真紅の旗 其れは革命の色 第15章 北太平洋海戦 3 回想
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
予定を前倒しにして本日投稿いたしました。
ダッチ・ハーバー軍港から、緊急出港した重巡[インディアナポリス]を旗艦とする巡洋艦任務部隊は、軍港から沖合に向かって舵を切った。
重巡[インディアナポリス]の司令官席に、マクモリスが腰掛けていた。
「オアフ島での戦闘以来、5ヶ月ぶりの戦闘・・・」
マクモリスは、小声でつぶやいた。
(オアフ島以来、再戦の機会が、巡ってくるとは・・・)
マクモリスは、オアフ島攻防戦の事を思い出していた。
1941年12月8日、ハワイ諸島オアフ島太平洋艦隊司令部では、大日本帝国海軍航空部隊と、謎のジェット戦闘機による航空攻撃で、パールハーバー軍港に停泊している主要艦艇のほとんどを失った。
太平洋艦隊司令部は、被害状況の確認に追われていた。
「提督!被害状況の報告です」
参謀の1人が、航空攻撃を受けた戦艦、重巡、軽巡、駆逐艦等の主要艦艇の被害状況を、ハズバンド・エドワード・キンメル大将に、報告した。
「攻撃されたのは、主要な航空基地と、戦闘艦艇だけか?」
マクモリスが、参謀からの報告を聞きながら、聞いた。
「そうです」
「・・・キンメル提督。大日本帝国軍の狙いは、ハワイ諸島の攻略です!」
マクモリスは、確信と共に断言した。
「彼らは、艦艇の補修、修理施設や、燃料貯蔵庫を攻撃していません。これらの確保が敵の狙いです!」
「それらを破壊する事は、できるか?」
キンメルが、聞いた。
「主要艦艇のほとんどを失いましたが、海軍の将兵は健在です。大量の小火器と、予備の砲弾があります。予備砲弾を艦艇の補修施設、修理施設、燃料貯蔵庫に設置し、爆破すれば少なくとも、それらが敵に渡る事は、避けられます」
マクモリスの具申に、キンメルはうなずいた。
「我々は、まだ負けた訳では無い。敵に一矢報いなければ、アメリカ軍人として名が廃る」
キンメルは決断し、最後の抵抗を行う事にした。
「武器庫から、できる限りの武器、弾薬を集めろ!海軍陸戦隊を組織する!」
マクモリスは、近くにいた中佐に叫んだ。
「提督。私が、陸戦隊と共に、燃料貯蔵庫に向かいます!」
「わかった。だが、無茶はするな。もしも、燃料貯蔵庫が爆破できなければ、大日本帝国軍にくれてやれ。ここで、将兵を無駄に死なせるな」
キンメルは、幕僚に念を押した。
アメリカ海軍では、大日本帝国海軍陸戦隊のような、陸戦部隊は存在しない。
それは、アメリカ海兵隊の役目だった。
だが、歴史的に見れば、このように諸外国海軍では、臨時の陸戦部隊が編成される事は珍しく無い。
例えば、日露戦争時での旅順攻防戦では、大日本帝国陸軍満州軍第3軍からの猛攻により、ロシア帝国軍側も、旅順軍港に停泊している無用の長物になった旅順艦隊から、海軍の将兵を引き抜いて、臨時の陸戦部隊を組織し、203高地や、他の要塞陣地防衛に配置させたと言われている。
マクモリスの指揮下に、海軍臨時陸戦部隊300人が集まった。
武器庫から持ち出された、各種小火器を携帯している。
マクモリス自身も、M1903A1とM1911で、武装している。
「いいか、大日本帝国軍の狙いは、燃料貯蔵庫だ!ここが、無傷で奪取されれば、大日本帝国海軍の太平洋戦略は、大幅に変わる。何としても、この作戦は成功させなければならない!!」
マクモリスは、短く部下たちに、任務の重要性を説明した。
臨時編成された海軍陸戦部隊300人は、トラックに分乗し、燃料貯蔵庫に向かった。
武装した兵員が乗り込んだ後、空いたスペースに爆薬と、駆逐艦クラス叉は警備艇クラスの3インチ砲弾を、積み込む。
「閣下!陸軍司令部から緊急連絡です!!」
「何だ?」
ジープに乗り込んだマクモリスは、後部座席に座る無線兵の報告を受けた。
