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真紅の旗 其れは革命の色 第17章 北太平洋海戦 5 不運か幸運か

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 アメリカ海軍太平洋艦隊北太平洋艦隊旗艦である重巡洋艦[インディアナポリス]は、僚艦と共に、大日本帝国海軍空母艦載機による航空攻撃を、受けていた。


 艦隊防衛のために、差し向けられた護衛機は、20機以下だったため70機もの編隊を前にしては、残念ながら無力であった。


「敵機!右舷より、接近中!」


[インディアナポリス]の見張員が叫ぶ。


「右対空戦闘!撃て!!」


「撃て!」


 艦長の号令を、先任士官が復唱する。


[インディアナポリス]の備砲である、5インチ砲が吼える。


 VT信管が実用化され、対空砲火の性能は、今まで以上に向上した。


 対空兵器も増設され、備砲による対空砲火を抜けられても、艦載の大口径機関砲や、中口径機関砲による対空砲火が待っている。


 魚雷投下のために低空飛行する大日本帝国海軍機に対して、対空砲が火を噴く。


 低空で魚雷投下の態勢に入っていた攻撃機3機のうち、2機が被弾し、海上に激突した。


 1機は炎上しながらも、そのまま[インディアナポリス]に突っ込んできた。


[インディアナポリス]の艦体が、大きな衝撃に襲われた。


「敵機が、艦中央部に突っ込みました!」


「艦中央部で、火災発生!!」


[インディアナポリス]の艦橋で、次々と報告が上がる。


「消火班!艦中央部へ!!繰り返す、消火班は艦中央部へ!!」


「敵機2機が、急降下!!」


 対空レーダー員が、叫ぶ。


「右舵一杯!」


 艦長の叫び声で、操舵手が舵を大きく右に回す。


 見張員たちが随時、敵機の動向を報告する。


 マクモリスは、司令官席にじっと座ったまま、動かない。


[インディアナポリス]の右舷至近で、急降下した日本軍機が投下した爆弾が爆発し、巨大な水柱が上がる。


「被害状況を確認せよ!」


 艦長が叫び、副長が艦内通信の受話器で、各部署に確認をとる。


「艦長!先ほどの爆発で、電気系統が破損しました。自動水密扉の開閉が、できません!」


 被害報告を受けた艦長は、戦闘指揮を行いながら、新たなる指示を出す。


「電気系統に頼らず、手動で水密扉を使用しろ!」


 爆弾が直撃しなくても、爆発時の衝撃波が強ければ、艦の被害は避けられない。


 重巡洋艦に区分される[インディアナポリス]は、海の戦車と表現される事もある。


 いかなる攻撃を受けても、耐えられるだけの能力がある。


 魚雷や爆弾による攻撃を受けても、[インディアナポリス]は、耐えられる。


「提督!日本軍機が、退却を開始しました!」


 見張員が、報告する。


「?・・・燃料切れか?」


 先任参謀が、つぶやく。


「各艦の被害状況を、確認せよ」


 マクモリスが、冷静な口調で指令を出した。


「了解しました!!」


 マクモリスは、司令官席を立ち上がり、艦橋の窓から、帰投する大日本帝国海軍機攻撃隊を確認した。


「提督!駆逐艦1隻と、軽巡1隻が撃沈、駆逐艦2隻が大破、重巡[ルイビル]小破」


 北太平洋艦隊の損害について、幕僚が報告した。


「生存者の救助と、大破した駆逐艦2隻は、自沈処分とする」


 マクモリスは大破、火災炎上する駆逐艦2隻の状況を確認し、決断した。


 1隻は、艦橋に250キロ爆弾が直撃し、艦橋は完全に破壊されている。


 もう1隻は、航空魚雷が被弾し、半転覆している。


