真紅の旗 其れは革命の色 第10章 北アフリカ攻防戦 2 ブラックマンバの毒牙
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
ドイツ第3帝国国防軍陸軍アフリカ軍団司令部は、チュニジアに置かれている。
アフリカ軍団司令官であるダーヴィット・ルーカス・ベーテルス元帥は、司令部庁舎の作戦室で、エジプト王国のスエズ市に、スペース・アグレッサー軍が、空挺降下した事を聞かされた。
「元帥閣下!エジプト駐留のイギリス軍司令部から、重戦車部隊の応援要請です」
ベーテルスは、腕を組みながら、北アフリカの地図を眺める。
「1個重戦車大隊を、早急に投入せよ」
「わかりました。ただちに!」
作戦参謀が答え、部下に最寄りの駐屯地から、重戦車大隊を投入する指示を出した。
「それと空軍に連絡し、上空援護飛行隊と制空飛行隊を、緊急出動させろ!」
「わかりました」
通信参謀が立ち上がり、通信室に駆け出した。
「・・・・・・」
ベーテルスは、作戦室の窓に立った。
「ソ連では、ロンメル元帥麾下の統合軍は、アメリカ軍、イギリス軍とで統合編成された連合軍による防衛戦でも、敵の攻勢を防ぐ事は、できなかった・・・」
彼は、懐からパイプを取り出し、口に咥える。
火をつけて、煙を吸う。
「フォークランド諸島でも、独伊米英の4ヶ国連合艦隊は、新型爆弾と、恐るべき超兵器による攻撃で・・・敗退した・・・」
「元帥閣下?」
高級副官が、声をかけた。
「貴官は、どう思う?」
「は?」
ベーテルスの質問に、高級副官の大佐は、首を傾げる。
「太平洋に現れているスペース・アグレッサー軍と、大西洋に現れているスペース・アグレッサー軍は、同一だと思うか?」
「小官には、わかりかねます。判断材料が、少なすぎます」
ベーテルスは、高級副官の言葉に、パイプの煙を吐き出した。
「そうか・・・貴官は、慎重だな」
「元帥閣下ほどでは、ありません」
高級副官からの言葉に、ベーテルスは苦笑した。
「元帥は、どうお考えなのですか?」
大佐の質問に、ベーテルスは、パイプを手に持った。
「私は・・・2つの勢力は、異なる勢力だと認識している。もしも、2つの勢力が同一勢力なら、ここまで回りくどいやり方は行わない」
「その根拠は、何なのですか?」
「根拠・・・か。それは、私の勘だ」
ベーテルスは、副官に振り返り言った。
「彼らの武力は、貴官も理解しているだろう。もしも、2つのスペース・アグレッサー軍が、互いを牽制し合っていれば、我々は、どちらかの勢力に付く。という選択と、生存権の確保ができる」
「元帥!!」
高級副官が、慌てた。
「利敵行為と誤解を受ける発言は、慎んでください。我々は、彼らの事を何も知りません。ですが、イギリスとアメリカは、彼ら双方から、痛い目に合わされています。ドイツ第3帝国は、強大な軍事力を持っていますが、同盟国との関係を拗らせる可能性のある発言は、国家の国益等に、重大な危機を及ぼします」
高級副官からの指摘に、ベーテルスは咳払いをした。
「これは、軽率な発言だった。どうやら、激務に追われて、少し気が緩んでしまっていたようだ。貴官の指摘に感謝する。それと、今後はこのような発言は、慎む事にしよう」
ベーテルスの言葉に、高級副官が表情を和らげた。
「小官の意見を聞き入れてくださり、ありがとうございます」
ベーテルスは、パイプを再び口に咥え、窓からチェジニアの町並みを眺めた。
世界が始めた、第1次世界大戦による体制の崩壊の反動が、次の世界大戦を、引き起こした。
だが、この世界大戦は、自分たちが始めた世界大戦では、無くなった。
「神は・・・再び、我々、人間に試練を与えた・・・神は、どのような感情で、それを傍観しているのだろうか・・・」
ベーテルスは、窓から空を眺めながら、つぶやいた。
アフリカ軍団司令部から出動命令を受けた、1個重戦車大隊は、ティーガーⅠ群のエンジンを始動し、出撃した。
