間章 第6章 ニア諸島空中戦 意外な共闘
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
菊水総隊航空自衛隊第10航空団第205飛行隊8機と、第9飛行隊4機が、三沢基地から離陸した。
随行機として、空中給油輸送機であるKC-767と、早期警戒管制機のE-767が、それぞれ1機離陸した。
空中給油輸送機と早期警戒管制機の護衛機として、F-35Jが派遣される。
第10航空団から派遣された戦闘機部隊は、F-15J改を制空戦闘機として、アッツ島及びニア諸島上空の制空権確保と、F-2改は、対地攻撃装備及び対艦攻撃装備で、地上目標への攻撃及び海上での艦船攻撃を、担当する。
同じく、新世界連合軍連合空軍から、アメリカ空軍のF-16CJ/DJ[ファイティング・ファルコン]が6機離陸し、空中給油機と共にアリューシャン列島ラット諸島アムチトカ島で建設されている、北太平洋空軍戦略航空基地に対する精密誘導爆弾で攻撃する任務が与えられている。
「ニューワールド連合軍連合空軍航空総軍第2航空軍第21空軍第21戦闘航空団第231飛行隊所属の、ノース・スピア編隊だ。菊水総隊航空自衛隊第9飛行隊の後衛につく」
彼らの元々の所属は、アメリカ合衆国駐日アメリカ空軍第5空軍第35戦闘航空団で、その出身者たちで編成された、F-16戦闘機部隊だ。
第5空軍第35戦闘航空団は、元の時代でも三沢基地に駐留し、敵防空網制圧を主任務としていた戦闘機部隊であった。
同航空団を北の槍と呼ぶ事もあり、対テロ戦争時には、三沢基地から直接出撃し、空中給油を受けながら、中東エリアの国際テロリスト集団への爆撃任務を行った。
三沢基地からの、アラスカ州アリューシャン列島での作戦行動であり、航空自衛隊のパイロットや、新世界連合軍連合空軍に属するアメリカ空軍のパイロットたちにとっては、困難な任務では無かった。
現代のアメリカ空軍戦闘機部隊等も、アラスカから直接、三沢飛行場に飛ぶ事もあれば、空自も演習目的で、三沢からアラスカまで飛ぶ事がある。
「我々がアリューシャン列島に接近した時には、アラスカ南部のダッチ・ハーバー軍港及び軍事施設は、聯合艦隊第4航空艦隊がある程度破壊し、上陸部隊によるアッツ島攻略作戦が開始されている・・・だが、アラスカに駐留するアメリカ空軍を含む、戦略爆撃機等の航空戦力は、健在だ。同島への航空攻撃の可能性もある。我々は、それを阻止するのが目的だ」
第205飛行隊長の大島の声が、フライトヘルメットに装着されている通信機から聞こえた。
「イーグル1、ラジャ」
イーグルのコールサインを持つイーグル編隊長(2機編隊)の、高居直哉1等空尉が答える。
「ファルコン1、ラジャ」
同じく、ファルコンのコールサインを持つ、ファルコン編隊長(2機編隊)の喜村慶彦1等空尉が答える。
それぞれのウィングマン兼サポートとして、中川リン2等空尉と、伊倉名波3等空尉がいる。
2人は、新米ではあるが、上官2人の熱心な指導により、空中戦を行える程度に練度は高い。
彼女たちにとっては、初の実戦である。
最も、ここまでの本格的な空中戦は、高居も喜村も、ハワイ攻略作戦以来である。
その間は、威力偵察等を目的に、領空及び領海侵犯するアメリカ軍機や、アメリカ海軍艦艇等に対し、領空侵犯措置行動令下及び海上警備行動令下による緊急出動である。
アメリカ軍機による領空侵犯でも、空中戦は発生せず、ほとんど警告射撃で、事は終わっている。
実際に、撃墜までの処置を行ったのは、2件だけである。
アリューシャン列島上空に接近した所で、空自部隊と連合空軍部隊は、それぞれの攻撃目標に針路を変更した。
「スカイ・ラーク1から、第205飛行隊へ」
