真紅の旗 其れは革命の色 第7章 ジブチにて
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
アフリカ大陸北東部に位置する小国、ジブチ共和国。
史実では1940年代のジブチはフランス領であったが、こちらの時代では、1930年代から、アフリカ各地で、独立運動や革命運動が頻発した。
ジブチも例外では無く、独立運動が本格化した。
そして、アフリカ大陸では、数少ない独立国家になった。
独立してから、数年でジブチ共和国は、早くも混乱に見舞われた。
地理的位置の問題等で、ヨーロッパ諸国からの圧力や、第2次世界大戦勃発により、北アフリカに侵攻したドイツ第3帝国国防軍アフリカ軍団と、イタリア王国統合アフリカ遠征軍による攻勢で、ジブチ共和国には戦火を逃れた大量の難民が、押し寄せて来る事になり、難民の救済、治安の悪化等、色々な要因が重なって、財政難となった。
そんな彼らに接近したのが、大日本帝国である(正確には、日本共和区統合省と、新世界連合)。
彼らによる、人道支援、軍事援助等のあらゆる援助が行われて、この難局を乗り切った。
しかし、彼らがジブチ共和国に接近したのには、裏があった。
ジブチの、基地化である。
ジブチ統合自衛隊基地。
同施設は、80年後に拡大化させた、ジブチNATO軍統合基地(自衛隊、新世界連合軍連合支援軍傘下の旧中国軍)を施設ごと、タイムスリップさせたものだ。
ヨーロッパに隣接しているため、NATO軍部隊は、施設の整備と地下格納庫に保管している戦闘車両、物資等を整備する最低限の部隊のみを駐留させ、ほとんどの基地警備は、自衛隊を中核とした、東洋系部隊が担当している。
派遣されている陸海空自衛隊は、防衛局長官直轄部隊の傘下であり、主にヨーロッパ(ドイツ第3帝国首都ベルリン、イタリア王国首都ローマを拠点)で、情報収集や、さまざまな外交交渉を行っている防衛駐在官(大日本帝国陸海軍駐在武官という偽名)、防衛局情報本部調査官等が、現地で不測の事態が発生し、危険な状態に置かれた時、彼らを危険地帯からジブチに避難させるために、常に即応態勢が敷かれている。
派遣された陸上自衛隊は、1個連隊編成の900人、海上自衛隊は350人、航空自衛隊150人の計1400人に、プラス制服組と文民組から派遣された情報隊(主にシギント)が、配置されている。
さらに、基地正門等の人目に付く場所等の警備は、海軍陸戦隊ジブチ警備隊に担当させる、念の入れようである。
当初、アメリカやイギリス等の猛反対があると思われたが、東南アジアは、米英蘭の完全包囲網が完成しており、ジブチに拠点が置かれても問題無い、と判断したのか、形式的な反対はあったが、妨害工作は行われなかった。
港にも、海上自衛隊の護衛艦が投錨しているが、見た目の貧弱さで、脅威にならないと勝手に判断したようだ。
ジブチ統合自衛隊基地地下指揮所では、統合運用部隊司令官兼ジブチ統合自衛隊基地司令の猪之原斎陸将補が、椅子に腰を掛け、幕僚からの報告を受けていた。
「急に忙しくなったな。これなら、太平洋で大暴れしている菊水総隊自衛隊や、帝都東京を中心とした首都圏の防衛と警備を任されている破軍集団自衛隊に、暇人部隊等と、揶揄される事は無いな」
猪之原は、上がってくる報告を聞きながら、つぶやいた。
ジブチ派遣自衛隊の装備は、ヨーロッパ諸国やアメリカ等に自分たちの存在を、可能な限り隠蔽するために、C-2戦略・戦術輸送機及びC-130H戦術輸送機で空輸可能な、戦闘車両等に限られている。
「司令官。イランに展開している、サヴァイヴァーニィ同盟軍に、動きがあります」
防衛局情報本部から派遣された、情報官が報告する。
「イランを掌握し展開している、サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟陸軍の通信を、傍受しました。通信内容から、イギリス領イラクに進撃するそうです」
