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真紅の旗 其れは革命の色 第3章 バトル・オブ・アトランティックオーシャン 3 脅威の電磁投射砲

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 戦艦[ティルピッツ]のレーダーが、ゴースト・フリートの艦隊を捕捉した。


「提督!レーダー連動射撃準備よし!!」


[ビスマルク]級戦艦は、1940年代に就役した排水量5万トン級戦艦である。


 同級戦艦として、[大和]型戦艦、[アイオワ]級戦艦等が存在する。


[ビスマルク]級戦艦は、ドイツ第3帝国軍需省の監督下で、ドイツ技術のすべてを結集して、建造された高性能艦。


 高性能レーダーシステムに、それと連動する兵装は高速航行時(最大速力31ノット)でも、38センチ連装砲4門の全門斉射した場合、命中率70パーセントの結果を出した。


「うむ」


 ベッシュが、うなずく。


「Feuer(撃て)!!」


 老提督の叫び声で、[ティルピッツ]の38センチ連装砲全門が、一斉に吼えた。


 同時に、4ヶ国連合艦隊戦艦部隊に所属する他の戦艦の砲門も、一斉に吼える。


 発射された戦艦、巡洋艦の主砲弾は、30発以上である。





「敵艦隊が、発砲!!」


[ジダーヌフ]のレーダー要員が、叫ぶ。


「自動防御システム起動!!」


 兵装担当の士官が、叫ぶ。


[ジダーヌフ]に搭載されている自動防空火器として、発展型複合CIWSが、4基ある。


 さらに、新型の短距離防空兵器が、搭載されている。


 どれも自動化され、艦体に搭載されているレーダーとは連動しておらず、発展型複合CIWS及び新型の短距離防空兵器は、付属のレーダーと自動迎撃システムが、装備されている。


「自動防御システム、接近する砲弾を全弾捕捉!!迎撃を開始します!!」


 兵装担当の先任士官が、叫ぶ。


[ジダーヌフ]に搭載されている自動防空兵器が、接近する砲弾をコンピューター計算し、脅威度の高い砲弾を迎撃する。


[ジダーヌフ]から、オレンジ色の光が発せられた。


 それは、レーザー光線のようなものだ。


 新型の短距離防空兵器は、アメリカ軍及び、その同盟国軍が試験運用中の無人航空機や、ミサイル等を迎撃する指向性エネルギー兵器である。


 個体レーザーによる、赤外線ビームを照射する。


 迎撃する原理は簡単であり、高熱を対象物に照射し、ミサイルや無人航空機の各センサー類を破壊し、無力化する。軍艦艇を目標とする、自爆船等の小型ボートに対しても効果があり、エンジンや燃料タンクを破壊し、爆発させる事もできる。


 照射された高熱のレーザー光線は、接近する砲弾の先端部に確実に命中した。


 高温により、砲弾内の信管が溶け、自爆する。


 その間、コンマ1秒である。


 1度に照射できる時間は20秒程度であるが、ロシア制指向性エネルギー兵器は、20秒間で20発以上のミサイルを迎撃できた。


 西海攻略艦隊に向けられた、4ヶ国連合艦隊戦艦部隊から発射された大口径砲弾は、10秒も経過しないうちに、30発以上の砲弾が空中爆発した。


「同志諸君」


 ブイコフは立ち上がり、通信マイクを持ち、[ジダーヌフ]以下、随行する巡洋艦や駆逐艦に演説を始めた。


「サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟海軍西海攻略艦隊が創設されて以来、初の実戦を迎える。今日は、諸君等の労を賞賛する」