アフリカ軍団の重戦車は、ティーガーⅠが、主力戦車として配備されている。
ティーガーⅡは、主にロンメル統合軍や、ヨーロッパ東部方面に優先的に配備され、西部方面及び北アフリカでは、ティーガーⅠが、主力となっている。
「全車前進!!」
大隊長の号令で、重戦車大隊は、一斉に前進を開始した。
「・・・・・・」
大隊長である中佐は、ティーガーⅠの車長席から、事前に受けた、スエズ市の戦況の報告を、思い返していた。
「我々が到着する頃には、戦局は、さらに変わっているだろうな・・・」
情報では、空挺降下したスペース・アグレッサー軍は、極めて強力な空挺戦車を主力とした重武装の歩兵部隊と共に、スエズ市に降下した。
彼にも、ソ連での戦況については、ある程度報告されている。
最新鋭のティーガーⅡや、アメリカ陸軍の重戦車であるM26[パーシング]、イギリス陸軍の巡航戦車センチュリオンで編成された、防衛部隊でも敵わなかった。
「しかも・・・重武装化した空挺部隊を空挺降下させたのは、イタリア王国陸軍による、エジプト方面への空挺降下作戦を、さらに発展させたものか・・・」
大隊長は、ドイツ帝国とイギリスが戦争状態だった時も、北アフリカ軍団機甲軍勤務だった。
イタリア王国陸軍は、快速戦車であるCV33を、輸送機に搭乗させ、イギリス陸軍防衛部隊後方に、空挺降下させた。
快速戦車は、その機動力をふんだんに生かし、補給部隊や兵站施設を奇襲攻撃、その結果、前線に展開したイギリス陸軍は、満足な補給を受ける事ができず、ドイツ帝国国防軍とイタリア王国軍による陸空からの総攻撃に敗退した。
彼に与えられた任務は、極めて強力な空挺戦車と正面戦闘を行い、イギリス軍とエジプト軍による数個師団等で編成された奪還部隊の、突入援護である。
ティーガーⅠは、8.8センチ戦車砲を搭載しているため、火力は高い。
重戦車の特徴である打撃力と、防御力を全面に出して、敵を翻弄するというのは、重戦車運用の基本戦術であるが・・・
「そのような方法で、うまくいかないのは太平洋方面、日本本土侵攻で、経験しているだろう・・・まあ・・・イギリスは、イラク防衛や、ヨーロッパ防衛、太平洋方面に、優秀な陸軍指揮官を投入しているからな。北アフリカ方面に配備されているイギリス軍指揮官は、3流ばかり。という事か・・・」
大隊長は、車長席で上半身を出したまま、軍団司令部から届いた敵空挺戦車の情報を、確認した。
戦場に展開したイギリス軍部隊と、エジプト軍部隊からの情報であるため、信憑性は薄いが、8.8センチ砲を遥かに超える戦車砲であるとの事だ。
「12.8センチ砲クラス・・・か」
大隊長は、ドイツ本国で開発されている、大口径の戦車砲を搭載した戦車を思い浮かべながら、つぶやいた。
「我々だけで、どこまでやれるか・・・」
「大隊長!!」
大隊次席指揮官車から、無線が入った。
「どうした?」
「この先の合流ポイントで待機中の、イギリス陸軍部隊と、交信ができません。先ほどから、何度も交信しておりますが・・・」
「何だと?」
大隊長は、全車停止の指示を出した。
「?」
大隊長は、遥か前方に上がっている土煙を確認し、双眼鏡を向ける。
「ドイツ軍戦車部隊を発見!規模は、1個大隊規模!!」
サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟陸軍第4軍集団第401義勇軍は、偵察隊からスエズ市に接近する、4ヶ国連合軍加盟国軍のドイツ第3帝国国防軍陸軍戦車部隊の報告を受けた。
「もう少し早く来ると思っていたが・・・随分と遅いな」
筋肉質な身体付きをした長身の、ソマリア系アフリカ人の男が、イギリス陸軍の臨時編成部隊である、スエズ市奪還部隊が使用していた、司令部でつぶやいた。
司令部内では、AK-47や、その派生型で武装した、彼の部下たちが詰めていた。
「いかがいたしますか?」
「決まっている。アフリカの明日を築くために、奴らを排除する」
「はっ!」
