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真紅の旗 其れは革命の色 第1章 バトル・オブ・アトランティックオーシャン 1 始まりは三度目の悪夢

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 大西洋上では、40隻以上の大艦隊が、南下していた。


 戦艦、巡洋艦、駆逐艦のマストには、アメリカ星条旗、イギリス国旗、ドイツ第3帝国旗、イタリア王国旗が、掲げられていた。


[ビスマルク]級戦艦2番艦[ティルピッツ]、[シャルンホルスト]級戦艦1番艦[シャルンホルスト]、2番艦[グナイゼナウ]を基幹とする、ドイツ第3帝国国防軍海軍戦艦部隊、[アラスカ]級戦艦2番艦[サモア]、[ニュー・メキシコ]級戦艦1番艦[ニュー・メキシコ]の2隻を基幹とする、アメリカ海軍戦艦部隊である。


 イギリス海軍は、主力艦のほとんどを太平洋に回したため、大西洋に残っている戦艦は、[キング・ジョージ5世]級戦艦[アンソン]と、[ハウ]のみである。


 ただし、[アンソン]は、ドイツ、イギリス両首脳の、講和に向けての会談以前に行われた戦闘で、ドイツ第3帝国国防軍空軍と、イタリア王国海軍空母機動部隊から発艦した攻撃隊による艦攻で中破し、ドックで修理中であった。


 イタリア王国海軍は、巡洋艦部隊と駆逐艦部隊を派遣し、4ヶ国連合軍連合艦隊の戦艦部隊を護衛している。


 ドイツ第3帝国国防軍海軍4ヶ国連合軍連合艦隊ドイツ艦隊司令長官の、ベルトホルト・ベッシュ中将は、戦艦[ティルピッツ]の艦橋で、司令官席に腰掛けていた。


「提督。いかがされました?」


「ん?何がだ?」


 副官である中佐の問いかけに、60歳ぐらいに見える老提督が、振り返った。


 ベッシュは、出港してからずっと、食事と就寝以外の時間は、パイプを口に咥えていた。


「提督はずっと、パイプを嗜まれています。何か懸念が、おありなのでは?」


 副官の言葉に、ベッシュは苦笑した。


「フッフッフッ、歳は誤魔化せんな」


「提督とは、長い付き合いですから」


 僅かに微笑を浮かべて、副官は答えた後、真顔になった。


「それで、何を懸念していらしたのですか?」


 副官の問いに、ベッシュは答えた。


「ドイツ帝国海軍や、イタリア王国海軍の艦隊はともかく、アメリカ海軍とイギリス海軍は急造の戦艦、空母造船計画で建造された戦艦と空母だ。確かに急造ではあるが、設計から建造まで、信じられない高性能な戦艦として就役させている。しかし、それを扱う水兵たちに、問題がある。情報では、経験豊富な下士官や上級水兵、優秀な新任の下士官や水兵たちは、ほとんど太平洋に回されている。大西洋艦隊に回された海軍軍人や水兵は、十分な練度は無い。この状況下で、我々の想像を越える超兵器を有するスペース・アグレッサー軍と、戦えるとは思えない」


 ベッシュの懸念に、副官は、艦橋窓からアメリカ、イギリスの戦艦を眺めた。


「4ヶ国連合軍総司令部からの報告では、連合戦艦部隊と空母機動部隊。そして、その後方に、ヴェルサイユ条約機構軍に属する国家群で、編成された水上艦部隊が、4ヶ国連合軍上陸部隊を乗せた輸送船団を、護衛しています。本来なら、これ程の武力を有する4ヶ国連合軍連合艦隊なら、向かうところ敵無しと、自信を持って主張出来ますが・・・これだけの武力を有しても、彼らに太刀打ちできるかどうか疑問です」


