こぼれ話 指揮母艦[信濃]就役と聯合艦隊の新編成
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
大日本帝国海軍呉鎮守府呉軍港で、聯合艦隊司令長官の山本五十六大将は、聯合艦隊司令長官職を解かれ、新たなる職務に付く事になった。
統合軍省統合軍作戦本部統合作戦総長に任命された。
統合軍省は、陸軍省、海軍省、空軍省、軍需省、復員厚生省(同省は兵役満了者、退役軍人、傷病除隊等の軍人、遺族への福祉を、任されている)の上位に位置し、内閣での軍務に関する発言権、拒否権を有する。
その麾下に、統合軍作戦本部が置かれている。
統合軍作戦本部は、統合参謀本部に該当する。
長である統合作戦本部長官は、大本営では統帥権を有する天皇陛下への助言や、陸軍部、海軍部、空軍部を監督、3軍のトップと作戦行動を調整する。
山本が配置された統合作戦総長は、天皇陛下や統合軍作戦本部長官の目となり、耳となり、大本営と前線で展開する陸海空軍の、統合作戦行動の調整及び作戦の立案等を行う。
任命式は、呉軍港で投錨している、就役したばかりの最新鋭艦、指揮母艦[信濃]の、全通甲板で行われた。
[大和]型戦艦3番艦として計画されていた[信濃]は、史実では空母に変更されたが、この時代では、陸海空軍の統合作戦指揮や陸軍参謀本部、海軍軍令部、空軍作戦本部からの指令と、前線で展開する陸海空軍の統合作戦行動を調整するために再計画され、建造された。
指揮母艦[信濃]には、さまざまな設備が施されており、軍需省傘下の工業が開発した最新型の電算機や、通信傍受機等を設置され、遠く離れた前線と本土の大本営の中継点として申し分ないレベルの機能を有する。
指揮母艦という艦種だが、一見すると正規空母とあまり変わらない。
飛行甲板と艦載機格納庫があるため、空母と言われても間違いでは無い。
指揮母艦[信濃]は、30機の艦載機を搭載できる。
搭載している艦載機は、未来からの技術等の提供により、軍需省傘下の航空産業が開発、量産した回転翼航空機と、情報収集を専門に改造された固定翼航空機を搭載する。
統合作戦総長になった山本の幕僚人事は、以下の通りである。
陸軍本部長、牛島満中将
陸軍参謀長、八原博道少将(中佐だったが、戦時特例により少将に昇進)
海軍本部長、宇垣纏中将
海軍参謀長、黒島亀人少将
空軍本部長、小沢治三郎中将(海軍少将だったが、空軍に転向時に中将に昇進)
空軍参謀長、神浦閏少将
陸海空軍の本部長は、中将が任命され、参謀長は少将が任命された。
宇垣と黒島は海軍本部長、海軍参謀長に任命された段階で1階級昇進した。
指揮母艦[信濃]で初めて顔を合わせた6人の陸海空軍高級士官は、総長公室で初めての昼食をとる事になる。
指揮母艦[信濃]は、位の高い高級士官や諸外国の高級士官等が乗艦する事を前提に建造されているため、提供される食事は、海軍一である。
兵卒たちが山本以下、高級士官、上級士官、高級士官付下級士官、オブザーバー(新世界連合軍、新世界連合軍支援軍、菊水総隊から派遣された下級幹部)たちに、昼食を配膳する。
昼食は、指揮母艦[信濃]の正式な就役と、マストに総長旗が掲げられた祝いとして、赤飯が出された。
「それでは、冷めないうちにいただこう」
山本は、全員に昼食が行き渡った事を確認すると告げた。
「「「いただきます」」」
彼らは箸を持ち、食事を始めた。
昼食のメニューは、主食である赤飯、瀬戸内海で採れた新鮮な魚を使った焼き魚、野菜の煮物と味噌汁である。
「宇垣本部長。[大和]型戦艦の艦体を流用しているだけあって、中々ゆとりのあるスペースが確保されているな」
山本が、率直な感想を述べた。
「ええ、下士官や兵卒たちの居住区も[大和]型戦艦よりも上のように感じます」
