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マレーの虎 第5章 白い悪魔 前編 通商破壊

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 新世界(ニューワールド)連合軍連合海軍艦隊総軍第6艦隊(海上治安維持活動及び海上護衛活動合同任務部隊)第601合同任務部隊は、大日本帝国陸軍を中核とした、陸海空軍で統合編成された南方攻略軍と、その指揮、監督下で作戦行動及び部隊行動を行う、新世界連合軍と菊水総隊自衛隊が展開する、南シナ海での海上治安維持活動及び軍民を問わず、航行する船舶の安全確保を主任務とする。


 連合海軍艦隊総軍第6艦隊は、常設艦隊では無い。


 海上での司法警察権を持つ海上警察機構叉は海軍としての軍事行動と、司法警察活動が行える沿岸警備隊の巡視船で編成された、任務部隊である。


 南シナ海での海上治安維持活動と、海上護衛活動を担当する第601合同任務部隊に所属する、統合省保安局海上保安本部に属する[あおば]型ヘリコプター2機搭載巡視船[きぬがさ]は、第601合同任務部隊に属する、新世界連合多国籍海上保安局に属するアメリカ沿岸警備隊[バーソルフ]級カッターと共に、海上警備行動を行っていた。


[あおば]型ヘリコプター2機搭載型巡視船は、[みうら]型災害対応巡視船の発展型であり、警備救難及び災害対応機能を持つ巡視船だ。


 基準排水量4000トン級で、速力25ノット以上の本船は、病院船としての医療設備、入院設備を有し、給食機能は定員200人+300人の給食提供能力があり、500人に対し、10日間分の糧食を備蓄できる。


 海上保安本部が、技官として採用している医師や看護師を乗り込ませれば、一般的な総合病院と変わらないレベルの医療体制と、入院体制が整えられる。


 100床の入院設備があり、重症患者及び隔離が必要な感染症患者、女性患者を除く、入院患者は、2段ベッドで治療を受ける。


 災害対応型を生かし、軍人、軍属、自衛官を除く、文民たちの受け入れや、敵性国家でパルチザン活動を行うレジスタンスやその家族、親戚等の受け入れを行っている。


 留置施設と取調施設も完備されているだけでは無く、逮捕者専用の医療設備及び入院施設も完備されている。


 災害対応型ではあるが、警備救難型でもあるため、対空、対水上、対潜索敵能力や重武装化する海賊船等に対処する、重火器と自船防御火器を装備できる。


 有事法制下でのみ、装備可能な重火器も、連合海軍艦隊総軍第6艦隊に属した段階で、装備された。


 船首に62口径76ミリ単装速射砲と、20ミリ多銃身機関砲が装備され、後部ヘリコプター格納庫に、CIWSと20ミリ多銃身機関砲がある。


 平時運用時の武装は、ここまでであるが、有事事態宣言が出された時は、中部に2連装対艦誘導弾発射器2器と、3連装短魚雷発射器2器、船尾に近SAM発射器が後付される。


 日本共和区は、連合海軍艦隊総軍第6艦隊に、海上保安本部に属する大型巡視船を、3隻派遣している。


 3隻のうち2隻は、[あまば]型ヘリコプター2機搭載型巡視船で、1隻は警備救難型と災害対応型能力と、もう1つ洋上拠点能力を有する[いずも]型ヘリコプター2機搭載型巡視船である。


[いずも]型ヘリコプター2機搭載型巡視船は、指揮能力、通信能力、情報処理能力等の高さから、第6艦隊旗艦として運用されている。


 第6艦隊司令部要員は、多国籍沿岸警備隊本部から派遣された隊法叉は軍法が適用される上級幹部以上の隊員や、上級事務官以上の文民と海上保安官、海洋警察官等の制服組と背広組で、司令部が編成されている。





