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真紅の旗 其れは革命の色 第4章 バトル・オブ・アトランティックオーシャン 4 静かなる戦い

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 破軍集団海上自衛隊第2潜水隊群第4潜水隊所属の潜水艦[ずいりゅう]は、南大西洋上の海中で、息を潜めていた。


「艦長。4ヶ国連合軍連合艦隊の作戦展開海域の洋上で、巨大な爆発音を、探知しました」


[ずいりゅう]の、ソナー員が報告する。


「戦闘海域まで、1万メートル以上の距離がある。どのくらいの爆発音か?」


 艦長である川邊千(かわなべち)(しろ)1等海佐が、発令所で腕を組んだまま、聞く。


「極めて、大きな音です。とてつもない爆発音だと、思われます」


「本艦のソナーと解析装置は、タイムスリップ前に改装されました。新型ソナーは、1万メートル以上の距離で、発せられた小さな音も探知し、新型解析装置が、小さな音を解析する事もできます。そのソナーが、巨大な爆発音を、探知したという事は・・・」


 副長の3等海佐が、告げる。


「・・・使ったな・・・」


 川邊は、つぶやいた。


 川邊は、潜水艦艦長の中では、数少ない海士からの叩き上げの、上級幹部である。


 以前の自衛隊規程では定年退職する年齢だが、定年せず、そのまま継続手続きを得て、2佐から1佐に昇進した。


 年齢は56歳だが、見た目はとても50代の中年には見えず、初対面の人が見れば、30代後半から40歳ぐらいに見られる。


「潜望鏡上げ!」


「潜望鏡上げ!」


 准海尉が潜望鏡を操作し、海面に上げる。


 潜望鏡に装備されている、360度回転する高性能光学カメラのレンズが、ソナーが探知した爆発音を探知した海上に向ける。


 液晶モニターには、遠くの海上から上がっている巨大なキノコ雲を捕らえた。


「ソナーの解析結果は?」


 川邊が問うと、ソナー員が報告する。


「先ほどの爆音は、通常兵器による爆発音ではありません。明らかに核爆発です」


 ソナー員からの報告に、川邊は腕を解いた。


「もう少し近付いて、正確な情報を、収集する必要があるな」


「ですが、艦長。あまり接近しますと、サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟海軍潜水艦に発見される可能性もあります。ここは、新世界連合軍連合海軍の原潜に任せては、いかがですか?」


 副長が、具申する。


「副長の意見はもっともだが、何もかも他人任せにするのは、どうかと思う。サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟海軍の情報は、できる限り収集していなくてはならない。それに[そうりゅう]型潜水艦の隠密性や静粛性を実戦で実証し、サヴァイヴァーニィ同盟軍への抑止力とする必要がある。潜水艦勤務者なら、この意味がわかるな?」


 川邊の言葉に、副長は渋々うなずいた。


「確かに、そうです」


「よし、副長。サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟海軍艦隊に、接近する」


「了解しました」


 副長が、操舵手の後ろに立ち、操艦する。


「速力12ノット、深度100」


 副長の指示で操舵手は復唱し、そのまま[ずいりゅう]を海中深く沈める。


「艦長。サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟海軍艦隊と、4ヶ国連合艦隊まで、7500を切ります」


 ソナー員からの報告を受けて、川邊が静かに告げる。


「海上の状況は?」


「先ほどから、航空攻撃による爆発音を、探知しています」


「艦長。サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟海軍が、フォークランド諸島方面の大西洋に、1個艦隊を展開しているという事は、潜水艦部隊が展開している可能性もあります。最低でも水上艦との距離5000メートルで、止まる事を具申します」


 水雷長の1等海尉が、具申する。


 水雷長は、潜水艦による攻撃の指揮を担当する長であるため、味方で無い潜水艦が接近する事が、いかに対象勢力海軍に刺激を与えるか、すぐに理解出来る。





 サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟海軍西海攻略艦隊第11潜水艦戦隊第11潜水艦師団に所属する[ヤーセン]級攻撃型原子力潜水艦[ティンダ]は、西海攻略艦隊第11ミサイル艦師団作戦範囲内の哨戒行動を、行っていた。


「ソナーより、前方3000メートルで、微弱な音源を探知」


 ソナー員からの報告に、[ティンダ]艦長であるロラン・リモノフ・コノワロフ大佐は、小さな声でソナー員に聞いた。


「どこの潜水艦だ?」


 海中で、微弱な音を発する物は、潜水艦以外に考えられない。


 海中に住む生物は、まず、そのような音を出さない。


「音紋から、この時代の潜水艦では、ありません」


 ソナー員からの報告に、コノワロフは記憶を探った。


「ニューワールド連合軍の[バージニア]級攻撃型原潜か、それとも[アスチュート]級攻撃型原潜か?」


 ニューワールド連合軍加盟国であるアメリカ海軍の、[バージニア]級攻撃型原子力潜水艦及びイギリス海軍の、[アスチュート]級攻撃型原子力潜水艦の、バージョンアップ型は前級と比べて、高い隠密性と静粛性を備えた攻撃型原子力潜水艦である。


