死闘南方戦線 番外編 受難は続く
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
戦艦[大和]の聯合艦隊司令部作戦室では、新しく派遣される武官についての、詳細な報告書が、日本共和区統合省防衛局から、軍令部を経由して送られてきた。
「石垣君。新しく派遣されて来る武官は、中々の軍歴だ。年齢は君より1つ上だが、対人戦闘能力、状況判断能力等の能力は、どれをとっても、君の参考になる」
山本が、送られてきた資料を見ながら告げる。
「どんな、お方ですか?」
石垣が問いかけると、宇垣が答える。
「勘違いしているようだが、男性では無く、婦人将校だ。君には、いい教育者だろう。同じ生粋のアジア人である、旧中華人民共和国人民解放軍陸軍中尉だそうだ」
宇垣の台詞に、石垣が、げんなりした表情を浮かべた。
自分の置かれている状況も知らない、お気楽主義の自衛官(石垣も、人の事は言えないが・・・)たちから、彼の側に、アイドル顔負けの美人将校がいるため、変な嫉妬心から冷たい目で見られている。
この上、また若い婦人将校が来る。
これ以上、余計なストレスを溜め込むのは、正直、御免被りたいところだ。
それでなくとも、このところの剣道(石垣のみ、特別に厳し~い鍛錬メニューを課されている)の鍛錬で、全身の筋肉と関節が、悲鳴をあげている。
(ん?待てよ・・・)
石垣は、宇垣の言った事を、思い出した。
「参謀長。人民解放軍陸軍中尉と、言いましたよね?」
「ああ。そう言った」
石垣は、さらにげんなりした表情になる。
「どうした、不満か?」
山本が、問う。
「ええ、不満です。中国人民解放軍から派遣される婦人将校って、どうせ濃い化粧をして、頭がダイヤモンドのように硬くて、人の話をまったく聞かない・・・」
石垣が、思うがまま口を開いていると、山本、宇垣、黒島ら聯合艦隊参謀たちの表情が、変わった。
黒島が、石垣に後ろを向け、と指で指示する。
石垣が、振り返ると・・・
「先ほどご紹介に預かりました。濃い化粧をして、頭がダイヤモンドのように硬い。わからず屋の、新世界連合軍連合支援軍司令官付次席副官、任春蘭中尉です」
黒髪の短髪で、一重の切れ長の目の、背の高い女性が立っていた。
心臓が、ドクンと音を立てるほどの東洋美人だが、ロシア等の東欧系を思わせる灰色の目が印象的だ。
「あ・・・あ、その・・・・」
石垣は、彼女と顔を合わせて、言葉を失った。
濃い化粧どころか、ほとんど化粧する必要が無いぐらいの女性だ。
「え~と、任中尉さん・・・どこから、聞いていました?」
「石垣2尉が、司令部作戦室に入り、山本提督に、失礼しますと言った所からだ」
「!!」
最初から聞かれていたようだ。
(そんな馬鹿な!全然、気配すら感じなかった・・・どうして・・・)
「何をそんなに驚いている。私の気配を感じられなかったのが、そんなに驚く事か?」
任が、石垣の心中を読んだかのように告げた。
(あっ、そういえば・・・)
もう1人、気配をまったく感じられない人物がいたような・・・
「あの、任中尉さん。自分が先ほど言った事は・・・」
石垣が何かを言おうとした時、任は手で制した。
「何も言わなくても結構。人である以上は、他人を悪く言う事は、度を過ぎなければ悪い事では無い。それも人の顔だ。それを否定するのは、人間を人形のようにしか思っていない輩が言う事だ。しかし、本人に聞かれて、オロオロするぐらいなら、最初から悪口を言わない事だ。中国なら、他人の悪口は、本人の前で堂々と言う。まず、自分がその相手をどう思っているかを伝えるためにな」
任の言葉に石垣は「はい・・・すみませんでした・・・」とつぶやいた。
少しずつ、海軍軍人としての自覚が芽生えつつある石垣だが、やっぱり女性には、滅法弱い。
山本は苦笑を浮かべ、黒島は肩を竦めて、ため息を付いている。
「嘆かわしい・・・」
嘆息混じりに、宇垣がぼやいている。
多分、この後はお約束の、「日本男児たる者、海軍軍人たる者、云々・・・」で始まる、最低でも1時間余りは続く、お説教のフルコースが待っているだろう。
後日、石垣は、女性ばかり送ってくる兄に、苦情を言ったのだが(ただし、兄が関わったのは、任の人事だけなのだが)、兄から一言。
「お前が、男の言う事を聞くのか?」
「・・・ごもっともです・・・」
兄は、弟の性格を、ちゃんと見抜いていた。
死闘南方戦線 番外編をお読みいただきありがとうございます。
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