大型の無線機を持った無線兵から、副官が受話器を受け取り、交信した。
指揮官らしき筋肉質の男は、腰に回していたAKMSを、手に持った。
彼らは元々、アフリカ諸国の正規軍でも、義勇軍でも無い(中には籍を置いていた者も、いるが・・・)。
指揮官を含めて、第401義勇軍は、アフリカ諸国から集められた、テロリストや、非合法傭兵組織に所属していた者たちだ。
サヴァイヴァーニィ同盟軍は、元正規軍や義勇軍から志願した者たちだけで編成されている訳では無い。
中央ヨーロッパ、アフリカ、アジア、南アメリカ等の反政府軍や、非合法傭兵勢力から志願した者もいる。
彼らには、義勇軍としての身分が与えられ、さまざまな軍事作戦、非軍事作戦に従事する。
因みに、新世界連合軍にも、同じ様な部隊が、新世界連合軍、連合支援軍とは別に編成されている。
司令部の外に駐車していた、テクニカル化された軽車輌に乗り込んだ、彼の部下たちが出撃する。
テクニカルとは、民生車輌の荷台に、重機関銃や無反動砲等の重火器を搭載した、急造火力支援車輌の事である。
同様の意味で、ガントラックという表現が存在するが、ガントラックとは異なる。
一般的にガントラックとは、非武装の軍用車両(輸送用車輌)に装甲を施し、機関銃や大口径機関砲等を武装する即席戦闘車両の呼称として使われる。
それに対し、テクニカルとは、単に一般に出回っている民生用の自動車に、重火器を搭載するだけで、防弾仕様に改造していない事が特徴である。
先進国に分類される正規軍や、警察機関にも、テクニカル化車輌という表現があるが、これは間違いである。
正規軍や警察機関では、重火器だけでは無く、防弾板等も取り付け、搭乗員の安全性を確保しているため、ガントラックという表現の方が正しい。
因みに、テクニカル化車輌として人気のある小型自動車や、中型自動車は、日本製で、大型自動車(中型自動車も含む)は、アメリカ製である。
日本製及びアメリカ製の自動車は、正規軍、警察組織、反政府軍勢力から好んで使われている。
好まれる理由としては、どちらも安価で、安全性が高いからである。
どちらも、交通事故等による乗員の安全性を、第一に考えているため、政府軍や国連軍から攻撃の際、他製車輌よりも生存性は高い。
もう1つ付け加えると、日本製車輌、アメリカ製車輌の次に人気があるのは、中国製である。
人気の理由として、最初からテクニカル化やガントラック化に改造し易いように生産されている自動車であるため、日本製車やアメリカ製車と異なり、さらに大口径の機関砲や、ミサイル、戦車砲まで搭載可能であるからだ。
中国は、これを否定しているが、彼の国は、地図を見れば、複数の国家と国境が隣接しているのは一目瞭然である。
万が一、何れかの国と国境で紛争状態になれば、正規軍が展開するまでの間、民生車を即席で改造した軍用車両で、ある程度は防衛できると考えれば、それも有りだろう。
もっとも、戦場となった場所は、中国史を思い出せば、悲惨な状態に、なるであろうが・・・
第401義勇軍傘下の彼に率いられている大隊にも日本製、アメリカ製、中国製の自動車が揃えられている。
テクニカル化された車輌に乗り込んだ彼は、ドイツ帝国軍戦車部隊を迎え撃つために、配置に付く。
「アフリカの大地に、我々の手で、真の春の光をもたらすのだ!アフリカを植民地として支配し、搾取する者どもを一匹残らず駆逐せよ!!」
「「「アフリカに、春を!!!」」」
無線機に向かって叫ぶ、彼に答えるように、部下たちが呼応する。
「戦闘開始!!」
旧ソ連軍製の、SPG-9を搭載した小型トラック群等は、ティーガーⅠの進行方向の正面に展開した。
SPG-9は、旧ソ連及び旧東側陣営諸国に大量に導入された無反動砲であり、2000年代から第1線兵器としては姿を消しつつあるが、民兵勢力では第1線の位置付けである。
「対戦車弾装填!」
指揮官クラスの男が、指示を飛ばす。
SPG-9は、RPG-7等の携帯式対戦車擲弾発射器と同じく、弾頭にはロケットブースターと安定翼が装備されている。
