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マレーの虎 第8章 潜む罠

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 第12普通科戦闘団第1普通科中隊は、整備された道を戦車中隊第1戦車小隊74式戦車4輛と共に、前進していた。


「中隊長。前方を偵察中の情報小隊から、報告です!半キロ先に、小さな集落があります」


 中隊指揮車である73式装甲車の車長席で、中隊長の3等陸佐が、地図を広げる。


「無人偵察機でも撮影された集落だな。それが、どうした?」


「夕方前です。この時間帯は、女性が外に出て、洗濯物や干した食物を、家に仕舞う時間帯です。なのに、子供どころか、女性の姿もありません」


 73式装甲車の兵員室にいる無線員が、情報小隊所属の隊員からの報告を伝える。


「無人偵察機が、映像を撮影したのは、何日前だ?」


 中隊長は、部下に確認を求めた。


「確認します」


 中隊に所属する係幹部が、端末機から、戦闘団本部から送られた情報の日付を調べる。


 南方地帯に投入された自衛官たちは、新世界連合軍に加盟するシンガポール軍と、新世界連合軍連合支援軍に属するマレーシア軍等から、南方地域(地域限定)の生活習慣や、男女の行動、子供の基本的生活等を教わっている。


 そして、報告した情報小隊の隊員は、マレーシア出身の祖母を持つ。


「全車停止!」


 中隊長は、全車を停車させた。


「中隊長。無人偵察機からの情報は、2日前です」


「・・・・・・」


 係幹部からの報告に中隊長は、村人が戦火から逃れるために、村から避難した可能性が低いと判断した。


「普通科隊員を下車させ、村を捜索させろ」


 中隊長の決断により、第1普通科中隊第1小銃小隊、と第2小銃小隊が73式装甲車を伴って前進した。


 中隊直轄の戦術武器班から、M21とMk48を携行した上級選抜射手たちも、同行する。


「油断するな!常に誰かの背後を、カバーしながら前進しろ!」


 64式7.62ミリ小銃を構えた小隊長が、携帯無線機で隊員たちに注意する。


 彼は、防衛大学校や一般大学を得て、幹部候補生学校に入校した幹部自衛官のように若くなく、部下たちよりも、20歳以上年上である。


 陸曹に昇進して、一定期間の経験を得て、進む部内幹部候補生出身でも無い。


 彼が3等陸尉に昇進したのは、40歳を迎えてからだ。


 彼は、陸曹長から幹部自衛官に昇り上げた、叩き上げの幹部だ。


 40歳を越えているが、忍耐力は小隊に所属する20代の若手隊員や陸曹に、負けていない。


 射撃の腕は高く、小隊でも89式5.56ミリ小銃では無く、64式7.62ミリ小銃を携行している。


 集落に入ると、殺風景だった。


 洗濯物や干された食べ物は、今朝に干された物で、ほんの数時間前には、人がいたような感じだった。


 3尉が、手近にある洗濯物に触れる。


「入れる頃合いだ」


「衣服だけでは無く、寝具まで、干されています」


「これは・・・警戒した方が、いいな」


「罠かもしれません」


 隊員たちが周囲に89式5.56ミリ小銃や64式7.62ミリ小銃等の銃口を向けながら、つぶやく。


「小隊長。念のために74式戦車を前進させて、村の安全を確認するように、指示を受けました」


 無線員が、報告する。


「まあ、抑止にはなるか・・・」


 小隊長が、つぶやいた時・・・


 木造建ての家の屋根に設置された窓から、人影が現れた。


「身を屈めろ!」


 小隊長は、狙撃眼鏡を覗き、64式7.62ミリ小銃を構える。


 薄汚れた服を着た、40代の男性が姿を現した。


Bahay(バハヤ)!!」