 ブイコフは短く告げた後、次なる命令を出した。


「水上戦闘用意。4ヶ国連合艦隊を、海の藻屑にしろ」


「了解しました。同志提督!!」


 参謀長が、叫ぶ。


[ジダーヌフ]は、[キーロフ]級重原子力ミサイル巡洋艦であり、対艦ミサイル、対空ミサイル、対潜ミサイルが、大量に搭載されている。


 搭載数は、NATO軍が同艦を、現代の巡洋戦艦と呼称しているように、莫大な量である。





[ティルピッツ]の艦橋では、見張兵たちが発射された主砲弾の、弾着観測を行っていた。


「提督。まもなく弾着します」


 先任参謀が、ベッシュに告げる。


「うむ」


 ベッシュが、うなずいた。


 その時・・・


 ゴースト・フリートの艦隊から3万メートル離れているが、光の棒と表現すべき、オレンジ色の光が発せられたのが見え、その光を浴びた砲弾が、次々と空中爆発した。


「何だ、あれは!?」


「何だ!?」


「何が、起きた!?」


 参謀たちも確認したようで、砲弾の空中爆発や謎の光が、幻覚では無い事を、ベッシュは認識した。


「わかりません!!しかし、明らかに全弾が、迎撃されたようです!!」


「バカな!?あれだけの数の砲弾を、一瞬のうちに迎撃できる等・・・あり得ん!!」


 作戦参謀が、叫んだ。


「情報参謀!あのような防空兵器の存在は、報告されていたのか!?」


 先任参謀が、情報担当の参謀に、詰め寄るように問うた。


「いえ、アメリカ軍から提供された、太平洋でのゴースト・フリートとは、データが異なっています!」


「どういう事だ。大日本帝国に手を貸し、太平洋で暴れ回っているゴースト・フリートと、同じでは無いのか!?ほぼ、同じ艦影なのに、どうして、ここまで性能が違うのだ!?」


 先任参謀が、叫ぶ。


「提督!第2射は、どのようにいたしましょう!!」


 主砲のレーダー照準砲撃を行う部署から、緊急連絡が入る。


 その声は、予想もしなかった出来事に、震え、裏返っていた。


「・・・・・・」


 ベッシュは、何も喋らなかった。


[ティルピッツ]だけでは無い。


 他の戦艦でも主砲が沈黙し、再度吼える事は無かった。


「提督!ゴースト・フリートの艦隊より、多数のロケット弾の発射を確認!こちらへ向かってきます!!」


 見張の兵、が叫ぶ。


「対空戦闘!!レーダー連動対空射撃開始!!」


 艦長が、叫ぶ。


 4ヶ国連合艦隊戦艦部隊に属する戦艦、重巡洋艦、軽巡洋艦、駆逐艦、フリゲートの、20ミリから40ミリの対空機銃が、一斉に火を噴く。


 自動対空機銃だけでは無く、手動対空機銃による、弾幕の壁、とも表現できる無数の機銃弾が斉射された。


 発射されたロケット弾は、弾幕をすり抜け、目標となった戦艦の上部構造物に突き刺さり、炸裂する。


「こちら、戦艦[ニュー・メキシコ]。機関室にロケット弾被弾!!航行不能!!」


「戦艦[ハウ]。3番主砲塔に、直撃しました!!主砲塔より、火災発生!!」


 2隻の戦艦から、緊急通信が届く。


「戦艦[ハウ]、後部主砲塔付近で大爆発!」


[ティルピッツ]の艦橋配置の見張兵が、報告する。


「弾薬庫に誘爆した・・・か、確実に沈没は、避けられない」


 ベッシュは、後部甲板付近の大爆発で、へし折れ、そのままくの字に曲がりながら、ゆっくり沈みつつある戦艦[ハウ]を、確認しながらつぶやく。


「提督!!戦艦[シャルンホルスト]、被弾!!」


「戦艦[サモア]にも、被弾しました!!」


 次々と、僚艦の被弾報告が入る。


 ゴースト・フリートからのロケット攻撃に対し、こちらも戦艦の大口径砲や、巡洋艦の主砲で応戦するが、すべて、謎の光により、迎撃されている。


「どうやら、我々の武力では・・・奴らに敵わない・・・」


 ベッシュは目を閉じ、死を覚悟した・・・


「提督!戦艦[グナイゼナウ]艦長より、緊急入電!」


 航海士官が、叫ぶ。


 戦艦[グナイゼナウ]の艦橋から、発光信号が発せられていた。


 発光信号の内容は『戦艦[ティルピッツ]以下、航行可能な戦艦は、ただちに戦闘海域から離脱せよ、その間、[グナイゼナウ]は、ゴースト・フリートの艦隊に突撃し、僚艦離脱の援護を行う』であった。