指揮母艦[信濃]は最新技術を最大限に取り入れているため、操艦要員は[大和]型戦艦1番艦[大和]、2番艦[武蔵]よりも少ない人数で運用ができる。その分、居住区の環境を向上する事ができた。
山本五十六大将が、統合作戦総長に就任したと同時に、帝国海軍内でも、新たなる人事異動が行われた。
聯合艦隊司令長官に就任したのは、豊田副武大将である。
史実では山本の死後、聯合艦隊司令長官に就任したのは、古賀峰一大将であったが、ここでは大日本帝国海軍総隊司令長官に就任した。
聯合艦隊参謀長として就任したのは、少将に昇進した桜川典則である。
聯合艦隊旗艦となった艦は、指揮母艦[信濃]と同じ時期に就役した、[生駒]型航空巡洋艦1番艦[生駒]である。
[生駒]は、後部甲板を回転翼航空機甲板とし、回転翼航空機を運用する。
全長188メートル、基準排水量1万2000トン、速力30ノット、個艦武装は60口径一五.五糎3連装砲2門、一二.七糎連装速射砲4門、一式三五粍連装対空機関砲4門、二〇粍高性能自動対空機関砲2門、最後部に4連装艦対空誘導噴進弾発射器が1器、搭載機数は回転翼航空機7機である。
[生駒]型航空巡洋艦は、これまでの分類で区分すれば、重巡洋艦であるが、石垣たちの時代で言えば、旧式のヘリコプター搭載巡洋艦クラスである。
聯合艦隊司令長官としての初仕事は、聯合艦隊旗艦[生駒]の艦内視察である。
「参謀長、先任参謀。俺は、彼らが現れてから、大日本帝国人として、ずっと傍観の姿勢で、1940年末頃から今日まで、幽霊総隊海軍やその他の軍、新世界連合軍を観察していた。積極的に彼らと接触している貴官等と違って、俺は彼らの人となりを知らない」
豊田は、若手高級士官に入る桜川と、先任参謀である神重徳大佐に告げた。
「長官。私も軍令部勤務だった時、彼らと積極的に交流しましたが、長官が考えている程、私は、彼らを理解できておりません」
桜川が答えた後、神が口を開く。
「自分も、参謀長と同じ考えです。開戦以来観戦武官として、新世界連合軍連合海軍艦隊総軍司令官在艦の原子力空母[フォレスタル]で、ペリリュー島攻防戦を観戦しました。彼らのテクノロジーは、恐ろしい限りです。正直に申し上げれば、本当に80年後に、私たちの孫にあたる世代が、このようなテクノロジーを持つ事ができるのかと、疑問に思ったぐらいです」
「だが、貴官等は俺以上に、彼らの事を知っている。俺は、呉鎮守府司令長官だった時に、B-25による本土空襲を経験した。その内の少数の爆撃機編隊が、呉鎮守府上空に接近した。彼らは、まるで蚊を叩き落とすような感覚で撃墜した。彼らが持つ対空、対潜、対水上、対地用の噴進弾は、数多くの種類があり、射程距離、炸薬量、誘導方式が異なるだけだ。それを、戦場に出た海軍将兵たちは、どう思うか・・・」
「どう、とは?」
神が、尋ねる。
「これまでの戦闘報告書を、念入りに研究した。兵器の進歩、技術の進歩、戦略の進歩、戦術の進歩は、格段に上がっている。彼らと共に戦った海軍将兵に聞くと、連合軍将兵も同じ人間です。人である以上、何らかの対策を練るのは当然の事です、と口を揃えて主張した」
「感覚が麻痺している。という事ですか?」
神が、つぶやく。
「・・・・・・」
豊田は、何も答えなかった。
桜川は何も喋らず、ただ、彼らの話を聞いているだけであった。
豊田、桜川、神の3人は航空巡洋艦[生駒]艦長(大佐)に、艦首に案内された。
艦首から眺めれば、3連装一五.五糎砲2門、艦橋、艦橋左右に設置された二〇粍高性能自動対空機関砲2門を見る事ができる。
「あれが、彼らから提供された対空火器か?」
豊田が、指を指す。
「そうです」
「回転翼機空母[かが]で、あれが火を噴くのを、一度だけ見ました」
神が、つぶやく。