 屋根の窓から姿を現した年配の男性は、マレー語で叫んだ後、姿を消した。


「何て言った!?」


 64式7.62ミリ小銃を構えた3尉が叫ぶと、マレー語がわかる陸士が答えた。


「危ないと、叫びました」


「危ない?」


 隊員たちには、その意味がわからなかった。





 第12普通科戦闘団戦車中隊第1小隊の74式戦車2輛が散開し、村に侵入する。


 装填手が、副武装の12.7ミリ重機関銃を握り、周囲を警戒する。


 車長も、顔を出す。


「随分と開けた場所だな・・・狙撃手が、どこかに潜んでいないか?」


 車長である2等陸曹が、周囲を警戒しながら懸念を口にした。


「かもしれませんね・・・」


 装填手の3等陸曹が、答える。


「ん?」


 車長が右側に見えた比較的大きな納屋と思わしき建物に、違和感を覚えた。


 目を凝らして見てみると・・・


「くそ!重戦車が、隠れていやがった!!」


 車長が、叫んだ時・・・


 納屋に巧妙に潜んでいた、重戦車の戦車砲が吼えた。


 至近距離・・・約50メートルから、側面砲撃を受けた。


 砲弾が直撃し、74式戦車が炎上する。


 爆発では無く・・・ただ、炎上するだけであったが・・・内部は悲惨であった。


 12.7ミリ重機関銃を握っていた装填手は、すぐに脱出できたが・・・車長は、下半身の一部分が燃えながら、脱出した。


 脱出できたのは、この2人だけであり・・・残りの2人(操縦手と砲手)が、姿を現すことは無かった。


 その後・・・炎上した74式戦車の砲弾に誘爆したのか、爆発した。


 納屋に潜んでいた重戦車がエンジンを始動し、姿を現した。


「エレファント!!?」


 足を火傷した車長を運んでいた、普通科隊員が叫んだ。


 試作重戦車として、Ⅵ戦車ティーガー(P)・・・


 愛称として、ポルシェティーガーとも呼ばれる重戦車を流用して、開発された固定砲塔搭載の重駆逐戦車エレファントである。


 ドイツ第3帝国とイギリスが、スイスで講和協定締結をしたのと同時に締結された、連合国との軍事協定で、少数の重戦車を南方に投入した情報が入っていたが、ほとんどがインド帝国と思われていた。


 主力重戦車として配備されているⅥ号戦車ティーガーⅠの56口径8.8センチ砲を強化した71口径8.8センチ砲は、重対戦車砲として再設計された。


 通常の被帽付徹甲榴弾は、100メートルで砲撃すれば200ミリ程度の傾斜装甲板を貫徹する事ができる。


 しかし、74式戦車を大破させた徹甲榴弾は、明らかに威力や破壊力、装甲貫徹能力が段違いである。


「気をつけろ!!こいつは後期型だ!!」


 第2次世界大戦時の戦車に詳しい陸士が、叫ぶ。


 エレファントの後期型は、対歩兵戦用に7.92ミリ機関銃のMG34を装備している。


「LAM手!あのデカ物に、対戦車弾を撃ち込め!!」


 64式7.62ミリ小銃を構えている3尉が、叫ぶ。


「はい!」


 73式装甲車から持ってきた、110ミリ個人携帯対戦車弾を、小銃手が構える。


 84ミリ無反動砲や01式軽対戦車誘導弾と同じく、普通科部隊の小銃班に装備されている対戦車自衛火器である。


 ただし、84ミリ無反動砲と比べると多様性が無く、1発撃つ度の使い捨て装備であるが、貫徹能力が高いだけでは無く、威力も高いため、陸上自衛隊では戦闘部隊だけでは無く戦闘支援部隊にも、対戦車自衛火器兼対車輌自衛火器として導入されている。


 装備数は、小銃小隊1個班に1本が主装備であり、これに予備がある。


 だが、同じく84ミリ無反動砲が1個班に1門と01式軽対戦車誘導弾が小隊に1門あるため、予備は少なく戦闘目的では無く、自衛用叉は対戦車火器が尽きた場合の予備として位置付けられている。