砲弾としては、対戦車弾と対人用の榴弾が使用できる。
SPG-9を搭載した車輌部隊が、砲撃準備を整えると、別の場所でBM-21を搭載した大型トラック群が、一斉にロケット弾を発射した。
40連装ロケット弾発射器であるため、1輛に付き40発が、発射される。
発射した車輌は、4輛であるため、160発のロケット弾が、一斉に白い筋を描く。
発射されたロケット弾は、対戦車子爆弾散布弾頭であるため、戦車部隊上空で大量の対戦車子爆弾が降り注ぐ。
ドイツ帝国軍の戦車大隊は、前進速度を緩めて、様子を伺っていた時であったため、上空からの攻撃を、真面にくらった。
戦車の急所でもある上部装甲板に直撃するだけでは無く、80年後の第3世代主力戦車や、第3.5世代主力戦車にもダメージを与える事ができる対戦車子爆弾に、ティーガーⅠの上部装甲板が耐えられるはずも無く、そのまま上部装甲を貫き、内部まで侵入され、炸裂する。
たちまち、多くのティーガーⅠが、火の塊と化した。
だが、無誘導の対戦車子爆弾であるため、すべてのティーガーⅠを撃破する事は、できなかった。
残存するティーガーⅠは散開し、前進速度を速めて、攻撃態勢をとる。
BM-21は、奇襲攻撃力は極めて高く、その戦果を大きく上げる事もできるが、それだけである。
その後では、敵部隊も態勢を整えて部隊を展開するため、次弾攻撃による戦果は低い。
しかし、それは始めから計算の内である。
「発射!!」
SPG-9を搭載する車輌部隊指揮官が、発射命令を出す。
命令と共に、一斉にSPG-9の砲口が吼え、対戦車弾が発射される。
口径は73ミリであるが、対戦車弾は、主力戦車の正面装甲を貫徹する能力を有するため、ティーガーⅠの正面装甲を貫き、撃破する。
「移動!」
第1射攻撃を行った後、指揮官は配置変換を指示した。
これは、元の時代でアフリカ各国の政府軍等との戦闘経験から、得た物だ。
テクニカル化された改造車とはいえ、民生車輌であり、戦車砲を真面に受ければ、無事ではすまない。
しかし、機動力でいえば、不整地でも戦車以上の速度と小回りができる。
ティーガーⅠも、戦車砲の射程距離に入ると砲撃を行うが、あまりにも小回りな回避行動をするため、照準が合わせづらく、発射しても、あまり効果が無い。
機銃による射撃に、頼らざるを得ない。
バラバラに散らばったために、ティーガーⅠも同じく散開し、自動車を追跡しなければならなかった。
重量57トンという過大な重量が仇となり、数トン程度しか無い自動車のスピード等について行けず、1輛と1輛と、確実に撃破されていった。
「1発で仕留めようと、思うな!ティーガーは足回りが弱点だ!履帯を破壊して立ち往生させろ!!」
走行するテクニカル車から、身を乗り出してRPG-7を構える部下に、運転手である上位者が、声をかける。
「了解!」
50メートルの距離まで近付き、RPG-7で、ティーガーⅠの履帯を破壊する。
そのまま、ティーガーⅠに近付き、車輌から乗り移った兵士が、上部ハッチをこじ開けて、対戦車手榴弾を内部に放り込む。
「くたばれ!!」
ティーガーⅠは、内部から炎が噴き出し、炎上する。
アフリカの内戦に介入してきた、アメリカ軍とも戦った経験がある彼らに対し、ドイツ陸軍の戦車大隊は、翻弄された。
砂漠という平地では、もっとも戦車が、その力を発揮できる場所であるが、そのような戦いに熟知した彼らと戦うのは、至難の業だ。
紀元前の時代、第2次ポエニ戦争の最終戦とも言える、ザマの会戦において、ハンニバルの率いるカルタゴ軍の象部隊の突撃を、奇策で打ち破ったスキピオ率いるローマ軍歩兵部隊のように・・・
真紅の旗 其れは革命の色 第10章をお読みいただきありがとうございます。
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次回の投稿は5月29日を予定しています。