「豊富な原油資源があるイランと、イラクを掌握するか・・・考え方は、間違っていない」
猪之原は、つぶやく。
「ジブチ航空基地と、入間航空基地の航空輸送路を、脅かすような通信は?」
猪之原は、もっとも危惧している事を確認した。
米英蘭は、東南アジアやインド洋で、完全な海上監視網を構築し、インド洋を航行する船舶は、常に把握されていた。
そのため、ジブチに駐屯する自衛官や、新世界連合軍連合支援軍、大日本帝国海軍等の生活物資等の輸送は、夜間のC-2叉はC-5による空輸に、頼っている。
もしも、ジブチに駐留する自分たちを孤立させるつもりなら、航空輸送路の遮断を、実行に移すだろう。
「そのような通信は、今の所、ありません」
「そうか、引き続き警戒しろ」
サヴァイヴァーニィ同盟軍に、目立った動きが無い以上、猪之原には、それ以上の命令はできない。
菊水総隊海上自衛隊第1潜水隊群第5潜水隊[そうりゅう]は、ジブチ海上自衛隊基地から、15海里の距離で浮上した。
「入港用意!」
浮上した[そうりゅう]の艦橋に、姿を現した、白色の制服を着た男が告げた。
肩章から階級は、2等海佐であるから、艦長である事は、一目瞭然である。
「艦長。入港用意、整いました」
副長である3等海佐が、報告する。
「全員、久々の上陸に、張り切っているのか?」
[そうりゅう]艦長である葛城真人2等海佐が、笑みを浮かべて告げる。
40歳前ではあるが、新世界連合軍連合海軍第3艦隊第4空母戦闘群司令官である、マティアス・クレマン少将に匹敵する美男子であり、第1潜水隊群の潜水艦艦長の中では、若手に入るが、能力は極めて高く、冷静さと判断能力は、海上自衛隊潜水艦艦長の中では、トップクラスだ。
葛城は、防衛局統合幕僚本部に所属する氷室匡人2等海佐と、同期生で防衛大学校時代、幹部候補生学校時代は、上位の座を争った仲だ。
幹部自衛官に入官後は、昇進も同じであった。
氷室とは名前が同じ(漢字は違う)という事で、知り合ったのだが、2人の交友関係は長い。
葛城の氷室に対する評価は、「もしも、私と氷室が戦えば、最初の先制攻撃で、確実に倒さなければ、即座に撃沈される」である。
「艦長。護衛艦[さざなみ]です」
艦橋見張員の海曹が、報告する。
葛城が、双眼鏡を覗く。
3海里程の距離で、灰色塗装された[たかなみ]型汎用護衛艦[さざなみ]の艦影を、確認する。
「ジブチ港で屋根付の港湾施設があったからと言って、[さざなみ]、[いなずま]を米英は確認していないはずが無い」
「は?」
葛城は、そのまま続けた。
「情報では、台湾の高雄軍港に投錨していた、新世界連合軍連合支援軍海軍の空母、[大連]の存在を、アメリカ海軍情報局は確認していたそうだ。だが、当時の大日本帝国の造船技術から推測して、艦隊急建造計画で、大型タンカーを改造した、虚仮威し空母としか見ていなかったそうだ」
「それも、そうでしょうね」
副長は、うなずく。
1940年末にタイムスリップした、菊水総隊自衛隊等の日本国から派遣された勢力は、年を明けた1941年には、大日本帝国のあらゆる所で、存在を確認されている。
当然、陸自の戦車や装甲車等も、含まれている。
戦争前であったが、突然、これまで取締が厳しかった特高警察や憲兵が、急に穏便になった事や、今までに確認された事も無い数多くの兵器が出現した事から、逆に欺瞞工作と判断された。
もちろん、アメリカ本土やイギリス本土にも情報が送られたが、大日本帝国の日独伊三国同盟破棄や、ドイツ第3帝国軍のヨーロッパ全域の掌握の為の派兵等、ヨーロッパ方面の情勢の変化による情報収集が、最優先となったため、これらの情報は、上層に行く程、相手にされなかった。