「大日本帝国軍が、上陸作戦を開始しました!」
「やはり・・・どのくらい持ち堪えられる?」
マクモリスの言葉に、無線兵は、司令部に確認をとる。
「戦車等の戦闘車両は、破壊されましたので、歩兵部隊のみによる防衛戦になります。そのため、長くは持たないと・・・」
無線兵からの報告に、マクモリスは、うなずいた。
マクモリス以下の陸戦部隊が、燃料貯蔵庫に到着した時は、まだ日本兵の姿は無かった。
「総員、下車!作戦通り、燃料貯蔵庫に、爆弾を設置しろ!急げ!!」
マクモリスが、ジープから降りて、部下たちに叫んだ。
その時・・・
数台のトラックが、吹き飛んだ。
「何だ!?何が起きた!!?」
誰かが、叫ぶ。
マクモリスは、ジープの影に身を潜めて、周囲を見回す。
彼は、見慣れない軍装をした日本兵らしき者たちの姿を確認した。
「日本兵だ!!」
マクモリスは叫び、M1903を構える。
臨時陸戦部隊の兵士たちが確認した日本兵は、ドイツ第3帝国軍が武装する自動小銃に似た小銃を武装し、緑色を基調にした迷彩服を着込んでいた。
「撃て!!撃て!!」
マクモリスは、叫びながら、M1903を発砲する。
他の陸戦兵たちも、M1903やM1918等で、射撃を開始する。
日本兵らしき謎の歩兵は、凄まじい火力を有する自動小銃で応戦する。
その射撃は、極めて正確であった。
正確な射撃と高い火力の前に、海軍陸戦兵たちは、次々と絶命する。
「閣下、このままでは・・・」
マクモリスと共に同行した少佐が、作戦遂行は絶望的と告げる。
「わかっている!!」
マクモリスは、必死に策を考える。
陸軍や海兵隊でも無いマクモリスには、最善策と言うべき策が思いつかない。
(このトラックを、燃料貯蔵庫に突撃させるか・・・)
だが突然、日本兵からの攻撃が止んだ。
「?・・・どうした?」
マクモリスは状況が掴めず、身を潜めたジープから顔を出す。
1個中隊クラスの歩兵たちが、自分たちを包囲したまま、銃口のみを向けている。
「閣下。司令部から、緊急命令です。オアフ島の全陸海軍に、伝えられています」
「何だ?」
無線兵が、マクモリスに報告した。
「キンメル閣下と、ショート閣下は、大日本帝国軍に降伏しました」
「降伏だと!!?」
マクモリスは、叫んだ。
「閣下。ここで降伏すれば、燃料貯蔵庫は無傷で、大日本帝国軍の手に落ちます!」
「まだ、無傷のトラックが、あります!これらを突入させましょう!」
部下たちが、叫ぶ。
他の部下たちも、武器を捨てるどころか、日本兵に銃口を向けて、交戦態勢を維持している。
双方共に、膠着状態である。
「閣下!日本兵に動きがあります!」
「何だと?」
マクモリスは、日本兵たちがいる方向に振り返る。
1人の歩兵が、両手を挙げたまま、こちらに向かってくる。
「交渉でも、する気か?」
マクモリスは、つぶやく。
「そこで、止まれ!!」
M1918を構えた、下士官が叫ぶ。
「撃つな!誰も撃つな!」
マクモリスは手を挙げて、部下たちに発砲を控えさせた。
彼は、かなり接近してきた迷彩服を着た日本兵に振り返った。
「私は、マクモリス少将だ!貴官の官姓名を名乗れ!」
「自分は、菊水総隊陸上自衛隊水陸機動団第2水陸機動連隊所属の比嘉岳斗3等陸尉です」
顔立ちは日本人であるが、日本人にしては、英語がかなり達者である。
聞き慣れない名称に、アメリカ海軍兵たちは顔を見合わせる。
「用件は、何だ?」
マクモリスは気にせず、将校と思われる若い男に聞いた。
「キンメル大将及びショート中将の降伏命令を、聞いたはずです。武器を捨てて、降伏していただきたい」
「生憎だが、我々には課せられた任務がある。司令部の連中は、事態の重さを理解していない。我々は、最後の一兵になろうとも任務を遂行する!」
マクモリスは、力強く叫んだ。
