真紅の旗 其れは革命の色 第2章 バトル・オブ・アトランティックオーシャン 2 ラースタチュカ対フォルクス・イェーガ-
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
4ヶ国連合艦隊戦艦部隊と、連合輸送船団上陸部隊への制空戦闘や近接航空支援、敵艦隊への航空攻撃のために編成された、4ヶ国連合艦隊傘下の空母機動部隊は、丁度、両艦隊の中間海域で展開していた。
空母機動部隊は、独伊英米の4ヶ国海軍大西洋艦隊麾下の正規空母3隻、軽空母1隻、護衛空母3隻からなる、空母機動部隊である。
ドイツ第3帝国国防軍海軍大西洋艦隊から、[グラーフ・ツェッペリン]級航空母艦[グラーフ・ツェッペリン]、イタリア王国海軍地中海艦隊は、[アキラ]級航空母艦[アキラ]、アメリカ海軍大西洋艦隊からは、急建造された[エセックス]級航空母艦5番艦[フランクリン](他の同型艦4隻は進水して、すぐに太平洋艦隊に回された)、[サイパン]級護衛航空母艦[ライト]、イギリス海軍大西洋艦隊も、[コロッサス]級航空母艦1隻と、[アッタカ]級護衛航空母艦2隻が、派遣されている。
「提督!後方の輸送船団との交信が、途絶しました!!」
4ヶ国連合艦隊空母機動部隊司令官に任命された、ドイツ第3帝国国防軍海軍から派遣された、ハンネス・アッド大将に、高級副官(大佐)が報告した。
「通信機器や、レーダーシステムは、まだ回復しないのか?」
「通信機器は、一部を除き、すべて使用不能ですが、復旧は可能です。レーダーを復旧させるのに、高度な訓練と経験を有する技術士官や技術下士官が、本艦に乗艦していません。経験の浅い彼らでは・・・出来なくはありませんが、復旧に時間がかかります」
高級副官からの報告に、アッドは腕を組んだ。
30分程前に、輸送船団が展開していたはずの海域で、強烈な閃光が発生し、その後、衝撃波が、本艦隊を襲った。
輸送船団から、空母機動部隊までは、直線で約5万メートル以上は離れている。
そんな距離にもかかわらず、あれ程の衝撃波が、襲って来たのである。
アッド以下幕僚たちは、ウィングに飛び出した。
輸送船団が展開しているはずの海域から、巨大なキノコのような雲と、表現すべき物が、天高く立ち上っていた。
「あれは・・・いったい?」
アッドが、つぶやく。
「もしかして、あれが・・・」
誰かのつぶやく声が、耳に入った。
「ん?」
アッドは、声がした方向に振り返る。
「貴官たちは、あれの正体が、わかっているのか?」
彼は、独伊英米から派遣されている、空母機動部隊連合幕僚団に聞いた。
連合幕僚団は、ドイツ第3帝国国防軍総司令部、アメリカ海軍作戦本部等の中央から派遣されている、上級将校たちである。
自分のように、地方の沿岸を預かる高級士官とは、与えられている情報のレベルは違う。
「いえ、自分たちも、噂程度の事しか知りません・・・」
「それでも構わない。話せ」
アッドの言葉に、ドイツ帝国海軍の情報将校である中佐が、口を開いた。
「提督は、原子爆弾という、原子核を使った爆弾の理論を、ご存じですか?」
「あ、ああ。確か・・・日本人科学者が発表した、未知のエネルギーを使った、新型爆弾の事だろう?」
「その通りです。先ほどの光景は、すべてその時に発表された物と、極めて似ているのです」
「まさか!?あれが、新型爆弾なのか!!?」
アッドが、叫ぶ。
実は、原子爆弾の理論や研究は、20世紀初期から行われていた。
もっとも、研究や理論は、原子の性質についてであるが・・・それを爆弾にする、という発想を考えたのは、日本人科学者たちである。
それまで、ヨーロッパの研究者たちは、この未知のエネルギーを爆弾にするという発想は、無かった。
一説には、それを主張する学者もいたが、日本人科学者が主張するまで、誰も聞く耳を持たなかったとされている。
皮肉な事に、自分たちの発表の結果が、自分たちの国の2つの都市に投下されるとは、夢にも思わなかっただろうが・・・
ただし、これは日本に限った話では無く、歴史を見直せば、同じ様な事態は、五万とある事だ。