[きぬがさ]の船橋では、航海要員及びレーダー要員たちが、厳戒態勢を敷いている。


 海上警備行動下であるため、当直要員たちは防弾装備を着用した状態である。


「対空、対水上、対潜目標なし」


 索敵要員たちを総括する幹部が、報告する。


「第6艦隊第601合同任務部隊の、本日の報告書です」


「うむ」


 腹心の部下である1等航海士から、報告書を受け取った。


「昨日までに、連合国軍の潜水艦1隻を撃沈、1隻を拿捕したそうだ」


 船長の2等海上保安監が、報告書に目を通しながら、つぶやく。


「こちらは、連合国軍の潜水艦による通商破壊攻撃で、昨日までに11隻の商船と輸送船を沈められました。それに引きかえ・・・我々は、1週間で2隻の潜水艦を撃沈し、2隻を拿捕した程度です」


「連合軍の潜水艦・・・特に、アメリカ海軍とイギリス海軍の潜水艦は、隠密性、静粛性が格段に向上している。第601合同任務部隊とは別の指揮系統で行動する、大日本帝国海上警備隊、フィリピン海上保安隊、大韓共和国海軍等で編成された、海上治安部隊のフリゲートや駆逐艦等の警戒網をかいくぐり、輸送船や商船を沈めている・・・」


「それも、ありますが・・・それだけでは、無いと思います」


 1等航海士の言葉に、船長は額の汗を拭いた。


「保安局警察総監部公安本部外事部や法務局公安調査本部からの情報通り、フィリピンや東南アジアの地元民たちが、情報を流している・・・か」


「そうです。軍事物資や生活物資、さらに占領地域への都市開発等を目的とした船舶は、必ず、フィリピンに寄港してから、東南アジア方面に向かっています。さらに西沙諸島や南沙諸島等に拠点を置く連合支援軍から、不審な漁船が出没している事が、報告されています」


 連合海軍艦隊総軍第6艦隊には、航空部隊で編成された第661合同任務航空部隊があり、南シナ海、フィリピン海等警戒飛行する索敵機もあるが、不審船や潜水艦だけでは無く、救難捜索にも従事しているため、すべての海域をカバーできないのが現状だ。


「だが、本日の10時に、スービック軍港を出港する、聯合艦隊海上補給総隊に属する給糧艦は、必ず無事に目的地に到着させなければならない」


 大日本帝国海軍は、給糧艦[間宮]の発展型である[津軽]型給糧艦を建造し、それが4隻、フィリピン・スービック海軍基地から出港する。


 もちろん、聯合艦隊海上護衛総隊は、4隻が一度にでは無く、時間差を空けて、護衛の海防艦を2隻随行させた状態で出航する。


[津軽]型給糧艦は、全長165メートル、全幅20メートル、満載排水量2万トンクラスである。


 艦内の設備として冷蔵庫、冷凍庫には肉、魚、野菜等を、2万人が2週間満足できる糧食を備蓄でき、アイスクリーム製造器やラムネ製造器は、一度に3万人の将兵に提供できる生産量を誇る。


 入浴設備、洗濯設備があり、南方攻略に参加する陸軍将兵や海軍陸戦隊将兵に、提供する計画である。


 南方攻略に参加している陸海軍上陸部隊将兵は、陸上自衛隊、新世界連合軍連合陸軍叉は連合海兵隊の野外入浴施設を借りるか、補給のために沿岸部叉は港に入港した、海軍聯合艦隊第2艦隊の輸送能力を有する[松]型駆逐艦の入浴設備を利用する。


 しかし、どちらも時間制限が厳しく、満足できないのが現状だ。


 特に、南方地帯では水が貴重であるため、入浴が許されるのは各中隊規模で、3日に1度で、1人当たりの入浴時間は10分。


 さらに洗面器に真水のお湯を淹れる場合は、1人6杯までである。


 これを破れば、1ヶ月の入浴禁止が言い渡される等の懲罰処分がある。


 因みに、この入浴規制は、現代日本の刑務所で懲役刑を課せられた受刑者の入浴規制よりも厳しい。


 そのため、それらの制限が無い[津軽]型給糧艦の存在は、南方攻略軍全軍の士気に影響するから、船長以下、海上警備行動下にある巡視船の乗組員たちが、気が緩める事が出来ないのは当然だ。





