真紅の旗 其れは革命の色 第9章 北アフリカ攻防戦 1 スエズ運河攻略
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟空挺軍第11親衛空挺師団は、同盟航空宇宙軍空挺輸送航空軍傘下のII-76D群に搭乗し、空挺降下の準備に入っていた。
降下地点は、スエズ運河近辺のエジプト都市部である。
スエズ運河近辺の都市部を制圧する事で、スエズ運河の自由航行権の確保と、ニューワールド連合軍との全面戦争が勃発した場合に備えて、アジアとヨーロッパを繋ぐ海路の遮断等が目的である。
「降下まで、10分!」
サヴァイヴァーニィ同盟軍航空宇宙軍空挺輸送航空軍傘下のII-76Dの、1番機に搭乗する第11親衛空挺師団長のグリゴリー・ゴレロフ少将が、ヘッドセットで各機に搭乗する部下たちに告げた。
「作戦内容は、諸君等も知っての通り、我々はスエズ湾にある都市、スエズ市に空挺降下を行う。この攻略作戦の重要性は、言うまでも無い。スエズ市には、イギリス軍だけでは無く、エジプト王国軍が駐留し、情報では3個師団が配備されている。さらに、ドイツ第3帝国とイタリア王国とも軍事同盟を締結したため、ドイツ帝国陸軍のアフリカ軍団及び、イタリア王国陸軍のアフリカ軍から、応援部隊が送られてくるだろう。戦闘は、極めて激戦が予想されるが、これまでの訓練と実戦経験を思い出し、奮戦せよ。以上!!」
ゴレロフが言い終えると、コックピットから「降下まで5分」の連絡が入る。
第11親衛空挺師団は、2個パラシュート降下連隊と、1個BMDで編成された機械化連隊、対戦車自走砲の連隊で編成されている。
それがパラシュートで、空中降下及び空中投下される。
兵員は、7000名程度の1個空挺師団ではあるが、歩兵携行火器や装甲車、歩兵戦闘車、対戦車自走砲、各種ミサイル等で武装しているため、戦闘能力は1個軍程度に相当するだろう。
対戦車自走砲を積み込んでいるII-76Dでは、空中投下の最終段階に入っていた。
空中投下されるのは、2S25[スプルート-SD]である。
重量18トンという軽量化された対戦車自走砲は、16式機動戦闘車の25トンよりも軽いが、125ミリ対戦車滑腔砲を搭載し、ある程度の攻撃に耐えられる、防弾能力を有する空挺戦車と呼称すべき、戦闘車両である。
同車は、1個中隊が、第11親衛空挺師団対戦車自走砲大隊に所属している。
125ミリ滑腔砲は、T-72、T-80、T-90といった主力戦車と同じ口径の対戦車砲であるため、ほとんど、主力戦車と変わらない戦闘能力を有する。
対戦車自走砲大隊第1中隊第4小隊長のエフィム・ベジュフ・アゼフ中尉は、空中投下までの時間を、車長席で待っていた。
2S25は、乗員が搭乗した状態での空中投下が可能であり、別々に降下する必要が無い。
「投下まで、10秒!9、8、7、6、5、4、3、2、1。投下!!」
その瞬間、2S25は機内の貨物室から、外へと飛ばされた。
そのまま、パラシュートが開傘し、一気に落下速度が低下する。
他の機からも、同じ様に空挺降下するパラシュート兵や、空中投下される装甲車、歩兵戦闘車が確認できる。
今ごろ、地上では大騒ぎだろう。
対空兵器等は、インド洋まで進出した、サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟海軍の攻撃型原子力潜水艦や、水上艦からの巡航ミサイルで撃破され、イランの航空基地から出撃した戦闘攻撃機が、空対地ミサイルによる正確な攻撃で、確実に対空兵器を無力化していく。
さらに、スエズ市に潜伏している特殊部隊等が、同時多発的に破壊活動や攪乱工作を行って、地上部隊を混乱させる。
スエズ市。
1860年末に、スエズ運河が完成した後、整備された港都市である。
スエズ運河を利用する船舶が、常に立ち寄る重要な港であり、船乗りたちに休息を与える街でもある。
