真紅の旗 其れは革命の色 第6章 第1次防衛線の攻防 2 赤の進撃
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
「あ・・・ああ・・・」
カール自走臼砲から発射された60センチ砲弾群が、着弾前に謎の対空兵器で、撃墜された。
その光景を目視した、第1次防衛線に配置された、ドイツ帝国陸軍戦車部隊の指揮官である中佐は、ティーガーⅠの車長席から上半身を出し、双眼鏡で砲弾の末路を見て、言葉を失った。
「第1次防衛線部隊へ、カール自走臼砲が、スペース・アグレッサー軍のジェット戦闘機部隊の攻撃で全滅した。地上軍は速力変わらず、進撃中だ」
第1次防衛線司令部から、通信が入る。
「全車!砲撃開始!!」
司令部からの命令で、ティーガーⅠ、M26、センチュリオンの8.8センチ戦車砲、90ミリ戦車砲、17ポンド砲が一斉に吼える。
撃ち出された砲弾は、徹甲弾であり、ティーガーを除く、他の戦車は打撃力、防御力が高いドイツ帝国軍の重戦車を正面戦闘で撃破可能な、重戦車、巡航戦車である。
3種の重戦車、巡航戦車とも、この時代では申し分ないレベルの戦車であるが・・・相手が悪かった。
3種の重戦車から撃ち出された徹甲弾が、T-20の正面装甲を、直撃しようとした時・・・
T-20の砲塔上部に取り付けられている、車載用自衛指向性エネルギー兵器が起動し、接近する戦車砲弾を迎撃する。
第5世代主力戦車や、第4世代主力戦車に分類されるT-20及びT-14は、従来の戦車では珍しく、無人砲塔を採用している。
乗員全員は車体に搭乗し、周辺の索敵等は砲塔上部に取り付けられた、360度回転式高性能カメラと砲塔各所に設置されたセンサー類を使った電子光学索敵を採用している。
つまり、戦車そのものが、人間の視覚、聴覚機能を有すると、考えればわかりやすい。
T-20は、第5世代主力戦車であり、その最大の特徴はステルス性能の向上、自動砲撃システム、自動迎撃システム、ロシア版の軍事AIを搭載している。
このため、砲手を配置する必要が無く、電子制御手が代わりに搭乗する。
そのため、戦車要員は操縦手、電子制御手、車長の3人であるため、従来の戦車と変わらない。
砲塔の無人化により、撃破された場合の乗員生存率及び緊急脱出は、従来の戦車よりも向上した。
自動迎撃システムは、T-20の上部に設置されている対人、対物重機関銃と対戦車ミサイル及び対戦車砲弾を迎撃する、車載式自衛指向性エネルギー兵器の武器管制を行う。
戦車砲は、完全自動化された、135ミリ滑腔砲が搭載されている。
「まるで、アメリカのSF映画や、日本のアニメの世界だな・・・」
T-20の車長席に腰掛ける中隊長(少佐)が、つぶやく。
これまで、何度も行われた性能試験等で、T-20の対戦車戦闘能力、対戦車兵器に対する迎撃能力は頭の中に入っているが、中隊長は、眉唾ものだと思っていた。
だが、その能力を実戦で実証されると、信じざるを得ない。
車長席に設置されている、5つの液晶モニターのうちの1つであるメインモニターには、360度回転式高性能カメラの映像が映し出され、残りの4つのモニターには、いろいろな情報等が表示されている。
自動砲撃システムが起動し、軍事AIが破壊優先順位を査定し、その目標順に敵戦車に対し砲撃を開始する。
T-20の135ミリ滑腔砲が、火を噴く。
135ミリ滑腔砲は、旧西側諸国陸軍の第3世代主力戦車の戦車砲である120ミリ滑腔砲よりも威力は高い。
発射された対戦車砲弾は、ティーガーⅠの正面装甲に直撃し、一撃で撃破した。
M26が展開する、防衛区域に突入した第401戦車大隊は、M26の90ミリ戦車砲から発射される徹甲弾を受けながら前進する。
第1世代主力戦車レベルの戦車砲弾では、第3世代主力戦車であるT-90Aの正面装甲を、貫通する事はできない。
「撃ち方はじめ!!」
大隊長命令が発せられ、T-90Aの125ミリ滑腔砲が、一斉に吼えた。
発射された砲弾は、榴弾としても併用可能な、対戦車榴弾である。
Tー90は、Tー72とTー80の利点を併せ持った戦車であり、国内外を問わず評価は高い。
T-90は、安価で、性能、整備面に置いても優れていた事から、他国に積極的に売却された。これは湾岸戦争時における失敗で、旧ソ連製戦車の信用が失われたからである。
旧ソ連では、東側に属する諸国や友好国にオリジナルよりも性能を低下させた仕様で、他国に売却、供与等が行われたが、90年代の戦争では、アメリカ陸軍のM1A1戦車の前にT-72等を、数多く撃破されたからだ。
もしも、オリジナルモデルを供与、売却していたら、結果は変わっていたかも知れない。
T-90Aから発射された対戦車榴弾は、M26の正面装甲を破り、一瞬のうちに火の塊へと変えた。
