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真紅の旗 其れは革命の色 第14章 北太平洋海戦 2 水中の戦い 1つの選択

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 アメリカ合衆国アラスカ州ダッチ・ハーバー海軍基地の軍港では、[ポートランド]級重巡洋艦[インディアナポリス]、[ノーザンプトン]級重巡洋艦[ルイビル]の、2隻を基幹とする水上戦闘艦部隊と駆逐艦、フリゲートが、多数投錨している。


 空母は存在しないが、航空戦力は、アリューシャン列島や、アラスカ州南部地方等に航空基地が置かれ、偵察機、戦闘機、攻撃機等が配備されている。


 ダッチ・ハーバー海軍基地を拠点にする北太平洋艦隊(サンディエゴ海軍基地に移管された太平洋艦隊の下部組織)は、アリューシャン列島の主要島に、大規模な航空基地の制海権確保と、シーレーン確保が主要な任務である。


 複数の島で、アメリカ陸軍航空軍戦略空軍基地が建設中であり、大日本帝国本土への戦略爆撃態勢が、着々と進められていた。


 現在は、定期的にフリゲートや潜水艦が出港し、アリューシャン列島の海上警備及び海上哨戒を行っている。


 早朝と共にダッチ・ハーバー軍港を出港する、[ガトー]級潜水艦があった。


 同級潜水艦は、従来の[ガトー]級潜水艦とは異なり、レーダーや大口径機関砲が、搭載されていた。


[ガトー]級潜水艦の改良型であり、艦隊哨戒型及び沿海警戒型潜水艦である。


「艦長。レーダーが、起動しました。レーダーの感度は、良好です」


 レーダー員が、報告する。


「了解。レーダー員は、常時レーダーから目を離すな」


 改良型[ガトー]級潜水艦の艦長が、艦橋から司令塔に降りた。


「艦長。海軍省情報部からの電文です」


 副長が、通信文を持って、艦長の前に立った。


「わかった」


 艦長は、副長から、通信文を受け取る。


「どうやら、大日本帝国軍と、パシフィック・スペース・アグレッサー軍で、大規模な作戦行動が進行中のようだ・・・」


 艦長が言った[パシフィック・スペース・アグレッサー]とは、太平洋で暴れ回るスペース・アグレッサー軍の呼称である。


 大西洋に出現したスペース・アグレッサー軍は、[アトランティク・スペース・アグレッサー]と呼ばれている。


「東南アジアでは無く、北太平洋方面に、攻勢をかける可能性があるという訳ですか?」


 副長は、艦長から受け取った通信文に、すばやく目を通す。


「国土防衛上、間違った判断では無い。戦略爆撃機の基地が、アリューシャン列島で建設中だからな。さらに大日本帝国本土の空襲を、許している。本土防衛から考えれば、北太平洋への攻撃は、やむを得ないだろう」


「さらに、ルーズベルト大統領が行っている、主戦論活動と反戦論活動の支援により、どちらの勢力の力も増しています。これにより、パシフィック・スペース・アグレッサー軍空軍が行った、アメリカ本土空襲を民衆レベルで封じました。もしも、再びアメリカ本土を空襲すれば、大日本帝国が行っている和平工作に、支障が生じます」


「その通り、彼らの思惑は不明だが、我々との共存を望んでいるのは確かだ。その場しのぎの時間稼ぎではあるが、アメリカ本土防空態勢強化の時間を稼ぐ事はできる」


 だが、艦長としては、彼らがこのまま何もしないはずが無いという事は、予想している。


 これは、潜水艦の艦長としての勘だ。


 潜水艦は、水上艦とは違い、見えない相手と戦わなければならない。


 見えない以上、勘と予想に頼らなくてはならない。


 しかし、いくら潜水艦の艦長でも、すべてが見える訳では無い。


 2つのスペース・アグレッサー軍。


 アトランティック・スペース・アグレッサーこと、サヴァイヴァーニィ同盟軍が、新世界連合軍の存在を最大限に利用したように、パシフィック・スペース・アグレッサーこと、新世界連合軍も、米英独伊がフォークランド諸島に展開する、サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟海軍に気を取られている隙を突いて、エクアドルを橋頭堡として起こす作戦が、すでに準備段階から実行段階へ移行していた。





