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断章 石垣頑張る 前編

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 大日本帝国統合軍省統合軍作戦本部統合作戦部直轄艦指揮母艦[信濃]は、訓練航海等を目的に、大日本帝国近海を航行していた。


 護衛艦として、噴進弾搭載の防空駆逐艦、汎用駆逐艦、対潜ロケット弾等の対潜攻撃能力及び対潜索敵能力が、格段に向上した対潜駆逐艦が護衛している。


 戦艦[大和]から指揮母艦[信濃]に移動してから、日数があまり経過していない石垣(いしがき)達也(たつや)2等海尉と(そく)()美雪(みゆき)3等海尉は、海軍部作戦室に呼び出されていた。


「石垣君、側瀬君。君たちに、菊水総隊海上自衛隊司令部から、教育研修参加の辞令書が、届いているぞ」


 統合軍作戦本部統合作戦部海軍本部長の()(かき)(まとめ)中将が、石垣たちの入室を確認してから、告げた。


「教育研修ですか・・・?」


「???」


 石垣は、首を傾げた。


 そのような教育研修に、応募した覚えが無い。


 側瀬に視線を向けると、彼女も首を捻っていた。


「明日から、大韓市国朱蒙軍海軍海兵隊訓練所に赴き、他の陸海空自衛官、新世界連合軍、大日本帝国陸海軍、大韓共和国軍等から派遣された、研修生と共に、韓国海兵隊で軍事訓練を受けてもらう」


 宇垣の言葉に石垣は、すぐに反応ができなかった。


「・・・・・・」


「へん・・・」


「えぇぇぇ!!?」


 反応が無い石垣に、宇垣が復唱を求めようとしたが、彼の驚きの声にかき消された。


「韓国海兵隊って、あの韓国海兵隊ですか!?世界一厳しい訓練をする韓国海兵隊ですか!!?」


「韓国、韓国と、そんなに連呼しなくてもいい」


 宇垣が、呆れたように言う。


「石垣君。君の頭の中では、韓国海兵隊は、1つでは無いのか?私の記憶の中には、1つしか無いが・・・?」


 宇垣の首席幕僚であり、海軍部参謀長の黒島(くろしま)亀人(かめと)少将が、突っ込んだ。


「いえ、その前に、どうして自分が選ばれたんですか?韓国海兵隊の教育研修生になるには、厳しい選抜試験があるはずですが・・・」


「君の兄君の人望等で、選抜試験が免除された」


「・・・・・・」


 宇垣が、さらりと言ってのけた。


 朱蒙軍海軍海兵隊は、自衛隊、新世界連合軍等から研修生を、受け入れている。


 しかし、その研修生として選抜されるには、厳しい選抜試験を合格しなければならない。


 まず、射撃、軍隊格闘(自衛隊では徒手格闘)、学力、戦闘術(こちらは本人の希望で、市街地、森林、山岳等を自由に選択する事ができる)等の選抜試験を行い、どの評価も5段階評価中、3以上の評価を貰わなければならない。


 陸上自衛隊で例を出せば、中央即応連隊、水陸機動団、第1空挺団等の精鋭部隊に所属する隊員1000名以上が応募したが、合格できたのは1割程度である。


 新世界連合軍連合海兵隊に属するアメリカ海兵隊も、1000人以上が志願するが、合格者は、同じく1割もいなかった。


 朱蒙軍海軍海兵隊の研修生選抜試験の試験要員たちは、元の時代の韓国海兵隊の徴兵選抜と同じ基準で行っている。


 日本の週刊誌や世間一般的な知識として、韓国は徴兵制があり、成人男性は特別な理由を除き、軍隊に徴兵されると思われているが、実際は異なる。


 例えば1万人の徴兵対象者がおり、その中で韓国陸海空軍及び海兵隊に徴兵されるのは、国内の経済状況や国内情勢で、徴兵合格者の数が変わるが、一時は3割程度だった時もある。


