マレーの虎 序章 2 虎と呼ばれた男の独語
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
東南アジア・マレー半島の某集落。
タイ王国に駐留する新世界連合軍連合支援軍に属するタイ王国軍と、大日本帝国陸軍水陸両用戦闘集団1個旅団と、海軍陸戦隊沿岸強襲制圧隊1個隊が、輸送艦部隊で南進作戦と上陸作戦の最終調整段階に移っていた頃・・・
「遅かったか・・・」
1人の青年が、集落の惨状を見て、つぶやいた。
彼の手には、80年後の時代からやってきた日本人と、マレーシア人から与えられた、自動小銃が握られている。
長らくベトナム人民軍の主力小銃として使われていたAK-47や、56式自動歩槍、56式半自動歩槍は、AKMに更新され、これらの自動小銃及び半自動小銃は予備武器として保管叉は他国に売却される事になっていたが、タイムスリップ時に、それらの銃火器は大量に持ち込まれた。
それらは、新世界連合の常任理事国である日本、韓国、アメリカ、イギリス、フランス、イタリア、ドイツ、シンガポール、カナダの8ヶ国が協議し、もっとも信頼できる勢力に、供与された。
彼らが、その1つである。
開戦前から、マレー半島で盗賊団として活躍した勢力・・・
現在では抵抗軍と名乗り、マレーの自由化、マレーの独立等をスローガンに、イギリス軍と戦う抵抗勢力である。
「生きている者が、いるかもしれん!散開し、捜索しろ!」
壊滅した集落に、集結した50人程度の抵抗軍兵士たちが、AK-47や56式自動歩槍を構えて、3人一組ないし4人一組で、一軒一軒捜索する。
その動きや身の熟しは、とても元盗賊だとは思えない。
訓練された兵士たちである。
「ハリマオ!来てくれ!!」
1人の部下から呼ばれ、AK-47を携行した青年が、駆け出す。
ハリマオ・・・
この名前を聞いて、知らない現代人はいない。
イギリス軍や日本軍では、マレーシア人の人心を獲得できなかったが、ただ1人、マレーシア人の心を捉えた人物、と言われている男。
彼は日本人であり、マレーシア人であり、そしてイスラム教徒である青年。
ハリマオこと、谷豊である。
「生存者が、いたのか?」
「これを、見てくれ・・・」
ハリマオは、部下が指を指す方向に顔を向けた。
「ここも・・・か・・・」
「ああ、そうだ。これで10の集落が、同じ目的で壊滅させられた事になる・・・」
ハリマオが入った建物は、どうやら集落の診療所だったようだ。
「ここには、あんたらの欲しい物は、何も無いよ」
突然、女性の声がして、ハリマオたちは声がした方向に振り向く。
若い兵が、56式半自動歩槍を向ける。
「待て!」
ハリマオは、若い兵たちを止める。
「おや、アンタは?」
40代ぐらいの中年女性は、ハリマオの姿を見て、敵意むき出しの目付きを変えた。
「他に生存者は?」
ハリマオが尋ねると、女性は木製の床を2回、足で叩いた。
すると床が開き、10人以上の男女と、子供が姿を現した。
「生存者は、これだけさ」
女性はそう言った後、懐から1つの瓶を取り出して、ハリマオに投げた。
「奴らは、これが欲しかったのさ」
ハリマオは、その瓶を受け取った。
その瓶には、薬品名が、英語で書かれていた。
マラリア・ワクチンと。
そして、製造元は日本国・・・
「・・・・・・」
ハリマオは、この瓶に覚えがあった。
自分がタイ王国の刑務所に収監されていた時、自分の元に現れた80年後から来た日本人とマレーシア人。
彼らからの説得で、自分がかつて率いていた盗賊団を結集し、抵抗軍を組織した。
その際、自分たちが運び屋となり、80年後の時代で製造されている医薬品や、不治の病等への治療薬を、各集落に提供した。
人心獲得のためと、イギリス軍等の情報獲得のために・・・
「ど・・・どうして、こんな事に・・・」
この集落出身の若い兵が、つぶやいた。
彼も不治の病だったが、彼らから提供された治療薬によって、生き長らえる事ができた。
そして、病気が完治すると、自らの意志で抵抗軍に志願した。
「彼らは!彼らは、何をしているんだ!俺たちが協力したら、強力な軍隊を送ると約束したはず!」
兵士たちの間で、怒りが高まり、叫び声が集落全域に響いた。
「・・・・・・」
薬瓶を眺めながら、ハリマオは無言で立ち尽していた。
マレーの虎 序章2をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。
次回、8月2日に、外伝的な扱いで、0章の投稿を予定しています。