E-767から、交信があった。
「こちら、スカイ・サムライ1。どうした?」
第205飛行隊長である、大島のコールサインが聞こえる。
「ニア諸島に接近する、高速飛行物体を探知。敵味方識別信号に、応答は無い」
早期警戒管制機のE-767からの通信を聞いた高居は、現れた方角から、連合軍に属するアメリカ空軍では無い事を確認した。
敵味方識別信号に、応答が無いという事は・・・味方では無い。
「スカイ・サムライ1、ラジャ。これより、イーグル編隊及びファルコン編隊と連携し、国籍不明機に対処する」
大島がそう言うと、F-15J改を旋回させる。
8機編隊を、小単位の2機編隊に分け、展開飛行する。
「こちら菊水総隊航空自衛隊。接近中の国籍不明機部隊に告ぐ。貴隊は、菊水総隊自衛隊の行動圏内及び新世界連合軍の作戦圏内に、接近しつつある。所属と飛行目的を明かせ」
E-767から、警告が発せられる。
「こちら菊水総隊航空自衛隊・・・」
間隔を空けて、同じ警告を行うが、相手からの返信は無い・・・
「こちらサヴァイヴァーニィ同盟軍同盟航空宇宙軍。我々は、アメリカ領アリューシャン列島ニア諸島アッツ島攻略のために、出撃している。貴隊の行いは、我々が行う軍事行動妨害に、該当する。ただちに、作戦行動圏外に離脱せよ」
ようやく、返信が行われたと思ったら、今度はサヴァイヴァーニィ同盟軍から警告を受けた。
「菊水総隊航空自衛隊より、サヴァイヴァーニィ同盟軍に告ぐ。我々は、アッツ島攻略を目的とした、武力行動を実施中である。武力行動圏内に侵入した場合、貴隊の安全は、保障できない。ただちに、針路を変更せよ」
E-767から、再度の警告が行われる。
「警告する。サヴァイヴァーニィ同盟軍の、アッツ島攻略作戦を妨害する場合、貴隊を敵性として識別する」
当然ながら、向こうも引く様子は無い。
高居が操縦するF-15J改のレーダーが、高速接近中の飛行物体を捕捉した。
コックピットに設置されているレーダー画面に視線を向けた高居は、接近中の機が、マッハ2以上の高速で接近している事から、制空戦闘機である事を認識した。
「イーグル1より、スカイ・サムライ1へ、高速接近中の戦闘機を確認!まもなく、視認する」
「イーグル1、ラジャ。念のために言っておくが、明確な敵対行為を認識できない限り、交戦は許可しない。単なる威嚇行動の可能性もある」
大島からの指示を受けて、高居は、ウィングマンである伊倉に交信した。
「イーグル2。事態は極めて微妙だ。適格な判断が求められるため、後方で待機。火器使用は、俺の判断を仰いでから、使用しろ」
「ですが、イーグル1。1機だけでは、難し過ぎます。相手は2機で、こちらに向かっているんです。攻撃されたら、撃墜されます」
伊倉の心配した声が、通信機から伝わる。
「その心配は無い。攻撃の意思があるのなら、すでに攻撃している。相手は、旧ロシア連邦軍か、旧中華人民共和国解放軍のどちらかだ。どちらの長射程空対空ミサイルも、こちらよりも射程が長い。攻撃するのなら、先制攻撃を行っているはずだ」
高居は、そう言った後、伊倉をその場に置き、速度を増速させた。
「ちょっと、待ったぁぁぁ!!俺まで置いて行く気か!?ずるいぞ!!」
高居の通信機から、喜村の声がした。
「いくらお前が、イーグルドライバーとしての腕が一流でも、多勢に無勢では荷が重いぞ」
喜村が、そう言いながら、高居機の横に着く。
「隊長からの許可は、取っている。新人たちは、後ろの特等席で見学させる」
「そうだといいが・・・」
高居としては、サヴァイヴァーニィ同盟軍の要撃部隊が、簡単に引くとは思えなかった。
戦闘状態になれば、当然、彼女たちも実戦を迎える事になる。
ピー!
