マレーの虎 序章 1 副都督の独語
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
本章から第9部[マレーの虎]篇に入ります。
南シナ海南部に位置するチュオンサ諸島チュオンサ島(ベトナム語で南沙諸島)。
「副都督。菊水総隊司令官座乗艦[くらま]と、随行のミサイル護衛艦[しまかぜ]を、レーダーで確認しました」
副官である大佐の報告に、新世界連合軍連合支援軍に属する、ベトナム人民統合軍人民海軍の潘明雄副都督が、白色の制服姿で振り返った。
「わかった。警備艦を出して、エスコートさせろ」
「はっ!」
副都督からの指示を聞いた副官は、挙手の敬礼をして、司令部に戻った。
副官の後ろ姿を見送ると、潘は、釣竿を上げた。
「・・・・・・」
針の先につけていた餌が、無くなっていた。
「また・・・逃げられた・・・」
潘は、再び魚の餌を針につけて、海に投げる。
ベトナム人民海軍の高級士官の階級は、諸外国海軍と異なる。
准都督、副都督、都督の3区分があり、それぞれが少将、中将、大将に相当する。
因みにベトナム人民軍の大佐は、諸外国軍の大佐では無く、准将に相当する。
大佐に該当する階級として、上佐がある。
チュオンサ島は、連合支援軍に属するベトナム人民軍の拠点として使用され、主に東南アジアでの即応展開部隊の中継基地兼補給基地としても利用される。
彼の周囲には、AKMで武装した人民陸軍の歩兵部隊が、巡回している。
「さて・・・機は熟した。だが、予想以上に時間をかけてしまったが・・・」
副都督は、釣竿の感触を感じながら、つぶやく。
彼らは、単に南方進出の拠点防衛だけを行っていた訳では無い。
ベトナム及び英仏蘭国等に支配されている東南アジアで、連合軍の哨戒網や警戒網の盲点をくぐり抜けて、独立勢力等と接触、医薬品や、この時代では不治の病とされていた病の治療薬を提供し、同時に銃火器等の歩兵携行火器を供与していた。
ベトナムを含むインドシナは、フランス領であり、大日本帝国は、アメリカを中核とする連合国の経済制裁緩和及び外交による平和的な解決を目的とするため、ドイツ第3帝国とフランス共和国との間で締結された、独仏休戦協定に従わないフランス軍民のために、インドシナを返還した。
もっとも、撤退する大日本帝国軍に紛れて、入れ替わりにベトナム人民軍が潜入、日米交渉等が失敗し、会戦になった場合に備えた。
インドシナを拠点に出動する、自由フランス軍及びアメリカ軍施設に対し、ベトナム人民陸軍及び陸軍傘下の民兵部隊は、ベトナム戦争及びベトナム戦争終結後に勃発した、中越戦争での教訓を元に、近代化された遊撃戦法と奇襲攻撃戦法を最大限に活用し、フィリピン本土への攻撃阻止だけでは無く、フィリピンと大日本帝国を繋ぐシーレーン破壊工作等の阻止に尽力した。
ベトナム人民軍は、アフガニスタンと同様に、2つの軍事大国からの侵攻を阻止し、撤退させる事に成功している。
特に中越戦争は、ベトナム戦争が終結し、国内は戦争の傷が深く刻まれた状況下で、中国軍の南進を受けた。
しかし、南ベトナム軍残存兵だけでは無く、アメリカ軍等の近代軍と戦った南ベトナム解放戦線及び北ベトナム軍が連携し、中国軍への守勢を行った。
幸いにも、アメリカ軍は大量の武器、兵器をそのままにして撤退したため、武器、兵器には困らなかった。それだけでは無く、それらを使いこなせる将兵付である。
「ドイツ第3帝国国防軍の将軍が言った、名台詞があったな。『兵士は戦場で、一人前になる』と・・・あっ!!?」
上げた釣竿の先の針には、餌が無かった。
「また、やられた・・・」
潘は、ため息をついた。
マレーの虎 序章1をお読みいただきありがとうございます。
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