橋横のウィングで、灰色の鉄帽を被り、灰色の救命胴衣を着込んだ向井は、双眼鏡で[フォッシュ]を眺めていた。


「出撃するラファールは、制空戦闘機6機、対地攻撃機4機、対艦攻撃機4機の計14機が発艦する。インド帝国は、イギリスからの援助で、レーダー施設が増設されている。防空網を突破し、防空態勢を崩壊させる」


 向井は、作戦内容を思い出しながら、つぶやく。


「インド帝国は、空軍の地上レーダー施設だけでは無く、海軍のレーダーピケット艦が展開し、二重三重の防空警戒態勢を敷いています。[フォッシュ]から出撃する攻撃隊は、これらを無力化する事になっています」


 権藤が、向井の背後から、作戦の概要を説明する。


「聯合艦隊第2航空艦隊第2航空戦隊司令官からの、連絡は?」


「はい、予定通り、爆装させた第1次攻撃隊は、本日の0900に、全機発艦します」


 向井は、腕時計を確認する。


「後2時間・・・」


 第2航空戦隊は、空母[翔鶴]と[瑞鶴]の、第1次攻撃隊50機が、攻撃目標である軍港施設、燃料貯蔵庫に航空攻撃を実施する。


「艦長。そろそろ・・・」


「わかった」


 権藤に言われて、向井は、CICに移動する。


[あしがら]は、単に第4空母戦闘群の護衛任務だけを、任されている訳では無い。


 向井と権藤の2人が、CICに移動すると・・・


「艦長、副長。トマホークの発射準備は、完了しています」


 砲雷長が、報告する。


 当初は、巡航ミサイルは温存する方針だったが・・・


 インド帝国側の、十重二十重の防衛網を突破するのには必要と、クレマンが判断し、若干作戦に変更が加えられた。


「攻撃目標であるインド南部軍前線司令部を、[フォッシュ]から出撃する第1次攻撃隊に合わせて、破壊する」


 向井は、腕時計を見る。


[あしがら]CICのスクリーンに表示されているデジタル時計の時刻が、8時50分となった。


「0850。艦長、時間です」


「トマホーク、攻撃始め!」


「トマホーク、攻撃始め!」


 砲雷長の発射命令で、担当士官が発射ボタンを押す。


[あしがら]の前部VLSから、RGM-109J[トマホーク・アメノハバヤ]が、轟音と振動と共に、撃ち出される。


(・・・インド帝国は、イギリスに属し、連合国として戦っているとはいえ・・・イギリス領マレー半島への軍事支援を鈍らせるために、第3国を攻撃する・・・少し考えれば、随分と、ひどい話だな・・・)