航空巡洋艦[生駒]に搭載されている二〇粍高性能自動対空機関砲は、新世界連合軍連合海軍や海上自衛隊、朱蒙軍海軍の軍艦に搭載されているCIWSである。
ただし、大日本帝国海軍に提供されたのは、初期モデルのBIock0のスペックダウン型であり、大日本帝国以外にも、フィリピン共和国、タイ王国、エルキア皇国にも輸出予定である。
スペックダウン型ではあるが、この時代のレシプロ戦闘機や第1世代ジェット戦闘機には、十分に対処できる。
[大和]型戦艦に搭載されている、近接防空機関砲では無い。
「彼らの言う通り、自艦防衛の最後の盾と言って、間違いありません」
艦長が簡単に説明した後、豊田たちは艦内に案内された。
[生駒]型航空巡洋艦は、艦隊旗艦機能を持たせた状態で建造されたため、聯合艦隊司令部をそのまま[生駒]に移してもまったく問題無く、その状態で小規模な統合作戦司令部としても機能できる設備を有する。
聯合艦隊司令部室は、士官室と同じ区内に設置されている。
同区には、小さいながらも情報収集室、情報分析室が置かれ、通信電波の傍受や敵軍の暗号電文の解読までできる。
戦闘指揮所も当然ながら、設置されている。
これらを視察した後、回転翼機甲板下部にある艦載機格納庫に案内された。
大日本帝国海軍が運用する回転翼航空機は、1950年代に初飛行し、同年代に運用が開始された、アメリカ及び西側諸国のベストセラー・ヘリコプターであるS-58をベースに、開発、運用された二式対潜哨戒回転翼機と、V-107初期型をベースに陸海空軍で共同開発、運用された二式輸送回転翼機である。
[生駒]型航空巡洋艦は、回転翼航空機を7機運用する能力を有するが、常時搭載機数は二式対潜哨戒回転翼機2機と、二式輸送回転翼機2機である。
「幽霊総隊海軍や新世界連合軍連合海軍等の対潜哨戒回転翼機にはまったく敵いませんが、二式対潜哨戒回転翼機の導入により、潜水艦に対する防御能力は格段に上がりました。本艦は、回転翼航空機運用能力を確保するために、対潜水艦兵器を搭載できませんでしたから、こいつと、護衛の駆逐隊で連携すれば、本艦から10キロメートル圏内に近付くのは困難です」
艦長の自信に満ちた声を聞きながら、豊田は回転翼航空機を整備している整備兵たちを見た。
所々に、婦人水兵の姿が見える。
「帝国海軍も、変わったな・・・」
豊田は、今さら言う、台詞では無いがと、小さな声でつぶやいた。
[大和]型戦艦と同様に、それ以降に建造された軍艦には、婦人水兵、婦人下士官、婦人将校の居住区域が、設置されている。
[生駒]型航空巡洋艦も、例外では無い。
ただし、婦人水兵、婦人下士官、婦人将校は一部を除き、ほとんどが鎮守府警備戦隊勤務であるため、ほとんど艦で空き区域となっているのが現状ではあるが・・・
戦艦[大和]から、指揮母艦[信濃]へと引っ越した石垣達也2等海尉は、自分に与えられた個室で、私物の整理を行った。
石垣の旧海軍での階級は中尉であり、下級士官である。
下級士官に個室を与える事は、特別な事情が無い限りあり得ない。
石垣に個室が与えられたのは、その特別な事情に入る。
彼は、山本五十六大将付の補佐官として自衛隊、朱蒙軍、新世界連合軍の作戦行動についての補佐や、新兵器についてのスペック等の説明以外に、菊水総隊司令官付特務作戦チーム副主任であるため、大日本帝国海軍での行動等を記録しなければならないため、彼には個室が与えられた。
もちろん、正規の個室では無く、こういう時のために、臨時士官個室に変更可能な、予備室である。
「艦種変更されたとは言え・・・[大和]型戦艦3番艦だったからな。それに新造艦だから、臨時士官個室と言っても、十分な設備を確保している」
石垣は、最初に乗艦した戦艦[長門]の時を、思い出した。