巨大な閃光とキノコ雲は、4ヶ国連合軍連合艦隊戦艦部隊も確認している。
[サモア]の艦橋では、4ヶ国連合軍連合艦隊戦艦部隊アメリカ海軍大西洋艦隊派遣艦隊の指揮をとる少将は、ワシントンDCの海軍省で勤務する元部下から聞かされた事を、思い出した。
「あれが・・・新型爆弾」
だが、その兵器は、自分が想像している以上だった。
「戦術兵器・・・レベルでは無いな」
第1次世界大戦時に登場した化学兵器や生物兵器は、古代から使用されていた生化学戦術兵器の常識を覆し、戦略兵器に区分された。
目の前で発生しているキノコ雲は・・・明らかに、自然発生的現象では無い。
海軍省の、元部下から聞かされた説明を、遥かに超える。
「もはや・・・戦争にも、ならない」
少将は、つぶやく。
そして、敵の示威が理解できた。
何故、自分たち戦艦部隊でも無く、空母機動部隊でも無く、輸送船団を狙ったのか・・・
(見せしめの、つもりか・・・)
戦艦部隊も空母機動部隊も、戦略的に見ても、殲滅すれば、それなりの影響力はある。
しかし、人的被害での効果や、世界に与える影響力を見れば、どちらを殲滅させても効果は薄い。
しかし、輸送船団は別である。
500隻以上の輸送船と、30万人の上陸兵員がいる。
その500隻と30万人の消滅は、悲劇的かつ衝撃的なニュースとして、世界中に流れる。
「情報規制どころでは無い。それどころか、統制する事もできないだろう」
30万人の戦死・・・という事案は、どのような処置を行っても、隠す事はできない。
4ヶ国という多国籍であるのと、30万の将兵には、当然ながら家族がいる。
戦死報告書を、残された遺族に送らなければならない。
下手に統制や規制を行えば、彼らの口から世間に流れる可能性がある。
「提督!艦隊司令長官から、緊急の電文です!」
「うむ」
少将は、電文に目を通した。
4ヶ国連合軍連合艦隊前衛哨戒部隊に属する潜水艦が、フォークランド諸島沖に展開しているゴースト・フリートを発見した。という内容である。
潜水艦は、[ガトー]級潜水艦を改良し、レーダーの増設や、潜航時間の延長等の改良を行い、艦隊型哨戒潜水艦として、導入された。
「やられるだけでは、海軍軍人の名が廃る」
少将は、つぶやく。
「提督。空母機動部隊から、200機の攻撃隊が、出撃します。空と海上、海中からの3次元飽和攻撃なら、いかに高性能なレーダーや防御兵器があろうとも、敵艦隊も、無事ではすみません」
先任参謀が、そう述べた。
「その通りだ」
少将が、うなずく。
アメリカ軍は、太平洋でのゴースト・フリートとの直接対決を通して、将兵たちの決死の行動で、手に入れる事ができた情報を、陸海軍省及び参謀本部と作戦本部は細かく分析し、彼らへの有効な攻撃方法を議論した。
そこで提案されたのが、大口径砲を有する戦艦を主力とし、空母から出撃した攻撃隊と、潜水艦からの同時攻撃による、3次元飽和攻撃である。
100機以上の艦上攻撃機と、艦上爆撃機による航空攻撃と、潜水艦からの魚雷攻撃を行いつつ、戦艦の大口径砲を持って叩く。
というのが、対ゴースト・フリートへの基本戦略である。
もちろん、この際、ジェット戦闘機による航空攻撃も予想されるため、専門の防空艦や防空火器を増設して、対処する対抗策を作った。
4ヶ国連合艦隊空母機動部隊から出撃した攻撃隊200機は、前衛哨戒部隊に所属する潜水艦が発見した、ゴースト・フリートに針路を向けていた。
[エセックス]級空母[フランクリン]から発艦した攻撃隊80機は、どれも最新鋭機ばかりである。
艦上戦闘機は、F8F[ベアキャット]である。
高性能エンジンを搭載し、F6F[ヘルキャット]よりも、小型軽量化された機体であり、運動性能、低空での飛行性能等、高い能力を有する。
同機は、大日本帝国陸海空軍が導入している高性能レシプロ戦闘機に対抗するために、F6Fの機体をベースに、小型軽量化及び新型の高性能エンジンを搭載し、互角叉はそれ以上の格闘戦ができるように開発された。
武装は、対地対艦用の無誘導ロケット弾と、固定武装として20ミリ機関砲を4門搭載している。
艦上爆撃機も艦上攻撃機も、新鋭機のSB2A[バッカニア]と、TBF[アベンジャー]である。
