間章 第4章 本音と建て前
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
大日本帝国海軍聯合艦隊第3艦隊水陸強襲部隊と共に、アッツ島に上陸した陸軍北方軍山崎支隊は、予想を上回る根強い抵抗をした、アメリカ軍アッツ島守備隊に対し、増援部隊として投入された。
山崎支隊長は、山崎保代大佐である。
史実では、1943年に発生したアッツ島の戦いで、陸軍守備隊約2700人の指揮官を務めて、アメリカ軍上陸部隊1万1000人の猛攻に、最後まで奮戦した、陸軍軍人である。
「支隊長!偵察隊より、報告!アメリカ陸軍守備隊兵力は、M4中戦車5輛を含む1個歩兵中隊強が、防御陣地を構築し、徹底交戦の構えです!」
伝令兵からの報告を、司令部天幕の中央に設置された机に広げられた、アッツ島の地図を見下ろしながら、山崎は聞いていた。
彼の指揮下は、1個歩兵聯隊を基幹として、工兵中隊、砲兵中隊等を混成した、1個聯隊以上1個旅団以下の編成である。
「支隊長。敵は降伏するつもりは、無いようです。こちらの規模は、向こうも把握しているでしょう。総攻撃を受ければ、全滅する事は、敵も、わかりきっている筈です。それでも、徹底交戦の構えを崩そうとしません」
幕僚からの具申に、山崎はうなずいた。
「我々には、機甲科運用の戦車が無い。機甲科戦車なしで、M4戦車と戦えるか?」
山崎は、作戦担当の幕僚に、質問した。
ニューブリテン島、北海道、南東諸島で、連合軍戦車部隊と対戦車戦闘を繰り広げたのは、陸軍機甲科運用の、戦車部隊である。
陸軍の編成は、未来からの介入で、大きく変わっている。
機甲科部隊を基幹とした機甲師団と、歩兵科部隊を基幹とした歩兵師団である。
新式の戦車、一式支援戦車、一式汎用戦車、61式戦車改は、機甲師団が運用している。
機甲師団は、2ないし3個戦車旅団を基幹として、60式装甲車改等の装甲車を主力とした、機械化歩兵旅団を1個から2個を組み込んだ状態で、各大隊が傘下にある。
歩兵師団は、2個自動車化歩兵旅団を中核とした、師団編成である。
因みに、歩兵師団歩兵聯隊のみの傘下に、歩兵支援の戦車部隊が、存在する。
山崎支隊の歩兵聯隊には、九七式中戦車(五七粍戦車砲搭載型)と、九七式中戦車改(四七粍戦車砲搭載型)、九五式軽戦車で編成された、1個戦車大隊(歩兵聯隊運用編成では、2個中隊編成)がある。
「これまでの戦闘で鹵獲した、M4戦車を標的に使った、新型徹甲弾の威力は、実証されています。機甲科の戦車が無くとも、十分に戦えます」
九七式中戦車改が搭載する対戦車砲塔は、一式四七粍戦車砲でも射撃可能な、新型徹甲弾で、500メートル以内であれば、M4[シャーマン]の正面装甲を貫徹する事ができた。
「数の面では、こちらが勝っている・・・」
幕僚からの報告を聞きながら、山崎は決断した。
「よし、最後の降伏勧告を行い。従わない場合は、総攻撃をかける」
「「「はっ!」」」
幕僚たちが、挙手の敬礼をした。
史実のアッツ島の戦闘では、山崎指揮下の守備隊は、アメリカ軍からの大規模攻勢により、300人程度まで減らされた状況下でも、アメリカ軍からの降伏勧告を受諾する事も無く、最後の突撃を行った。
この突撃で、アメリカ軍防御陣地を次々に突破し、勢いに任せて戦闘司令部、後方司令部等も攻略、最後には師団司令部まで迫ろうとしたが、行動限界と、これまでの戦闘による疲労等があり、態勢を建て直したアメリカ軍部隊からの反撃で、全滅した。