 LAM手はLAMを構えると、照準器を覗く。


 前進しながら、機関銃を乱射するエレファントの正面装甲に照準を合わせた。


「発射!!」


 LAM手の叫び声と共に、対戦車榴弾が発射された。


 対戦車榴弾が直撃し、エレファントは、一瞬のうちに火の塊と化した。





 エレファント重駆逐戦車だけでは無かった。


 集落の一部分や、地下道等に潜んでいたドイツ帝国兵が、固定砲塔搭載の駆逐戦車や突撃砲等で、第12普通科戦闘団第1普通科中隊と交戦した。


 74式戦車が1輛撃破されたが、他の74式戦車は、十分な普通科隊員の支援と伏撃に警戒しながら、駆逐戦車や突撃砲に対処した。


「ハチヨン!前方の機関銃座を黙らせろ!」


 屋根の窓から機関銃を乱射する機関銃座を指差して、84ミリ無反動砲を装備する砲手に班長が叫んだ。


「装填よし!」


 弾薬運搬員が榴弾を装填し、叫んだ。


「発射!」


 砲手が叫び、84ミリ無反動砲が火を噴く。


 木造家屋であるため、榴弾の直撃に耐えられるはずも無く、炸裂し爆発した榴弾によって部屋ごと吹き飛んだ。


「機関銃を無力化した!敵兵を制圧しろ!」


 班長は、そう叫びながら、MINIMIを構えて、引き金を引く。


 MINIMIの火力で、敵を圧倒しながら89式5.56ミリ小銃を携行する小銃員が、3点射制限射撃で、ドイツ帝国兵を絶命させる。


 73式装甲車も展開しており、普通科小銃小隊の小銃班は装甲車を盾にしながら、前進する。


 NBC攻撃による汚染環境での戦闘も考慮されており、主武装の12.7ミリ重機関銃は車内からのリモコン操作で射撃が可能である。


 車内からリモコン操作された12.7ミリ重機関銃は、銃口をドイツ帝国兵に向け、火を噴き出す。


「パンツァーファウスト!!」


 73式装甲車の副武装である、74式7.62ミリ車載機関銃の機関銃手が叫ぶ。


 パンツァーファウストを携帯したドイツ帝国兵数人が、木造建造物の影から現れる。


 彼らを排除しようとした瞬間・・・パンツァーファウストを携行したドイツ兵たちが地面ごと吹っ飛ぶ。


「どうやら、迫撃砲小隊の配置が完了したようだな・・・」


 73式装甲車の車長がつぶやく。


 車長の言う通り、配置完了した第1普通科中隊迫撃砲小隊が、81ミリ迫撃砲L16で火力支援を行っていた。


 ある程度戦闘が続くと、ドイツ帝国国防軍陸軍部隊は、退却を開始した。


「全小隊に告ぐ!追撃はするな。一端、村に止まる」


 中隊長の指示が無線で全隊員たちに届くと、隊員たちは自主的に残弾の確認と、弾薬を一定以上消費した隊員に、弾薬を均等になるよう分配した。


 周辺警戒に展開する小銃小隊、戦闘により負傷した敵味方兵の手当て及び死体の対応、戦闘に巻き込まれ、負傷した村人の手当て等を行った。


「中隊長。本部に連絡して、ヘリを要請してください」


 救護処置と捕虜等を任された小隊長は、戦闘によって発生した戦時捕虜及びすぐに原隊復帰が困難な隊員等を後送するため、ヘリを要請した。


 第12普通科戦闘団には、多用途ヘリコプターであるUH-1Jと、観測ヘリコプターOH-6Dで編成された飛行隊(第8機動師団第8ヘリコプター隊から編成)がある。


「了解。すぐに連絡する」


 中隊長は、すぐに承諾したが、ここに投入されたUH-1Jは、予備機を合わせても4機だけであり、要請して、すぐに来る可能性は低い。


 自分たち以外にも、第2普通科中隊も前進を開始している。


 彼らも戦闘で負傷者が出ている可能性もあり、UH-1Jは物資輸送の任務を並行して行っている。





 幸いにもUH-1Jが1機だけ、近くを飛行していたため、第12普通科戦闘団第1普通科中隊が確保した集落に着陸した。


「乗せられるのは、4人までです。すぐに治療が必要な重傷者を、乗せて下さい!」


 着陸したUH-1Jから、機上整備員が降りて、告げた。


