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真紅の旗 其れは革命の色 第20章 イージス艦対イージス艦 後編 女の一念

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

[雅安]のCICでは、1機の無人偵察機がロストした事を、確認した。


「撃墜されました!」


 CICを束ねる先任指揮官が、叫ぶ。


「[あかぎ]の、おおよその位置ぐらいは、特定できただろうな・・・」


 副長が、問う。


「申し訳ありません。逆探できませんでした・・・」


「馬鹿な・・・ミサイルを発射する前と発射後には、レーダーが稼働していたはずだ!」


「待て、副長。恐らく、こちらが逆探できないレベルの低出力で稼働し、逆探される前に、レーダーを切ったのだろう・・・」


 武は、ロストした無人偵察機の位置を記された海図を眺めながら、つぶやいた。


「だが・・・ある程度[あかぎ]が、どこにいるか、わかった」


「それは・・・」


 副長が尋ねると、艦長は海図に指差した。


「低出力稼働で、無人偵察機を捕捉、撃墜できたという事は、この辺りにいる。近くの無人偵察機を急行させろ!」


 武はすぐに、別の無人機を向かわせるように、指示を出した。


「艦橋」


 彼女は、艦内通信で艦橋と交信した。


「速力15ノット。今から指示する針路に、ゆっくり変針しろ」


「艦長。どう思われますか?」


「何か?副長」


 副長からの疑問に、彼女は海図に視線を固定したまま告げた。


「[あかぎ]艦長以下、その乗組員は、極めて優秀なはずです。とてもしびれを切らして、このような真似をしたとは、思えません」


 副長の推測に、艦長は顔を向けた。


「貴官が[あかぎ]艦長だったら、どのような策を使う?」


「はい、自分が[あかぎ]艦長でしたら、やはり、自分たちがしびれを切らし、暴挙に出た、と思わせます。そして、こちらが無人機を差し向けた所で、先ほどのように、低出力でレーダーを稼働させ、撃墜を続けます。そうなれば、こちらも、やがて我慢の限界が訪れ・・・最後には・・・」


「レーダーを稼働させる・・・そして、そのレーダー波を逆探し、対艦ミサイル攻撃・・・」


 副長の推測を、艦長が続けた。


「その通りです」


「あっ!艦長!副長!また、無人偵察機を撃墜されました!」


 CIC要員からの報告を受ける。


「逆探は?」


「ダメです。レーダー波が微弱過ぎて・・・位置を特定できません」





[あかぎ]のCICでは、担当海曹が無人偵察機の撃墜を報告する。


「2機目の撃墜を確認!」


「レーダー停止」


 切山が、指示する。


「艦長。これで敵は、こちらの思惑通りに動くでしょうか・・・?」


「そろそろ向こうも、こちらの思惑に気が付いている。優秀なら尚更な・・・既に勝利条件は揃っている・・・そろそろ、第2段階開始時刻だ」


 切山からの質問に、神薙は腕時計を確認しながら告げた。


「対空、対水上戦準備!こちらの勝機のタイミングは一瞬だ。敵2艦の位置を特定でき次第、SSM-1Bを連続発射する」


 砲雷長がCIC要員たちに、事前に伝えられた作戦内容を簡単に説明する。


「艦橋!速力25ノット!」


「電波管制解除準備!火器管制レーダー起動準備!」


 神薙が、ヘッドセットのマイクに告げる。


「副長だ。俺の合図で、電波管制を解除する!」


 切山が、腕時計を見ながら、艦内マイクに叫ぶ。


 艦内放送は、全艦に伝わっている。


 電波管制を解除すれば、場合によっては、即ミサイル攻撃を受ける場合がある。


 乗組員全員に、攻撃に備えろ、という意味である。


「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1。電波管制解除!レーダー起動!」


 切山の合図で、[あかぎ]の全レーダーが起動した。


「艦長!感あり!微弱ですが、本艦右舷後方1万メートルに、[昆明]級ミサイル駆逐艦1隻、本艦左舷後方1万5000に、同じく[昆明]級ミサイル駆逐艦1隻を探知!両艦とも速力15ノット!」