「閣下の軍人としての精神は、尊敬します。しかし、上は降伏する事を決定しました。このまま、戦闘を継続すれば、閣下を含めて、貴方がたは、生死に関わらず、英雄としてでは無く、戦争犯罪人として、祖国に迎えられる事になります。ここは、次の再戦の機会を、お待ちください。この事態の責めを負うのは閣下では無く、その上に立つ者です!」
若い将校の言葉に、マクモリスは、言葉を失った。
彼の言葉は、理に適っている。
確かに、この状況下で戦闘継続すれば、自分を含めて部下たちは、戦争犯罪人として軍法会議で極刑になるだろう。
ここは、武器を置き、次の機会に備えるべきだろう。
「わかった。投降しよう」
マクモリスは、決断した。
「提督」
自分を呼ぶ声に、マクモリスは我に返った。
「どうした?」
「全艦、順調に航行しています。ダッチ・ハーバーの航空基地より、上空援護の戦闘機隊が展開しています」
巡洋艦部隊先任参謀である大佐が、報告した。
「そうか。ご苦労」
マクモリスは、艦隊の状況を聞いた後、短く返した。
「先任参謀。貴官も大日本帝国の捕虜返還で、返還された上級士官の1人だったな」
「そうです。自分は、閣下が立案されました、艦艇補修施設爆破のために、100人の部下と共に出撃しましたが、湾港出入口で大日本帝国海軍の駆逐艦部隊による大胆な突撃で、湾内に侵入を許し、自動小銃で武装した海軍陸戦隊との、正面戦闘を余儀なくされました」
先任参謀が言った駆逐艦部隊は、聯合艦隊第1艦隊特別駆逐隊に所属する[松]型駆逐艦4隻だった。
アメリカ海軍の度肝を抜いた、決死の作戦だった。
[松]型駆逐艦は、汎用駆逐艦としての能力と、完全武装の海軍陸戦隊を輸送する能力を併せ持った駆逐艦である。
1個特別駆逐隊につき、1個大隊を輸送できる。
奇襲攻撃で、混乱したパールハーバー泊地内に特別駆逐隊が突撃し、事前に計画されていた上陸地点に、1個大隊を強襲上陸させた。
彼らの武装は、未来から供与された64式7.62ミリ小銃改Ⅱ型である。
火力の差は、言うまでも無かった。
「あの時、大日本帝国軍と、パシフィック・スペース・アグレッサー軍や、ゴースト・フリート・・・いや、あの時は、そのような呼称は無かった。彼らの圧倒的な武器、兵器及び電撃的攻勢により、キンメル前太平洋艦隊司令長官以下残った幕僚たちは、恐れを成し、大日本帝国側の人道的配慮に乗かってしまった」
ハワイ諸島に日本国旗が掲げられて、ハワイ諸島は事実上陥落した。
だが、それだけでは無かった。
ハワイから、アメリカ本土に退却したアメリカ陸海軍及び海兵隊の将兵たちは、アメリカ本土西海岸で待ち構えていた、一部の主戦論派勢力(主戦論派勢力の中では、白人優越思想等の偏った過激な思想者たちが多い勢力)から袋叩きにされた。
ある者は、罵声を浴びせ、叉ある者は帰還兵に石を投げた。
事態が悪化する前に、西海岸の州兵が出動し、迅速な治安維持活動及び口頭による説得活動で、事態悪化を防いだ。
この時、パナマ運河破壊、ノーフォーク海軍基地の空襲という大ニュースが、全米を駆け巡り、マッカーサー将軍指揮のフィリピン駐留アメリカ軍と、フィリピン陸軍、イギリス海外派遣軍がフィリピン本土で大日本帝国軍とパシフィック・スペース・アグレッサー軍との激戦を繰り広げているという情報も伝わってきた。
遠く離れたアメリカ本土では、ラジオやテレビ放送で聞く以外、情報は入らない。
アメリカ国民の不安と恐怖は、極限状態まで、ふくれ上がっていた。
マクモリスも、それは理解できた。
実際、アメリカ合衆国西海岸だけでは無く、西側の内陸部等では、主戦派の過激な活動だけでは無く、大日本帝国軍が明日侵攻してくる等、というデマ情報が広がり、暴動、略奪が相次いだ。
西側及び西寄りの州では、州知事による非常事態宣言と戒厳令が布告され、州兵だけでは無く、連邦軍も投入された(州兵部隊の出動命令権は、治安出動、災害派遣等を含めて州知事の命令で行えるが、連邦軍の出動は大統領命令である)。
マクモリス以下の帰還兵たちは、大日本帝国陸海空軍と、スペース・アグレッサー軍による対アメリカ戦略の実情を知った。
