間章 第3章 三つ巴の攻防戦 後編
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
新世界連合軍連合海兵隊総軍に所属する、アメリカ海兵隊武装偵察部隊で編成されている、第1中隊所属のサミー・カード1等准尉と名乗った准士官は、部下7人と共に、比嘉小隊と合流した。
彼らは、アッツ島に上陸作戦前に隠密上陸し、守備隊の配置、高射砲、野砲といった、兵器の特定を行った。
その後は、戦闘攻撃機及び水上艦からの爆撃、ミサイル攻撃の誘導、爆撃成果確認に従事した。
「我々の広域通信機器は、故障して使えない。状況は、どのくらい把握している?」
比嘉は、カードに聞いた。
「サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟空挺軍空挺部隊を中核に、空挺作戦を実施した。海上からは、潜水艦から特殊部隊が島に上陸している。空は空で、サヴァイヴァーニィ同盟軍の空軍部隊と、新世界連合軍の戦闘機部隊と自衛隊の戦闘機部隊が、にらみ合っているそうだ」
カードは、比嘉に状況を説明した。
比嘉の階級は、アメリカ軍では、少尉に相当し、カードは陸上自衛隊では、該当する階級は存在しないが、曹と尉官の間である准尉官に相当する。
自衛隊では、准尉は1つしかないが、アメリカ軍では1等から5等までの准尉が存在し、1等准尉は、国防長官の名の下で昇進するが、2等からは大統領の名の下で昇進する。
階級では、比嘉が上位だが・・・ここは、戦場だ。
狙撃兵による士官叉は上位者等が、殺傷されないようにするための安全処置として、戦闘地帯では、階級呼称及び敬語の使用は、避けるよう指示されている。
狙撃兵(主に深部狙撃兵叉は前哨狙撃兵が該当するが)は、戦闘を効率良く進めるために存在する。
戦闘において、効率良く進める方法は、1つしか無い。
敵の指揮官を、殺傷する事である。
将校が倒れれば、部隊は指揮系統が乱れ、戦闘継続が困難になる。
狙撃兵は、一般的な考えでは、悪いイメージを持たれるが、狙撃兵1人が、敵兵1名を射殺する事で、少なくても敵味方を問わず、20人の人命が救われる。
これは、警察の狙撃手も、同じである。
警察の狙撃手が、人質をとる犯人の生死を問わず狙撃した場合、人質は全員無事に解放される可能性が高い。
ただし、アメリカ軍の准尉が相手では、敬うのは比嘉の方である。
アメリカ軍の准尉は、特殊な階級であり、特別任務を受け持つ特務部隊の指揮官に任じられ、一般的に准尉の階級を持つ者は、例え上官である下級士官でも、敬礼では無く、答礼が多い(区分により、異なる)。
「我々の救出プランは?」
比嘉は、頭の中で状況を整理しながら聞いた。
カードは、携帯地図を取り出した。
「現在、アッツ島攻略部隊に、戦略的後退命令が出されている。後退命令を正確に確認できなかった部隊のために、ポイントCで、ヘリによる救出計画が進められている。次の便が、今から4時間後に到着する」
「つまり、最終便を逃したら・・・徒歩で脱出するしか無いな」
「そういう事だ・・・」
比嘉は、カードと打ち合わせをした後、小隊陸曹と各班長を呼んで、脱出地点であるポイントCに移動する事にした。
カードが指揮するチームも、弾薬を大量に消費しているため、比嘉は小隊の弾薬を提供した。
アメリカ海兵隊は、M4系列の短小銃や、半自動狙撃銃であるM25を使用するため、89式5.56ミリ小銃と同じく、5.56ミリライフル弾や、7.62ミリライフル弾を、共有できる。
「ポイントCまで、約1時間。サヴァイヴァーニィ同盟軍空挺部隊と戦闘状態になれば、それ以上の時間がかかるな」
比嘉は、地図を見ながら、カードと小隊陸曹と打ち合わせをしながら、行動計画を練る。
脅威となるのは、何もサヴァイヴァーニィ同盟軍だけでは無い。
彼らの軍事介入で、作戦そのものが消滅し、指揮系統、命令系統を失った、アメリカ軍アッツ島守備隊が散らばっている。
組織的な攻撃ならともかく、非組織的攻撃は、脅威でしか無い。
比嘉小隊と、カード分隊は、脱出地点Cに向かった。
戦闘斥候部隊であるカード分隊から、2名が選抜され、前哨兵として展開した。