 副官も、アメリカ海軍とイギリス海軍の戦艦部隊の練度には、懸念がある。


 ベッシュと副官は、海軍士官学校で、教官と生徒という関係だった。


 老提督は、副官を含む候補生たちに、戦術論を教授した。


 ドイツ第3帝国海軍は、海軍拡大計画で、潜水艦決戦思想と高速機動戦艦を主力とした高速機動艦隊計画を、スタートさせた。


 同時期に、イタリア王国海軍は、従来の戦艦と空母を主力とした、打撃艦隊計画をスタートしているため、独伊海軍共同での外洋海軍計画を進めていた。


 だが、イタリア王国は財政難であり、とても海軍にそれだけの予算を回せなかったのと、ドイツ第3帝国も、陸軍と空軍に予算を大幅に割いているため、とても海軍に予算を回す余裕がなかった。





 アメリカ海軍大西洋艦隊から派遣され、4ヶ国連合軍連合艦隊に属する[アラスカ]級戦艦(史実で計画されただけの、[アラスカ]級巡洋戦艦では無い)は、アメリカ海軍が計画した大規模艦艇造船計画で建造された、急造戦艦である。


 同計画で就役した、[サウスダコタ]級戦艦、[アイオワ]級戦艦、[モンタナ]級戦艦と並ぶ、新鋭戦艦だ。


[アラスカ]級戦艦は、[アイオワ]級戦艦と[モンタナ]級戦艦の中間的位置に属する戦艦である。


 全長277メートル、基準排水量5万5000トン、最大速力29ノット程度と、されている。


 主砲は、3連装50口径16インチ砲が4門、対空、対水上戦用副砲である5インチ連装砲が8門、対空迎撃用5インチ連装速射砲4門、対空迎撃用3インチ速射砲8門、その他、自動式及び手動式対空機銃が、多数設置されている。


 対空兵装は、スペース・アグレッサー軍のジェット戦闘攻撃機や、ロケット弾を迎撃する事を視野に入れて、開発されている。


 これは、正規空母の航空戦力だけでは、スペース・アグレッサー軍や、ゴースト・フリートのジェット戦闘機や対空戦闘能力に、太刀打ちできない事を把握し、大火力と防護力を有する戦艦との海空共同での総力戦で、ゴースト・フリートの艦隊を圧倒する事を、アメリカ海軍作戦本部は提案した。


 そのため、[エセックス]級航空母艦及び、その発展型航空母艦と並行して、急建造された艦隊決戦型戦艦である。


「艦長。機関の調子は?」


[アラスカ]級戦艦2番艦[サモア]の艦長である大佐に、戦時特例で昇進した少将が、問うた。


「進水して、各種試験無しで、そのまま実戦配備されましたので、機関も本調子とは言えません。それに・・・」


「新米水兵と、初級下士官たちの練度か・・・」


 艦長の答に、少将は腕を組んだ。


 この2人は、現役の海軍軍人では無く、元は予備役と退役軍人だった。


 艦長は、海軍予備役大佐であり、大西洋艦隊の人員補充で、現役の海軍大佐になった。


 少将は、戦争が始まる前に退役し、アメリカ東部の田舎町で妻と2人で、残りの人生を過ごそうと思っていたが、大日本帝国が宣戦布告し、ハワイ諸島の占領と、パナマ運河の破壊と同時に行われた、ノーフォーク海軍基地への戦略爆撃機による戦略爆撃で、娘を失った。


 彼の娘は、海軍関係者では無い。


 娘は中学校教員であり、その時は、数年後に兵役に就く男子中学生たちと共に、海軍見学会に参加していた。


 海軍見学会と言っても、大規模な行事では無く、定期的に基地司令官と、学校長の協議と気分で行われる、小規模な見学会だった。


 見学会は、一泊二日という日程で、行われた。


 その日の夜に、悪夢が起きた。


 スペース・アグレッサー軍の戦略爆撃機が、ノーフォーク海軍基地上空に現れて、大量の爆弾を投下した。


 娘と他の教員、生徒たちは、軍艦が停泊している軍港に隣接する宿舎で、宿泊をしていたためと、基地警戒要員による空襲警報発令の遅れ、空襲時の避難態勢が万全では無かった、という不手際が幾つも重なり、25名以上の教員と中学生が、爆撃に巻き込まれた。