理解出来ない恐怖に戦き、混乱に陥る人々。
秩序が崩壊し、人々は侵略される、という恐怖と不安の渦の中に巻き込まれ、国民としてのモラルを失おうとしていた。
アメリカ合衆国は、建国以来一度も外敵からの攻撃で侵略された事が無く、さまざまな思想、宗教、民族等が混じる多民族国家である。
そこに、恐怖という火事が起これば、一瞬のうちに大火となる。
ハワイ諸島オアフ島真珠湾基地から出港した[しょうない]型多機能輸送艦準同型艦[わかまつ]は、第1護衛隊群第1護衛隊イージス護衛艦[あかぎ]と第5護衛隊[あけぼの]の護衛下で、アリューシャン列島ニア諸島アッツ島を目指していた。
[わかまつ]には、陸上自衛隊水陸機動団第2連隊700人が、資材と装備と共に乗り込んでいる。
第2水陸機動連隊は、各中隊に分れて、艦内での課業を行った。
基本的には、4つに分かれる。
第1グループは、座学で戦場における部隊行動や負傷者への救命処置、簡単な英会話等を復習する。
第2グループは、携行する小銃、軽機関銃、狙撃銃、無反動砲、拳銃の分解結合と整備、手入れである。
第3グループは、飛行甲板の一部と、トレーニングルームで、体力錬成を行う。
第4グループは、第3グループと同じく飛行甲板を間借りし、89式5.56ミリ小銃及び9ミリ拳銃を使った実弾射撃訓練である(第4グループの訓練は、毎日同じ訓練では無い)。
「第2小隊!撃て!」
第2水陸機動連隊第1中隊第2小隊長である、比嘉岳斗3等陸尉が叫ぶ。
彼の部下たちは、89式5.56ミリ小銃を構えて、人型の的に向かって単発射撃で実弾射撃を行う。
「撃て!」
比嘉の号令と共に1発発砲し、1歩前進する。
「頭部!撃て!」
比嘉の号令で、隊員たちは胸元から頭部に照準を合わせて、発砲する。
「撃ち方やめ!安全装置!」
第2小隊の隊員たちは、89式5.56ミリ小銃を降ろし、安全装置をかける。
「穐田士長。撃つ時は、しっかり腕を押さえる事に集中しろ。それでは弾の無駄撃ちだ」
比嘉は、3個小銃班の隊員たちに、適切な指摘や注意を行う。
「もう一度、所定の場所に戻り、実弾射撃を行う」
比嘉は、部下たちを元の場所に戻した後、89式5.56ミリ小銃に実弾入りの20発弾倉を再装填させ、再び、実弾射撃を行う。
実弾射撃の方法は、各小隊さまざまであり、比嘉のように前進しながら射撃を行う小隊もあれば、所定の場所から動かず、3点射制限射撃で、人型の的を撃つ隊もある。
基本的には、各小隊の陸曹たちが実弾射撃のメニューを作成し、小隊長が確認した上で、中隊長に提出、中隊長が許可すれば、実弾射撃のメニューは承認される。
比嘉自身も、さまざまな方法で、部下たちに射撃訓練や、徒手格闘術の指導を行った。
彼自身も、新世界連合多国籍民間軍事企業から、指導社員を派遣してもらい、指導してもらった。
今回は、ハワイの時のように、彼が嫌う自己保身ばかりを考える、卑怯なアメリカ人はいない。
彼が尊敬する、本当のアメリカ人と戦う事になる。
ハワイ占領時は、初陣だったという事もあり、激しい気の昂ぶりから、負傷兵を見捨てて(これは、比嘉の主観だが)逃げた、アメリカ軍を見て、妹の心に深い傷を負わせ死に追いやった、在日米軍の脱走兵と、人の不幸を自分の利益にしようと考える者たちを思い出し、自分でも後から考えれば、信じられない程過激な言葉を吐き捨てた。
こんな感情で、左右されていては、自分はおろか、部下も守れない。
いかなる時も冷静さを失わない、強い精神力を持たねばならない。
常に厳しい訓練メニューで、自分と部下を、鍛えなくてはならない。
冷静さを取り戻した比嘉は、常に自分に言い聞かせていた。
真紅の旗 其れは革命の色 第15章をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますがご了承ください。