 レーダー員が、叫ぶ。





「艦長![あかぎ]のレーダー波を探知!本艦右舷前方1万5000!」


「何?」


 レーダー員からの報告に、武は、面食らった。


「何故、このタイミングで・・・」


 副長も、[あかぎ]の行動に意表を突かれて、つぶやきを漏らす。


(常夏のハワイでのバカンスで、気でも狂ったか?いや、そんなはずは無い・・・)


 武は、[あかぎ]の行動を理解できずに苦しんだ。


「僚艦が、電波管制を解除し、火器管制レーダーを起動しました!」


 CIC要員の士官からの報告に、武は、「まさか!」と叫んだ。


「対空戦闘!チャフ及びCIWS発射準備!」


「右舷より、対艦ミサイル接近中!!」


 武の指示が早かったのか、CIC要員の士官が、報告するのが早かったのかは、誰にも分からなかった。


[こんごう]型イージス護衛艦、[タイコンデロカ]級ミサイル巡洋艦、[アーレイ・バーク]級ミサイル駆逐艦3隻で編成されたイージス艦隊への攻撃方法を、そのまま流用された。


 それもオリジナルの攻撃方法に、少し改良を加えられて・・・





「目標、[昆明]級駆逐艦2隻!CIC指示の下、SSM-1B発射始め!」


「CIC指示の下、SSM-1B発射始め!」


「撃てぇぇぇ!!」


 ピイィィィィ!!


[あけぼの]から、轟音と共に4発のSSM-1Bが、連続発射される。


「サイレントキラー・・・元潜水艦乗りの勘を、舐めるなよ。史実でも、潜水艦キラーと呼ばれた駆逐艦の艦長は、大体が潜水艦乗り出身者が多いんだ。その逆の駆逐艦キラーと呼ばれた潜水艦の艦長も、駆逐艦乗り出身者が多いようにな」


[あけぼの]のCICで仁王立ちのまま、モニターに映る光点を見詰めて、艦長の小村(おもれ)群三(ぐんぞう)1等海佐はつぶやいた。


「すみません。艦長の言っている意味が、よくわからないのですが・・・?」


「・・・まあ、潜水艦のように双方が、自艦の存在を隠して、相手のレーダー波やスクリュー音を逆探して、位置を特定するような戦いは、元潜水艦の艦長だった自分が、もっとも適任だと言いたいんだと思えば間違ってないと思う・・・それより、戦闘中だ。余計な事に気を取られるな」


 艦長のつぶやきを聞いて、質問してきた若い海曹に、先任の海曹はそう答えた。





「我々を見くびるな。敵が使った戦法を使うのは、中国兵法の中にもあるだろう。我々は、戦果のあった戦法を、同じ敵に何度も使った。その結果、敵は、万全の対策で待ち受け、痛い目にあった。だから、同じ轍を踏まないと思ったか・・・」


 神薙は、僚艦である汎用護衛艦[あけぼの]から発射された4発のSSM-1Bを対空レーダーで確認しながら、つぶやいた。


 最初から、神薙はイージス艦[あかぎ]を使って、中国版イージス艦である[昆明]級ミサイル駆逐艦と戦うつもりは無かった。


 むしろ、彼らがやった囮戦法を、そのまま流用し、少しばかりのアレンジを加えた状態で戦う事にしていたのだ。


 もっとも、脅威となる戦闘艦が目の前にいて、それを撃沈する、という思考に囚われた状態では、いかに優秀な指揮官といえども、目の前の落とし穴に気付けない。


[あかぎ]だけに気を取られて、影のように身を潜めた[あけぼの]の存在を見落としていたように。


「100歩先の落とし穴が見える者は、10歩先の落とし穴を見逃す・・・ですな」


 切山が、解説した。


[あけぼの]から発射されたSSM-1Bは、2発ずつに別れ、それぞれの目標に向かった。


 もっとも、[あけぼの]から近い位置にいた[昆明]級ミサイル駆逐艦は、電波管制解除だけでは無く、火器管制レーダーまでも起動し、完全に[あかぎ]への攻撃準備に専念していたため、即応できず、2発のSSM-1Bの直撃を受けた。