「アッツ島に空挺降下及び上陸した、サヴァイヴァーニィ同盟軍の規模は?」
比嘉が問うと、カードが答えた。
「旧ロシア連邦軍空挺軍と旧中国人民解放軍空軍空降軍を中核とした、空挺軍部隊、推定2個旅団クラスと、特殊作戦部隊及び海軍陸戦部隊1個大隊以上の兵力が上陸した。上陸した、サヴァイヴァーニィ同盟軍の部隊とは、大日本帝国陸軍が、激戦を繰り広げている」
「当然ながら、空挺戦車や空挺戦闘車も、投入しているだろう?」
「準備のいい事に、上陸した海軍陸戦部隊は、水陸両用戦車や歩兵戦闘車で編成された、1個中隊クラスが確認されている」
「敵が、旧ロシア連邦軍と旧中国人民解放軍なら、あり得るな」
カードの説明に、比嘉は、サヴァイヴァーニィ同盟軍が、万全な準備態勢で上陸作戦を行った事に、納得した表情でうなずいた。
ロシア連邦軍や中国人民解放軍は、準備不足の段階で他国に攻めこんで、逆に手痛い反撃を受けた教訓から、常に万全な攻勢の準備と事前偵察、作戦前の後方攪乱、指揮、通信系統遮断を目的とした破壊工作を、徹底的に行う。
旧ソ連軍は、アフガニスタン侵攻の時に、ソ連地上軍の基本戦術である総力戦、電撃戦ができず、アフガンゲリラの攻撃で、撤退を余儀なくされた。
中国人民解放軍も、統一されたベトナムが親ソ連体制を構築し、インドシナ全域に勢力を拡大しようとしている事で、ベトナムに侵攻した。
人民解放軍軍部は、物量戦と人海戦術で、ベトナム軍を無力化できると考えていたが、ベトナム戦争で実戦経験を積んだ北ベトナム軍と、アメリカ製兵器を使い熟せる南ベトナム軍による遊撃戦と奇襲攻撃により、多大な損害を出し、結局撤退した。
比嘉自身も、防衛大学校時代に防衛学の授業や陸上自衛隊の部隊見学で、尖閣諸島や先島諸島等に、中国を仮想敵国として侵攻してきた場合を想定しての、離島奪還、防衛を計画する陸上自衛隊の高級幹部から、説明を受けた。
「もしも、尖閣諸島及び先島諸島に、人民解放軍が、本気で攻めてきた場合、小説や漫画のような展開はあり得ない。まず、侵攻前に、沖縄本島、日本本土で工作員が自衛隊の施設及びアメリカ軍施設等で、破壊工作を行うだろう。最初の攻撃目標は、軍事、防衛、民事通信施設、テレビ電波施設が破壊される。あくまでも、小説や漫画で離島奪還がうまく成功するのは、単に本土が攻撃されていないからだ。身元不明の工作員によるテロ攻撃は、戦争行為に該当しない。相手方が否定すれば、それまでだ。本土で、そのような攻撃を受ければ、離島奪還部隊と本土にある自衛隊施設、在日アメリカ軍施設、民間の重要施設等を警備及び防備する警護部隊を編成し、それぞれに予備部隊を置かなければならない。ここまで言えば、わかるように部隊を、2分割しなければならない」
比嘉の脳裏に、陸上総隊が創設される前に存在していた、中央即応集団に所属する高級幹部が、言っていた言葉が浮かぶ。
その時・・・近くから自動小銃の連発音や、迫撃砲等の砲撃音が聞こえた。
「近いぞ!」
比嘉たちは、背を低くしながら、移動速度を速めた。
比嘉小隊とカード分隊が、自動小銃による銃撃戦地点に接近すると・・・
「新世界連合軍連合海兵隊第41海兵遠征隊の歩兵部隊と、サヴァイヴァーニィ同盟軍の空挺部隊です」
小隊陸曹が64式7.62ミリ小銃に装着している、64式用狙撃眼鏡を覗きながら、報告した。
「確認した」
比嘉も、双眼鏡で確認する。
連合海兵隊第41海兵遠征隊歩兵部隊の武器中隊所属のハンヴィーを中核に、小火器を携行した歩兵たちが、サヴァイヴァーニィ同盟軍空挺部隊と、交戦している。
「連中の武器は、03式自動小銃だな」
「と、言う事は・・・旧人民解放軍空軍の空挺部隊」
「どうやって、援護する?」
カードが、聞いた。
「連中は、俺たちの存在に気付いていない。側面から攻撃する」
比嘉の判断で、カードは素早く隊員に合図を送り、偵察兵たちを、突入準備に着かせた。
「俺たちが、援護する」
比嘉たちは、89式5.56ミリ小銃やMINIMIに2脚を立てて展開する。
「残りの無反動砲弾は?」
「3発です」