 どちらも曳航するのは、不可能だ。


 大日本帝国海軍に鹵獲される可能性は低いが、そのままにして、沈没せずに漂流してしまえば、他の船舶の航海が脅かされる。


「艦長。救助活動を急がせろ。それと見張員を増員し、対潜警戒を厳にしろ」


 マクモリスは、潜水艦による雷撃に備えた。


 被弾し、沈没した僚艦の生存者を救助活動中に、攻撃を受けるという事は、海戦史では珍しく無い。


 いかに、非人道的な行いと言っても、戦場の掟で、やれる時は徹底的にやる、という言葉がある。


 その場で停まる軍艦は、恰好の標的だろう。


 しかし、[インディアナポリス]は艦隊旗艦であり、改装により、新型レーダー等が設置されている。


 レーダー搭載の駆逐艦と共に、大日本帝国海軍からの、第2次攻撃に備えていた。





 菊水総隊海上自衛隊第1潜水隊群第1潜水隊[じんりゅう]は、[インディアナポリス]以下レーダー搭載の駆逐艦を、パッシブ・ソナーで捕捉していた。


「艦長。[インディアナポリス]以下2隻の随行艦は、速力18ノットで航行しています。どうやら、空母艦載機による第2次攻撃に備えた警戒と、思われます」


 ソナー員長である、准海尉が報告する。


 彼は、潜水艦水測科員として、25年以上の経験を持つソナー士官である。


「・・・潜望鏡深度まで浮上」


[じんりゅう]艦長の、立足2等海佐が静かに指示を出す。


「潜望鏡深度まで浮上!駆逐艦がいる。浮上は、ゆっくりと行え」


 潜航指揮官の指示に、操舵手がゆっくりと舵を引き、静かに浮上させる。


[そうりゅう]型潜水艦である[じんりゅう]も、高い静粛性と隠密性があり、この時代の駆逐艦のソナーでは、捕捉するのは極めて難しい。


 しかし、絶対に捕捉されないという訳では無い。


 運が悪ければ、探知される場合もある。


 もし、探知されれば、潜望鏡深度では、爆雷攻撃をまともに受ける事になる。


 どんなに時代が変わっても、潜水艦の弱点は、変わらない。


「艦長。潜望鏡深度です」


 潜航指揮官が、報告する。


「潜望鏡上げ」


 立足の指示で、潜望鏡が上げられる。


 潜望鏡が捕らえた360度回転式高性能カメラの映像が、ディスプレイに映し出される。


「・・・・・・」


 立足は、[ポートランド]級重巡洋艦[インディアナポリス]の艦影を、確認した。


「確かに・・・護衛の駆逐艦が随行せず、1隻の単艦航行なら、どのような対潜運動をしても、沈める事はできるな」


 立足は、小さくつぶやいた。


「あの巡洋艦は、我々の知る歴史では1945年7月下旬に、テニアン島へ原子爆弾の輸送を行い、7月末に伊号第五八潜水艦の雷撃で、撃沈されました。自分が学生時代、部活動の顧問が、試合の対戦相手を見て絶対に、余裕で勝てる試合だと、レギュラーたちが言っていた時、[インディアナポリス]の話をしました」


 水雷長が、ディスプレイの映像を確認して、つぶやいた。


「水雷長。君は[インディアナポリス]の乗組員たちが油断し、軍規等が緩んでいた、という説を信じる方か?」


 立足の質問に、水雷長は首を振った。


「いえ、実戦を経験して、その説は正確では無い、と思いました」


 水雷長の言葉に、立足はうなずいた。


「その通りだ」


 1945年7月末、重巡洋艦[インディアナポリス]は、橋本以(はしもともち)(つら)少佐(当時の階級)が指揮する、伊号第五八潜水艦の雷撃で撃沈した。


 この時、ジグザグ航行を怠った事や、艦の規律を緩んでいる等を黙認したとして、艦長が責任を問われ、軍法会議にかけられたが・・・後に、軍法会議の判決は誤審とされ、艦長の名誉が回復した。