 後の7割は、軍部から不採用が通知された。


 特に、その中でも韓国海兵隊は厳しい選抜試験があり、応募者は多いが、合格できるのは極めて少ない。


 因みに、採用者の数は2000年代から減らされる一方で、特に隣国との緊張状態が発生すると、さらに選抜方法が厳しくなり、合格者は減少する。


「韓国海兵隊って、あの韓国海兵隊ですよね?」


 ゲンナリとした表情の石垣とは対照的に、目をキラキラさせて、側瀬が石垣と同じ台詞を言う。


「そ・・・そうだ・・・」


 側瀬のワクワクした表情と態度に、微妙に引き気味になりながら、宇垣が答えた。


「海兵隊・・・海兵隊・・・ウフフフフ・・・た~のしみ~た~のしみ~ララララ~ン」


 満面の笑みを浮かべながら、側瀬は譫言のようなつぶやきを漏らしている。


 どうやら、意識は別の場所へ、旅立っているらしい。


「大丈夫なのか・・・?」


 ドヨ~ンとしたオーラを背負い、暗く沈んでいる石垣と、どこかの花畑でスキップしているように、ハイテンションな側瀬を見比べつつ、宇垣はつぶやいた。





 自衛隊、朱蒙軍、新世界連合軍で行われている教育研修では、共同軍事行動(自衛隊では、共同部隊行動)の歩調合わせや各国軍の情勢や戦略を理解するために常に行われている。


 今回は、石垣と側瀬以下自衛官たちが朱蒙軍海軍海兵隊に出向くが、その逆もあり、朱蒙軍や新世界連合軍が自衛隊に出向き、研修を受ける事もある。





 石垣は、宇垣から辞令を渡されると、同じく辞令を渡された側瀬や、他の陸海空自衛官たちと共に、航空自衛隊小牧基地からC-130Hに乗り込み、大韓市国政府が管理する訓練地に、向かった。


 到着後は、朱蒙軍海軍海兵隊が運用する、人員輸送車に乗り込み訓練施設に入る。


 教育研修に参加する陸海空自衛官は、70人であり、そのうち10人が、女性自衛官である。


 参加が多いのは、当然ながら陸上自衛官であり、40人が占めている。


 最も少ないのが、意外にも海上自衛隊で、参加者数は10人。航空自衛隊20人である。


 参加自衛官の職種はさまざまであり、陸上自衛隊は普通科、施設科、特科等と言った戦闘部隊がほとんどで、特に普通科が多い。


 海上自衛隊は、陸警隊や立入検査隊、海陸両用支援隊(ただし、立検隊と海援隊は、両資格保有者がほとんど)が占めている。


 航空自衛隊は、基地警備隊の隊員だけでは無く、飛行要員や航空要員、整備要員等といった、さまざまな部隊から参加している。


 人員輸送車が停車すると、朱蒙軍海軍海兵隊の迷彩服を着た下士官が、乗り込んできた。


「全員3分以内に荷物を持って降りろ、身長順に4列横隊で整列!陸海空の区分は無い!」


 訛りのある日本語で叫んで、下士官が人員輸送車から出て行った。


 石垣たちは手荷物を持って、人員輸送車から外に出ると、誰からの指示を受ける事も無く、すばやく整列する。


 身長順であるため、見た目と自分の身長がどのくらいか、それだけでわかるため整列するのは容易だ。


 整列した事を確認した先ほどの朱蒙軍海兵隊下士官は、所要時間を確認した。


「予定時間よりも1分早い。最初の結果としては上々だ!」


 下士官がそう言った後、整列した研修参加の自衛官たちを引率した。


 訓練所の講堂に引率された自衛官たちは、朱蒙軍海軍海兵隊訓練所の所長から挨拶と、オリエンテーションを受けた。


「朱蒙軍陸海空軍は、6万8000人の常備軍を有し、我々海兵隊は、海軍の指揮下及び管轄下であるが、兵員、装備、資材等は独立した扱いを受けている。朱蒙軍海軍海兵隊は常備部隊に4個旅団、2万人の常備海兵が所属している。君たちは、韓国海兵隊について、さまざまな話を聞いているだろうが・・・デタラメだ。何故なら、君たちは、本日から一週間の間だけではあるが、韓国海兵隊の訓練研修を受ける。それこそが、事実であり、君たちの口から周りに伝わる事が、新たなる真実である。一週間の間だけではあるが、ここでの経験を生かし、元の部隊で練度向上等に尽力してくれれば、私としては嬉しい」