(もう1つの歴史の中で、命を落とした私は・・・アメリカ軍からの差し出された手を、最後まで拒んだ。しかし、個人的には、彼らに対する恩もある・・・)
山崎が、籠城するアメリカ軍に降伏勧告を出すのは、別の歴史(すでに歴史は変わったため、未来人から与えられた記録は無意味化したから)の自分たちに、人道的配慮で手を差し伸べたアメリカ人たちへの、彼なりの、恩返しだ。
降伏勧告を受諾すれば、武装解除し、彼らを故郷に返す。
拒めば総攻撃をかけ、一気に叩く。
山崎支隊前哨陣地。
前哨部隊として、歩兵聯隊1個大隊から投入された、1個中隊が配置されている。
九九式手動装填式短小銃や、九九式軽機関銃等を武装した歩兵中隊が、前方のアメリカ軍アッツ島守備隊残存部隊が籠城する地区を、監視している。
「おい!小僧ども、監視任務を真面目にするのもいいが、飯を食え」
分隊長の伍長が、塩お握りを2人の兵卒に渡した。
2人は、歩兵科教育を終了したばかりの、17歳の2等兵である。
陸軍基本教練は、1ヶ月半程度しか行われず、その後に兵科教育が開始される。
「あ、ありがとうございます」
1人の兵卒が、分隊長から塩お握りを受け取ると、かぶりついた。
「いただきます」
もう1人も、受け取る。
「そんなに肩の力を、入れるな」
分隊長が、2人の兵卒に告げる。
「敵の鉄砲が、すごいのはわかるが、こっちも負けてない」
九九式手動装填式短小銃を見せる。
「陸海軍でも、半自動装填式や、自動装填式の小銃が導入されているが、全部隊に導入されず、こいつが最も導入されているんだ。こいつが強いから、上が選んだのさ。敵が半自動小銃でも、負けはしない」
分隊長が、火力で負けない事を主張した。
実際、本土にいた時も、半自動小銃を武装する歩兵師団の兵士たちの、一式半自動小銃や一式半自動短小銃の実弾射撃を見て、手動装填式小銃で大丈夫なのか、と思う新兵は多い。
しかし、熟練兵等から見れば、半自動小銃や自動小銃は、好評では無かった。
弾薬の消費が激しいだけでは無く、分解結合にも手間暇がかかる。
部品数の多さも、手動装填式小銃と比べれば自動装填式小銃が多く、さらに故障する頻度も高い。
特に、北海道方面の防衛を担当する北部方面軍は、対ソ連戦を想定し、常備歩兵師団には半自動小銃と半自動短小銃が、全部隊に導入されているが、不評が相次いでいる。
因みに自動小銃に関しては、陸軍自動小銃使用規定と呼ばれる教本が作成され、その中には、連発射撃は個人の判断では行えず、中隊長命令が無ければできないと、定められた。
これは、64式7.62ミリ小銃改を運用する、陸軍機甲師団機械化歩兵旅団及び歩兵師団自動車化歩兵旅団等の部隊等で、64式7.62ミリ小銃改の弾薬消費は、想定以上に高い事が発覚したためである。
ペリリュー島での激戦で、陸軍南方軍第24歩兵師団第22歩兵聯隊は、更新されたばかりの64式7.62ミリ小銃改と62式7.62ミリ機関銃改を駆使して、米仏連合軍上陸部隊と戦った。
64式7.62ミリ小銃改、62式7.62ミリ機関銃に更新されたばかりで、日が浅かった事もあり、弾薬の消費は激しく。さらに歩兵対歩兵戦であったため、さらに消費率が上昇した。
幸いにも、菊水総隊陸軍第12空中強襲旅団の回転翼機部隊と、新世界連合軍が弾薬を提供してくれたため、弾切れで肉弾戦をする事態は避けられたが・・・大日本帝国陸海軍の兵站態勢では、自動小銃の弾薬補給が、満足にできない事が発覚した。