「馬鹿者が!!」


 珍しく、ベッシュが声を荒げた。


 しかし、[グナイゼナウ]は、こちらの応答を確認する事も無く、全速航行で舵を切った。


 だが・・・ゴースト・フリートに突撃する特攻艦は、戦艦[グナイゼナウ]だけでは無かった。


 旗艦を失ったイギリス海軍の軽巡洋艦や駆逐艦の一部、イタリア王国海軍の駆逐隊等10隻未満の艦が、特攻を開始した。


「提督!!」


 参謀長が、ベッシュに振り返る。


「・・・残存艦は、各先任指揮官の判断で、全速航行による離脱を試みよ!!友軍の死を無駄にするな!!」


 ベッシュは、決断した。


「左舵一杯!!機関全速!!」


 艦長が、叫ぶ。


「ブランデス、必ず生きて帰ってこい。上官の意向を無視し、勝手な行動をとった罪で、軍法会議に告発するからな」


 ベッシュは、小さくつぶやいた。


「艦長!戦艦[グナイゼナウ]以下、指揮系統から離脱した艦隊に、発光信号!!」


 ベッシュは、離脱する各艦隊との調整を、参謀長と先任参謀に任せて、艦長に告げた。





 戦艦[グナイゼナウ]を基幹とする、4ヶ国連合艦隊戦艦部隊からの指揮系統を離脱した艦は、軽巡及び駆逐艦、フリゲートを合わせて7隻だった。


「艦長。本艦と同行する事を表明した、軽巡と駆逐艦から交信です。味方が、戦闘海域から離脱するまで、本艦と運命を共にするそうです」


 綺麗に整えられた髭を生やした、40代ぐらいの男が報告した。


「ふむ。世界は広く、他国は俺たちと違う考えを持っていると思っていたが、どうやら、その考えは間違っていたようだ。世の中、同じ様な馬鹿が多い」


 ヨーロッパで美男子コンテストが開催されれば、コンテスト委員会から必ず出場停止を言い渡されるような、優勝が指定席と言っていい程の男が、艦長席に腰掛けたまま、つぶやいた。


 彼は、戦艦[グナイゼナウ]の艦長である、ホレス・フォン・ブランデス大佐。


 年齢は、30代後半を迎えたばかりで、ドイツ第3帝国国防軍海軍将校団の中でも、若い方に分類される。


 ブランデスは、緑と青の左右で色が違う目を、先ほど報告した副長(中佐)に向けた。


「副長。全速航行でジグザグ航行を行いながら、主砲及び副砲による砲撃を行う。各艦も艦隊間隔を大きく取り、全速航行でジグザグ航行するように、指示してくれ」


「はっ!」


 副長は、略式ではあるが、ナチス式の敬礼をした。


[シャルンホルスト]級戦艦は、最大速力30ノット以上で航行する事ができる。


 ドイツ第3帝国軍需省の技術者たちが、開発した高性能レーダーと、それと連動した状態でレーダー照準砲撃が、可能である。


「主砲斉射!!」


 ブランデスの号令で、[グナイゼナウ]の前部に搭載されている、3連装28.3センチ砲2門が、吼える。


 主砲が発射された後、[グナイゼナウ]は、右に舵を切る。


 他の軽巡、駆逐艦、フリゲートもそれに習って、ジグザグ航行しながら主砲砲撃を行う。


 その間も、ゴースト・フリートの戦闘艦からは、ロケット弾や駆逐艦程度の主砲弾が、発射されている。


「イタリア王国海軍駆逐艦、被弾!火災炎上中!!」


「イギリス海軍フリゲート、ロケット弾が命中!轟沈します!!」


 次々と、報告が入る。


「砲術長。できる限り本艦の砲撃は、ゴースト・フリートの旗艦と思われる、大型戦闘艦に向けろ!!」


 ブランデスが、叫ぶ。





「敵も中々、頭が切れる指揮官が、いるようだ」


 ブイコフは、[ジダーヌフ]の艦橋に設置されているレーダーを、映し出しているモニターを見ながら、つぶやいた。


「提督。いかがいたしますか?あのような時間稼ぎを続けられても、すぐに対艦ミサイルで撃沈できます」


 参謀長が、告げる。


「うむ・・・」


 老提督は、顎を撫でた。


「恐らく、ニューワールド連合軍も、潜水艦や航空機で、我々の情報収集を行っているだろう」


 ブイコフは、つぶやく。


「参謀長。例の兵器を使って、彼らに見せつけてやろう。我々の技術力、軍事力を、思い知らせてやるのだ」


 ブイコフの言葉に、参謀長が笑みを浮かべた。


「了解しました。同志提督!」


 参謀長が叫ぶと、艦長に指示を出した。





[キーロフ]級重原子力巡洋艦は、後部に130ミリ連装速射砲が搭載されていたが、発展型の[ジダーヌフ]には、前部と後部に新型砲である、電磁投射砲レールガンが、搭載されている。


