マレーの虎 第4章 パレンバン攻略 4 奇襲と陣地防衛
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
墜落したC-130に近辺には、予定降下地点に降下できなかった(搭乗機が対空砲火等を割けたためや突風等で流されたため)連合空挺部隊の一部が、合流集結していた。
神野以下、路たちがキャンプ地点に到着すると、1個大隊クラスが集まって、負傷者は一角に集められ、衛生科隊員や衛生兵の治療を受けていた。
また、小規模な戦闘で負傷したらしい、捕虜の姿もある。
彼らの指揮を行っているのは、大日本帝国陸軍南方軍挺進集団第2挺進団第6歩兵大隊第3中隊副中隊長である大尉であった。
新世界連合軍連合陸軍に属するアメリカ陸軍空挺部隊や、フランス陸軍空挺部隊、菊水総隊陸上自衛隊第1空挺団等の空挺歩兵(陸自は空挺隊員)300人以上が、集まっている。
そのうち、戦闘が可能な者は、200人程度である。
「我々の現在位置は、ここだ」
大尉は神野たちに、状況説明を行った。
「この近くに、自走式高射砲部隊がある。これらを無力化しなければ、南方軍司令部は、救出のための回転翼機を回せないそうだ。負傷兵の中には、急いで搬送しなければならない者もいる。混成部隊を編成して、高射砲部隊を無力化できないか?」
大尉は、神野と路に聞く。
「上陸した朱蒙軍海軍海兵隊第11海兵旅団からの、増援部隊は?」
「あいにくだが、進行地点に地雷が敷設されているだけでは無く、遊撃部隊による遊撃戦で足止めを受けている。到着に、3日はかかるそうだ」
「わかりました。できる限りの武器、弾薬と爆薬があれば、高射砲を無力化できます」
神野は、指揮所として使われている天幕で、地図を見下ろしながら答えた。
「わかった。必要な物を持って行くといい」
大尉から許可が出ると、神野と路は、天幕を出た。
高射砲を無力化する部隊は100人であり、爆発物の取扱に慣れている工兵や、施設科隊員と歩兵、普通科隊員等で編成されている。
負傷した自衛官から、89式5.56ミリ小銃折曲式銃床を拝借し、装備を整えた神野は、同じように、負傷した朱蒙軍兵士から装備を拝借した路と共に、部隊の指揮をする事にした。
路に、臨時編成した斥候部隊の指揮を任せて、本隊である戦闘部隊の指揮を、神野が執る事にした。
自走式高射砲部隊は、陣地転換中だったのか、移動途中に路の率いる部隊に発見された。
「あれは・・・」
自走式高射砲は、ドイツ第3帝国国防軍陸軍の物であったが、自分たちの記録にある自走高射砲では無かった。
「Ⅵ号戦車の車体を流用した、自走高射砲・・・」
8.8センチ高射砲を搭載した、自走高射砲である。
「ドイツ第3帝国国防軍が、これ程の規模を投入しているとは・・・」
表面化では連合国・・・主にイギリスと交戦状態であったが、実際は極秘裏に太平洋に派遣軍を投入できるように、準備していたのであろう。
あり得ない話では無い。
自分たちの存在が表沙汰になると、何が発生したのか調査に来る。
実際、大日本帝国は、日独伊三国軍事同盟を一方的に破棄し、その見返りに、ドイツ第3帝国等枢軸国に、強力な兵器の一部を無償で提供した。
ドイツを含め、枢軸国、連合国の技術力は、自分たちが戦争に介入したと同時に、格段に進歩した。
それも、そのはず。
この時代では、すでに、これらの武器兵器の理論は、完成している。
つまり、彼らからすれば、理論が立証されたのである。
理論が立証されれば、手間暇がかかる評価試験をする必要が無く、実戦に投入することを前提した開発、性能試験が行われる。