山崎支隊と対峙するアメリカ陸軍アッツ島守備隊残存部隊は、彼らを見下ろせる高地に対砲爆撃陣地を構築し、徹底交戦の構えを見せていた。
アメリカ合衆国陸軍アッツ島守備隊第2歩兵大隊本部に所属する、ホレス・ルイス大尉は、壊滅した第2歩兵大隊、戦車中隊、砲兵中隊、工兵中隊等を混成し、戦える将兵たちで部隊を再編成し、各陣地に展開した。
混成部隊指揮所に出向いたルイスは、旧第2歩兵大隊長であった、ポード中佐に状況を報告した。
「大隊長。日本軍は陣地を構築し、我々と睨めっこを続けています。今のところ、大規模攻勢の気配は、ありません」
ルイスの報告にポードは、大隊本部付の通信班から上がった通信文を、彼に見せた。
「大尉。これを、どう見る」
ルイスは、上官から渡された、通信文に目を通した。
通信文は、自分たちと対峙している山崎支隊からであった。
降伏勧告であり、これに応じなければ総攻撃をかける、という内容だった。
「歩兵携行火器や兵器、戦法が格段に向上しているが、日本人は、昔ながらの突撃戦法を行使するつもりのようだ」
「それが、日本人です。我々以上に信仰意識が高く、やり遂げると決めた時には、いかなる犠牲も代償を恐れない。新型の武器、兵器、新戦法だけでは、我々を破るのは、簡単にはいかなかったでしょう・・・しかし、その精神力が、何倍・・・何10倍の力になっているのです」
ルイスは、自分が知る日本人の事を、自分なりの解釈で説明した。
「大尉。貴官は戦争前に、大日本帝国の学校に、留学していたそうだな」
「4年間程度ですが・・・大日本帝国で、日本人と交流していました」
「彼らの考えが、わかるか?」
ポードの質問に、ルイスは首を振った。
「正直に申し上げまして・・・まったく、わかりません。彼らは、本音と建て前を、完全に分別する民族です。世界に存在する民族の中で、最も信頼でき、そして、最も信頼ができないのが、日本人です」
ルイスの解説にポードは、彼の言葉の意味を、理解できなかった。
本音と建て前を完全に分別する人間が、この世に存在するのか?彼は、疑問に思った。
もしも、存在するのであれば・・・それは、とても恐ろしい事だ。
混成部隊であり、戦える兵士のみを陣地に配置しているが、戦闘の主力である歩兵部隊は、海兵隊に相当する水陸両用部隊からの大規模攻勢で壊滅し、第2歩兵大隊は全体の3割にも及ぶ将兵たちが命を落とし、3割以上の負傷兵を出した。
幸いにも、武器、弾薬、糧食、医薬品等の備蓄は十分にあるが、兵士の数が不足している。
陸軍と一言に説明しても、兵科によって、その役割は違う。
常に銃火器を使う兵科もあれば、銃等・・・ほとんど見ない兵科も、存在する。
基本教練では、一通りの射撃訓練を受けるが、その後に行われる兵科訓練で、大きく変わる。
各陣地には小隊単位で、できる限りの機関銃を増やし、日本軍からのバンザイ突撃に備えて火力を高めているが・・・数と勢いで突撃されれば、どんなに重機関銃による火力を集中しても、防ぐ事はできないだろう。
ポード自身も、アメリカ軍と自由フランス軍が、ペリリュー島で、最後の一兵が死ぬまで強固に抵抗し、玉砕した報告は受けている。
正直、そのやり方は、賛成できない。
彼にも、自分の帰りを待っている家族がいるように、部下にも家族がいる。
そんな部下たちに、死ぬまで戦えと等、言える訳が無い。
降伏勧告の通信文を前に、ポードは自分にこれを送って来た、大日本帝国陸軍の指揮官の、本音と建て前の思惑を、考える。
