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真紅の旗 其れは革命の色 第19章 イージス艦対イージス艦 前編 水上の潜水艦

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟海軍南海攻略艦隊第1ミサイル駆逐艦戦隊に所属する[昆(クン)(ミン)]級ミサイル駆逐艦、[雅安(ヤーアン)]は、僚艦である同型艦と共に、北太平洋上で日没を迎えていた。


[雅安]の艦橋の艦長席には、闇に染まる海上を眺める、毅然とした雰囲気を持つ女性将校が座っていた。


 彼女が[雅安]艦長の(ウー)(メイ)(ファン)上校であり、完全な電波管制下で、イージス艦[みょうこう]と、ミサイル駆逐艦[ファイフ]へ、ミサイル攻撃を行った指揮官だ。


 イージス艦[みょうこう]は、対艦ミサイルが命中する寸前にチャフで回避されたが、予めそれを予想し、18連装多用途ロケット砲を発射し、ロケット弾を艦橋に撃ち込んだ。


 結果は撃沈では無かったが、小破までの損害を与えた。


 ミサイル駆逐艦[ファイフ]は、4発の対艦ミサイル攻撃で轟沈させた。


「艦長。艦隊司令部からです」


 青色を基調とする迷彩服を着た士官が、通信文を持って、武の隣に立った。


「・・・・・・」


 武は何も喋らず、通信文を受け取った。


「艦隊司令部も、我々の戦果に驚愕しているようですね」


「・・・・・・」


 副長の少校が言葉をかけたが、武は無言のまま、通信文に目を走らせた


「艦長?」


 副長が、何も語らない武の様子に、首を傾げる。


「艦隊司令部は、我々の初戦果を賞賛すると共に、1隻を撃沈、2隻を大破と小破させた事について、咎める電文を送り付けてきた」


 武は、副長である少校に、通信文を手渡した。


「それは・・・建前としては、そうでしょうね・・・艦隊司令部は、戦争行為と認識されにくい限定的武力行使は許可しましたが、撃沈させる程の攻撃は過剰だと、形式だけとはいえ、咎める電文を送らざるを得ないでしょうね・・・」


「だが、一度戦端が開かれれば、後戻りができない。中途半端に攻撃を中止すれば、こちらがやられる。実際、こちらも最新鋭ミサイル駆逐艦055型が、1隻撃沈された。外交的に考えれば、取りあえず痛み分け。という事には、できるだろう」


「艦長。次は、日本国海上自衛隊の最新鋭イージス艦、[あかぎ]との戦闘が予想されます。どのような結果になるにしても、ここは灯火管制を実施します」


 少校の具申に、武はうなずく。


「灯火管制開始!全レーダーシステムは停止し、逆探のみで索敵を行う。艦橋見張員は対赤外線防護服を着用の上で対空、対水上、対潜警戒を厳にせよ!」


 副長の指示で、艦橋の電灯は、すべて切られた。


 目が電灯の光に慣れていたため、急に暗くなると、一時的に視界が真っ暗になるが、すぐに目が慣れ、視界が回復する。


 レーダーシステムを停止したのは、敵艦に逆探されないためである。


 いかにイージス艦のステルス性能が高くても、高出力のレーダー波や通信の送信等を行えば逆探される。


 特にイージス艦は、イージスシステムという高出力な電子機器があるため、イージスシステムを稼働させていると、すぐに位置を把握される。


 現に、先の戦闘では[みょうこう]、[ポートランド]、[ファイフ]の3隻の、火器管制レーダー波を探知し、そのレーダー波の発信源を特定して、こちらの位置を知られる事無く、ミサイル攻撃ができた。