戦艦[長門]の時は、ほとんど物置として使われていた小部屋の1つが、石垣に与えられた。
その時と比べると、戦艦[大和]、指揮母艦[信濃]の環境は、格段に向上している。
石垣は、公務用に使用するノートパソコンと、私物のノートパソコンを机に置いた。
机に付属している棚に、太平洋戦争に関する資料(歴史は大きく変わったため、ほとんど参考にしかならない)を入れた。
その時、石垣の部屋に設置されている艦内電話が鳴った。
「はい」
石垣が、受話器を耳に当てる。
「石垣中尉。面会の方が、お越しです」
「面会人?誰ですか?」
「はっ、石垣達彦大佐です」
「兄さん?」
石垣は、どういう風の吹き回しなのかと思った。
これまで兄である石垣達彦1等陸佐は、公務優先で一度も私的な場で、会った事は無い。
ほとんど兄が、どこかの軍事施設、叉は自衛隊の施設を訪問した時くらいに、偶然に顔を合わせるという感じであった。
その時も、兄は自衛官としての応対しかせず、決して兄としての顔は見せなかった。
「わかりました。すぐに向かいます」
石垣は、部屋の電気を消して、兄が待つ待合室(入港時のみ)に、向かった。
待合室で自分が来るのを待っていた水兵が、挙手の敬礼をした後、待合室のドアをノックする。
「失礼します、石垣大佐。石垣中尉が参りました」
水兵が言った後、石垣は待合室に入った。
待合室には、陸上自衛隊の濃い緑色の制服を着た兄が、椅子に座っていた。
因みに石垣の服装は、青色を基調したデジタル迷彩服姿では無く、黒色の制服姿である。
「少し顔つきが変わったようだな。達也」
兄は、疲れた表情をしながら、語りかけた。
「兄さんは、相当疲れているようだね」
兄はどんな時も、誰かに疲れている素振りを見せた事は無い。
自分が物心付いた時には、兄は防衛大学校や、一流大学校の受験勉強をしていた。
一番忙しい時も、兄は自分のために時間を作り、遊び相手になってくれたり、小学校に備えての勉強を手伝ってくれた。
そんな時でも、兄は疲れた素振りは、一切見せなかった。
「顔に出ていたか?」
「兄さんの弟だからね」
兄は、石垣の台詞に、薄く苦笑した。
「良くやった」
兄が薄く苦笑した後、弟に告げた。
「え!?」
石垣は、兄の労いの言葉に面食らった。
「おいおい。何だ、その顔は?俺も人間だ。弟の労を褒める事もある」
兄は先程よりも、少し苦笑を濃くした。
「じゃあ、俺は仕事に戻る」
兄は、椅子から立ち上がった。
「え?わざわざ、それだけのために?」
「そうだ。お前には、これからも大きな苦難が待ち受けている。少しは、心の支えになればと思っただけだ」
それだけを言い残すと、兄は待合室を出て行った。
公用車の前では、石垣1佐に付けられた、専属の護衛官である警務官(MP)が待っていた。
「お疲れさまです」
公用車の後部座席のドアを開けながら、統合省防衛局長官直轄部隊統合警務隊陸上警務隊保安警務隊身辺警護隊所属の本多葵花3等陸尉が、声をかけた。
「そう言えば、本多3尉。貴官には、兄弟はいるのか?」
「?・・・はい、弟がいます」
「・・・そうか。しかし、防衛局長官の配慮には、感謝しないといけないな・・・弟を労いに行って、俺が労いを受けた気持ちになるとは・・・」
わずかに苦笑を浮かべて、後部座席に身を沈めた石垣の表情に、先刻まであった、疲労の影は消えていた。
「あの方も、姉という立場ですから、そういった事に気配りが出来るのでしょう」
本多は、そう答えて助手席に乗り込んだ。
こぼれ話をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますがご了承ください。
次回から新篇に入ります。新篇は南方戦線から一時的に離れ、ヨーロッパ及び大西洋での激闘になります。
投稿予定日は4月17日を予定しています。




