真紅の旗 其れは革命の色 第18.5章 奇策 後編
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
箕田は、サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟海軍南海攻略艦隊から派遣された駆逐艦部隊が、[みょうこう]の水上レーダー探知圏外に移動した事を確認すると、[ポートランド]及び[ファイフ]の乗員救助の開始を指示した。
[みょうこう]から降ろされた作業艇や複合艇が、[ポートランド]乗員の救助を行う。
[ポートランド]は、やや傾きつつも、沈没する傾向は、今の所見られない。
対艦ミサイルの被弾により、黒煙と小規模な爆発が、発生している。
[ポートランド]は、退艦命令が出され、無事な乗員は、負傷者を運びながら冷たい海に飛び込む。
「こっちだ!速く泳げ!」
作業艇に乗り込んでいる海曹や海士たちが声をかけ、海に飛び込んだ[ポートランド]乗員を引き上げる。
重傷者は、足の速い複合艇に乗せ、[みょうこう]に収容する。
[みょうこう]の飛行甲板では、臨時の救護所が設置され、収容した重軽傷者たちの応急処置が行われていた。
[みょうこう]の第4分隊に所属する医官や衛生科隊員たちだけでは手が足りないため、他の分隊から応援を寄こしてもらい、重傷者及び軽傷者たちの応急処置を行った。
[ポートランド]からも動ける者たちが自主的に行動し、重軽傷者の搬送や応急処置等を行った。
「おい!頑張れ!!」
「意識を、しっかり持って!!」
飛行甲板で担架に乗せられた重傷者に、声かけを行い、意識レベルを維持させる。
「艦長!負傷者の数が多すぎます!他の艦からの応援は!?このままでは・・・」
第4分隊長兼衛生長の1等海尉が、縋るような表情で、箕田に尋ねる。
「海保の巡視船が、急行している。後、1時間弱で到着する。それまで、どうにか自分たちだけで、何とかしてくれ」
海上保安本部麾下であり、菊水総隊指揮下に置かれている第1船隊群から、ヘリコプター2機搭載型巡視船が2隻、海上輸送部隊のレーダーピケット艦兼護衛艦として、派遣されている。
その2隻が、急行中である。
しかし、巡視船の速力は25ノット程度であり、どうしても時間がかかる。
それに、[ファイフ]の救助活動や、撃沈した055型ミサイル駆逐艦の状況も、確認しなければならない。
到着は1時間だが、[みょうこう]と共に、[ポートランド]乗員の救助活動が行えるのは遅くても4時間後だろう・・・
帝国海軍の駆逐艦や軽巡は、サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟海軍の攻撃から、輸送艦や空母等を守らなくてはならない。
とても、こちらに駆逐艦を派遣する余裕は無い。
箕田自身も、部下たちや[ポートランド]の乗員たちと共に重傷者の搬送、応急処置を手伝った。
菊水総隊海上自衛隊の指揮下で行動している、海上保安本部第1船隊群司令船(旗艦相当)の[はつしま]型ヘリコプター2機搭載型巡視船[はつしま]から離船したSH-60Jは、特殊救難隊1個隊を乗機させ、[ファイフ]の沈没海域を捜索していた。
「うみたか1号より、[はつしま]へ」
うみたか1号とは、海上保安庁が運用するSH-60Jの、呼称である。
機長である3等海上保安監は、変色した海上を見下ろしながら、[はつしま]と交信した。
「ミサイル駆逐艦[ファイフ]の、沈没海域と思われるポイントを確認した。海上は、大量のオイル等が流出している」
「[はつしま]より、うみたか1号へ、ミサイル駆逐艦[ファイフ]は、確認できるか?」
[はつしま]からの通信に、機長は副操縦士と共に、海上を凝視する。
「確認できません。完全に轟沈した、と判断します。海上にはオイルと[ファイフ]の残骸らしき浮遊物は確認できますが、生存者は確認できません。状況から推測し、乗員の生存は絶望的です」
「了解した。[みょうこう]と共に、[ポートランド]の救助活動を実施せよ」
[はつしま]からの指示に機長は、了解と返信し、そのまま[ポートランド]に向かった。
[ポートランド]は、今の所沈没していないが、浸水するスピードは早まりつつあり、艦内で閉じ込められている乗員や、海に投げ出され、そのまま流された者もいる。
彼らの捜索等も、行わなくてはならない。
第1船隊群の巡視船[はつしま]と[みずほ]が合流し、[ポートランド]の救助活動及び行方不明者等の捜索にも、範囲を拡大する事ができた。
[ポートランド]艦長である、ジョナス・フェネリー・ノダ大佐は、額に傷を負っただけの軽傷であり、艦の最高責任者として、[みょうこう]の士官室で、箕田や隊司令に報告した。
「[ポートランド]戦死者は80名、行方不明者70名です。重軽傷者85名、健全者は100名です」
ノダは、[ポートランド]で退艦命令を出した後、最後まで自分の艦に残り、退艦の指揮と、負傷者たちのケアを行った。
「報告では[ポートランド]は、しばらく沈む事無く、このまま漂流するそうだ。曳航するための曳航艦や曳航船も無い。自沈処理をするべきだろう」
箕田は、重い口調で告げた。
船乗りである以上、自分の船を失う辛さは理解しているつもりだが、それを口に出すのは気が引ける。
「いえ、この場合は仕方ありません。それに艦を守れなかったのは、艦長である自分の責任です。お気になさらず」
ノダも、箕田の心痛を理解した口調で告げた。
彼の額には包帯が巻かれており、出血が止まらないのか、血が包帯に滲み出ている。
デジタル迷彩服にも、血が染みついている。
「箕田艦長。お見事な指揮でした。[ファイフ]と[ポートランド]の、仇をとってくれました」
「1隻だけ、沈めただけだ。他の3隻を取り逃がしてしまった・・・仇をとったとは言えない」
箕田は、悔しそうな声で告げた。
「いえ、あの状況下で、あのような決断をできる指揮官は、ほとんどいないでしょう。艦長の臨機応変な対応は、お見事でしたとしか言えません」
ノダは、彼を賞賛した。
「・・・・・・」
しかし、箕田はそれを受ける事が出来なかった。
もっと早く、敵の意図に気付く事が出来ていれば・・・
もっと早く、[ポートランド]と[ファイフ]に警告を発する事が出来ていれば・・・
自分でも気付かないまま、箕田は奥歯を噛みしめていた。
最悪の事態は避けられたが、払った犠牲は、あまりにも大きい・・・
真紅の旗 其れは革命の色 第18.5章をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますがご了承ください。
次回の投稿は6月26日を予定しています。