 現代のアメリカ海軍で採用されている、レールガンよりも遥かに貫通能力、破壊能力が高い。


 これは[ジダーヌフ]の動力が、新型の原子炉であるため、最大速力状態でも、十分な電力をレールガンに送れるからだ(アメリカ海軍で、レールガンを搭載しているのは、[ズムウォルト]級ミサイル駆逐艦である。同艦は、対地攻撃に重点を置いてレールガンを採用している)。


[ジダーヌフ]に搭載されているレールガンは、対艦、対地攻撃だけでは無く、最新式火器管制システムと、高性能3次元レーダーにより、大気圏外の弾頭ミサイルや、人工衛星を撃墜する事も可能である(ただし、大気圏外への発射には、莫大な電力が必要になるため、原子炉で作られる電力の90パーセントを、1門のレールガンに送らなくてはならないという重大な問題やさまざまな制約が存在する)。


「前部レールガン発射準備!目標、接近中のドイツ帝国海軍[シャルンホルスト]級戦艦!!」


 レールガンの、発射管制から発射までを担当する先任士官が、叫ぶ。


 訓練では何度も発射したが、実際の海上で本物の戦艦クラスに撃ち込むのは、初めてである。


 発射訓練と言っても、アメリカやNATO等の偵察機や偵察衛星等に発見されないように、地下特別発射施設や、悪天候下の夜間のみに行われた。


「前部レールガン。エネルギー充電完了!!」


「前部レールガン、目標諸元入力完了!」


「発射準備よし!」


 部下たちからの報告を聞いた先任士官は、うなずいた。


「撃て!!」


 先任士官の号令で、前部レールガンから青い光と、独特の発射音が発せられた。


「命中!!」


 着弾確認を行う先任下士官が、報告する。


 ロシア連邦海軍で導入されたレールガンの発射速度は、光速に近いレベル(この表現は大袈裟だが、初めて、それを見る者にはそのように表現されてもおかしくない)とされており、発射光を確認し、次の光を確認した時には、すでに目標物に命中している。


 このため、偵察機、偵察衛星による発見は不可能であり、地上基地式、艦載式の高性能レーダーでも発見する事は困難。


 そして、撃ち出された砲弾の破壊力は高く、現代の空母でも一撃で大破までは行かなくても、中破と大破の中間レベルの被害を受ける。


 むろん、戦術核弾頭搭載の砲弾を発射できるため、捕捉不可能、迎撃不可能の、戦術核攻撃ができる。


 しかし、これ程、強力なレールガンにも、重大な欠陥がある。


 大出力状態で発射するため、発射後は全システムの点検が必要であり、発射後の砲身は、極めて高温になっているため、エネルギー再充電と砲身冷却に、かなりの時間がかかる。


 実際、次弾発射には、最低でも1時間はかかる(最高出力状態での発射をした場合、次弾発射は、24時間後である)。


 レールガンはニューワールド連合軍連合海軍に加盟するアメリカ海軍でも導入されているが、実戦で使用されたのはサヴァイヴァーニィ同盟軍同盟海軍に加盟する旧ロシア連邦海軍が使用した。


 ブイコフ自身も新型兵器であるレールガンにはそれほど期待していなかった。これは、アメリカ海軍でも同じであり、使用する制約が多いからだ。


 だが、新兵器が、恐るべき兵器になるか、どうかは実戦データがなければ立証されない。単にあるだけでは何の抑止にもならない。





 ゴースト・フリートの大型戦闘艦からの、謎の攻撃を受け、戦艦[グナイゼナウ]は、大爆発を起こした。


「・・・ちょう・・・艦長!!」


 意識が朦朧とする中で、ブランデスは、自分を呼ぶ声で、意識を回復させた。


 彼に声をかけていたのは、艦長付従卒であった。


 ドイツ第3帝国国防軍幼年学校の、最上級生である。


「艦長。しっかりしてください!」


「副長は?」


 ブランデスは、滅茶苦茶になった艦橋を見回しながら、従卒に問いかけた。


「副長は、先ほど軍医長に連れられて、医療ボートに運ばれました。艦長も、早く退艦を!艦長と副長の指揮能力が一時的に損失した事により、健在の士官が、退艦命令を出しました」