コックピット内に、警告音が響く。
接近中の戦闘機が、間近に迫っている事を知らせる警告音だ。
高居は、接近中の戦闘機を目視した。
彼の視界に入ったのは、ロシア連邦航空宇宙軍の主力戦闘機、Su-27[フランカー]であった。
「[フランカー]!!」
機数は2機であるが、他にもいるだろう。
「スカイ・ラーク1、我々の近辺に他の機影は、確認できるか?」
高居が、通信で確認する。
「こちらのレーダーでは、何も探知していない」
E-767からの返信に、高居は周囲を確認する。
「ステルス機が、潜んでいる可能性が高いな・・・」
喜村も、同じ危惧を持っていた。
ロシア連邦航空宇宙軍では、F-22[ラプター]が登場した時に、対抗して開発された、Su-57が登場している。
同機は、第5世代ジェット戦闘機に分類されるステルス多用途戦闘機であり、性能は、F-22に匹敵する。
こちらに接近しているSu-27は、あくまでも囮で、こちらが何らかの敵対行動をとれば、すぐにSu-57が、空対空ミサイルを撃ち込んでくるかもしれない。
だが、突然、Su-27が急旋回した。
まるで、事態が急変したかのように・・・
「どうした?」
高居が、つぶやく。
「スカイ・ラーク1から、第205飛行隊へ!アッツ島に接近する、新たなる航空編隊を探知した!」
E-767から、緊急通信が入る。
「アラスカ方面から出撃したと思われる。戦略爆撃機及び護衛戦闘機を探知した!無人偵察機からの情報では、B-29が50機、護衛戦闘機として、P-51の存在が確認された。アラスカ州軍の通信を傍受した。アッツ島通信途絶により、島が陥落したと判断し、島全域への空爆が命じられている」
「なるほど・・・そういう事か」
高居は、Su-27の行動に、合点がいった。
サヴァイヴァーニィ同盟軍の空挺部隊も、アッツ島攻略作戦を開始している。
つまり、アッツ島が戦略爆撃を受ければ、自分たちの同志たちも、壊滅するという事である。
「サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟航空宇宙軍より、菊水総隊航空自衛隊へ」
サヴァイヴァーニィ同盟軍から、ロシア語の通信が聞こえた。
交信周波数は、全回線を通じて行われているようだ。
「こちら菊水総隊航空自衛隊、サヴァイヴァーニィ同盟軍、どうぞ」
「接近中の戦略爆撃機及び護衛戦闘機に対し、共同での対処を要請する。戦略爆撃機及び護衛戦闘機の数を把握すれば理解できるように、双方の戦力が、個別対処できる数では無い。そちらも、アッツ島に上陸作戦を行っているニューワールド連合軍連合海兵隊、菊水総隊陸上自衛隊、大日本帝国陸海軍がいる。共通的に敵対行動を行っている、アメリカ空軍戦略空軍に対して、一時的に共闘する事に、問題は無い」
サヴァイヴァーニィ同盟軍からの申し出は、確かに理に適っている。
アッツ島に上陸しているのは、自分たちだけでは無く、サヴァイヴァーニィ同盟軍も、同じだ。
万全な防空態勢を構築するのであれば、この方法を取るのは必然だ。
「菊水総隊航空自衛隊より、サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟航空宇宙軍へ、了解した」
選択の余地は無く、時間も無い。
最善と思われる策を決断するには、これしか無い。
「スカイ・ラーク1から、第205飛行隊へ、サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟航空宇宙軍航空総軍第1航空軍第12航空軍団第12迎撃戦闘機連隊所属のSu-27戦闘飛行編隊と共同で、要撃任務に当たる。それぞれのコールサインは、Su-27編隊がスヴァローグ、A-50早期警戒管制機が、スヴェントヴィトだ。こちらの通信機を中継して、第205飛行隊と、交信する」
E-767からの通信を受けた後、Su-27から通信が入った。
「スヴァローグ2-1より、スカイ・サムライ編隊。聞こえるか?」
聞こえたのは、ロシア語では無く英語だった。
「こちらスカイ・サムライ1。感度良好だ」
「先ほど、我々の正面まで接近したF-15JMのパイロット2人は、何方かな?少し挨拶をしたいのだが」