 レーダーという、強力な目という力を手にしても、結局、万能では無い。


 強力であるが故に、重大な弱点が存在する。


 そのため、イージス艦対イージス艦の戦闘は、互いに電波管制下で行われ、戦い方も第2次世界大戦以前のレーダーが実用化される前の旧来の方法で戦う事になる。


 もっとも、これはイージス艦対イージス艦のみでの戦闘である。


 実際には、艦載のヘリや固定翼哨戒機叉は無人偵察機を使用して、自艦のレーダーに頼らず、先制攻撃で無力化する。





 菊水総隊海上自衛隊第1護衛隊群第1護衛隊イージス護衛艦[あかぎ]と、第5護衛隊汎用護衛艦[あけぼの]の2隻も、厳重な電波管制下で逆探のみによる索敵を行っていた。


「電波管制を実施する。いかなる状況下であろうとも通信は受信のみで、絶対に送信するな!敵は、これまで私たちが戦った敵では無い。絶対に気を抜くな!」


 神薙はCICで、CIC要員たちに喝を入れる。


「敵艦を捕捉すれば、ただちにイージスシステムから火器管制レーダーを起動する!先制攻撃で、確実に危険を排除する。いいか!」


「「「はい!艦長!!」」」


 CIC要員たちが、叫ぶ。


「訓練通りにやれ。気張らず、いつもと同じ感覚で、自分の役目をこなせ」


[あかぎ]の船務士兼第2分隊長の竹所鉄怍(たけどころてっさく)3等海佐が、部下たちの緊張を解す。


「艦長?」


[あかぎ]砲雷長が、質問する。


「我々は、獲物を狙う狩人ですか?それとも獲物ですか?」


「その両方だ」


 砲雷長の質問に、神薙は短く答える。


「了解しました。各要員、対空戦闘及び対水上戦闘準備!ミサイル攻撃に備え、CIWS及びESSMを、いつでも発射できるようにしろ!」


「「「了解!」」」


 CICの対空戦闘要員たちが、叫ぶ。





[あかぎ]艦内は、戦闘配置前の艦内配備である艦内哨戒第1配備下であり、[あかぎ]の科員食堂では、ダメージコントロールチームが、集められていた。


「ダメコンチームは、戦闘時の艦内被害に備えて、常に緊急対応に備えろ!」


 先任伍長である真下凉(さなしたりょう)(ゆき)海曹長が、第3分隊で編成されている工作班たちに、任務の重要性を再度説明する。


「戦闘になれば、敵のミサイル攻撃や主砲砲撃で被弾し、火災、浸水が発生するだろう。世界最強のイージスシステムといえども、万能では無い!我々が、これから戦うかもしれない相手は、10年という短い期間で外洋海軍の仲間入りをした勢力だ。絶対に、慢心や油断をするな」


「「「はい!!」」」


 真下は、海上自衛隊の海士として入隊して以来、25年以上、第3分隊勤務の機関科要員及び工作科要員である。


 余談ではあるが、[あかぎ]に配属される以前から、真下は神薙の部下であったが、それだけに神薙の信頼は絶大である。


 何しろ、最初は自衛隊に対して否定的な見解を持っていた、南雲を始めとする第1航空艦隊の面々と、積極的に交流を重ね、そういった蟠りを徐々に解消していったのは、意外にも、神薙を中心とした[あかぎ]の乗員たちであった。


 勿論、第1航空艦隊の草鹿や山口等、比較的肯定的な考えを持つ将官たちの努力も、その後押しとなった。


 竹所や、真下が、神薙の意を汲んで、双方の士官や下士官たちの意識の溝を埋めていったのは、言うまでも無い。





 ダメコンチームは、いくつかのチームに分かれ、火災発生時に初期消火活動を行う班は、火災防護服を着用、何らかの有害物質が発生した際に除染等を行う班は、生化学防護服を着用し、初期対応に備える。


 むろん、浸水時の初期対応班も、配置についている。


 これはどこでも同じだが、緊急事態が発生した際に初期対応がうまく行けば、深刻な事態になる事は滅多に無い。


 艦だろうが、船だろうが、建物だろうが、何でもだ。


 初期対応がうまく行けば、被害は最小限度に済み、例え、対処を越える事態でも、応援が駆け付けるまでの時間を稼ぎ、被害拡大を抑える事ができる。


 初期対応に失敗すれば・・・どのような対処をしても、それ以上に悪くなる事は防げるだろうが・・・あくまでも最悪の結果を防ぐだけだ。


 この場合の最悪の結果は、[あかぎ]の沈没だけでは無く、乗組員の5割以上が死ぬ事である。


 それは、絶対に避けなければならない。


[あかぎ]艦内では、各当直配置要員以外も、それぞれの部署で配置に付き、これまでの訓練で身に付けた事を、1回の実戦で確実に完遂できる事に努める。





[雅安]の艦橋からCICに移動した武は、CIC要員たちに確認した。


「状況は、どうなっている?」


 武が、CICの先任指揮官である上尉に聞いた。


「敵も電波管制を、実施している模様です。何も確認できません」


「当然だろうな。[あかぎ]型イージス護衛艦は、最新鋭のステルス性がある。ステルス性能を最大限に利用し、こちらがしびれを切らし、レーダーを起動するのを待っている・・・」