 向井は、今更ながら、巻き込まれる者たちの、無念さを理解した。


「すでに、オーストラリア・・・ミャンマーへの攻撃が、実施されている。彼らも、こうなる事は、覚悟していただろう・・・」


 向井が、割り切るように、つぶやく。


「艦長。ミャンマーは、この時代には、ありません。ビルマです」


 権藤に、突っ込まれる。


「どちらも、一緒だろう!」


 向井が、叫ぶ。


「ビルマ?」


「お前、知らないのか?艦長や副長の若い頃は、ミャンマーでは無く、ビルマだったんだ」


「それって、かなり昔の事なんだな」


 20代前半の海曹たちが、囁きあう。


「む・・・昔の事・・・」


 向井は、海曹たちのヒソヒソ話に、反応する。


「艦長![フォッシュ]より、攻撃隊が出撃します!」


 CIC要員が、報告する。


「艦長!第2航空戦隊より、緊急電です!」


「ん?何だ?」


「インド帝国海軍の哨戒艇に、発見されたそうです!」


「どうやら、敵も簡単には、行かせてはくれないか」


 向井は、人間の底力を感じながら、つぶやく。





[フォッシュ]から発艦した攻撃隊は、レーダー探知圏外の低空を高速飛行していた。


 近辺に[フォッシュ]から発艦した、早期警戒機E-2C[ホークアイ]が、攻撃隊に接近する迎撃戦闘機を警戒する。


 いかに音速を超えるジェット戦闘機でも、スピットファイアによる一撃離脱戦法を受ければ一溜まりも無い。


「[フォッシュ]より、攻撃隊に告ぐ!インド帝国の空軍基地より、スピットファイアの出撃を確認!12機が防空警戒網を築く態勢で、展開している!」


(恐らく、[あしがら]から発射されたトマホークが着弾し、前線司令部が壊滅しているだろう。時間的に見れば、迎撃戦闘機が警戒飛行のために、スクランブルしたか)


 ラファールMのHUDのデジタル時計を見ながら、攻撃隊14機の先任指揮官である少佐が、心中でつぶやく。


「戦闘機隊に告ぐ。間もなく、防空警戒網を突破するため、急上昇する。急上昇と共に視界外射程ミサイルを、一斉に発射」


 少佐は、レーダー画面を見ながら、自身が直接指揮する他のパイロットたちに指示する。


「戦闘機隊!急上昇!」


 少佐の号令と共に、6機のラファールMが急上昇する。


「FOX3!」


 少佐が叫び、発射ボタンを押す。


 ラファールMの主翼下に搭載されている視界外射程ミサイルであるミーティアが、発射される。


 僚機からも、一斉にミーティアが飛翔する。


 12機の警戒飛行中のスピットファイアに対し、12発のミーティアが発射された。


 恐らく、急上昇によりレーダー探知圏内に入った。


 インドに駐留するイギリス空軍は、ラファールMを探知しただろうが、陸海空軍で統合化された南部前線司令部は、壊滅している。


 上級司令部への指示を仰げない以上は、各部隊の先任指揮官による独断で、迎撃戦闘機や防衛部隊を展開させなければならない。


「攻撃ポイントに接近!これより、対艦攻撃を実施する!」


 空対艦ミサイルである、AM39[エグゾセ]を搭載するラファールM隊の指揮官の声が、少佐のヘッドセットに聞こえる。


 攻撃目標であるインド帝国海軍基地には、輸送船団や輸送艦隊の護衛艦隊叉は海上防衛部隊の中核となる軽巡洋艦部隊が、投錨している。


 それらを、エグゾセ・ミサイルで叩く。


 ニューワールド連合軍連合海軍作戦本部情報部からの情報では、インド帝国海軍は、100隻程度のフリゲート、駆逐艦、軽巡洋艦が配備されている。


 大日本帝国本土侵攻である南東諸島上陸戦では、英蘭印連合軍に参加したインド帝国海軍は、外洋艦隊である軽巡洋艦を基幹とした上陸部隊を乗せた、輸送船団の護衛艦隊として出撃した。


 そのため、インド帝国本土に残る艦艇数は、半数まで減っている。


 ここで、軽巡部隊を叩けば、事実上インド洋制海権は、ニューワールド連合軍が掌握する事になる。


 エグゾセ・ミサイルを搭載したラファールMが、一斉に対艦ミサイルを発射した。


「ここまでの攻撃を受けた状態で、陸上施設への空襲と、聯合艦隊第2航空艦隊第2航空戦隊による空襲を受ければ、英印軍は新たなる増援部隊や補給物資を、マレー半島に送る事はできない」


 インドにも上陸の手が伸びるかもしれない状況下で、別の戦線に増援部隊や、補給物資を送る可能性は低い。





 そして、インド帝国を含む、東南アジア各地に、ばらまかれた毒が、ゆっくりとではあるが、その効果を現し始めている。


 ニューワールド連合の各国の諜報機関で編成された、連合情報局からもたらされた情報で、インド帝国内でも軍施設や、補給物資等の集積所を標的とした、破壊活動や略奪が、頻発しているという。


 それは、東南アジア各地でも同様である。

 マレーの虎 第18章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますがご了承ください。

 次回の投稿は10月16日を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