 彼は、復讐のために、海軍に復帰したのでは無い。


 戦争である以上は、このような事態が発生するのは、仕方の無い事だ。


 こちらも、大日本帝国本土空襲で、軍人だけでは無く、民間人にも死傷者を出した。


 戦略爆撃は、いかに攻撃ポイントを軍事施設に限定しても、その日に必ず軍人だけがいるとは、限らない。


 だが、父親としては、複雑な気持ちである事は変わりない。


 彼の息子3人も、海軍士官や陸軍士官であった。


 その内の1人は、空母[ヨークタウン]に、通信士として配属されていたが、ゴースト・フリートのロケット弾攻撃で、艦と運命を共にした。





 フォークランド諸島近海に展開する、サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟海軍西海攻略艦隊旗艦である[キーロフ]級重原子力ミサイル巡洋艦[ジダーヌフ]の艦橋では、艦隊司令官のアラン・ブイコフ・ドミトリエフ海軍中将が、司令官席で腰掛けていた。


「同志提督!」


 参謀長の少将が、声をかけた。


「無人偵察機が、フォークランド諸島に接近する大艦隊を、確認しました」


 参謀長の報告に、ブイコフは涼しそうな顔つきで、艦橋に設置されているモニターの1つに、視線を向けた。


 無人偵察機から送信されている映像が、映し出される。


「ふむ・・・ドイツ、アメリカ、イギリス、イタリアが、手を組んだか・・・まあ、それもあり得る事だ」


 ブイコフが、つぶやく。


「太平洋で、ニューワールド連合軍が派手に暴れ回っているおかげで、連合国も枢軸国も事態の重さを理解しているのでしょう」


 参謀長の台詞に、ブイコフがうなずく。


「恐らく、その後方に、上陸部隊を乗艦させた輸送船団が、いるだろう」


 ブイコフの指摘に、作戦参謀を任されている参謀が、答えた。


「ご心配無く、同志提督。[ラーダ]級潜水艦を、差し向けました。そろそろ、連絡が来る頃です」


 参謀が言った後、通信参謀が報告した。


「見つけました!!4ヶ国連合軍連合艦隊の後方に、フランス海軍、スペイン海軍、オランダ海軍、ポーランド海軍等の駆逐艦や、フリゲートに護衛された、輸送船団を発見しました」


「規模は?」


 ブイコフの言葉に、通信参謀が、通信文を見る。


「輸送船団の規模から上陸兵力は、アメリカ軍、イギリス軍、イタリア軍、ドイツ軍を合わせて30万規模と、推測されます」


「なるほど。さすがに太平洋で、敗退した経験を積んだだけはある」


 ブイコフの台詞に、参謀長がうなずく。


「敵の規模が不明な時は、投入可能な全兵力を投入する。戦略の基礎です」


「まずは、見せしめに、輸送船団を殲滅する・・・か」


 ブイコフのつぶやきに、彼の幕僚たちは、薄く笑みを浮かべた。


「同志提督が教授する、現代海戦戦術の戦術論ですね」


 参謀長の台詞に、ブイコフは笑みを浮かべた。


 ブイコフが教授する現代海戦戦術は、世界中の海軍国家で、採用されている。


 彼は、戦略論や戦術論等の講演会を行う傍ら、さまざまな戦略書や戦術書を出版し、それはロシアやロシアの同盟国、友好国だけでは無く、アメリカ等西側に属する諸国でも、翻訳され、出版されている。


 もちろん、日本国海上自衛隊でも、採用されているだけでは無く、護衛艦の艦長クラスや、司令クラスも、私物として購入した彼の書籍を、愛読している程だ。


 中には、ブイコフの講演を直接聞くために、モスクワを訪れた自衛官も、いるそうだ。


 ブイコフは、さまざまな国の情勢に合わせた、戦術書も出版している。


 そのため、防衛のみに専念した海上自衛隊に合わせた防衛戦略や防衛戦術を、一介の学生でも理解できるように、分かりやすく解説した本もある。


「同志諸君。まずは総攻撃を仕掛ける前に、警告を発する事にしよう」


 ブイコフは、司令官席から立ち上がり、指示を出した。





 4ヶ国連合軍輸送船団と、ヴェルサイユ条約機構軍護衛艦隊の上空援護と、艦隊の防空を任されている、イギリス海軍護衛空母艦隊は、随時、艦上戦闘機と偵察機を発艦させて、上空警戒と対潜捜索を、行わせていた。