 ジグザグ航行は、敵の潜水艦からの魚雷攻撃を回避するための回避航行だが、実際、ジグザグ航行による魚雷回避は、至難の業である。


 そもそもジグザグ航行の本来の目的は、潜水艦が上げている潜望鏡を発見し、魚雷攻撃を受ける前に回避叉は排除するのが、主目的である。


 潜水艦が標的を確認しても、すぐに魚雷は発射しない。


 まず、潜望鏡を上げて、標的艦のコース、速力、艦級等を潜望鏡による目視確認してから、雷撃を行う。


 航跡が見える魚雷、見えない魚雷を問わず、どちらの魚雷も、発射を確認するのは極めて困難である。


 見張員として配置につく水兵は、経験が浅く、1人の人間が双眼鏡で監視できる海上の範囲は、限られる。


 運良く魚雷を確認できても、命中まで最長でも約5分である。


 例え、ジグザグ航行をしていても、魚雷を発射されれば、回避するのは難しい。


 どちらかと言うと直進航行で、魚雷命中寸前で緊急回避航行の方が、ジグザグ航行よりも回避できる確率は、少しだけ高くなる。


 ただし、この方法がとれるのは駆逐艦クラスであり、巡洋艦クラスは不可能である。


 巡洋艦以上の艦級は、設計の段階で魚雷が数本被弾しても沈まない前提で設計される上、水密扉等も自動式である。


 実は、[インディアナポリス]が最初の雷撃を受けた際、本来閉まるはずの水密扉がしまらなかったそうだ。


 その原因として、電気系統がすべて停止したと、報告されている。


 主電源が停止しても、応急電源が作動するはずだったが、それも作動しなかった。


 原因として考えられたのが、原子爆弾輸送の際に、きちんとした修理が行われていなかった可能性が高い。


 つまり、これは日米戦争で大日本帝国軍が戦争継続の意思表明をしていたのと、アメリカ国内での度重なる国債購入で破産したアメリカ国民、ヨーロッパ戦線に派兵されたアメリカ兵たちの家族が、ヨーロッパ戦線から戻ってきた、自分の父、夫、息子たちを、今度は太平洋に送るという事に反対する等の反戦活動に焦っていた、軍部によるミスである事が、理解できる。


 海軍省の高官たちが、自分たちの責任を追及される事を恐れて、艦長に責任をなすりつけた、という説もあるらしい。


 この時、海軍省は別件で、責任を追求されていたそうだ。


 責任の内容は、パールハーバーでの大日本帝国海軍の奇襲攻撃で命を落としたアメリカ兵の遺族と、ハワイ州の州民たちから、訴えられていたそうである。


 パールハーバー攻撃を、ワシントンDCは予想していたにも関わらず、何の警告も出さなかったどころか、パールハーバーに配備していた、太平洋艦隊沿海警備部隊の駆逐艦12隻を引き抜き、大西洋艦隊に配置換えした事が、非難の対象となった。


[インディアナポリス]の沈没が、人為的ミスでは無い根拠は、他にもある。


 同時期に駆逐艦の護衛下で、航行していた巡洋艦が、雷撃で沈められていた。


 この艦隊は、厳重な対潜警戒行動と対潜回避運動を行っていたにも関わらず・・・である。


 それだけでは無く、ジグザグ航行をする輸送船も、通常魚雷で沈められていた。


 それに対し、[インディアナポリス]には、護衛の駆逐艦は無く、夜間でもっとも視界が悪い時間帯でもあったため、軍法会議で伊号第五八潜水艦艦長の証言通り、「いかなる回避航行等を行っていたとしても、足が遅く、遠くからでも艦影を確認できる大型艦である[インディアナポリス]に魚雷を命中させられる」は、嘘偽りの無い事実である。


 立足は、現実を目の当たりにして、そう確信した。


「艦長。いかがいたしますか?今なら、魚雷若しくは、ハープーンで仕留められますが?」


 副長兼航海長が、進言する。


「いや、今回は見逃そう」


 立足は、首を振った。


「第4航空艦隊の航空攻撃で、北太平洋艦隊にある程度のダメージを与えた。ダッチ・ハーバー等の軍事施設も壊滅し、航空優勢を確保できない以上、艦隊を危険さらす事は無いだろう。無益な殺生は、慎む事にする」