どこかの国が技術を向上すると、必ず、他も技術が向上する。
特に、資源や人材が豊富にある国であれば、尚更だ。
神野は、陣地転換した自走式高射部隊の位置を、路から知らさられると、側面攻撃の準備をした。
自動小銃及び手動装填式小銃の先端に、銃剣を装着し、側面攻撃の準備を行った。
完全な奇襲攻撃であるため、対地攻撃が可能な高射砲でも、即応はできない。
偶然にも風で流され、投下予定地点を大きく逸れたらしい、空中投下された軽装甲機動車1輛と、防弾仕様のハンヴィー数輛を確保できた。
12.7ミリ重機関銃やM134連装機関銃を搭載しているため、火力は十分である。
これらの車輌と、歩兵(普通科隊員)が連携すれば、敵部隊を混乱させる事ができる。
自走式高射砲は4輛あり、護衛として歩兵が、1個中隊クラス付いている。
「迫撃砲!!」
新世界連合軍連合陸軍に属するアメリカ陸軍歩兵旅団戦闘団の歩兵中隊麾下に置かれている迫撃砲班が装備する、60ミリ迫撃砲のM224にアメリカ兵が、60ミリ榴弾を半装填する。
第2次世界大戦時から長らく使用された60ミリ迫撃砲は、軽量であるため歩兵連隊の火力支援火器として好まれた。
軽量であるため、運用要員が少なく、砲弾も60ミリという事もあり、補給も安易であった。
そのため、アメリカ陸軍及び海兵隊では、M2迫撃砲等の60ミリ迫撃砲の後継としてM224が配備されている。
「発射!!」
神野の指示で、M224から榴弾が発射される。
2門しか無いため、威力としては心許ないが・・・榴弾が、歩兵部隊が展開している地域に着弾する。
迫撃砲の着弾と共に、小銃部隊が突入する。
神野も、89式5.56ミリ小銃折曲式銃床を3点射制限射撃で、射撃を行う。
奇襲に気が付いたドイツ帝国兵たちも、StG44やMG42等を構えて応戦する。
軽装甲機動車も突撃し、車載機関銃である12.7ミリ重機関銃や防弾仕様のハンヴィーのM134が火を噴き、猛烈な撃ち合いが開始された。
車輌に乗る機関銃手を守るために、防弾楯及び装甲板が設置されているため、簡単には機関銃手の生命にかかわるような弾丸は命中しない。
自動小銃による歩兵対歩兵戦が行われている頃・・・路が指揮する高射砲攻撃部隊が、密かに目標に近付いていた。
「グーテン・モルゲン(おはよう)」
路は、自走式高射砲部隊の指揮官車であるジープに近付くと、ドイツ帝国国防軍陸軍兵たちに、朗らかな声で挨拶をする。
彼らは驚き、こちらに顔を向けると、路の姿を見て固まる。
「アイネン・シェーネンターク(よい1日を)」
路が言い終えると、ようやく正気に戻った将校の1人が、ホルスターからワルサーP38を引き抜く・・・
だが、運転手や他の兵士たちが背後から近付いた路の部下たちに、コンバットナイフで絶命させられ、将校は銃床で頭を殴られ、気を失わされた。
指揮官からの連絡が途絶えた自走高射砲は、状況把握ができず、混乱した。
その隙に、路が指揮する攻撃部隊からの攻撃を受けて、壊滅・・・
自走高射砲にC-4爆弾が設置され、爆破される。
路は、自走式高射砲を無力化した事を報告すると、墜落地点で集まった混成部隊の総指揮を行っている大尉が、南方軍司令部に負傷兵を搬出するための、回転翼機を手配した。
南方軍司令部は、すぐに承諾し、回転翼機の投入を命令した。
命令を受けて、新世界連合軍連合空軍総軍索敵救難航空軍に所属するCV-22Bが、出動した。