3個班に装備されている84ミリ無反動砲3門は、飛行場攻略時の一斉射撃で、何発か発射され、各1門に1発ずつ残っているだけだ。
「ハチヨンを一斉射撃し、64式7.62ミリ小銃で、精密射撃を行う。その後の小銃と軽機関銃の一斉射撃と、同時に突入してくれ」
比嘉小隊の、側面攻撃で敵が混乱した隙を付き、カード分隊が突撃する。
「射撃用意よし!」
無反動砲手が、叫ぶ。
「撃て!」
比嘉の命令で、84ミリ無反動砲が、一斉に吼えた。
装填された榴弾が、発射された。
榴弾の炸裂と同時に、64式7.62ミリ小銃を構えた小隊陸曹が、引き金を引く。
単発射撃による射撃であるが、狙撃眼鏡と高性能な自動小銃である64式7.62ミリ小銃は、確実にサヴァイヴァーニィ同盟軍の中国兵に、命中する。
「一斉射撃!」
比嘉の命令で、89式5.56ミリ小銃と、MINIMIが一斉に火を噴いた。
距離にして、400メートルであるため、89式5.56ミリ小銃の有効射程である。
比嘉小隊の一斉射撃を確認したと同時に、カードは、部下たちに突入を命令する。
M4A1カービンライフルと、MINIMI軽機関銃を携行した分隊に所属する兵士たちが、突入する。
彼らは、アメリカ海兵隊武装偵察部隊であり、戦闘斥候部隊に該当する。
隠密能力だけでは無く、空挺降下能力を有し、戦闘能力も高く、通常部隊である偵察隊とは別に区分された、深部偵察部隊である。
味方部隊からの、陸海空軍からの軍事支援も援護も無い状況が、常に想定されるため、彼らの任務は非常に困難である。
時には、少数部隊による大部隊と戦闘し、NBC兵器の有無や、油田施設の確保等といった任務を遂行する。
カードたちは、M4A1を発砲しながら、側面攻撃で敵部隊を無力化する。
サヴァイヴァーニィ同盟軍の空挺部隊は、側面から奇襲攻撃を受けると、すぐに後方に退却した。
「追撃するな!」
カードは、手を挙げ分隊を止めた。
比嘉も、89式5.56ミリ小銃の弾倉を交換しながら、彼らの撤退を確認した。
「各員!残弾を確認して、再分配しろ!」
比嘉は、防弾チョッキ3型に縫われている小銃弾倉入れを確認して、残りの弾をチェックする。
「周辺警戒しつつ前進!彼らと合流する」
比嘉は、警戒態勢を維持しながら、前進を指示した。
幸いにも救出地点手前であり、恐らく配置に着いていた連合海兵隊のアメリカ海兵隊員たちは、救出地点防御部隊であろう。
弾薬の補給や、正確な情報を、把握する事もできる。
この戦闘で無反動砲も、06式小銃擲弾も、撃ち尽した状態だ。
救出地点防御陣地に展開する、第41海兵遠征隊と合流した、比嘉小隊とカード分隊は、第41海兵遠征隊歩兵部隊の2等軍曹から、援護に対する礼と、状況説明を受けた。
「救出地点には、重軽負傷者を合せて、100名程度のアメリカ海兵隊員と、自衛官がいる。健全者から混成部隊を組織し、各防御陣地に分散配置を行い。守りを固めている状態だ」
第41海兵遠征隊に所属する、2等軍曹からの説明を受けた比嘉は、救出部隊の到着を確認した。
「まず、負傷者搬送のため、V-22による空からの救出と、車輌による地上からの救出」
「空からの支援は?」
比嘉の問いに、軍曹は答えた。
「強襲揚陸艦から、2機のハリアーが、上空援護及び近接航空支援のために投入されるが、空の方も、サヴァイヴァーニィ同盟軍空軍の戦闘機部隊と、自衛隊とニューワールド連合軍連合空軍の戦闘機部隊が、空中戦を行っている」
ある程度の状況説明を受けた後、比嘉は弾薬の補給と、負傷者たちを、救出グループの第1陣に加える事にした。
比嘉は小隊の再編成を行い、ここの指揮官と、防御陣地に配置させる隊員を選抜していると、再びサヴァイヴァーニィ同盟軍から攻撃を受けた。
「迫撃砲!」
誰かの叫びで、比嘉たちが身を潜める。
砲弾が、地面に伏せた比嘉の近くで炸裂した。
「攻撃だ!総員防御態勢!」
指揮官の叫び声で、比嘉は89式5.56ミリ小銃を持って、構える。
「救出部隊の、到着は?」
「後、20分!」
無線兵からの報告に、比嘉は、89式5.56ミリ小銃の先端に89式多用途銃剣を装着した。
「着剣!」
比嘉の指示で、彼の部下や他の陸自隊員たちが、89式5.56ミリ小銃に、89式多用途銃剣を装着する。