ジブチ港の一部を海上自衛隊(正確に言えば新世界連合軍連合海軍)の艦艇、船舶の拠点にする[たかなみ]型汎用護衛艦[さざなみ]、[むらさめ]型汎用護衛艦[いなずま]の2隻はヨーロッパで諜報、和平活動等を行う防衛局情報本部から現地に派遣され、諜報活動を行う文官、陸上自衛隊中央情報隊特別情報隊の情報科幹部及び陸曹、外務局総合外交政策部及び和平工作使節団等が、万が一危険な事態に陥った場合に備えて、海上からの支援と大西洋、インド洋、地中海等での連合国、枢軸国の作戦行動中の海軍艦艇等の通信傍受といった、情報収集艦の護衛を担当する。
「未来からの大火が、地球の反対側に拡大した・・・か・・・」
[さざなみ]の艦橋で[そうりゅう]の艦影を双眼鏡で確認しながら、人の良さそうな雰囲気を持った、純白の制服姿の男がつぶやく。
肩章に4本線がある事から、階級は1等海佐である事がわかる。
顔つきや体格から、ぽっちゃりとした感じであるが、声等から誰からも後ろ指をさされる事の無い指揮官であるという感じだ。
彼は、ジブチ派遣護衛隊司令である染崎海舟1等海佐である。
「葛城。艦橋で、涼しそうな雰囲気を放っているな。俺の教えた、指揮官としての心構えを今も続けているのか」
染崎は、笑みを浮かべる。
彼は長い間、江田島で海上自衛隊幹部候補生たちを、教育する教官だった。
防衛大学校出身者、一般大学校出身者たちに、指揮官としての心構えを教えていた。
その中で、もっとも自分の教えを熱心に聞き、それを自分流で実現したのが、葛城と氷室だった。
染崎は、海士からスタートし、海曹で、ある程度の経験を積むと、部内幹部候補課程を得て幹部自衛官になった。
自衛隊生活30年のベテランであり、若い部下や候補生たちに、持てる力を使って、色々伝授したが、2人のように自分の教えを完璧に、さらに自分流にするまでに成長した教え子は、見た事が無かった。
その1人である葛城は、潜水艦の艦長であり、もう1人は、統合幕僚本部の幕僚である。
「司令。[そうりゅう]艦長より、電文です」
「読んでくれ」
通信士からの報告に、染崎が短く言った。
「司令と共に、同じ戦場で奮戦できるのは、とても光栄な事です。司令に教わったすべてをお見せします。以上です」
「なるほど」
染崎は、薄く笑った。
教え子というのは、どんなに時を重ねても教え子であり、教師に教わった事を、1つ1つ実現し、それを自分流にしてしまう。
「返信なさいますか?」
「その必要は無い。陸に上がったら、いくらでも話せる」
染崎は、通信士からの申し出を断った。
(オペレーション・スウェルフィッシュは、最終段階に入り、同時進行で行われていたオペレーション・USS・IPが実行される。中南米、そして中東・・・インド洋、大西洋での新世界連合軍及び我々の、戦略軍事拠点の確保)
新世界連合は、サヴァイヴァーニィ同盟軍の出現により、作戦を大幅に修正し、繰り上げなくてはならなかった。
[オペレーション・スウェルフィッシュ]
本作戦は、ハワイ攻略、パナマ運河破壊、アメリカ本土空襲の3段階が完了してから、開始された。
エクアドルで行われた、救出作戦は、あくまでも本作戦の一部分でしか無い。
南米での軍事作戦拠点の確立、アフリカでは、ジブチが軍事作戦拠点になるため、省かれるが、海上補給輸送路と航空補給輸送路の充実化である。
南アメリカでは、エクアドルでの自衛隊による行動の一件により、非公式にアメリカに恩を売った形で、黙認させるように仕向け、半ば公然と、エクアドル政府との比較的友好的な関係を確立し、エクアドルでの基地化が、極秘裏に進められている。
これが、本作戦の本当の意味である。
これらが完了すれば、アメリカ合衆国包囲網と、戦争終結後に世界規模での即応軍事展開能力と、世界経済の流通の監視等も行える、作戦計画である[オペレーション・USS・IP]が実行可能になる。
「ついに我々にも、実戦の機会が訪れた」
「ああ、太平洋や南シナ海で戦っている、第1護衛隊群や、第2護衛隊群の意識も変わるだろうな」