 従卒の報告に、ブランデスは、立ち上がる。


「そうか・・・」


 しかし、立ち上がったと同時に、ブランデスは再び意識が朦朧とし、床に倒れそうになるが、艦橋で負傷兵の搬送を行っていた下士官たちに支えられる。


(何だったのだ・・・今の攻撃は)


 ブランデスは、自分の艦に致命的攻撃を行った攻撃方法を、思い出していた。


 ゴースト・フリートの大型戦闘艦まで、後1万メートルに迫った時、艦首から謎の光が発せられ、次の光が見えた時には、[グナイゼナウ]の艦中央部に何かが突き刺さるような、激しい振動が起こった。


 その後、内部からとてつもない炸裂音と共に、艦中央部上部構造物が吹っ飛んだ。


 ブランデスの記憶は、そこで途切れたのだった。


(まるで、ヤマアラシのような戦闘艦だ・・・しかし、必ず、生きて帰らねば・・・再戦の機会を得るために・・・そうでなくては、この戦いで失われた軍人たちの命に、報いる事が出来ない・・・)


 下士官たちに、支えられて通路を歩きながら、ブランデスは心中でつぶやいた。





「[シャルンホルスト]級戦艦、大破!!」


 参謀長からの報告に、ブイコフは、僅かに不満の表情を浮かべた。


 初めての実戦投入であり、こちらの艦体の受けるダメージが予測出来ないため、最低出力に抑えたとはいえ、撃沈出来ると予想していたのだが、大破止まりであったが、些か不満である。


「ふむ、時代遅れとはいえ、大艦巨砲主義は、伊達ではないか・・・戦艦クラスでは、さすがのレールガンでも、大破が限界か・・・」


 取りあえず、貴重な実戦データが取れた事で、良しとするべきだろう。


 次の機会までに、改善するべき所もある。


「本艦隊に、特攻を仕掛けようとした艦隊群は、ほぼ撃沈ないし、航行不能状態になっています。さらなる攻撃をいたしますか?」


「いや、惨めな敗残者には、せいぜい自国へ戻って、大声で今日の事を吹聴して貰わねばならない。これ以上の戦闘行為は、不要だ」


「はっ」


 ブイコフの言葉を受け、参謀長は挙手の敬礼の後、戦闘の終結を宣言した。


「歴史を変えるという行為は、革命と同義なのだよ。敵対者と同様に、味方も大量の血を流す。なぜ、共産主義を掲げる国家の国旗が、赤い色なのか・・・それは、流された敵味方の血の上に最後に翻るからだ。それに怯まず、最後まで立っていた者だけが、恒久的世界平和を築ける。講和のための戦争など、所詮まやかしに過ぎない。悪戯に戦争の犠牲者を増やすだけだ・・・目的を達成するには、革命を実行するように、じっくりと準備を整え、一気呵成に進めるものだ。それには、一切の妥協も逡巡も許されない。冷徹な意志のみが必要・・・そう私は、教えたはずだがね。3等海佐と1等海尉・・・いや、今はもう、どちらも1等海佐で、イージス護衛艦の艦長だったかな・・・君たちなら、信じる主義は違っても、この意味がわかるはずだ」


 ブイコフは、艦橋の司令官席で戦闘後の海上を眺めながら、つぶやいた。


 聞いている者は、いなかった。



 かつて、ロシア連邦海軍に在籍していたブイコフを、師と仰いで、教えを受けに来た海軍軍人は、洋の東西、陣営を問わず大勢いた。


 その中でも、抜きん出た才能を持っていた愛弟子が、2人いた。


 ブイコフにとって、残念でならないのは、この愛弟子2人が、西側陣営に属する軍人であった事である。

 真紅の旗 其れは革命の色 第3章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますがご了承ください。

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