炎に包まれた人影が、M26から1つ2つ飛び出てきたが、暫くのたうち回った後、地面に倒れて動かなくなった。
「旧ソ連製戦車、ロシア製戦車の輸出型を幾度の戦争で撃破したアメリカ軍だったが、その屈辱と悔しさを、過去のアメリカ軍が味合う事になるとは・・・皮肉な事だ」
次々と撃破されていく、アメリカ陸軍の重戦車であるM26を眺めながら、T-90Aの車長である上級下士官が、つぶやいた。
「航空支援が、必要だ!!至急、航空支援を!!」
戦車壕で、防衛戦を繰り広げていた各軍の将兵たちは、彼我の火力の差を見せつけられ、各戦線から、航空支援を要請する無線が、録音盤のように司令部に届いていた。
各戦線では戦車だけでは無く、歩兵も対戦車兵器、重火器、小火器と言った歩兵部隊が保有するあらゆる火器で、防衛戦を死守しているが・・・
自分たちの知る重戦車(旋回式砲塔)の火力を上回り、固定式砲塔の砲クラスの砲撃を受けていた。
カール自走臼砲は全滅し、予備として待機させていた2輛のカール自走臼砲も、戦闘開始から10分程度で投入されたが、謎の対空兵器による迎撃で、着弾する事も無く、空中で迎撃された。
「ロンメル元帥!第1次防衛線の守備に就いている第28装甲師団は、戦闘開始から30分で、2万から8000未満に減らされています」
「アイゼンハワー元帥!第1次防衛線に配置されていました第91機甲師団は、主力戦車の6割を失い。師団は、4割以上の損害を出しています」
「モントゴメリー元帥!第1次防衛線部隊より、緊急通信です。増援部隊を要請しています」
3人の元帥に、それぞれの参謀が、緊急報告を上げている。
「もはや・・・これ以上の組織的抵抗は、不可能だな・・・」
ロンメルは、小さくつぶやく。
「太平洋で暴れているスペース・アグレッサー軍地上軍の、対重戦車として開発されたM26が、これ程、無力とは・・・」
アイゼンハワーも、苦虫をかみ潰した表情でつぶやく。
「これ以上の戦闘継続は、避けるべきか・・・」
モントゴメリーも、同じ考えだった。
「全軍に、後退命令を出せ!第2次防衛線まで引くぞ!!」
ロンメルは、3人の元帥を代表して叫んだ。
「空軍に連絡して、上空援護を再度要請しろ!!」
ロンメルは、後退命令と同時に、最寄りの空軍基地からの援護機を、要請する事を命じた。
戦闘開始前から、最寄りの空軍基地には、上空援護のために空軍機を要請していたが、何の連絡も無い。
「ロンメル元帥!!」
シュウタフェンベルクが、報告に現れた。
「空軍基地は、スペース・アグレッサー軍航空軍による攻撃で、全滅していました!!」
「何だと!!?」
ロンメルは、元帥杖を折った。
独米英連合軍防衛線の近接航空支援や制空戦闘のために、幾つもの航空基地が新設されていた。
制空戦闘機として、ドイツ帝国空軍の主力ジェット戦闘機であるMe262[メッサーシュミット]や、アメリカ陸軍航空軍(1942年5月には空軍として新設される予定)のF-80が担当する。
ドイツ帝国空軍は、1941年から、続々とジェット戦闘機を導入、配備していたが、アメリカ陸軍航空軍は、ハワイ諸島陥落の際にスペース・アグレッサー軍航空軍のジェット戦闘機を確認して、1941年12月下旬にイギリス空軍が鹵獲したドイツ第3帝国空軍のジェット戦闘機を研究し、独自に設計や開発を行った。
1942年3月上旬に試作機が完成し、そのまま量産態勢に移行した、急増ジェット戦闘機だ。
F-80は、史実に登場したオリジナルのF-80とは異なる。
制空戦闘に特化した戦闘機で37ミリ航空機関砲2門と、12.7ミリ航空機関砲4門装備した制空戦闘機である。最大速度は900キロ程度であるが、巡航速度750キロで航続距離1500キロメートルである。
ハワイ奪還作戦にも投入される予定だが、航続距離が足りないため、空中給油機の量産が急がれている(こちらは、存在する長距離爆撃機を改造した物だ)。
航空基地周辺には、ドイツ帝国空軍が導入している固定式レーダーサイトが、基地防空警戒を行っている。
固定式レーダーサイトと言っても、現代のような高性能では無い。
そのため、サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟航空宇宙軍が、保有するジェット戦闘機(第4.5世代ジェット戦闘機)を探知しても、地上で駐機しているジェット戦闘機を、離陸させる余裕は無い。
「レーダーに多数の戦闘機部隊を探知!!恐ろしく速いです!!」
レーダー員が叫んだ時、探知したジェット戦闘機から複数の目標が分離した。
「くそ!!もう、ロケット弾が発射された!!」
「警報発令!!」
レーダー基地に勤務する、士官たちが叫ぶ。
「総員退避!!ここもやられるぞ!!」
司令官が、叫ぶ。
基地要員たちは、大急ぎで建物の外に出て、塹壕に飛び込む。