[ボーグ]級護衛航空母艦の1隻に乗艦する、護衛空母艦隊司令官である代将は、双眼鏡で艦橋の窓から、海上を警戒する。


「司令。上空警戒飛行隊発艦準備完了しました」


「うむ」


 代将は、うなずいた。


[ボーグ]級護衛航空母艦から、シーファイアが発艦する。


「し、司令!!通信が、入っています!!」


 通信士官が、叫ぶ。


「友軍か?」


「いえ!フォークランド諸島近海に、展開しているスペース・アグレッサー軍からのようです!」


 通信士官の言葉に、代将は、通信を解読するよう指示した。


「解読できました」


 交信内容は平文であるから、そんなに時間はかからない。


 代将は、通信士官が持ってきた、通信文に目を通す。


『我が艦隊は、戦艦を主力とした連合艦隊と、輸送船団を完全に捕捉している。我々の武力を見せつけるため、輸送船団を撃滅する』


「・・・・・・」


 通信文の内容に目を通した代将は、言葉を失う。


「司令?」


 部下からの問いかけに、代将は我に返った。


「上空警戒中の警戒機に、周辺の警戒を厳にさせろ!」


 代将が、叫んだ。


 ヴェルサイユ条約機構軍護衛艦隊にも、同じ通信が届いており、各艦が対潜、対空警戒を厳にするため、各艦の間隔を空けて、展開した。


 レーダーピケット艦が、周辺に展開し、低空から飛翔するロケット弾探知に、全力を尽す。


「司令!!ヴェルサイユ条約機構軍護衛艦隊に属するスペイン海軍のレーダーピケット艦が、接近中のロケット弾を探知!!」


「数と、高度は!?」


「数は1発で、高度はかなり高いです!太平洋で確認されている、スペース・アグレッサー軍のロケット弾とは、違います!」


「1発?」


 代将は、首を傾げた。


 500隻以上の輸送船団と、30隻以上の駆逐艦、フリゲート等を沈めるには、1艦1発としても、550発以上は必要だ。


 たったの1発だけでは、1隻を沈めるのが、限界のはず・・・


(いや・・・何かあるのか?)


 代将は、楽観できなかった。


 これまでの報告から、スペース・アグレッサー軍と、それに支援された大日本帝国軍は、自分たちの予想を遥かに超える兵器を駆使してきた。


 どれ程警戒したとしても、足りないくらいだ。


「ロケット弾接近中!!」


 見張員が、叫ぶ。


 代将以下、艦橋要員たちが、双眼鏡を覗く。


 そのロケット弾は、ゆっくりと降下し、艦隊の中心上空まで、接近した。


 高度3000メートル程度で、艦隊中央に到達した瞬間、ロケット弾が炸裂した。


 その炸裂は、自分たちの知識にある爆発とは、比べ物にならない。


 まるで、もう1つの太陽が、現れたような閃光だった。


 一瞬のうちに閃光は、代将たちが乗艦する[ボーグ]級護衛空母を、包み込んだ。


 それが、彼らが見た、最後の光景だった。


 自分たちに何が起きたのか、それを理解する事もできなかった。


 輸送船団とヴェルサイユ条約機構軍護衛艦隊は、6000度の熱に包み込まれて、消滅した。


 猛烈な衝撃波と閃光は、遠くに離れた距離に展開する4ヶ国連合軍連合艦隊からも、確認できた。


 さらに衝撃波により、高さ30メートルを超える津波が発生した。


 現代人であれば、その兵器が何なのかは、すぐにわかる。


 核ミサイルである。


 残念ながら、この時代の者たちでは、一般的に核兵器の概念は伝わっていないため、それを理解する事は難しい。





 よもや、人類史上3度目となる、核兵器の使用が、1945年より3年も前に行われるとは、80年後からやって来た人間たちも、想像出来なかったであろう。

 真紅の旗 其れは革命の色 第1章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

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