「艦橋より、CICへ、右舷後方より、巨大な火柱を視認!SSM-1Bの爆発を確認!」


 艦橋から報告が入る。


「ソナーより、同方向より、艦体破壊音を探知!」


[あかぎ]のソナー員が、報告する。





「対艦ミサイル2機!高速で接近中!!」


「対空戦闘!CIWS迎撃始め!」


[昆明]級ミサイル駆逐艦には、国産の730型CIWSが、搭載されている。


 30ミリ多砲身ガトリング砲と、西側のCIWSと同じくレーダー及び火器管制レーダー、光学照準器等が別に配置され、例え自艦のレーダーや火器管制システムが使用不能でも、自艦防衛ができる。


 一説では、ロシア連邦海軍のCIWSであるAK-630や、オランダ海軍が導入するCIWSのゴールキーパーよりも、迎撃能力は高いとされている。


 730型CIWSが火を噴き、接近するSSM-1Bを迎撃した。





「[あけぼの]が発射したSSM-1Bの2発が迎撃されました。1隻は無傷です」


[あかぎ]のCIC要員の海曹が、報告する。


「こちらの行動に不審が出て、CIWSで迎撃を行ったか・・・どうやら、この[昆明]級ミサイル駆逐艦が、[みょうこう]にダメージを与え、残り2隻のイージス艦を、撃沈と大破にした艦のようだな・・・」


 神薙が、レーダースクリーンを眺めながら、つぶやく。


「いかがいたしますか?次は、向こうも備えがあります。本艦のSSM-1Bを発射しても、効果は期待できません」


 砲雷長が告げる。





[雅安]から発艦した対潜哨戒ヘリコプターであるZ-9Dは、海面スレスレの超低空を飛行しながら、[あかぎ]に接近していた。


 Z-9Dは、旧中国人民解放軍海軍が導入していたZ-9Cの改良型である。


 同機は、高性能化する仮想敵国海軍の防空艦の対空レーダーに探知されにくくするため、ステルス性能を追加した、ステルスヘリコプターである(ただし、完全なるステルス性能がある訳では無く、従来のヘリよりも探知されにくいである)。


「機長。僚艦が、やられました!」


 航空士の報告に機長は、操縦に意識を集中したまま、口を開いた。


「それで被害は?」


「正確にはわかりません!交信が、混乱しているようですから・・・」


「機長。[あかぎ]は、本機の存在に気づいていません!搭載するロケット弾なら、ある程度のダメージは与えられます!」


 副操縦士が、叫ぶ。


「お前の意見には聞くところがあるが、この状況下で、ロケット弾攻撃を行っても何の意味も無い。すでに、我々は2隻のイージス艦を撃沈されている。ここで、無茶をしても犬死になるだけだ」


「いえ、これは、単に我々の意志を示すのです。このまま、何もせず艦に帰投するコースをとれば、艦隊司令部は撤退命令を出すでしょう。今のところ、双方ともに2隻を失った状態です。停戦命令が発令され、次の戦う機会があったとしても、今度は、向こうも備えがあります。同じ小細工どころか、小細工そのものが通用しない可能性があります。ならば、攻撃できる時に攻撃をしておくべきです」