 貨物室兼兵員室を覗けば軍民問わず、負傷者たちが乗せられている。


「わかった!」


 係幹部が承諾すると、重傷者を選んだ。


 4人の重傷者を乗せると、UH-1Jが離陸する。


「次の便は、いつ来る?」


 中隊長が、73式装甲車(中隊指揮車)から降りて、無線員に聞いた。


「次の便は10分後です!こちらは定員一杯乗せられるそうです!」


 中隊付無線員が、報告する。





 第12普通科戦闘団指揮所は、前進中の第1普通科中隊と第2普通科中隊の後方に設置され、戦闘団の指揮を行われている。


 第12普通科戦闘団長兼第12普通科連隊長の1等陸佐は、部隊運用を担当する第3科長から状況報告を受けていた。


「集落内で戦闘を行った第1普通科中隊は、伏激戦により、74式戦車1輛を失い。機甲科及び普通科隊員のうち、4名の犠牲者を出しました。負傷者は9名であり、そのうち2名が重傷です。村に潜んでいたドイツ帝国兵は、18名が死亡し、22名の重軽負傷者と8名の捕虜を確認しています。村人の犠牲者及び重軽負傷者は現在、確認中です」


「・・・・・・」


 団長は、黙って報告を聞いていた。


 第2普通科中隊でも、同じような報告を受けている。


 進撃の阻むのは、オランダ兵やドイツ帝国兵だけでは無い。


 地理を把握した現地民で、混成された義勇軍によるゲリラ戦と、南方特有の密林である。


 毒を持った生物だけでは無く、感染症を持った生物も脅威である。


 マラリアやデング熱等に感染する者もいれば、感染症のウイルスを含んだ水や、ウイルスが付着した果実を現地で口にした隊員もいる。


 病死した自衛官も、出ている。


 いかに感染症の治療薬や予防薬があっても、完璧には行かない。


 これに関しては、個人差があるため、どうしようもない。


 報告を聞き終えた後、戦闘団長は、戦闘団指揮所の天幕を出た。


 戦闘団指揮所は、戦闘団本部及び本部管理中隊が設営した天幕があり、本部管理中隊の管理下にある予備要員たちと本部管理中隊から出向いた隊員が、戦闘団指揮所及び宿営地の警備を行っている。


 警衛隊員たちは、64式7.62ミリ小銃を携行し、巡回や立哨している。


 戦闘団長は、戦闘団本部天幕の近くに設営されている救護所に顔を出す。


 彼の日課として、戦闘団長の公務とは別に、救護所に搬送された傷病隊員たちの見舞いを毎日している。


 本部管理中隊衛生小隊の衛生科隊員たちが忙しく、救護所天幕内を駆け回っている。


 衛生小隊には看護師や准看護師及び救急救命士の資格保有者だけでは無く、医官も配置されている。


 後方支援隊の衛生隊とは違うため、配置されている医官は1名のみであり、すぐに部隊復帰が可能なレベルか、後方に下げるか等の判断と治療を行っている。


 戦闘団長は、新しく搬送された負傷隊員のベッドに行くと声をかけた。


「具合は、どうだ?」


「点滴と処方された薬で、身体が楽になりました」


「俺の手を握ってみろ。力強く」


 団長は手を差し出すと、陸士は差し出された手を握った。


「うむ。これだけの力があれば、すぐに元気なる。今はゆっくり休め」


 陸士の握る力は決して強いとは言えないが、握る力には回復したいという強い意思が感じられる。


 当たり前の話ではあるが、医者も薬も、病気や怪我を治す力は無い。


 あくまでも、治癒力を手助けするだけであり、治癒する力は無い。


 怪我や病気を治癒するのに最後に必要なのは、治りたいという強い意思である(ただし、意思だけを強く持っても、逆に治らない場合もあるため、常に自分のペースで回復する事に専念するのが早期治療の近道である)。

 マレーの虎 第8章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますがご了承ください。

 次回の投稿は9月11日を予定しています。

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