[さざなみ]の艦橋で、海士や若い海曹たちが囁く。
「これは、いつもの訓練では無い。実戦だ。いかに新世界連合軍連合陸海空軍と、共に行動するとはいえ、我々の敵は、連合軍では無く。我々と同じ時代から来た、サヴァイヴァーニィ同盟軍との戦闘状態が、発生する可能性もある」
染崎は、艦橋の窓からインド洋を眺めながら、背後の部下たちに告げた。
彼の脳裏に、江田島での思い出が浮かぶ。
江田島海上自衛隊幹部候補生学校某所。
「戦争状態になった時に、敵を、緒戦で打ち破るためには・・・ですか?」
防衛学を幹部候補生たちに教えている染崎海舟1等海尉が、候補生である葛城と氷室に、問いかけた事に、2人は顔を見合わせて聞き返してきた。
「実を言うと、うまく答えられる者は、現役の自衛官でもいない」
染崎は、恥とも思わず、そう前置きした。
「そうでしょうね。日本は戦争をしないと、公言していますからね」
氷室が、頭を搔きながら、つぶやく。
「染崎教官。問題の幅が大きすぎるため、どの部分での適切な答を言わなければならないのか、分かりかねます」
葛城の意見に、染崎はうなずく。
「なるほど」
「一言で戦争と言いましても、何の知識も無く戦争反対を唱えるだけの、戦争のもたらす功績と、功罪を理解し、その上で戦争反対を唱える、本当の戦争反対者の顔に泥を塗る発言しか出来ない、似非戦争反対者のように、戦争は1つ・・・まるで、真実は1つ等と、人間の尊厳や自尊心を脅かすような言葉です。僕は偽善者ではありませんから、もう少し詳しく問題の説明を、お願いします」
氷室の、考え方と発言には、一部問題な部分はあるが、適格なポイントを突いている言葉に感心しながら、染崎は口を開く。
「そうだな。なら、対象国に対し、自衛隊が武力行使を挑んだ際に、周辺諸国も巻き込む可能性が発生した場合の、緒戦で敵側よりも有利になる方法だ」
染崎の言葉に、氷室は少し驚いた表情を、浮かべた。
「教官。それは、自衛隊の行動から逸脱した感がありますけど・・・納得です。確かに自存自衛のための武力行使で、局地的武力戦闘による勝利でも、敵性国家が、限定的武力行使から無制限武力行使に切り替えたら、そうなりますね」
「そうだ。お前たちと同年代の候補生に聞けば、アメリカや国連が動くと、発言する」
「随分と、お気楽な考えですね。敵性国家が全面戦争に移行したのだから、当然、同盟国アメリカや国連の動きも、把握しているはず」
「そうそう。何らかの対抗策は、とってくるでしょう。例えば、核ミサイルを背景にした外交的威嚇等・・・他国の非難を無視すれば、方法は幾らでもありますし、口出しをさせない方法も、必要なら使ってくるでしょう」
葛城と氷室が、自分たちの意見を述べる。
「中々、良い分析をするでは無いか。では、その状況下で、どうしたらいいと思う?」
染崎の質問に、葛城と氷室が、顔を見合わせる。
答えたのは、葛城だった。
「答えようがありません」
「・・・・・・」
染崎は、葛城の回答に無言だった。
「正確には、わかりません」
氷室が、告げる。
「何故だ?」
「簡単な事です。これには、一介の自衛官だけの案では、どうにもなりません。政府、自衛隊の、完全なる連携が必要です。そして、国民の意識も重要になるだけでは無く、世界がどう見ているかも重要です」
「なるほど」
染崎は、2人の回答が、意志ある物である事を認識した。
単に、自分の理解を超えた問題に、答えられないから逃げるでは無く、本当に回答不可能であるから、「わからない」という回答をしたのだと受け取った。
「あの時の私の出した問題の、解答を見つけた訳か・・・」
[さざなみ]の艦橋で、染崎はつぶやく。
「見せて貰うぞ。お前たちの回答を・・・」
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