[黒潮]型潜水艦[早潮]は、第4航空艦隊や大日本帝国陸海軍上陸部隊等を乗せた輸送艦隊よりも先行し、アリューシャン列島方面に展開していた。


「艦長。潜航開始時間です」


 副長の草柳星斗(くさやなぎせいと)少佐が、懐中時計で時刻を確認しながら報告する。


「潜航用意!」


 艦長の(かさ)見則(みのり)(みち)中佐は、潜航指示を出す。


 艦内に、潜航を知らせるブザー音が、鳴り響く。


[早潮]の乗組員は、開戦前から乗り込んでいるため、練度は高く、各要員の配置も早い。


 笠見の指示後、[早潮]は海中に艦体を沈めた。


「潜望鏡深度」


 笠見は潜望鏡深度まで潜航させると、潜望鏡を上げて、海上の警戒を行った。


 ここは、すでに敵の勢力圏内であるため、昼間はアメリカ陸軍航空軍や、海軍の哨戒機が常に飛び回る。


[早潮]が浮上航行していたのは、しばらく、乗員全員が外気を感じる事と、外の景色を眺める事ができないため、乗員のリフレッシュもかねて、艦長命令で浮上航行を行っていたのだった。


「艦長。軍令部より、定時連絡が入りました」


 笠見が潜望鏡から離れ、代わりに副長が、潜望鏡を覗く。


 通信士が持ってきた通信文を、笠見は確認する。


 軍令部からの定時連絡では、アリューシャン列島での最新の情報等が、記載されている。


「副長。アムチトカ島に、アメリカ海軍航空隊が進出、対潜水艦哨戒機部隊が、配置されたそうだ」


 笠見は、通信文を草柳に渡した。


「キスカ島では、哨戒艇や水雷艇の基地として整備されていますから、恐らく、アムチトカ島に、海軍航空隊陸上型哨戒機部隊を配置する事で、警戒態勢の向上等が図られているのでしょう」