 武は、そう推測した。


 そして、彼女は何も映っていないレーダースクリーンに視線を向けた。


「いいだろう・・・根比べといきましょうか・・・どちらが先に、我慢の限界がくるか・・・」


 武は、つぶやいた。


 もちろん、索敵は逆探のみに頼っている訳では無い。


 ソナーも最大限に使用し、水上艦のスクリュー音若しくは航跡音を、捕らえようとしている。


「艦長。無人偵察機の発艦準備が、整いました」


 飛行先任指揮官の上尉が報告した。


「よし、無人偵察機を発艦。静かに海上を捜索しろ」


 武は、無人偵察機の発艦命令を出した。


 自艦のレーダー波等が敵に探知されるのであれば、このように無人航空機や艦載ヘリを出撃させて、代わりに捜索させる。


「各要員に告ぐ。些細な反応も見逃すな。何らかの動きが、必ずあるはずだ」


 彼女の言葉に、CIC要員たちは一斉に「はい!」と叫んだ。


 先に見つけた艦が狩人になり、見つけられた艦は獲物になる・・・問題は、それが、どちらなのか?という事だけだ。


(恐らく・・・[あかぎ]も無人偵察機を発艦させて、索敵を行っているはず・・・どちらかの無人偵察機を先に発見しただけでも、有利艦と不利艦に分れる・・・)


 武は、ひたすら待つ事にした・・・





 一方の[あかぎ]でも、彼女が予想したように神薙は、四方に無人偵察機を発艦させた。


「艦長。ヘリの発艦準備が、整いました」


 後部のヘリ格納庫にいる飛行長の声が、神薙のヘッドセットから聞こえた。


「ヘリを発艦させろ」


 神薙の指示で、[あかぎ]飛行甲板に移動したSH-60K[シーホーク]が発艦する。


『ホーク・アイ1。発艦する』


[あかぎ]に格納されていたSH-60Kは、コールサインを呼称して、[あかぎ]から離れる。


 ホーク・アイからの交信は、すべて受信のみであり、返信はしない。


 これは返信した場合、敵のイージス艦に逆探されるからだ。


 基本的な交信は、傍受及び逆探の恐れが少ない通話ボタンを押して、その時に発せられる音で返信を行う。


 例えば、2回は了解、3回は許可する、1回は再送を頼む、である。


 ホーク・アイ1からの交信は、無人機を中継するため、[昆明]級ミサイル駆逐艦側が、哨戒ヘリの存在を確認しても、どこにいるか分からない。


 位置を完全に特定するには、レーダーを稼働しなければならず、その際、レーダー波を逆探できる。


「艦長!お持ちしました」


 青色の作業服を着た女性自衛官が、分厚い本を持って、CICに入室した。


「ありがとう」


 神薙は女性3等海曹から、本を受け取る。


 本の表紙には、題名がロシア語で書かれている。


 その本の題名は、[現代海戦戦術においてのイージス艦対イージス艦の戦闘]である。


「ブイコフ提督の書かれた、戦術書ですか?」


「そうだ。[みょうこう]、[ポートランド]、[ファイフ]も、この本の第2章に書かれた戦術を元にしたと思われる戦法で、攻撃を受けた・・・」


 神薙から本を渡された切山は、第2章の部分を開いた。


「艦長・・・出来れば、英語翻訳版の方が良かったのですが・・・ロシア語は読めなくは無いのですが、どちらかと言えば不得手なので・・・」


「すまない。日本語翻訳版と英語翻訳版は、これを含めて何冊か、南雲長官と草鹿参謀長にお貸ししている。今、手元にはそれしか無い。それより、[あけぼの]からの連絡は?」