[津軽]型給糧艦[対馬]は、聯合艦隊海上護衛総隊から派遣された、海防艦2隻の護衛下で南シナ海を南下していた。


 ジグザグ航行はせず、そのまま直進航行で、速力16ノットで目的地に向かっている。


 魚雷対策であるジグザグ航行をしないのは、ジグザグ航行時に発生する波の音を、出さないためである。


 ジグザグ航行は、魚雷回避運動として効果的と考えられているが、発生する波の音は、直進航行よりも大きく、逆に潜水艦の聴音に探知される可能性も高くなる。


 対潜警戒を厳にするため、甲板に見張員を増員し、潜水艦の潜望鏡を発見する事に、全力を上げた。


 潜水艦は、目標艦を発見しても、すぐに魚雷は発射しない。


 速力や、針路等を正確に把握するために、潜望鏡を上げて追跡しなければならない。


 その追跡の段階で、潜望鏡を上げている時が、発見のチャンスだ。


 海軍軍令部が定めた艦隊運用規程では、戦闘部隊であり、外洋展開を目的とする艦隊に随行する補給艦は、自艦防衛火器を搭載した自艦自衛戦闘機能を有する補給艦が、配置する事が定められた。


 例えば戦艦や空母に随行する艦隊、航空艦隊に随行する給油艦、給糧艦等は、戦闘補給艦という艦区分であり、自艦自衛戦闘として対空、対水上戦ができるように武装されている。


 そのため、積載可能な補給物資に、制約が発生する。


 それに対し、艦隊に随行しない事を前提に設計されている補給艦は、自艦防衛は必要最低限であるが、補給物資を大量に積載できる。


 給糧艦[対馬]には、2万人の将兵を2週間養える糧食と、お汁粉、羊羹等といった、甘味や嗜好品の提供が可能である。


 これに加えて、アイスクリームやラムネ等を、1度に3万人に提供できる生産設備がある。


[対馬]の任務は、東南アジアの戦地で、命を賭けて、不眠不休で戦っている将兵たちが待つ戦地に行き、これらの補給物資を提供する事である。


 その任務の重要性は、極めて重い事は・・・[対馬]に勤務する乗組員たち全員が、把握している。


 当初、戦闘艦勤務では無い給糧艦勤務を命じられた水兵たちの中には、不満を持つ者も多かった。


 これは、新任の下士官や士官も、同じである。


 しかし、自分たちの存在が、いかに重要であるかは・・・補給任務を完遂した時に、理解できた。


 自分たちの存在は、戦局全体に影響する。


 いかなる代償を払っても、無事に物資を目的地に届けなければならない。


 自分たちの船が沈めば・・・たったの1隻で、数万規模の将兵が全滅するのである。


 そのため、補給艦勤務が命ぜられた将兵には、さまざまな特権が与えられた。


 例えば、1回の補給任務を無事に終えると、天皇陛下への謁見が認められ、陛下自らの激励の御言葉を士官、下士官、水兵を問わず受けられるのである。





 アメリカ海軍太平洋艦隊潜水艦部隊に所属する[タング]級攻撃型潜水艦[トリガー]は、速力4ノットで、海中を静粛航行していた。


 大日本帝国海軍が、高性能な潜水艦を建造した事に対抗し、パシフィック・スペース・アグレッサー軍が運用する極めて優れた静粛性と海中を高速航行する潜水艦に対抗して、建造された[タング]級攻撃型潜水艦、静粛性、隠密性、水中高速航行能力を有する攻撃型潜水艦だ。