ゴースト・フリートが保有する艦上ジェット戦闘機や、スペース・アグレッサー軍空軍のジェット戦闘機に対抗するために、陸軍航空軍と海軍航空隊は共同で、ジェット戦闘機の開発とパイロットの育成を急いでいるが、今回の作戦には間に合わなかった。
そのため、ジェット戦闘機との制空戦闘を担当するのは、ドイツ第3帝国国防軍海軍航空部隊の艦上ジェット戦闘機である、He162[フォルクス・イェーガー](海軍機仕様)である。
「レーダー警戒機より、各攻撃隊へ、レーダーに複数の機影を探知!ゴースト・フリートのジェット戦闘機部隊だ!」
ドイツ帝国海軍が、空軍の中型爆撃機を改造し、爆弾を搭載せず、レーダーや通信機器を装備した早期警戒機もどきから、警告の通信が届く。
爆装しないため、中型爆撃機の大出力エンジンを搭載しているのと、様々な改造により、機体の軽量化を行ったため、カタパルト射出機があれば、空母での運用も可能である。
レーダー警戒機からの指示で、He162隊は、接近中のジェット戦闘機に機首を向けて迎撃態勢に入った。
「頼むぞ。俺たちが、ゴースト・フリートに接近するまで、時間を稼いでくれ」
航空魚雷を搭載した、TBFに搭乗する攻撃隊指揮官である少佐が、ドイツ第3帝国国防軍空軍の識別マークを付けた、ジェット戦闘機に告げた。
He162は、増槽を搭載した状態でも、最大速度795キロ、巡航速度650キロというレシプロ戦闘機に比べれば、速いレベルだが、音速を超えるゴースト・フリートのジェット戦闘機の速度には、遠く及ばない。
サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟海軍西海攻略艦隊の上空援護として出撃したのは、サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟海軍三海攻略艦隊第1空母戦隊から派遣された、[ウリヤノフスク]級原子力航空母艦から発艦した、MiG-29Kである。
MiG-29K隊は、接近中の戦闘機部隊を確認すると、左に旋回しながら中射程空対空ミサイルであるR-27を発射した。
同列の中射程空対空ミサイルに、AIM-7F[スパロー]があるが、同ミサイルは、それに対抗するために開発された、空対空ミサイルである。
射程距離は、種類によりさまざまであるが、派生型の中にはAWACS、レーダーサイト、イージス艦のフェーズドアレイレーダー波を探知し、攻撃する専用のミサイルもある。
MiG-29Kは、一斉にR-27を発射した後は、次弾のR-27を、発射しなかった。
ドック・ファイトに移行して、ドイツ帝国海軍ジェット戦闘機部隊に、戦いを挑んだ。
He162隊は、先導部隊がロケット弾攻撃を受けて、隊長機を含む数機が撃墜された。
「あれが、ロケット弾・・・誘導性能や運動性能は、段違いだ」
戦闘飛行隊の次席指揮官である大尉が、He162のコックピットで、つぶやく。
「残存機に告ぐ!2機編隊で展開し、バラバラの高度で迎撃せよ!」
大尉は、隊長機以下随行機が撃墜されても怯まず、冷静な口調で部下たちに告げた。
He162は、固定武装として機首に30ミリ機関砲が2門武装されており、ドイツ第3帝国軍需省兵器研究局が、V-1ロケットや、V-2ロケットの開発成功の技術を基に、短距離限定の無線誘導式ではあるが、対航空機用ロケット弾が、主翼下に搭載されている。
「ジェット戦闘機だ!」
部下から、報告が入る。
大尉も、自分たちが保有するジェット戦闘機を、遥かに上回る速度で飛行する、ジェット戦闘機を目視した。
「あの速さでは、対空ロケット弾は、使えない」
彼は、すぐに判断した。
He162や、他のドイツ第3帝国国防軍空軍のジェット戦闘機が搭載可能な対航空機用ロケット弾は、どちらかと言うと、双発以上の爆撃機や、輸送機を撃墜するのが限界だ(レシプロ戦闘機も条件にもよるが、撃墜は不可能では無い)。
大尉は操縦桿を操り、ジェット戦闘機を追跡する。
だが敵機は、こちらの増槽無しの最高速度を軽く上回る速度で、追跡を振り切る。
(速い!?)