「違います・・・これは・・・日本の潜水艦[そうりゅう]型と、思われますが・・・」


「どうした?」


「恐ろしく静かです」


 ソナー員からの報告に、コノワロフは顎を撫でる。


「同志艦長。[そうりゅう]型潜水艦であるのなら、改修型の可能性があります。改修型であれば、この静粛性も納得できます」


 副長の少佐が、口を開く。


「うむ」


 コノワロフは、少し考えた後、ソナー員に確認した。


「他の潜水艦の音紋には、該当しないのだな?」


「本艦の収集したデータの潜水艦の音紋には、該当するものはありません」


 ソナー員の報告に、コノワロフは艦内マイクを持った。


「同志諸君。本艦は、日本の[そうりゅう]型潜水艦と思われる潜水艦を探知した。不明潜水艦を追跡し、その正体を探る。無音航行を実施する。総員、静粛を維持せよ」


 コノワロフの指示で、[ティンダ]艦内で稼働している機器のうち、必要が無い物はすべて停止し、何らかの拍子で音が発せられる物には、毛布がかけられ、絶対に音が出ないようにする。


 原子力潜水艦も、通常動力型潜水艦と同じく、隠密性と静粛性が求められている。


 原子力潜水艦は、通常の潜水艦に比べて音が大きく(主に原子炉関連の音)、隠密性、静粛性は通常の潜水艦よりも低いが、原子力潜水艦が登場して以来、半世紀以上経過しているため隠密性、静粛性は格段に進歩している。


「速力6ノット。潜航深度150」


 コノワロフは、無音航行時の規定速度で、未確認艦の追跡を行う。


 海中で行動する潜水艦が、対象艦を確実に把握する方法は、1つしか無い。


 パッシブ・ソナーを使って、対象艦が発する音を拾いコンピューターに記録されている潜水艦、水上艦の音と照合する事だ。


 アクティブ・ソナーを使う方法もあるが、これは最後の最後の手段である。


 アクティブ・ソナーは、自艦から音を発し、跳ね返った音で対象艦を識別、捕捉する。


 このため、アクティブ・ソナーは、対象艦の存在を確認するより、攻撃前に確実に対象艦の位置を確認するための手段に用いられる事が多い。


 単に未確認艦を追尾し、どこの国の潜水艦なのかを調査する。


 それを行う場合は、パッシブ・ソナーを使って、静かに調査する。





[ずいりゅう]のソナーも、不審な音を探知した。


「艦長。前方より、微弱な音源を探知」


 ソナー員が、静かに報告した。


「サヴァイヴァーニィ同盟軍の原潜か、それとも潜水艦か?」


 川邊が、静かに問いかけた。


「わかりません。非常に小さな音です」


 ソナー員が、ヘッドフォンから聞こえる音に、全神経を集中させる。


「速力7ノット。完全無音航行」


 川邊が、指示を出す。


 これまで[ずいりゅう]は、速力12ノットで水中航行していた。


 いくら隠密性と静粛性が高い高性能な潜水艦でも、スクリューが海水を掻き回す以上は、音が発せられる。


 速力を低速にする事により、こちらから発せられる音を低くし、相手に探知されにくくするだけでは無く、自艦から発せられる音で、ソナーを妨害される事も無い。


「さて、相手が何者か知らないが、我慢比べの時間だ」


 川邊が、つぶやく。


 もっとも、長い時間の始まりである。


 完全無音航行が指示されたため、[ずいりゅう]の乗組員たちは持ち場から動かず、その場でじっとしている。


「艦長。もしも、サヴァイヴァーニィ同盟軍の原潜叉は潜水艦だった場合は、どうしますか?」


 副長が、尋ねる。


「その時は、何もせず、与えられた任務を遂行する」


「ですが、艦長。サヴァイヴァーニィ同盟軍が、我々に情報を与えないために、本艦を攻撃する可能性もあります」


「それは、無いだろう」


 川邊が、即答した。


「サヴァイヴァーニィ同盟軍は、ソ連及び中国を完全に掌握するために、大規模な軍事行動を行っている。それだけでは無く、中東の原油産地国であるイラン、大西洋上の制海権確保のためにフォークランド諸島の完全占領等々、この世界での地盤固めに集中している。この状況下で、我々と外交的問題になる武力衝突は避けたいだろう。こちらが、攻撃の姿勢若しくは威嚇行動に出なければ、無意味な武力攻撃は仕掛けないはずだ」


 川邊の主張は、確かに理に適っている。


 自分たちが彼らの立場だったら、自分たちが保有する武力を持つ勢力と地盤を固めていない状況下で、武力行動に出るのはリスクが高すぎる。


「副長。潜水艦に勤務して、どのくらいだ?」


 川邊が、副長に顔を向ける。


「12年になります」


「そうか、俺は30年以上になるが、潜水艦勤務をして、1つだけ絶対に克服できない事がある」


「何ですか?」


 副長が、尋ねる。


「任務中に、未確認艦を発見した時だ」


 川邊の言葉に、副長は納得した。


 確かに潜水艦が、何らかの任務叉は訓練航海に出港して、味方では無い潜水艦らしき音を探知すれば、その潜水艦がどこから来たのか?何を目的にしているのか?自分たちの国の領海を侵犯するのか?それらを正確に、把握しなければならない。