 副長の推測に、笠見はうなずく。


「航海長。速力4ノット、深度50まで潜航せよ」


 笠見の指示を、航海長は復唱し、操舵手たちに命令を伝達した。


 速力4ノットは、[黒潮]型潜水艦が水中航行した場合、水上艦や潜水艦のソナーでは、発見が困難な速度だ。


「水雷長」


「はっ」


「水雷科の下士官や、兵たちの士気は?」


「はい、開戦時よりも、さらに高まっています」


「そうか、それは何よりだ」


[早潮]は開戦以来、実戦を重ねてきた潜水艦であり、初陣で空母[ラングレー]を撃沈した後も、南太平洋での作戦に従事した。


[早潮]の戦果は、空母1隻を除くと護衛駆逐艦2隻、潜水艦2隻、輸送船6隻である。


 連合軍による大日本帝国本土侵攻時は、佐世保鎮守府でドック入りし、艦の整備と補修が完了したばかりだった。


[早潮]は、他の同型艦と同じく、聯合艦隊指揮下から海軍総隊指揮下に移されて、南東諸島での英蘭印連合軍との激戦を繰り広げた。


 南東諸島での戦闘終結後、聯合艦隊と海軍総隊の改編のために、一時的に[早潮]乗組員全員に長期休暇(5日間)が与えられた。


 乗組員全員が故郷に帰省し、家族との短い団欒を過ごした。


 アリューシャン列島での作戦は、休暇明けの出撃である。


 笠見も九州地方に引っ越した家族と、短い期間ではあるが、楽しい時間を過ごした。


「聴音室より、艦長!スクリュー音を、捕捉しました!」


「駆逐艦か?」


 笠見が聞くと、聴音士は耳をすませた。


「いえ、潜水艦です。潜望鏡深度で潜航中」


「気づかれた様子は?」


「ありません」


 聴音士からの報告に、笠見は腕を組んだ。





 ダッチ・ハーバー軍港から定期の哨戒任務で出港した改良型[ガトー]級潜水艦は、潜望鏡深度で、レーダーアンテナを海面に出し、周辺の索敵を行っていた。


「レーダーに、反応は無いか?」


「いえ、何も探知できません」


 艦長の問いに、レーダー士官が答える。


「艦長。随分と静かですね」


 副長が、答える。


 ソナー員が耳をすませて、海中をくまなく捜索していると・・・


「!!?ソナーより、艦長。スクリュー音探知!潜水艦が接近しています!!」


「レーダーを降ろせ!急速潜航!」


 艦長は指示し、潜航指揮官が復唱する。


「急速潜航!ダイブ!!ダイブ!!」


 バラスト・タンクに海水が流れ込み、そのまま改良型[ガトー]級潜水艦を、海中深く沈める。


「敵潜が、魚雷を発射!接近中!」


 ソナー員が、叫ぶ。


「機関全速!左舵一杯!」


 艦長は、回避行動の処置をとる。


「ソナー!魚雷が至近まで近づいたら、当たるかどうか教えろ!」


「サー!」


「深度50メートル!」


 潜航指揮官が、叫ぶ。


「艦長。敵潜の魚雷は、ゆっくりと深度を調整しながら、本艦に接近しています!」


「メイン・タンク・ブロー!急速浮上、深度30!」


「メイン・タンク・ブロー!!」


 潜航指揮官が、叫ぶ。


「魚雷命中まで、8秒!7、6、5、4、3、2、1!」


 ソナー員がカウントするが、魚雷が命中する衝撃を感じなかった。


「魚雷が通過し、そのまま後方に向かっています!」


「艦長!反撃しましょう!」


 副長が、具申する。


「いや、それよりも、大日本帝国海軍の潜水艦が、接近している事を報告する!通信ブイを上げろ!」


「通信ブイを、上げます!」


「通信士!平文でいい!送信しろ!!」


「サー!」


 通信士は叫び、短く『大日本帝国軍来襲』と、タイプのキーを叩いた。


「艦長!敵潜より、魚雷第2射が、発射されました!」


「艦長。通信ブイを上げている状況下では、回避行動は、極端に制限されます!」


「承知している!」


 艦長は、自艦防衛よりも、大日本帝国軍が襲来した事を、ダッチ・ハーバーの北太平洋艦隊司令部に報告する事を優先した。


 ダッチ・ハーバー軍港には、重巡[インディアナポリス]を基幹とする水上艦戦闘部隊が、緊急出港準備を常時整えている。


 恐らく、奇襲攻撃である事は確実である。


 すでに魚雷攻撃を行ったという事は、敵の空母機動部隊は、近海まで接近している事になる。


 ここで、通報すれば、少なくとも奇襲攻撃に備えられる。


「魚雷接近中!まもなく命中します!」


 ソナー員からの報告に、艦長は目を閉じた。


 発射された魚雷が、改良型[ガトー]級潜水艦の艦体に直撃し、炸裂した。