 所長の簡単な挨拶とオリエンテーションが終わると、引率した下士官が前に出た。


「私は、朱蒙軍海軍海兵隊の(ナム)(ソン)元士(自衛隊では曹長に相当)。本日から一週間の間、先任教官である」


「南先任教官は、私が最も信頼し、勇猛果敢な職業軍人だ。軍歴は、アフガニスタン、イラクに従軍した。戦闘や敵地から脱出等についての教務を担当する」


 所長が付け加える。


 一通りの説明を受けた後、研修参加の自衛官たちは、宿舎に案内された。


 基本的に幹部、曹、士で分けられている。





 石垣は幹部自衛官であるため、部屋は2人部屋が用意されていた。


「今日から一週間、よろしく」


 同じ部屋で寝泊まりする事になった幹部自衛官が、石垣に挨拶をした。


 迷彩服3型を着込んでいるため、所属は陸上自衛隊である事がわかる。


 石垣は、青色を基調としたデジタル迷彩服を着ているため、相手も海上自衛官である事は、わかるだろう。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 石垣が一礼すると、彼は手を振った。


「おいおい、陸と海の違いはあるが、同じ自衛官で、階級も同格だ。敬語なんて必要無い。それに、これから同じ部屋で寝泊まりし、同じ飯を食うんだ。他人行儀は勘弁だ」


 彼は、そう言った後、自己紹介した。


「俺は、陸上自衛隊第14機動旅団第50普通科連隊第3普通科中隊所属の、(ほし)(かき)健太郎(けんたろう)2等陸尉」


「海上自衛隊菊水総隊司令官付特務作戦チームの、石垣達也2等海尉」


 簡単に自己紹介すると、石垣は、星柿と名乗った、自分と歳があまり変わらない幹部自衛官に質問した。


「もしかして、菊水総隊陸上自衛隊副司令官の、星柿いさめ陸将の、ご子息?」


「ああ、そうだよ。正確には、三男だけど」


 星柿は、控えめに言った。


「俺、兄貴たちとは違って、あまり優秀じゃないから、親父とは比べないでくれよ。最も、兄貴たちは親父と比べられるのが嫌で、自衛隊には行かず、大学や大学院を卒業した一番上の兄貴は、IT企業に就職し、二番目の兄貴は大学卒業後に、警察に行ったけど・・・」


 石垣は、星柿から話を聞いていると、自分と同じ境遇なのだなと、心中で思った。


「石垣は、この朱蒙軍海軍海兵隊教育研修選抜試験は、何回応募した?俺は、3回目の応募で、やっと合格したんだ。選抜試験、滅茶苦茶に難しかったよなぁ~」


「ハハハハ・・・」


 石垣は、苦笑するしか無い。


 実は、とある事情で試験が免除されましたとは、とても言えない。


 一応、まったく免除だった、という訳では無いが・・・何と言っていいか、わからない。


 その後、星柿は、石垣からの回答を聞く事無く、ひたすら選抜試験の内容について、色々と語っていた。





 研修の初日は、オリエンテーションと訓練所の医務室で健康診断が行われて、終わりである。本格的な研修は、2日目から行われる。


 日程として、初日が説明と健康診断、歓迎式であり、2日目に海兵隊員としての基本教練及び体育等である。


 3日目に軍隊格闘及び近接戦闘で、4日目に自動小銃及び拳銃の基本動作と、基本的な実弾射撃である。


 5日目と6日目から本格的な戦闘訓練が行われ、それぞれが得意とする市街地戦、森林戦、山岳戦、平地戦のどれかを選択するが、上陸戦と対ゲリラ戦だけは、必須であるため全員が受講する。