 そして、その際は、当然ながら完全な無音航行が指示され、全乗組員は臨戦態勢である。


 潜水艦(水上艦も同じ)乗りにとって、もっともイライラする時間であり、もっとも嫌な時間である。


 確かに艦長の言う通り、克服するのが、極めて難しい。


 そのため潜水艦乗りは、もっとも忍耐力が強い者でなければならない。


 潜水艦の戦闘は、根比べから始まる。


 根比べに負けたら、その時点で負けである。


 ただし、人間である以上、いかに潜水艦勤務の適性があったからと言って、忍耐力が強いという訳では無い。


 人である以上は、個人差で限界はある。


 1つ例を出せば、冷戦期の米ソの緊張状態が最高潮に達した時期・・・


 米ソが、全面核戦争寸前までの緊迫状態に陥った時、ソ連の戦略原潜内で、政治将校と一部将校を含む勤務者たちが暴走し、ソ連軍最高司令部の命令を待たず、アメリカ本土への先制核攻撃を叫ぶ事態に進展した。


 その主張は艦内に広がり、次々と先制核攻撃主張に同調する者が増えた。


 そして、発射キーを持つ艦長や副長も、その主張に流されそうになった時、ソ連軍最高司令部から、核攻撃準備命令解除、という命令と米ソの全面核戦争回避という通信が届き、事態は終息した。





 一方の[ティンダ]では・・・


「ソナーより、艦長。音源を探知できません。消えました」


 ソナーからの報告に、副長が振り返った。


「艦長。どうやら、我々の捜索に気づかれたようです」


 コノワロフは落ち着いた表情のまま、副長の意見を聞いていた。


「アクティブ捜索準備」


「艦長!?そんな事をすれば、未確認艦に、我々の存在を知らせる事になります!」


 副長が、驚愕した表情で、静かに叫ぶ。


「その代わり、こちらも未確認艦を完全捕捉できる。完全に捕捉された状態で、我々の調査を続行する訳が無い。すぐに当海域から離脱する。未確認艦の艦長が無能で無い限り・・・」


「それは、確かに・・・」


 コノワロフの説明に、副長も納得する。


「ですが、もしも、そのまま調査を続けられたら?」


 副長が、尋ねる。


「その時は、要撃コースの針路をとる。たとえ、魚雷を発射しなくても、それだけで当海域から離脱するはずだ」


 コノワロフが言い終えると、ソナー員に指示を出した。


「アクティブ捜索開始!」


「アクティブ捜索開始!!」


 コノワロフの指示を復唱し、ソナー士官がアクティブ・ソナーのボタンを押した。


 ピーン!!


[ティンダ]から、アクティブ・ソナーが発射された。





 ピーン!!


「アクティブ・ソナー音を探知!前方2000メートル!」


 ソナー員からの報告に、川邊は問うた。


「艦種は、確認できるか?」


「ロシア連邦海軍の[ヤーセン]級攻撃型原子力潜水艦と、思われます!!」


 ソナー員からの報告を受けて、川邊は叫んだ。


「最大戦速!面舵一杯!当海域を離脱する!」


「最大戦速!面舵一杯!」


 操舵手が復唱し、舵を右に切る。


「ソナー![ヤーセン]級原潜に動きがあれば、すぐに教えろ!」


 川邊は、瞬時にあらゆる事態に備えた、対策プランを思考する。





「スクリュー音探知![そうりゅう]型潜水艦です!!」


 同じく、[ティンダ]のソナー員が報告する。


「[そうりゅう]型潜水艦の動きは?」


「増速し、右舵をとっています」


「恐らく、当海域を離脱するコースを、とっているのでしょう」


 副長の言葉に、コノワロフは落ち着いたまま、口を開いた。


「今回は、お互いが敵対関係では無いから、うまくいった。だが、次はどうなるか・・・この[そうりゅう]型潜水艦の艦長は、相当な実力者だ。敵になれば、とても厄介な指揮官だろう」


 コノワロフは[そうりゅう]型潜水艦[ずいりゅう]艦長を、そう評価した。





 一方の[ずいりゅう]では・・・


「ソナー、[ヤーセン]級原潜は?」


「アクティブ・ソナー発射地点から、まったく動きません。ずっと、そのまま本艦の動向を探っています」


 ソナー員からの報告に、川邊は発令所から[ヤーセン]級攻撃型原子力潜水艦[ティンダ]がいる方向に顔を向けた。


(どうやら、相当な切れ者が、指揮官のようだな)


 川邊は、そう評価した。

 真紅の旗 其れは革命の色 第4章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますがご了承ください。

 次回の投稿は5月8日を予定しています。

 5月上旬に投稿予定でした、IF外伝2政治篇3部を5月7日に投稿する予定です。

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