 副操縦士の判断は、確かに理に適っている。


 もともと、今回発生した戦闘行為は、単に双方が攻略する島が同じであり、偶発的に発生した局地的武力紛争である。


 双方の異なる勢力が、同じ地域に軍事的支援叉は軍事行動を行う際に、度々見られる光景だ。


 例えば、ベトナム戦争及びソ連軍のアフガン侵攻の場合でも、非公式ではあるが、アメリカ軍とソ連軍との間で、戦闘行為が行われた。


 その後の戦争や紛争でも、アメリカやソ連(ロシア連邦)等が介入した際に戦闘行為が行われた話は後を絶たない。


 基本的には、限定的武力行使叉は、アメリカ合衆国大統領等の国家の最高権力者に与えられている全軍隊の出動命令権下で認められている武力攻撃の範囲内で収められる。


 そのため、戦争行為には該当せず、単に異なる2つ以上の勢力が、軍事支援叉は軍事行動圏内で発生した武力衝突として片付けられる。


「航空士。[雅安]及び、南海攻略艦隊司令部からの命令変更は無いか?」


「ありません。判断は、我々に任されています」


 航空士の言葉に機長は、うなずいた。


「よし、[あかぎ]にロケット弾攻撃を実施する!」





「艦長!対空レーダーに感あり!低空から本艦に接近する航空機!」


 対空レーダー員が、報告する。


[あかぎ]の防空レーダーには、低空目標を探知する専用の対空レーダーが備え付けられており、自艦防衛の近距離対空レーダーがある。


「見張員!目標を確認しろ!」


 神薙は、艦橋見張員に叫ぶ。


「接近中の航空機を確認!Z-9です!」


 見張員からの報告に、神薙は砲術要員に命令を下す。


「対空戦闘!主砲及びCIWSで目標に照準合わせ!」


「5インチ速射砲!自動対空射撃管制モードで射撃開始!弾種、対空砲弾!」


 5インチ速射砲の発射管制を行う砲術要員が操作し、艦首に搭載されている5インチ速射砲が素早く旋回し、完全コンピューター制御下で、砲口が吼える。


 発射された対空砲弾は、Z-9めがけて飛翔した。


 だが、Z-9もロケット弾を発射した。


 多連装ロケット弾を発射し終えたと同時に、対空砲弾が至近で炸裂し、破片がZ-9の正面に直撃した。


 破片の直撃により、Z-9は炎上し、海面に墜落した。


 だが、発射されたロケット弾は、そのまま[あかぎ]に向かう。


「ロケット弾複数!本艦に急速接近!」


「対空戦闘!CIWS迎撃始め!」


[あかぎ]前部に搭載されているCIWSが起動し、接近するロケット弾を撃ち落とす。


 だが、一部のロケット弾がCIWSからの弾幕を逃れた。


「総員!衝撃に備え!!」


 神薙が、ヘッドセットに叫ぶ。


 一部のロケット弾が[あかぎ]艦橋に被弾した。


 ロケット弾の炸裂による衝撃波が艦内全域に伝わる。


「応急指揮所!被害報告!」


 切山が艦内電話で、応急指揮所に直通交信を行う。


「ロケット弾!艦橋右舷部分に被弾!」


 応急指揮所から、艦の被害報告を受けると、艦橋から、緊急連絡を受けた。


「衛生班及び消火班は、至急、艦橋へ!」


 航海長の声が、ヘッドセットに響く。


「ダメコンチームは、艦橋に急行!」


 艦の被害を確認しながら、神薙は、火災の消火及び負傷者の応急処置等を命令した。





[雅安]のCICでも、艦載ヘリが決死の攻撃を行った事を確認した。


「身を挺して、次の攻撃を阻止した訳か・・・」


 武は、つぶやいた。


「艦長。これで、向こうも第2弾攻撃は困難になります。ヘリの攻撃で恐らく、攻撃のタイミングを逃しましたから・・・」


 副長が、状況を整理しながら、つぶやく。


「僚艦の生存者の救助に向かう」


 武の決断に、艦橋から、航海の指揮官が針路変更を命じた。


「艦長、副長。艦隊司令部から、緊急命令です!」


 通信担当の指揮官が通信文を持って、現れた。


「艦隊司令部より、北太平洋での軍事行動停止命令です!」


 武は、通信文を受け取り、命令文を確認する。


「停戦命令を、確認した」


 武は、小さくつぶやき、通信文を副長に渡した。


「艦隊司令部からの、正規の命令書である事を、確認しました」


 副長が確認すると、彼女は艦内マイクを持った。


「全艦放送」


 武の指示で、全艦放送に接続された。


「艦長だ。南海攻略艦隊司令官より、停戦命令が出された。これより本艦は、自衛艦及び、その他の艦艇への一切の武力攻撃を禁ずる。以上だ」


 それだけ言うと、武は、艦内マイクを戻した。





 北太平洋上で発生した、ニューワールド連合軍と、菊水総隊自衛隊の統合任務部隊と、サヴァイヴァーニィ同盟軍との局地的武力紛争は、数日間で終結したが・・・


 双方の損耗艦は、それぞれ2隻のイージス艦が、大破、撃沈叉は轟沈し、他の戦闘艦も小破程度の損害を出した。


 もちろんアッツ島では、地上戦も行われ、双方の被害は、現在、確認中である。

 真紅の旗 其れは革命の色 第20章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますがご了承ください。

 次回の投稿は7月3日を予定しています。

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