間章 第2章 三つ巴の攻防戦 前編
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
アメリカ空軍アッツ島航空基地では、パシフィック・スペース・アグレッサー軍からのロケット弾等による艦艇、航空攻撃で陸軍守備隊の高射砲陣地、野砲陣地が壊滅し、前哨部隊が地上部隊からの攻撃を受けた、という報告を受けた段階で、突如、無線交信が不能になった。
基地司令官と航空基地に駐屯する陸軍守備隊部隊の先任指揮官が、地下作戦司令室を飛び出すと、上空に飛来した無数の輸送機から、パラシュート降下する空挺兵の姿を確認した。
「あれは・・・」
ジェットエンジンを搭載した、大型輸送機・・・
「アトランティック・スペース・アグレッサー軍か!?」
機影を確認した、空軍将校が叫ぶ。
「パシフィック・スペース・アグレッサー軍と、アトランティック・スペース・アグレッサー軍が、手を組んでいるのか!?」
別の将校が、叫ぶ。
どちらの軍も、同一勢力では無い事は、連合軍も理解している。
アメリカは文民勢力、軍事勢力を、ソ連や中国に派遣している。
彼らの報告を照らし合わせて、情報機関が分析した結果は、自分たちの耳にも届いている。
「攻勢に備えろ!奴らが攻めて来るぞ!」
航空基地に駐屯する、陸軍守備隊の指揮官が叫んだ。
30口径機関銃や、50口径機関銃の配置換えや、武器庫に保管していた予備まで持ってきて、新たなる勢力からの攻勢に備える。
高射砲や野砲を損失した中で、空挺戦車や空挺戦闘車等を保有した空挺部隊の攻勢に、守勢できない事は、アッツ島航空基地の陸軍兵、空軍兵たちは末端の兵卒まで理解している。
しかし、誰も敵前逃亡や、降伏を諭すような発言は、無かった。
アッツ島に派遣されたアメリカ軍は、アラスカ州兵や、アラスカ州防衛隊から徴募した兵士たちであるため、ここで自分たちが敗北すれば、故郷にいる家族や友人たちが戦火に巻き込まれる事を、身に染みて理解している。
もしも、スペース・アグレッサー軍が使用するロケット弾が、自分たちの町に降り注げば・・・
そのような恐怖が、アッツ島守備隊のアメリカ軍に蔓延し、兵士個人の中でも、無降伏主義と、死ぬまで戦え、という考えが強まっていた。
フォークランド諸島沖海戦で、アトランティック・スペース・アグレッサー軍ゴースト・フリートから発射された、新型爆弾を搭載したロケット弾によって、米英独伊連合軍上陸部隊30万人が船舶、資材と共に消滅した事は、アメリカ国民にも知れ渡っている。
ノーフォーク海軍基地空襲での海軍省と政府の隠蔽工作の失敗と、隠蔽による信頼度低下という結果から、無理な隠蔽工作は行わず、有りの儘を、全国民に流した。
多民族国家アメリカであるため、主戦主張と反戦主張等に火が着いた事は、言うまでも無い。
「撃て!撃ちまくれ!!」
アトランティック・スペース・アグレッサー軍空挺部隊が接近してくると、機関銃、半自動小銃、短小銃、手動装填式小銃、短機関銃、携帯式対戦車発射器等の歩兵携行火器が、一斉に火を噴いた。
アトランティック・スペース・アグレッサー軍空挺部隊は、空挺戦車を前衛に出し、応戦する。
「引くな!!絶対に引くな!!」
中戦車クラスの戦車砲を上回る戦車砲の砲撃を受けながらも、窪みからM1A1を乱射しながら、指揮官が叫ぶ。
M1919重機関銃による弾幕も切らさず、ひたすら撃ち続ける。
「装填!!」
M1919重機関銃の機関銃手が叫び、補助兵が予備のベルトを再装填する。
アッツ島航空基地で攻防戦が行われている頃、菊水総隊陸上自衛隊水陸機動団第2連隊と連合海兵隊第41海兵遠征隊等は、サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟航空宇宙軍と、同盟空挺軍からの通信妨害と、空挺降下で一時的に混乱していた。
通信妨害から通信系統を回復させた第2水陸機動連隊本部は、同連隊に所属する第1中隊に緊急命令を出した。
「中隊長より各小隊へ!サヴァイヴァーニィ同盟軍によるアッツ島攻略作戦が、開始された。一時後退せよ!繰り返す、一時後退せよ!」
第2機動連隊本部からの命令を聞いた中隊長は、各小隊長に命令を伝達した。
「中隊長より、各小隊長へ、きこ・・・か」
比嘉は無線員が携帯する大型無線機で、中隊長の声を聞いたが、途中で途切れた。
「第2小隊長より、中隊指揮所。交信不調で聞こえない!」
「・・・たい・・・せよ・・・こう・・・」
無線機の不調により、中隊長からの指示が、まったくわからない。
「小隊長!前方の敵が、突撃を開始しました!」