 立足の言葉に、副長は頭を搔いた。


「そうおっしゃると、思っていました」





 重巡[インディアナポリス]に、太平洋艦隊司令部があるサンディエゴからの緊急電が届いた。


「シカゴに、撤退?」


 マクモリスが、通信士官からの報告を、聞き返した。


「太平洋艦隊司令長官より、北太平洋艦隊は、ただちにシカゴ軍港まで後退せよ。との事です」


 通信士官の手から乱暴に、マクモリスは、電文を受け取った。


「どうやら、本物の命令書のようだ・・・」


 マクモリスの言葉に、艦橋に詰めていた幕僚たちが、ざわめいた。


「どういう事だ?」


「敵がいるのに、みすみす敵に、アリューシャン列島を譲るのか!?」


「そんな事をすれば、それこそ海軍の面目が無くなるぞ!!」


「軍人の勤めは、国土と国民を守る事です!!ここで、シカゴに撤退すれば、アラスカ州民から非難されます!!」


 幕僚たちが、口々に騒ぐ。


 マクモリス自身も、このような命令に、納得がいく訳では無い・・・だが、彼の脳裏に、オアフ島での件が、思い返された。


「ここで命令違反しても、戦局を好転する事はできない。ただ、やられに行くようなものだ。ならば、ここは命令に従い、再戦の機会を待とう。恐らく、ハワイ奪還作戦が、最終準備段階に移ったのだろう」


 マクモリスは、幕僚たちに振り返り、告げた。


 艦隊司令官の決断に、幕僚たちは、落ち着きを取り戻した。


 マクモリスが言った、ハワイ奪還、が幕僚たちの心を動かしたのである。


 例え、ここで非難を浴びても、生きてさえいれば、再び名誉挽回のチャンスは訪れる。


「では、提督。全艦をシカゴ軍港に針路変更する指示を出します」


「うむ」


 マクモリスは、うなずいた。


 北太平洋艦隊巡洋艦部隊には、撤退命令が出たが、沿海防衛や警備のためのフリゲート部隊と、水雷艇部隊は残る。


 決して、アリューシャン列島を、無防備にする訳では無い。


 アラスカ州軍だけでは無く、陸軍と海兵隊からも増援部隊が送られている。


 アラスカ及びアリューシャン列島での主要島防衛戦は、可能である。


 沈没した艦及び大破した艦の生存者の救助は、完了している。


「重巡[ルイビル]の状況は?」


 マクモリスが問うと、幕僚の1人が答える。


「応急修理は完了したそうですが。全速航行は、できません」


「わかった。各艦は[ルイビル]に合せて、艦隊行動を行う。護衛の駆逐艦も、被弾艦を優先した護衛態勢で対潜、対空、対水上警戒を厳にしろ」


 マクモリスは、新たなる艦隊編成を指示し、攻撃に備えた艦隊行動をとる。


 彼は、再び司令官席に腰掛ける。


(この借りは、数倍にして返す。ハワイで会おう)


 マクモリスは心中で大日本帝国軍、パシフィック・スペース・アグレッサー軍、パシフィック・ゴースト・フリートに告げた。





 後に彼は、太平洋艦隊総参謀長に就任し、現時点では一介の少尉であるレイモンド・アーナック・ラッセルの上官として、ハワイ奪還作戦に従軍する。


 レイモンドが立案する作戦のすべてを採用し、参謀長として各艦隊司令官に、作戦内容を徹底させる。


 まだ、2人の間に面識は無いが、後にマクモリスは、レイモンドという海軍将校を、こう評価した。





「神の気紛れか?それとも悪魔の面白半分の悪戯か?どちらにしても、我がアメリカに最高の海戦戦術家を、与えてくれた」

 真紅の旗 其れは革命の色 第17章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますがご了承ください。

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