スヴァローグ2-1のコールサインを持つ、Su-27から交信された。
彼の言ったF-15JMとは、近代化改修機のF-15Jの事である。
「こちら、イーグル1。直接話ができて光栄だ」
高居が、返信する。
「こちら、ファルコン1。どんなパイロットが、俺たちの前に現れたか、興味があった」
喜村も、応答する。
「君たち2人と肩を並べて、戦う事ができて光栄だ」
スヴァローグ2-1が言い終えると、主翼下に搭載されている長射程空対空ミサイルを、いきなり発射した。
「さすがに、早いな・・・」
高居が、つぶやく。
「これが・・・ロシア空軍の戦術・・・」
伊倉の声が、聞こえた。
「そうだ。東西勢力軍のどちらもそうだが、特にロシア空軍は、視界外戦闘に重点を置いている。早期警戒管制機の高性能レーダー及び無人偵察機等の索敵を行い。敵機のレーダー探知圏外から、大量の長射程ミサイルを発射する」
「確か・・・アメリカ空軍でも、制空戦闘機のF-15Cを、2040年代まで延長使用できる改修プラン計画で、重武装化と共に、ステルス戦闘機や無人偵察機のステルス性を失わないまま、データ共有を行いながら、敵機のミサイル発射探知圏外及びレーダー探知圏外下で、長射程ミサイルを大量に発射し、敵防空網の壊滅と、防空網制圧を行う新航空戦術が、構想されていたな」
喜村が高居の台詞に、思い出したかのように、つぶやく。
「そうだ。あれは元々、対ロシア空軍の新航空戦術に対抗して、考案された物だ」
Su-27から、連続で長射程空対空ミサイルの発射を確認していると、飛行隊長の大島から通信が入った。
「敵戦略爆撃機部隊は、混乱している。この隙に、我々が奇襲攻撃をかける!」
大島の命令で、F-15J改隊は速度を増速し、AAM-4B(99式空対空誘導弾改)の射程距離で、戦略爆撃機及び護衛戦闘機を捕捉する。
この戦法は、航空自衛隊でも研究されており、日本本土及び離島に侵攻し、制空権を確保し、防空態勢を構築した敵航空勢力に対し、ステルス性が高い無人航空機や広域索敵レーダーを装備する早期警戒管制機、イージス艦等からのデータリング下で、アメリカ空軍が導入しているF-15 2040Cと同じ仕様に改修した、一部のF-15Jが搭載する大量の視界外射程誘導弾を発射し、敵防空警戒網が混乱した所で、F-35JやF-22UJ、F-15J改、F-2改が突入し、防空網を制圧するというものだ。
今回はその役を、サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟航空宇宙軍が、担当している。
「イーグル1。EOX3!」
高居が、99式空対空誘導弾改の発射ボタンを押した。
「イーグル2。FOX3!」
伊倉の叫び声が、聞こえる。
一斉に、F-15J改から99式空対空誘導弾が、発射される。
大島の言った通り、B-29で編成された戦略爆撃機部隊と、P-51で編成された護衛戦闘機部隊は、予想もしない数の視界外射程ミサイルによる攻撃を受けて、混乱していた。
彼らの経験では、ここまでのミサイル攻撃は、洋上叉は陸上から来ると考えられており、いきなり、20機以上のB-29が被弾するとは、思わなかったのだろう。
そして、時間差を空けての、ミサイル攻撃である。
彼らが驚いたのは・・・2つのスペース・アグレッサー軍が、共闘している事であろう・・・
ミリタリー映画等で、敵対する勢力同士が、別の敵対勢力に、共同で立ち向かうというストーリーがあるように、実際の戦闘でも、こういった事例は、いくつか報告されている。
あっと言う間に、8割近い損害を出したアメリカ軍戦略爆撃部隊は、戦闘の続行を断念し、退却のコースを取る。
それと相前後して、E-767から停戦命令が伝えられた。
おそらく、サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟航空宇宙軍にも、その命令は伝わっているだろう。
間章 第6章をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますがご了承ください。