山崎は、アメリカ軍守備隊残存部隊が、籠城する高地を確認できる陣地に移動し、双眼鏡を覗いた。
降伏勧告受諾時間まで、後少しである。
返信無き場合は、自動的に降伏勧告を受諾しないとなる。
「支隊長!敵指揮官より、降伏勧告に関する返信です!」
「読め」
山崎が、短く告げた。
返信内容は、だいたい見当が付く。
「貴軍からの人道的配慮には感謝するが、我々は降伏しない。以上です」
通信兵からの報告に、山崎は双眼鏡を覗いたまま、小さく、はっきりと告げた。
「攻撃開始!」
山崎の命令を聞いた支隊の幕僚が、通信機の受話器を持った。
「攻撃開始!攻撃開始!」
「攻撃開始!」
無線で支隊司令部から攻撃命令を受けると、突撃する歩兵部隊の後方に展開する砲兵部隊が、野砲の砲撃命令を出した。
「撃て!」
砲兵中尉の号令で、八九式一五糎加農砲が、火を噴く。
史実の第2次世界大戦緒戦から、終戦まで各戦地に投入された重砲である。
長射程と大火力を発揮したが、戦局が悪化にするに連れて、攻城戦向きの同砲は、守勢に転じると、機動性が低く、即応運用が難しかった。
沖縄地上戦では、八九式一五糎加農砲の即応展開を完全に放棄し、砲兵部隊用に洞窟陣地を構築し、砲を隠匿し、長射程を利用した火力支援、制圧砲撃を行った。
九六式一五糎榴弾砲も展開しており、同じく砲撃を開始する。
発射された榴弾は、高地に籠城するアメリカ軍陣地に着弾し、猛烈な炸裂音や黒煙が上がる。
歩兵聯隊には、歩兵砲中隊等と言った火力支援部隊がある。
歩兵砲及び迫撃砲が火を噴き、その砲撃を合図に歩兵聯隊1個歩兵大隊と聯隊麾下の戦車大隊から歩兵支援戦車中隊と対戦車戦車中隊から、それぞれ1個ずつの中戦車小隊と軽戦車小隊が前進する。
九五式軽戦車の九八式三七粍戦車砲が火を噴き、機関銃陣地や小銃部隊の陣地に砲撃する。
戦車部隊の後方から、九九式手動装填式小銃を構えた小銃兵が発砲しながら前進する。
しかし、高地であるため、アメリカ軍側が戦術的優位であり、下方から昇ってくる自分たちに、上から機関銃弾や小銃弾を浴びせる。
手榴弾も投擲され、炸裂し、兵士たちが吹っ飛ぶ。
絶大な火力支援があっても、高地攻略は、攻める側が不利である。
山崎支隊歩兵聯隊の突撃大隊が、アメリカ軍守備隊混成部隊が展開する、最初の防衛陣地に迫った時・・・
「噴進弾!!?」
1人の将校が叫び、地面に伏せる。
無数の噴進弾が高地に降り注ぎ、炸裂する。
その噴進弾による攻撃は、アメリカ軍アッツ島守備隊残存部隊だけでは無く、山崎支隊にも及んだ。
無数の噴進弾攻撃で、山崎支隊は混乱した。
「支隊長!聯合艦隊第3艦隊から緊急連絡です!征服同盟軍が、アッツ島に上陸しました!全軍に、後退命令が出ています!」
通信兵からの報告に山崎は、驚いた。
しかし、驚く暇は無かった。
再び、無数の噴進弾攻撃を、受けたからだ・・・
「高地攻略は中止!全部隊に、退却命令を出せ!」
山崎が退却命令を出した後・・・上空から、轟音が響いた。
それは、菊水総隊空軍や新世界連合軍連合空軍が運用する、噴進戦闘機と同じ音だった。
「対空戦闘!」
山崎が叫び、山崎支隊傘下の高射砲兵中隊に、高射砲による対空戦闘を命じた。
彼らの噴進戦闘機に対しては、たいした効果は得られないが・・・何もしないよりかは、いい。
間章 第4章をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますがご了承ください。
次回の投稿は7月24日を予定しています。