港には、スエズ運河出入口の防衛、警備のために軽巡洋艦を中核とした警備艦隊が配備され、街もイギリス陸軍から1個師団、エジプト陸軍から2個師団が配備され、都市部の防衛、警備を任されている。
講和が成立するまでは、ドイツ第3帝国国防軍陸軍の重戦車運用による打撃力と、イタリア王国陸軍の身軽な軽戦車や豆戦車で編成された、機動力を駆使して後方を攪乱する戦法を使う空中強襲部隊の、同時攻撃に対する防衛態勢も構築されていた。
イタリア王国陸軍は、4発式の輸送機群による空挺降下作戦を行うため、対空砲を増設して、それらの降下作戦を阻止し、ドイツ帝国陸軍には、17ポンド対戦車砲を配置し、重戦車からの侵攻阻止を行う。
しかし、3国の講和協定と軍事同盟協定が締結された事により、対空砲や対戦車砲による対独伊防衛作戦は、そのまま対スペース・アグレッサー軍への防衛作戦に変更された。
その防衛態勢も難なく破られ、スエズ市は、混乱の渦へと引き摺り込まれた。
突如、無数のロケット弾が現れ、対空砲陣地が次々と撃破され、市街各所で破壊工作が行われた。
スエズ市内は、蜂の巣を突いたような騒ぎになった。
上空を見上げれば、無数の超大型輸送機から、空挺部隊が降下している。
「敵襲!!敵襲!!」
「重戦車群が、空を飛んでいる!!?」
「すぐに空軍に、上空援護を要請しろ!」
イギリス陸軍の師団司令部では、スペース・アグレッサー軍からの空挺降下を確認すると、すぐに、最寄りの空軍基地からの、戦闘機部隊の援護を要請した。
スエズ市の制空戦闘機部隊が配備されている空軍基地は、スエズ市の最寄りに設置されているが、戦闘機の数は多くない。
ドイツ帝国軍及びイタリア王国軍で編成された、アフリカ軍団及び、彼らと同盟を結んでいるアフリカ義勇軍からの、度重なる攻勢により、常に戦闘機は出動し、イランでのスペース・アグレッサー軍侵攻時にも、エジプトから制空戦闘飛行隊が、何個も出動した。
そのため、スエズ市の上空防衛等を担当する、稼働可能なスピットファイアは、18機だけだった。
「師団長!市街地内に、多数の武装勢力が出現!現在、交戦中ですが、各部隊から歩兵戦車の出動要請が、相次いでいます!」
参謀からの報告に、スエズ市防衛を任されている師団長は、判断を迷った。
武装勢力は、歩兵のみであるが、自動小銃や携帯式対戦車兵器の火力は極めて高く、歩兵戦車を出動させれば、すぐに撃破されるのでは無いか・・・
むしろ、防衛範囲を縮小し、そこに戦車部隊を配備し、時間稼ぎを行えば、ドイツ帝国陸軍やイタリア王国陸軍だけでは無く、イラクのイギリス軍部隊等が駆け付ける。
そうなれば、いかに強大なスペース・アグレッサー軍といえども、多勢に無勢では、対処できないのでは無いか。
「各部隊に伝達!各部隊は、ただちに現配置から撤退し、港部を集中防衛するよう、配置転換せよ!」
師団長は、司令部がある港部方面に師団を集中的に配置し、防衛戦を展開する事にした。
「市街地での武装勢力に対する戦闘は、エジプト軍に任せて、我々は、増援部隊が到着するまで、何としても港部を守り切る!!」
彼が指揮する師団には、巡航戦車センチュリオンは配備されておらず、M4[シャーマン]や、従来の歩兵戦車、巡航戦車である[マチルダ]や、[クルセイダー]のみが、配置されているだけだ。
(これで、どのくらい守り切れるか・・・)
師団長は、心中で弱音を吐いた。
第11親衛空挺師団第11パラシュート連隊は、諸外国の空挺兵と同じく、軽装歩兵に分類される。
特殊部隊による破壊工作や、攪乱工作で混乱した市街地で、彼らを妨害する敵勢力は、確認できなかった。
降下地点に無事に着地できた、パラシュート連隊の歩兵部隊は、小隊単位で集合し、作戦行動に入る。
AN-94を素早く手に持ち、分隊指揮官からの命令下で、行動を開始する。
エジプト王国陸軍の兵士と遭遇し、銃撃戦が始まる。
イギリス陸軍は、自動小銃を携帯しているが、エジプト軍は、旧式の手動装填式小銃である。
「無駄撃ちをするな!敵の小火器の連射速度は低い。落ち着いて狙え!」