高射砲部隊を無力化した神野と路は、混成部隊が集まっている地区に戻り、次の作戦準備に取りかかった。
救難部隊が向かっている報告を受けて、着陸誘導班、搬送班、周辺警戒班、緊急対応班の4個班に混成部隊を編成し、敵からの攻撃に備えるのと、スムーズに退却できるよう準備を整えた。
神野は周辺警戒班の指揮官として、着陸地点周辺の警戒と、連合軍及び枢軸国軍からの攻勢が始まった場合、防御陣地で防衛戦の指揮を執る。
第2挺進団第6歩兵大隊は、枢軸国軍の対空砲火と連合軍迎撃戦闘機からの攻撃を、まともに受けたため、1個歩兵大隊そのものが、バラバラに落下傘降下した。
救出地点に集合できた第6歩兵大隊は2個中隊弱が集まっただけであり、50名以上の傷病兵がいる。
戦闘による負傷者や、落下傘降下時の負傷者だけでは無く、毒や感染症を持つ昆虫等に噛まれた病兵もいる。
戦闘や落下傘降下時の負傷であれば、事前に衛生兵や衛生科隊員の指導で、応急処置やある程度の医療行為を行えるが、毒や感染症の病兵には、手の施しようが無かった・・・
菊水総隊航空自衛隊の指揮下に置かれた航空機動衛生隊や、連合兵站軍空軍医療航空集軍下にある空中医療隊等が、救急医療仕様に改造された、CE-130やVE-22Bで救急医療を必要とする重傷者や感染症者の治療を行いながら、後方の病院船や野戦病院等に救急搬送する。
離着陸地点がある場所では、CE-130が担当し、離着陸に必要な距離を確保できない場合、VE-22が担当する。
大日本帝国空軍でも、航空戦略緊急展開集軍麾下に日本共和区や新世界連合で救急救命医の研修を受けた、空軍軍医と専用輸送機で編成した空中救急衛生部隊を、新設している。
周辺警戒班に配置された第2挺進団第6歩兵大隊に所属する兵士たちは、二式手動装填式小銃と、幸運にも空中投下された九九式軽機関銃、九二式重機関銃等を回収し、防御陣地に設置した。
「まったく、本格的な初陣早々、ついてない」
二式手動装填式小銃を携行した、少尉がつぶやく。
「他の大隊は、うまく目的地に降下できたようだが・・・」
「少尉殿!偵察に出した兵たちから報告!軽戦車3輛を含むオランダ陸軍1個歩兵中隊が、接近中!」
少尉付の下士官である軍曹が、報告した。
「敵が来るぞ!夜戦に備え!!」
自走式高射砲部隊を無力化して、日が沈んでからの報告だった。
「いいか!敷設した三式対人地雷が爆発するまでは、撃つな!!」
少尉が叫ぶと、九二式重機関銃の安全装置を解除する機関銃手と予備弾薬の準備をする補助兵や予備の九七式手榴弾を背嚢から取り出し、すぐに投擲できるように、近くに置く小銃兵たちがいる。
月明かりに照らされ、目の前の地雷原より前から、オランダ兵らしき人影と軽戦車が、現れた。
アメリカ製軽戦車である、M3を先導に、小銃を携行しているようだ。
先導のM3が、敷設した九三式対戦車地雷の上を通過し、対戦車地雷が起爆した。
戦車の急所である、下部部分にダメージを与える対戦車地雷は、一撃でM3を炎上させた。
オランダ兵たちが、散開する。
その時・・・
三式対人地雷の炸裂音が、響いた。
「撃てぇぇぇ!!」
少尉の号令と共に、二式手動装填式小銃が、一斉に火を噴いた。
手動装填式であるため、槓杆を引き、空薬莢を手動で排出し、次弾を装填しなければならないため、2回目の射撃から個人差でズレが生じる。
「各自撃て!!」
少尉も、次弾を装填した二式手動装填式小銃を構え直して、引き金を引く。
九九式軽機関銃と九二式重機関銃の連発音が響き、弾幕を張る。
オランダ兵たちも、負けずに撃ち返す。