「はい。艦長の立案した作戦を支持すると・・・それと、[あけぼの]艦長より、『元潜水艦乗りとしての、血が騒ぐ』と、返信を受けています」


「そうか」


 僅かに、神薙の口元に笑みが浮かぶ。


「石橋を叩いて壊す・・・その手筈は整った」


「は?」


 神薙のつぶやきを聞いた切山は、一瞬その言葉の意味を、理解できなかった。





「艦長。敵は艦長の予想通り、ヘリと無人偵察機を発艦させたようです。先ほどから通信電波を、複数箇所で探知しています」


「[あかぎ]の位置は?」


 武が問う。


「申し訳ありません。通信の中継が複数箇所で行われ、その通信電波もそれぞれで異なり、どこにいるか、わかりません」


 CIC要員の報告に武は、「やはりな」と、つぶやいた。


 彼女の手にも、神薙が持っているロシア語で書かれた、[現代海戦戦術においてのイージス艦対イージス艦の戦闘]の本がある。


「この本に書かれている、第1章に準じた戦法だな・・・」


「艦長。ヘリの発艦準備が、完了しました」


 飛行先任指揮官が、報告した。


「発艦させろ。パイロットには念のために伝えているが、ヘリからの通信は受信するが、返信はしない。改めて、もう一度確認しておくように」


「了解!」


 武からの最終確認に、飛行先任指揮官が返答した。





[あかぎ]でも、[昆明]級ミサイル駆逐艦が、ヘリや無人偵察機を発艦させた事を確認しているが、複雑な中継と通信電波で、位置を特定できない。


「相手も、同じ方法か・・・これは、根比べが長くなるな・・・」


 神薙は、艦内マイクを持った。


「全艦放送に」


「はい」


 切山が、艦内全域に放送が流れるようにした。


「艦長だ。総員、そのままの姿勢で聞け。我々と会敵している[昆明]級ミサイル駆逐艦の指揮官は、私とほぼ同等の戦闘指揮能力と操艦能力を有するだけでは無く、同じ戦法で戦いを挑んできている。つまり、この勝敗を分けるのは、艦の性能では無い。私以下、全乗員300人以上の練度だ。一瞬の気の緩みが、我々の敗北を招く。総員、これまで以上に気を引き締めろ!いいな!」


 神薙は短く言った後、艦内マイクを戻した。


 それと、同時に艦橋見張員が報告した。


「艦長!無人航空機を視認しました!」


「見つかったか?」


 神薙は、ヘッドセットで直接、見張員に確認をとる。


「いえ、その様子はありません!こちらに接近するどころか・・・離れています。あの位置では、本艦の艦影を確認するのは難しいでしょう」


 見張員の言葉に、神薙は少し考えた。


「艦長。たとえ、気付かれていなくても、このまま野放しにすれば、発見されます」


 切山が、主張する。


「いえ、副長。ここで撃墜すれば、本艦の位置を特定されます。艦長、針路を変更し、やり過ごす事を具申します」


 砲雷長が、具申する。


「・・・・・・」


 神薙は、2人の意見をそれぞれ慎重に検討した上で、決断した。


 その間10秒程度・・・


「対空レーダー起動!低出力で稼働させろ。無人機を捕捉次第、シースパロー発射!」


 神薙の指示で、対空戦闘要員が、対空レーダーを起動した。


「敵無人偵察機を捕捉!」


「ターゲット・ロックオン!」


「シースパロー発射!!」


 担当の海曹たちが、データ入力及びESSMの発射準備を瞬時に行うと、担当士官が発射命令を出した。


[あかぎ]のVLSが開放され、ESSMが発射される。


「シースパロー発射!命中まで、10秒!」


「9、8、7、6、5、4、3、2、1・・・スタンバイ!」


 発射されたESSMと、無人航空機の光点が重なる。


「命中!無人機の撃墜を確認!」


 砲雷長からの報告を受けると、神薙は、即座に指示を出した。


「対空レーダーを切れ!」


 神薙は、対空レーダーの停止を指示し、艦橋にも新たな指示を出した。


「速力15ノットに増速!取舵20度!」


 神薙は、[あかぎ]の針路を変更した。

 真紅の旗 其れは革命の色 第19章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますがご了承ください。

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