分隊指揮官からの言葉を聞きながら、AN-94を武装した射手は、単発射撃を行っているエジプト陸軍兵の攻撃をものともせず、慎重に狙いを定めて、引き金を引く。
AN-94は、フルオート射撃、セミオート射撃、2点バースト射撃という射撃機構が、存在する。
AN-94は、諸外国の自動小銃と異なり、1発目と2発目の発射速度は速く、1発目が発射された後、銃口が反動等で跳ね上がる前に、2発目が発射される。
そのため、対象者に対し、確実に2発の5.45ミリライフル弾を撃ち込む事ができ、高い確率で、絶命させる事ができる。
同時に、これは防弾チョッキを着込んだ兵士にも、有効である。
近年の防弾装備は、小口径の小銃弾を防ぐ事ができる。
だが、2発同時発射により、小口径の小銃弾を防ぐ事ができる防弾チョッキも、確実に貫通させる事ができ、対象兵に致命傷を与える事ができる。
これ程の高性能小銃であるが、それ故に、欠点も多い。
1発目と2発目の発射速度は速いが、3発目からは従来の自動小銃と同じ、発射速度である。
西側諸国の自動小銃と同じ3つの射撃機構に、このような能力が追加されているため、部品の複雑化や、1挺分の予算も高い。
このため、ソ連崩壊からロシア連邦建国初期では、財政難でロシア連邦軍全軍への配備は、できなかった。
一部の特殊部隊と、空挺軍だけに配備が止まったままの状況が、長い期間続いたそうだ。
エジプト陸軍兵は、毒の弾として恐れられている5.45ミリライフル弾を受け、次々と絶命する。
小口径の小銃弾は、貫通能力が高い分、1発の致命傷力は低い。
しかし、その分、複数の弾丸を人体に被弾させやすいため、致命傷率は7.62ミリ弾とあまり変わらない。
「敵部隊を、排除した!前進!」
分隊指揮官の号令で、分隊が前進する。
エジプト陸軍兵の中には、銃撃戦では敵わないと判断し、銃剣戦闘による近接戦闘を仕掛ける者もいるが、AN-94は、近接戦闘も問題無くできるように、設計されている。
銃剣を装着した状態で、グレネードランチャー等も装着可能である。
エジプト兵が、手動装填式小銃の先端部に銃剣を装着し、襲いかかるが、近接戦闘訓練を積んでいる彼らには敵わなかった。
それどころか、彼らは中東で武装勢力との激戦の経験もあるため、そうそうに敗れる事は無い。
エジプト兵からの攻撃をうまくかわし、AN-94に装着した銃剣を、エジプト兵の胸元に突き刺す。
混乱下で、指揮系統を寸断され、組織的な反撃が出来ないエジプト軍では、満足な防衛戦はできず、確実に第11親衛空挺師団に、街は制圧されつつある。
指揮系統が混乱し、防空兵器、対戦車兵器等が破壊された状態では、例え、精鋭部隊でも事態を解決するのは困難だろう。
それに対し、第11親衛空挺師団は、作戦通りの行動である。
2S25に搭乗するベジュフは、自身が指揮する小隊(4輛)と、機械化歩兵を搭乗させたBMD-4で編成された小隊で、混乱する市街地を前進する。
ベジュフたちに与えられた任務は、イギリス陸軍が防備を固める港部の制圧である(正確には、彼が所属する自走砲中隊である)。
イギリス陸軍の防御区域に入ると、対戦車砲弾が飛んできた。
「対戦車砲、確認!」
「17ポンド砲か?」
ベジュフは、対戦車砲攻撃を受けた2S25の車長に聞いた。
「違います!それよりも小さいです」
「全車、各個に射撃開始!敵も馬鹿では無い。絶対に油断するな!どこから、攻撃を受けるか、わからない!」
ベジュフは、部下たちに注意すると、砲手に砲撃命令を下す。
125ミリ対戦車滑腔砲の砲口が吼え、多目的対戦車榴弾が撃ち出される。
防御陣地では、イギリス兵がバリケードと土嚢を積み上げて、自動小銃や軽機関銃、重機関銃を撃ちまくり、対戦車兵器で必死の抵抗を繰り広げているが、2S25の前では無力だった。
2S25は空挺戦車に分類されるが、対戦車自走砲である。
自走砲は戦車では無く、あくまでも大砲を装備し、自走可能にした車輌である。
主力戦車に匹敵する防御力は、有していない。