彼らが使っている小銃は、半自動小銃であるのか射撃間隔が短い。
「戦車砲!!」
誰かが叫び、防御陣地の手前が吹っ飛んだ。
確認すると、別のM3がこちらに砲口を向けていた。
「第4大隊に所属していれば、良かった!」
少尉が、戦車砲の咆吼に紛れて叫ぶ。
陸軍挺進集団第1挺進団では、第1歩兵大隊、第4歩兵大隊、第7歩兵大隊の3個歩兵大隊には、半自動小銃である一式半自動短小銃や短機関銃(3個歩兵大隊以外にも、各歩兵大隊の斥候小隊も携行する)を主装備にしている。
少尉は二式手動装填式小銃を構えて、狙いを定める。
狙いを定めたら、引き金を引いた。
二式手動装填式小銃から発砲された七.六二粍小銃弾が、オランダ兵を射殺する。
M3軽戦車が地雷原を前進し、敷設した対人地雷を無力化し、歩兵の進撃路を確保する。
「少尉殿!これ以上は、持ちません!!」
「引くな!!ここを突破されたら、着陸地点を制圧されるぞ!!絶対に引くな!!」
少尉は、九七式手榴弾の信管を作動させるために、先端を鉄帽で叩いた。
この当時の大日本帝国軍が導入していた主力破片手榴弾である九七式手榴弾は、安全装置に繋がっている紐を引っ張り、固い物に先端を叩き着けなければ信管は作動しない、という代物だった。
紐を引っ張り安全装置の解除には誰でもできるが、先端を叩き信管を作動させるには、コツがいる。
先端を叩くのが甘ければ、信管は作動せず、不発する事も度々発生した。
対してアメリカ軍は、このように手間暇がかからないように設計されている。
しかし、その分、誤爆も多かった。
投擲された九七式手榴弾が連続で炸裂し、オランダ兵の前進を妨げる。
「少尉!地雷原を、突破されました!」
報告に少尉が、顔を上げる。
M3戦車が、地雷原を突破した。
「こうなったら!」
少尉は、背嚢から九九式破甲爆雷を取り出し、身体に巻き付ける。
対戦車兵器が無い以上・・・戦車を撃破する有効な戦法は、1つしか無い。
肉弾による、特攻である。
少尉が塹壕から飛び出そうとした時・・・地雷原を突破したM3が突然、大爆発した。
猛烈な爆風が、襲いかかってきった。
彼は吹き飛ばされ、塹壕内に戻された。
「・・・何だ?」
少尉が立ち上がりながら、上空を眺めると・・・
噴進音と共に、2機の噴進機が現れた。
「あれは・・・」
「少尉殿。菊水総隊空軍の地上攻撃機です!海軍と菊水総隊が計画した、ハワイ攻略作戦で猛威を振るった攻撃機です!!」
少尉付の下士官が、告げる。
第2挺進団第6歩兵大隊を援護したのは、神野が手配した、菊水総隊航空自衛隊に所属するA-10A[サンダーボルト]である。
「こちら、第1空挺団第1普通科大隊第3中隊所属の神野。A-10隊、聞こえるか?」
神野は、89式5.56ミリ小銃折曲式銃床の、30発弾倉が空になるまで撃ちまくった後、無線で、近接航空支援に出撃したA-10と交信した。
「こちら菊水総隊航空自衛隊第91航空隊第901飛行隊所属の、シューティング・スター1。感度良好」
「1個大隊強クラスの攻勢を受けている。積んである誘導弾を、一帯にばらまいてくれ!」
「こちらシューティング・スター1、ラジャ。展開している敵部隊への、攻撃を開始する」
A-10Aは、AGM-65D[マーベリック]を連続発射した。
57キロの成形炸薬が積まれたマーベリック・ミサイルは、オランダ陸軍の展開地域に降り注いだ。
マレーの虎 第4章をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますがご了承ください。