敵機は、主翼下に搭載されているロケット弾を発射し、味方機を次々と撃墜していく。
He162隊も、やられるだけでは無く、急降下や急旋回を繰り返し、回避飛行を行いながら、機銃掃射する。
発射速度が遅い本機の30ミリ機関砲弾では、会敵しているジェット戦闘機を墜落させるだけのダメージを与えるのは、不可能だ。
「一瞬の隙をつく・・・か」
大尉は、操縦桿を操り、空中戦を繰り広げながらつぶやくが、それが難しい事である事を理解していた。
他の機も、目の前の敵機と戦うのが精一杯のようだ。
その時、彼らの通信機から、緊急通信が流れた。
「こちら4ヶ国連合艦隊空母機動部隊!現在、ゴースト・フリートのジェット戦闘機部隊の攻撃を受けている!!」
通信内容から、どうやら空母に随行している防空駆逐艦からの通信であろうが、自分たちを驚愕させるには、十分だった。
「しまった!?」
大尉は、通信の内容に一瞬、意識を集中させてしまったため、目前の敵を見失ってしまった。
これまで、ジェット戦闘機だからこそできる運動性能と旋回性能を生かした、回避飛行を行っていたが、僅かに生じた隙を、彼らは見逃さなかった。
すかさず、後ろに付かれる。
完全に後ろを捕られた状態で、機銃掃射を受けて、被弾した。
大尉が操縦するHe162は、後方から炎上し、飛行不能になった。
彼は、海上を睨んだ。
幸いにも海上は、穏やかである。
(着水を、試みる)
機を捨ててパラシュートで脱出する事も考えたが、現在の高度と速度を考えれば、リスクの高いパラシュートでの脱出よりも、着水の方が安全である。
彼らが、スペース・アグレッサー軍や、ゴースト・フリートと呼称する未来軍の戦闘機には、被弾時に緊急脱出装置があるが、この時代では緊急脱出装置も無く、従来のように風防ガラスを開放して、尾翼に注意しながら、機から離れる。
だが、すべてがアナログであるため、機体ダメージを確認し、制御不能か、どうにか制御可能なのかを判断しなくてはならない。
その状況下でのパラシュートによる脱出判断であるため、パラシュート開傘時から地面に着地するまでの落下速度で脱出者の成否が分かれる。
実を言えば、第2次世界大戦時による空中戦で実際に被弾した戦闘機からパラシュートで脱出したパイロットと、不時着や着水を試みたパイロットの生還の比率は、半々である。
どちらかと言うと、パラシュートでの脱出よりも、不時着や着水を試みるパイロットは、多い。
着水後、海に飛び込んだ大尉が顔を上げて、空を見上げた時、青い空を燕のように飛翔しているのは、ゴースト・フリートの戦闘機だけだった。
「クソッ!!クソッ!!完敗だ!!完全に、してやられた!!」
大尉は、悔しさに、海面を叩いて叫んだ。
真紅の旗 其れは革命の色 第2章をお読みいただきありがとうございます。
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