 衝撃波が艦体を襲い、大量の海水が流れ込む。


 乗員のほとんどは、魚雷炸裂時の衝撃波で絶命し、無事に生き残れた者は、北太平洋の冷たい海水と水圧で、絶命する事になる。


 5月とは言え、北太平洋の海水温は極めて低い。


 だが、艦長が行った最後の賭けである通信は、ダッチ・ハーバーの北太平洋艦隊司令部に確実に届けられた。





「敵、[ガトー]級潜水艦の沈没を確認!」


[早潮]の聴音士が、報告する。


「自艦防衛よりも、北太平洋艦隊司令部への通報を優先したか・・・」


「敵ながら、尊敬できる軍人ですね」


 笠見のつぶやき、草柳が感服したようにつぶやく。


 敵潜水艦の艦長は、単に改良型[ガトー]級潜水艦を犠牲にしただけだが、こちらの存在を、完全に通報された事になる。





 ダッチ・ハーバーに置かれている北太平洋艦隊司令部通信室では、改良型[ガトー]級潜水艦から送られてきた緊急電文を受信した。


「少佐!大日本帝国海軍の、潜水艦を発見しました!!」


 通信兵からの知らせに、カーキ色の海軍将校用勤務服を着た少佐が、通信文を受け取る。


「どこに、現れた?」


「そこまでは、詳しく書かれていません。単に、大日本帝国軍来襲と、潜水艦から雷撃を受けていると、電文が平文で送られただけです」


 通信兵の言葉に、少佐は振り返った。


「中尉。すぐに作戦室に出向いて、電文を送信した潜水艦の位置情報を、確認しろ!」


「サー!」


 中尉が、通信室を飛び出す。


 少佐は、司令部に設置されている内線電話の受話器を取り、司令室に緊急連絡した。





 北太平洋艦隊司令官は、トーマス・カッシン・キンケイド少将である。


 副官から、通信室から緊急連絡が入ったという報告を受けて、キンケイドは、内線電話の受話器を取った。


「どうした?」


「提督。哨戒任務中の[ガトー]級潜水艦が、大日本帝国海軍の潜水艦から雷撃を受け、通信が途絶しました。最後の交信で、大日本帝国軍来襲、という電文の後、一斉の連絡がありません」


 キンケイドは、太平洋と大西洋の戦況から、些細な事柄でもすぐに報告するように、布告を出していた。


「わかった。詳しい情報が入りしだい、伝えろ」


 キンケイドは、そう言った後、受話器を置いた。


「大尉。巡洋艦任務部隊司令官を、通信で呼び出せ」


「サー、ただちに!」


 キンケイドは、ダッチ・ハーバー軍港で投錨している重巡[インディアナポリス]を基幹とする巡洋艦部隊の司令官である、チャールズ・ホレイショ・マクモリス少将と直接交信を行う事にした。


 マクモリスは、ハワイ諸島オアフ島パールハーバーが、奇襲攻撃を受けた際、太平洋艦隊の作戦参謀だった。


 主要戦闘艦艇の、ほとんどが撃沈、大破等の損害を受け、オアフ島に大日本帝国陸海軍上陸部隊と、パシフィック・スペース・アグレッサー軍上陸部隊が上陸時、陸軍や海兵隊と共に臨時の陸戦部隊を組織し、上陸部隊への侵攻阻止を行った。


 マクモリス自身も、M1903A1を持って、自ら白兵戦を行った。


 キンケイドも、その奮戦は知っており、彼が自分の部下になった際には、マクモリス以外に前線指揮官はいないと公言した。


「提督。マクモリス提督と、繋がりました」


「うむ」


 副官からの知らせに、キンケイドは、外部通信機の受話器を耳に当てた。


「マクモリス君。大日本帝国海軍の潜水艦が、発見された。ただちに、艦隊を緊急出港させて、沖合に展開してくれ。港では、恰好の的だからな」


「了解しました。ただちに全艦を、出撃させます」


「恐らく、パシフィック・スペース・アグレッサー軍及び麾下の、ゴースト・フリートもいるだろう。パールハーバーでの雪辱を、晴らす機会だ」


「了解しました。最善を、尽します!」


 マクモリスからの返答を聞いた後、キンケイドは、受話器を置いた。


「大尉。航空部隊に連絡し、艦隊と基地上空援護を、要請しろ!」


「ただちに伝達します」


 ダッチ・ハーバーには、陸軍航空軍及び海軍航空隊、海兵隊航空部隊の陸上基地があり、迎撃戦闘飛行隊が多数存在する上に、対空高射砲陣地も、増設されている。


 そう簡単には、近づけないだろう。

 真紅の旗 其れは革命の色 第14章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は6月12日を予定しています。

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