こちらが、一時的に攻撃を緩めてしまったため、自分たちと会敵しているアメリカ軍部隊が、攻勢に転じた。
「各自、自衛戦闘をしながら、後退しろ!!」
比嘉としては、それ以上の命令は出せなかった。
中隊指揮所からの命令が不明である以上は、行動計画時に決められた後退地点に、後退するしか無い。
後退命令が出たのは確実だが、問題なのは、どこまで後退するかである。
後退地点は、予め決められており、敵の攻勢や被害等で後退する場所が設定されている。
比嘉としては、小隊長権限で認められている後退地点・・・つまり、前線から近く、すぐに部隊を再編成等が行える地点に、移動する指示しか出せない。
「MINIMIを撃ちまくれ!攻勢を鈍らせろ!!」
比嘉は、MINIMIを装備した機関銃手に射撃を命じ、突撃を鈍らせる事にした。
MINIMIが火を噴き、猛烈な火力で銃剣を装着し、突撃するアメリカ兵を一時的に止まらせる。
守勢から攻勢に転じた、敵部隊から味方を守るのは、容易では無い。
勢いに任せて突入するだけでは無く、完全に隙を突かれた状態が多い。
これでは、叫び声を上げながら突撃してくる1個中隊でも、脅威を感じる。
いかに、こちらの武器が優れていても、相手は人間であり、死の恐怖を乗り越え、前へ、前へ前進する敵を見れば・・・
隙を突かれた状態では、恐怖心や集団的圧力に押されてしまう。
比嘉は、MINIMIの火力を利用し、制圧するのでは無く、動きを止める方法をとった。
勢いに任せて突入しているのであれば、驚かせばいい。
驚けば、動きが止まり、正気に戻る。
「小銃擲弾!」
比嘉は叫びながら、06式小銃擲弾を89式5.56ミリ小銃の銃口に、装着する。
「発射!」
06式小銃擲弾を装着した隊員たちは、比嘉の指示で順次発射する。
これも敵を制圧するためでは無く、06式小銃擲弾を彼らの目の前で炸裂させて、驚かせるために、使うためだ。
目の前で擲弾が炸裂し、前列にいたアメリカ兵が、動きを止める。
そこに、突撃を続ける後列のアメリカ兵が、衝突する。
世に言う[ドミノ倒し]状態である。
「よし、今のうちに後退しろ!」
比嘉が、再度後退命令を出した。
地面に倒れたアメリカ兵が、立ち上がろうとした時・・・
「っ!?」
苦痛を、感じた。
足や腹部等を、撃たれていたのである。
極度の興奮状態になれば、5.56ミリライフル弾等の小口径小銃弾による銃創では、苦痛を感じない場合がある。
しかし、驚く事により、正気に戻れば痛覚が復活する。
戦場では、死者はそのまま放置される場合があるが、負傷者は話が別である。
負傷者は、後方に搬送しなければならない。
そのため、進軍スピードが低下する。
比嘉小隊は、アメリカ軍アッツ島守備隊からの追撃を振り切り、後退ポイントに移動した。
「中隊指揮所に、無線連絡」
比嘉は、無線員に指示した。
「駄目です。先ほどの戦闘で、無線機が故障しました」
60ミリ迫撃砲M2による砲撃で、榴弾の破片が無線機に被弾した。
幸いにも無線員は、無線機が盾になったおかげで、大事にはならなかった。
比嘉小隊は、33人中8名が負傷し、個人差はあるが、30パーセントから50パーセントの弾薬を消費していた。
比嘉は、小隊陸曹の1曹と、班長である3人(2等陸曹叉は3等陸曹)の陸曹たちを、呼んだ。
携帯地図を広げて、現在位置の確認と状況確認を行った。
「恐らく、中隊は2次展開地域まで後退したのでしょうね。不運にも我々は、サヴァイヴァーニィ同盟軍による電子攻撃を、まともに受けたのでしょう」
小隊陸曹は、これまでの状況を確認しながら、つぶやく。
「どうします。恐らくアッツ島のアメリカ軍航空基地は、サヴァイヴァーニィ同盟軍に、制圧されたでしょうが・・・守備隊が四方に散らばった可能性があります。最悪、組織的行動能力を損失した、アッツ島守備隊との非正規戦と・・・」
「掃討戦を行っている、サヴァイヴァーニィ同盟軍空挺部隊と、武力衝突する可能性がある」
比嘉が、若い3曹の言葉を続けた。
「霧が、濃くなり始めました」
周辺警戒を行っている陸士が、無線で報告した。
「まず、負傷者たちの手当てを、その後、2次展開地域まで後退する。それで、いいな」
「「「はい!!」」」
陸曹たちが、うなずいた。
比嘉小隊は、後退時の戦闘で、少なからず負傷者を出した。
隊には、衛生科隊員は配置されておらず、専門的な応急処置や初期治療はできない。
あくまでも、止血や骨折部分の固定等といった、基礎的な応急処置である。
ただし、戦場では傷の治療はできないため、隊員個人に衛生科隊員による指導の下で、ギブス固定や縫合といった、医療行為ができるよう講習と実習が、行われている。