64式7.62ミリ小銃を装備する小隊付上級射手も、64式銃剣を装着する。
「接近戦に、備えろ!」
先ほど、比嘉と会話した、連合海兵隊に加盟するアメリカ海兵隊の軍曹が叫ぶ。
「銃剣を着けろ!」
先任指揮官が、叫ぶ。
第41海兵遠征隊は、M16A4に、OKC-3Sを装着する。
現代のアメリカ軍で導入されている銃剣は、小銃の先端に取り付けて白兵戦を行うよりも、野外活動で活用できる多様性が重要になった。
現代戦では、近距離状態で発生する白兵戦は極めて珍しく、対テロ戦争と区分される2000年代の非正規戦では、建築物内等の狭い空間での近接戦闘が度々発生しているが、今までのような白兵戦では無く、狭い空間で、非戦闘員と戦闘員(正規戦闘員叉は非正規戦闘員を合わせる)を区別し、正確に交戦者のみを射殺する事が目的である。
そのため、一部のアメリカ陸軍では、新兵募集に応募し、新兵基本訓練課程を実施する教育隊でも、銃剣術教育が廃止され、代わりに交戦者制圧術(特定の軍事訓練等を受けた交戦者専用の逮捕術)に切り替えているのが現状だそうだ。
ただし、アメリカ海兵隊では、兵科を問わず、銃剣術教育は行われている。
「目標を確認」
比嘉小隊の小隊陸曹の声が、比嘉のインカムから聞こえる。
「撃て!」
比嘉は、救出地点警護のために、射撃命令を出した。
射撃命令の後、64式7.62ミリ小銃の、単発射撃音が響いた。
同時に、サヴァイヴァーニィ同盟軍からの攻勢を受けた。
「撃て!撃ちまくれ!」
先任指揮官の命令で、M16A4、M4叉はM4A1、89式5.56ミリ小銃等の小口径弾薬を使用する自動小銃が、一斉に火を噴いた。
軽機関銃であるMINIMIや、M16A4を狙撃銃仕様に改良されたSAM-R、64式7.62ミリ小銃(狙撃仕様では無い)による、制圧射撃と精密射撃が行われた。
サヴァイヴァーニィ同盟軍からも、小口径弾薬の自動小銃や、軽機関銃等による攻撃を、受ける。
「ハリアー接近中!まもなく、爆撃が開始されます!」
無線兵からの叫び声と共に、上空からジェットエンジンの轟音が響いた。
サヴァイヴァーニィ同盟軍空挺部隊が展開する場所に、爆弾が投下され、猛烈な炎が発生し、彼らを飲み込んだ。
「ナパーム弾を、使ったのか?」
誰かが、つぶやく。
「違う。Mark77だ」
比嘉が、答えた。
ナパーム弾は、2000年代以降、アメリカ軍は配備しておらず、代わりに配備されたのがMark77である。
ナパーム弾は、ガソリンを主体とする爆弾であるのに対し、Mark77は、灯油を主体とする焼夷弾だ。
300リットルの燃料と増粘剤を加えているため、例えナパーム弾では無くとも、それに匹敵するぐらいの光景だった。
猛烈な液体炎と表現すべき炎が、サヴァイヴァーニィ同盟軍空挺部隊の兵士たちを飲み込んだ。
それは、地獄の業火と表現するしかできない。
「敵部隊の退却を確認!V-22が着陸します」
無線兵が再度報告し、1機のV-22が着陸する。
「重傷者を乗せろ!」
先任指揮官の指示で、動ける者が、担架で運ばなければならない重傷兵を乗せる。
比嘉も、重傷兵搬送を手伝う。
「すみません。隊長」
負傷した陸士が比嘉に、弱々しい口調で告げた。
「医療設備が整った、船に搬送される。きっと、良くなるぞ」
比嘉は、負傷した陸士の肩を軽く叩く。
彼が機内に重傷兵を搬送し、再び搬送の手伝いをしようとした時・・・何かが、胸を貫いた。
パン!
遅れて、1発の銃声が響いた。
「狙撃だ!」
誰かが叫び、全員が身を屈める。
「・・・・・・」
一瞬であるが、比嘉は息ができなかった。
自分の胸元に視線を落とすと、防弾チョッキ3型を貫通し、血が流れ出ていた。
「負傷者だ!」
誰かの叫びを聞きながら、比嘉は、ゆっくりと地面に倒れた。
「メディック!!メディックを!!!」
声が聞こえているが、やがて意識が薄れていく。
冷たい地面の感触を感じたのを最後に、比嘉の視界は黒く染まった。
間章 第3章をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますがご了承ください。