だが、ロケット弾は猛スピードで接近し、レーダー施設、通信施設を破壊する。
レーダーサイトが破壊された後、航空基地にもロケット弾が飛来し、エプロンで駐機していたジェット戦闘機は、飛び上がる余裕も無く、全機破壊された。
だが、幸いにも上空哨戒のために、数機が飛び上がっており、完全に空が無防備になった訳では無い。
「このままでは、すまさんぞ!!」
アメリカ陸軍航空軍から派遣された、F-80のパイロットは、キャノピーから基地の状況を一瞥して、叫んだ。
「1番機から各機へ、戦友たちの仇をとるぞ!」
1番機のパイロットである大尉が、叫んだ。
他の3機から、了解の返事が、返ってきた。
大尉は、操縦桿を傾け、レーダーサイトが、最後に探知した方向に、機首を向けた。
速度も、機が出せる最大速度で、戦友たちの命を奪った敵機を捜索する。
(奴らが装備するレーダーは、俺たちの機を捕らえているはずだ。なら、向こうから来るな)
大尉は、太平洋での戦闘報告書を思い出し、敵機の探知性能の高さをある程度は理解し、それを利用する事にした。
サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟航空宇宙軍航空総軍第1航空軍第11航空軍団第11多用途戦闘機連隊に所属する、ダルゴ・アゼフ・チェルノフ少佐は、Su-35Sのコックピットで、レーダーを表示している液晶画面に映った4つの光点が、こちらに接近している事を確認した。
「おや、そのまま後方の基地か、ポーランドまで後退すれば、見逃してやるつもりだったが、戦いを挑むのであれば、相手になってやろう」
チェルノフは、操縦桿を倒し、機を左に旋回させる。
同時に、彼の指揮下にある、他の僚機も続く。
「お前等、敵機は第1世代ジェット戦闘機だが、油断するな。太平洋方面や東南アジア方面では、レシプロ戦闘機でF-4EJ改や、巡航ミサイルを撃墜している。人間の底力を甘く見るな!先制攻撃で、一気に叩くぞ!」
サヴァイヴァーニィ同盟軍は、自衛隊、朱蒙軍、ニューワールド連合軍が、太平洋や東南アジアで大暴れしている際に、何もしていなかった訳では無い。
サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟海軍南海攻略艦隊の潜水艦部隊等を派遣し、密かに情報収集を行わせていた。洋上での諜報や、工作活動等を担当する部隊から偽装工作船を派遣し、彼らに見つからないように情報収集を行っていた。
この時代のアメリカ軍や、イギリス軍では解読できないニューワールド連合軍等の暗号通信は、完全に解読できる訳では無いが、ある程度の解読は可能だ。
ピー!
コックピット内に目標をロックオンした、というアラーム音が鳴る。
「ミサイル発射!!」
Su-35Sの主翼下に搭載されている、R-77が発射された。
ロシア空軍の空対空ミサイルには、射程200キロメートル以上も飛翔できる長距離空対空ミサイルがある。ただし、今回の作戦ではチェルノフの部隊は、地上施設への攻撃を主目標としていたため、長距離空対空ミサイルであるR-37等は、搭載していない。
中距離空対空ミサイルまで、である。
しかし、これだけでも、この時代のジェット戦闘機なら、制空戦闘は可能だ。
チェルノフの僚機からも、同じくR-77が発射される。
レーダーが捕捉した敵機は、4機。
こちらは8機であるため、ドックファイトをしても、それ程、心配する必要は無いが、万が一にも不幸に見舞われて、機を失うような事があれば、全軍の士気にかかわるだけで無く、ニューワールド連合軍との戦争(もしも、発生すれば話)になった時、損失機があるのと、無いのとでは、話が違う。
「ん?」
チェルノフは一瞬、意識がレーダーに向いた。
4機のジェット戦闘機は、ジグザグに飛行しながら、回避行動をとっているのである。
「さすがに、我々と戦うだけはある」
4機中、2機がR-77の追跡を、巧みな回避行動で逃れた。残りの2機は、撃墜したが・・・
「どうやら、相当、我々が使用するミサイルを研究し、回避策を編み出したようだな・・・だが」
チェルノフにとっては、予想された行動であったが、2機も生き残るとは思ってもいなかったが。
敵機が、回避飛行に躍起になっている間に、2機のSu-35Sを向かわせていた。
「良い腕だが、相手が悪かったな。ゲームオーバーだ」
チェルノフが言った後、態勢を整えていない状況下のF-80、2機は、Su-35S2機の機銃掃射と短射程ミサイルで撃墜された。
真紅の旗 其れは革命の色 第6章をお読みいただきありがとうございます。
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次回の投稿は5月15日を予定しています。