 7日目が、修了式である。





 石垣と星柿は、色々な雑談をしながら、初日が終了した。


 同じ、自衛官とは言え陸と海では、そうそう話す機会が無い。


 こんな機会に、色々な意見や情報を交わすのも、悪くないかも知れないと、石垣は考えた。


 2日目。


 午前4時丁度に訓練下士官が、起床を知らせる号令を出す。


 号令と同時に、研修参加者が一斉に起床する。


 石垣は、シングルベッドから飛び起きると、寝具一式を元の位置に戻し、個人ロッカーから研修期間の間だけ着用する、韓国陸軍が使用していた旧式迷彩服を着用する。


 これらの動作の後、男子たちは、全員髭剃りと洗面を、行わなければならない。


 髭剃りと洗面を終了させた後、4時30分までに隊舎外の広場に整列する。


 石垣も幹部自衛官であり、自衛隊の教育は基本的に身体が覚えている。


 そのため、他の自衛官と同じく、一番に到着する事はできなかったが、時間内に整列した。


 南が、時間通りに整列した事を確認すると、1時間にも及ぶ柔軟運動とランニングが開始された。


 ランニングといっても、ただのランニングでは無く、10キログラムの重りを装備した状態で、口に水を含み口呼吸ができないようにした状態で、ランニングをする。


 この方法だと、呼吸が著しく制限されるため、無酸素運動により瞬発力を高めるトレーニングになるそうだ。


 似たような方法で、マスクを着用してのランニング、というのもあるらしい。


 経験者が言うには、かなり苦しいそうだ。


 この人物が言うには、この方法でトレーニングをしたところ、持久力が以前より上がったそうだ。


 テレビの通販でおなじみの、個人の感想よろしく、個々で効果は違うらしい。


 因みに、ランニング中に水を吐き出した場合、3キログラムの重りを追加した状態で、再び水を口に含み、走らされる。


 基本的に自分のペースで走っていいが、あまりにも最前列者と距離が離れた場合は、1キログラムの重りが追加される。


 研修参加者には、この規程で行われるが・・・


 朱蒙軍海軍海兵隊の、常備兵と予備兵に行われる練度向上及び維持のために行われる四週間の訓練では、この限りでは無く、10人の班編制で、班の最前列者と距離12メートル以内でなければならず、12メートル以上遅れた場合は、15キロの重りに、3キログラム追加である(水を吐き出した場合、5キログラム追加である)。


 石垣は、このランニング中・・・2回水を吐き出し、6キログラム追加され、同室の星柿よりも20メートル離れたため、さらに1キログラムが追加された(吐き出した原因は、できる限り、上位を目指そうと走るスピードを上げたため・・・)。


 参加者のほとんどが、1回程度は水を吐き出した。


 基本的に2人一組で行われ、体力成績は均等では無く、10メートル程度の間隔が空くように想定されている。


 朝のランニングは毎日では無く、水泳訓練にも変わる。


 この時は、迷彩服を着た状態で、プールに飛び込む。


 1つ付け加えると、研修に参加している女性自衛官と、顔を合わせる事は、一度も無い。


「体力訓練終了!」


 南の号令で、ランニングが終了した。


 石垣は、重りを外しながら、ゼェゼェ、と荒い呼吸を行う。


「10分休憩!その後、食堂で朝食!」


 南が、叫ぶ。


 石垣としては、普段がデスクワークであるため、ほとんど日々の体力錬成は、体力低下を防ぐためにやっている程度だ。


 戦艦[大和]の時や、指揮母艦[信濃]の時も、体力錬成と精神鍛錬のために体力作りと武道を、大日本帝国海軍の下級士官、特務士官、准士官、下士官、水兵たちと行い、メリッサ・ケッツアーヘル少尉からは、人心獲得方法やCQB(近接戦闘)の教授を受け、(レン)(チェン)(ラン)中尉からは、近接格闘術(徒手格闘とナイフ)と拘束術等の教授を受けていた。


「石垣。水分補給!」


 星柿から、常温のスポーツ飲料が入った、紙コップを渡された。


「ありがとう」


 石垣は受け取り、水分補給を行う。


「かなり、薄められているな」


 スポーツ飲料が入った紙コップを飲み干した後、石垣がつぶやいた。


「市販で売っているスポーツ飲料は、必要以上に塩分や糖分が多いからね。こうやって水で薄めて飲むのがいいんだ」


 星柿も、紙コップに入ったスポーツ飲料を飲み干す。


 因みに彼は、あまり息切れをしていない。


(さすがに陸上自衛隊普通科部隊だな・・・身体能力が高い)


 実際、陸自隊員の中では、今のランニングを物足りないといった感じの者もいる(レンジャー資格保有者)。


 普通科は、諸外国陸軍では歩兵科であり、例え自動車化、機械化された普通科部隊でも、戦場を選ぶ事はできない。


 山岳地帯や密林地帯になれば、車輌で移動する事は不可能である。


 市街地でも、場合によっては車輌による移動は、困難な事もある。


 一般隊員でも、この早朝に行われた体力訓練は、少しきついと感じるぐらいだろう。

 断章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

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