衛生科隊員で編成されている部隊は、自衛隊病院、後方支援連隊(隊編成)衛生隊と独立機能を有する衛生隊を除けば、連隊、群、大隊叉は任務部隊の、本部管理中隊衛生班のみである。
戦闘部隊と随伴する衛生科隊員が行える治療は、日本国法令で定める初期救急医療までである。
それ以上の2次救急医療からは、即時部隊復帰は困難であり、後方に下げられる。
「小隊長!動きがあります!」
警戒配置に着いている、隊員が叫ぶ。
比嘉たちが駆け付け、89式5.56ミリ小銃を構える。
小隊陸曹である1曹も、警戒班の元に駆け付け、64式7.62ミリ小銃を構える。
陸上自衛隊では、1989年に制式化された89式5.56ミリ小銃が、陸上自衛隊常備自衛官個人装備として更新されたが、太平洋戦争及び大日本帝国内で発生した反乱や、武装蜂起等で、極度の興奮状態となった正規戦闘員、非正規戦闘員や同じく薬物摂取者に対して、5.56ミリ小銃弾等の小口径弾は、効果が薄かった。
この時代では、現代では違法薬物に区分されている薬物の危険性が認識されておらず、合法的に使用が認められていた薬物があった。
例を上げれば、覚醒剤に当たるアンフェタミンや、メタンフェタミン(こちらは、現代日本で違法売買されている覚醒剤よりも、数倍から数10倍強力で危険性が高い)が、枢軸国及び連合国で、積極的に兵士個人の支給品として支給されていた。
因みに、当時では市販薬としても、販売されていた。
史実では、枢軸国の軍では、電撃戦、奇襲戦、総力戦等で、積極的に兵士や民兵に処方されたとされている。
連合軍でも、本土爆撃を行う戦略爆撃機の搭乗員の、無差別爆撃等による罪悪感を緩和させる目的や、戦場神経症に対する治療目的、制空権確保や地上部隊等への航空支援攻撃のために出撃する戦闘機部隊の搭乗員、戦闘攻撃機部隊の搭乗員への疲労回復を目的として、処方していた。
未確認ではあるが、ベトナム戦争時、アメリカ軍及び同盟国軍の派遣兵たちに、アンフェタミンを混ぜ込んだチョコレートを、支給していたらしいとも言われている。
陸上自衛隊普通科部隊では、小隊内で射撃能力が高い小銃員に、64式7.62ミリ小銃と64式用狙撃眼鏡、頬当てが供与され、火力の不足を補うと同時に、小隊戦闘での小銃手と狙撃手の中間的位置からの射撃を行う。
因みに、定員数が多い普通科中隊では、各小隊に所属する選抜射手たちで編成した中隊本部に戦術火器班が新設され、新世界連合軍から対外有償軍事援助で調達した、7.62ミリライフル弾を使用するMK48(MINIMIの7.62ミリ弾仕様である)と、バトルライフルの愛称があるM14[スプリングフィールド]の軍用派生型であるM21を装備している。
どちらも7.62ミリライフル弾を使用するため、歩兵対歩兵戦では、十分な火力支援と精密射撃による支援射撃が、可能である。
比嘉小隊に所属する小隊陸曹の1曹は、30代後半であり、同小隊に所属する20代後半や30代前半の陸曹よりも体力、徒手格闘術、射撃能力は高く、第2水陸機動連隊の小銃員の中でも5本の指に入る、射撃能力を有する。
自衛隊で行われる射撃検定では、准特級射手である。
第2水陸機動連隊第1中隊では、戦術火器班新設の際に副班長として、一番に選ばれたが、本人の意思で断った。
比嘉と小隊陸曹以下、周辺警戒班として配置されている小銃員たちが、89式5.56ミリ小銃と、64式7.62ミリ小銃の引き金に指をかけた時・・・
「待て!味方だ!」
小隊陸曹が、叫んだ。
比嘉たちは、小銃の引き金にかけた指を離した。
「新世界連合軍連合海兵隊のアメリカ海兵隊だ」
小隊陸曹が、霧の中で動く人影の僅かに見えた軍装で判断した。
戦術火器班に選抜される隊員や、第1線の戦闘部隊に属する小銃小隊の隊員等のうち、64式7.62ミリ小銃が供与される選抜射手は、射撃能力だけでは無く、このような能力も求められる。
いかなる状況下でも、敵味方の識別能力がある者が選ばれる。
小隊陸曹の言葉を聞いた後、比嘉は目を凝らして確認した。
「連合海兵隊の偵察部隊だ」
比嘉も確認すると、彼らに味方部隊である事を教えて、こちらに来るよう伝えた。
「どこの部隊だ?」
比嘉が、連合海兵隊の偵察部隊に尋ねる。
「ニューワールド連合軍連合海兵隊総軍武装偵察隊第1中隊所属のサミー・カード1等准尉」
友軍部隊との遭遇に、小隊全体に広がっていた緊張感が、僅かに緩む。
間章 第3章をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますがご了承ください。
次回の投稿は7月17日を予定しています。