戦車と自走砲を区分する定義は、曖昧なものであり、一般人だけでは無く、職業軍人でも理解できない場合がある。
日本やアメリカ等の西側諸国では自走砲とは、自走榴弾砲を示す事が多く、自走榴弾砲と、戦車の違いなら職業軍人(日本は自衛官)なら理解できるが、ロシア連邦軍及び旧ソ連軍、東側諸国では、一言に自走砲と言っても、さまざまであり、戦車と同じ任務を遂行する自走砲もあれば、そうでは無い自走砲もある。
2S25の任務は、戦車と同じである。
撃ち出された多目的対戦車榴弾は、積み上げられた土嚢に直撃し、土嚢を吹き飛ばす。
「シャーマン戦車が、接近中!」
別の車輌から、通信が入る。
ベジュフは、車長席のTVモニターを操作し、車長用監視カメラを、その方向に向ける。
「砲手!シャーマン戦車の75ミリ対戦車砲では、こちらの正面装甲は、貫通できない!落ち着いて、仕留めろ!」
2S25の砲塔が旋回し、125ミリ対戦車滑腔砲の砲口が、M4中戦車に向く。
M4中戦車からも砲撃が開始され、徹甲弾が2S25の正面装甲に直撃するが、被弾経始が採用されているため、砲弾の運動エネルギーを分散させ、跳弾させる。
徹甲弾は、直撃するものも、全弾が跳弾した。
「撃ち返せ!」
ベジュフの叫び声で、砲手が発射ボタンを押す。
多目的対戦車榴弾が発射され、M4中戦車を撃破する。
「後続のBMD小隊へ、歩兵部隊を展開させろ!」
「了解」
BMD小隊の指揮官が返答すると、そのままAKS-74で武装した機械化歩兵が展開し、防御陣地制圧の最終局面である残存兵狩りを行った。
BMDー4から展開した機械化狙撃兵たちが携帯するAKSー74(すべての部隊にANー94が配備されている訳では無く、AKSー74が主流の部隊もある)のスケルトトンストックの空洞部分に何かが入れられ、止血帯が巻き付けられていた。
彼らが携行するAKS-74のスケルトンストックには、止血帯を巻き付け、その中に応急キットを入れ、脱落防止を行っている。
これは、旧ソ連時代の、アフガニスタンに派遣された兵士たちに、たびたび見られた。
AKS-74の、スケルトンストックの空洞部分を利用し、兵士が携帯する応急キットと止血帯を、1つでも多く携行するためだ。
戦場での出血は、兵士1人の生命に関わるだけでは無く、その部隊全体の心理状態にも、悪影響を与える。
できる限り、自己及び他人の応急処置を行えるようにするための処置として、このような方法が取られる。
これは旧ソ連軍だけに見られた光景では無く、ベトナムに派遣されたアメリカ軍でも、歩兵携行火器であるM16等に、各部隊単位で現地改造を施し、予備弾倉の追加や、緊急医療キットが付属できるようにしたと言われている。
このような処置には、さまざまなメリットが発生した。
医療キットが付属できるようになると、負傷兵への応急処置がスムーズになり、包帯や止血剤等が切れて、手当てできない事案が減少し、戦闘時の負傷による死亡や、重症化を防ぐ要因にもなった。
これにより、満足な補給が届かず、ジャングルでの戦闘で負傷すれば、苦しみながら死ぬ、という末路が解消され、士気の向上が見られたそうだ。
AKS-74で武装した機械化狙撃兵たちは、歩兵戦闘車であるBMDの車影に隠れながら、掃討戦を開始する。
常に彼らは2人一組となり、前衛に配置の兵を後衛配置の兵が援護する態勢が整えられ、掃討戦時に発生する不意を突かれる事が無いように対策をとる。
特に下士官や上級兵卒は、実戦経験があるため、その動きや指示には無駄が無い。
既に、見晴らしのいい屋上には、長距離狙撃が可能なSVー98を武装した同盟空挺軍(旧ロシア空挺軍出身者)のパラシュート降下連隊長距離狙撃中隊に所属する狙撃兵が配置に付いていた。
彼らは、観測手と連携し、精密狙撃で一瞬の隙を突いて、襲撃してきた、イギリス兵を確実に仕留める。
真紅の旗 其れは革命の色 第9章をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますがご了承ください。