「ソナーより、艦長。スクリュー音を、捕捉しました。速力16ノットで、直進航行しています」


 ソナーからの報告に、司令塔に詰めていた艦長(中佐)は、腕時計を確認した。


「艦長。工作船から報告を受けた。南方作戦に投入される補給艦です。時刻も、速力も、報告通りです」


「獲物が現れた。潜望鏡深度まで浮上」


 艦長の指示で、[トリガー]は、ゆっくりとメイン・タンクに溜めた海水を排水する。


 潜望鏡が上げられ、艦長は勤務帽を反対に回し、潜望鏡を覗く。


「艦影を確認。[津軽]クラスの補給艦だ」


 距離にして、3500メートルを確保し、艦影を視認する。


「魚雷戦用意!1番から6番発射用意!」


 艦長の指示で、[トリガー]艦首に搭載されている魚雷発射菅に魚雷が装填され、発射管が開放される。


 彼らに与えられている任務は、通商破壊であり、物資を満載している輸送艦、運送艦、商船等を優先的に狙う。


 いかに、強力な軍隊でも、相手は人間である。


 人が生きて行くに必要な物は、水と食べ物である。


 特に、固有の料理やデザートがある国では、それが食べれないのは、心理的打撃を与えられる。


 これまで、狙った商船、輸送艦、運送艦の中で、優先的に沈めたのは、大日本帝国本土から送られる糧食や炭酸飲料水、手紙を満載した船舶だ。


 最近では、家族からの手紙は、駆逐艦による輸送に変更されたようだが・・・生活物資に関しては、駆逐艦による輸送は限界がある。


「魚雷全門発射準備よし!」


「ファイア!」





 給糧艦[対馬]の甲板に見張員として配置についていた上級水兵は、開戦前から駆逐艦や軽巡洋艦の航海要員として勤務してきた。


「?」


 双眼鏡で暗い海上を監視していると・・・遠くの海上から、何かが飛び出ている物を発見した。


「潜望鏡らしき物を発見!」


 上級水兵が報告すると、特務士官の特務少尉が駆け付ける。


「間違いない!潜望鏡だ!」


 特務少尉が叫ぶ。





 甲板見張員からの報告に、給糧艦[対馬]艦橋では、艦長(大佐)が増速を指示した。


[津軽]型給糧艦は、最高速力20ノット程度である。


「至急電!!海上治安部隊及び連合海軍第4艦隊と、第6艦隊に緊急連絡!!」


「艦長!海防艦[奄美]が、魚雷発射を確認!!」


「回避行動!取舵一杯、急げ!!」


 海上護衛総隊の主力海防艦である[鵜来]型海防艦は、海軍聯合艦隊麾下の揚陸艦、輸送艦、運送艦や海軍省に徴用され、海軍籍に転科した民間船舶の護衛を担う。


 電探及び連動する火器管制装置も搭載され、対空、対水上戦も可能である。


 対潜水艦捜索のための聴音装置もあり、その対潜能力は、聯合艦隊で主力艦として位置付けられている、汎用駆逐艦に匹敵する。


「魚雷の数は?」


 艦長が叫ぶと、航海長が報告する。


「6本です!」


「全部を回避するのは難しいか・・・」


 艦長は、そう認識した時、艦内電話に飛びついた。


「応急工作隊!!浸水及び火災に備えろ!!」


[津軽]型給糧艦は、設計段階で、数本の魚雷が命中しても沈まない設計がされている。


 魚雷被弾時に、応急工作隊が迅速に浸水箇所の閉鎖叉は応急修理ができれば、沈没する可能性は低い。


「機関!出力一杯!」


 副長が叫ぶ。


「魚雷接近中!」


「命中弾は、何本だ?」


「3本です!」


 艦橋では、見張員と航海要員たちの叫び声が飛び交う。


 だが・・・海防艦の1隻が対潜捜索を中止し、全速航行状態で、舵を切った。


「[志賀]が、本艦と並行します!」


「本艦の盾になる気か!?」


 命中進路の魚雷3本中2本が、海防艦[志賀]を直撃した。


 艦体を大きく揺らし、巨大な水柱と火柱が上がる。


 1本は海防艦[志賀]の後方を通過し、給糧艦[対馬]の艦尾部分に命中した。


 給糧艦[対馬]の艦体が、大きく揺れた。


「被害状況を、報告しろ!」


 艦長が叫ぶ。


「左舷艦尾より!浸水!」


「左舷推進器破損!」


 海防艦[志賀]の決死の行動で、給糧艦[対馬]のダメージは、最小限度に止められた。

 マレーの虎 第5章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますがご了承ください。

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