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死闘南方戦線 第22章 亡命

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 北海道西側に設置されている固定式防空警戒管制レーダーであるJ/FPS-5は、北海道西側方面の防空警戒を、24時間365日行っている。


 主に、対ソ連対策のためと、史実と異なる事態が発生後、アメリカがソ連を基地化し、再び大日本帝国本土に対し、空襲を仕掛けて来ないともいえないし、また、第2次世界大戦が長期化した場合、ドイツ第3帝国が、降伏叉は連合国側に付いた場合、連合国側がV2ロケット弾攻撃を仕掛けて来る可能性を警戒しての配備である。


 ソ連が、日ソ不可侵条約を一方的に破り、北海道に侵攻後は、北海道に配備されている航空自衛隊警戒航空管制団の任務は、一層重要性を増した。


「アンノウン(国籍不明機)を、探知!」


 J/FPS-5が配備されている、分屯基地に勤務する、運用要員の空曹が叫ぶ。


「ソ連方向から接近中!まもなく、防空識別圏内に侵入します!」


「ホット・スクランブル!!」


 航空警戒管制官からの報告に、先任幹部が固定電話の受話器を取って、千歳航空基地に緊急連絡する。





 千歳航空基地のアラート待機室で待機していた、第11航空団第111飛行隊のF-15J改[イーグル]ドライバーたちが駈け出し、アラート格納庫で出撃待機している、2機のF-15J改に飛び乗る。


 2機のF-15J改は、完全なる制空装備であり、対領空侵犯措置行動のみでは無く、再びソ連軍からの大規模攻勢があっても、対処できる態勢が敷かれている。


 因みに、大湊鎮守府大湊軍港では、戦艦[武蔵]の護衛任務を解かれた、第5護衛隊群イージス護衛艦[みょうこう]と、新世界連合軍連合海軍第1艦隊から[アーレイ・バーク]級ミサイル駆逐艦と、[タイコンデロガ]級ミサイル巡洋艦が、投錨している(現在、補修と整備中である)。


 F-15J改は、管制塔からの指示で滑走路を滑走し、スクランブルする。





 三沢基地に置かれている、航空自衛隊大日本帝国第3防空警戒管制区群航空作戦指揮隊庁舎地下指揮所では、次々に報告が上がる。


「新たなるアンノウンを、探知!」


「司令!防空識別圏に侵入した、アンノウンAが、交信を求めています!」


「何だと?回線を繋げ」


 部下たちから報告を聞きながら、司令は、即座に判断する。


「こちら、ソビエト連邦空軍アレクサンドル・ポクルィショキン大尉!ソ連空軍司令官であるアレクサンドル・ノヴィコフ上級大将を、搭乗させている!日本に、亡命を申し込む!この無線が聞こえているなら、護衛戦闘機の手配を!!」


 雑音混じりではあるが、当直勤務に着いている航空警戒管制官たちは、確かに「亡命を申し込む」という言葉を、はっきりと耳にした。


「どういう事ですか?」


 2等空曹が、隣の席に座る1等空曹に問いかける。


「俺が知るか」


 彼は、首を振る。


 この時、ソ連での異変についての詳細は、全自衛隊の統合運用部隊最高司令官であり、新世界連合軍最高副司令官でもある加藤(かとう)(しげる)の命令で、大日本帝国軍及び、自衛隊には、上級幹部以上には、詳細を伝えているが、下級幹部以下には、伝えられていない(准士官に区分される准尉たちには、詳細は報告されている)。


 航空作戦指揮隊司令である2等空佐は、詳細を知らされているため、すぐに日本共和区統合省本庁舎地下の国防指令センターに、直通回線を繋いだ。


 同事態は、極めて政治的判断が求められているため、政治的決定権に制約がある自衛官では、判断できない。


 新たに現れたアンノウンは、間違いなく亡命軍人や、その他の民間人等を乗せた輸送機若しくは、爆撃機を追跡、及び亡命阻止のために出撃したサヴァイヴァーニィ同盟軍の戦闘機だろう。


 亡命者たちを保護すれば、自衛隊の戦闘機と、サヴァイヴァーニィ同盟軍の戦闘機との空中戦が、行われるかもしれない。


 アメリカを含む連合国との戦争は、終息に向かうどころか、東南アジアまで戦線が拡大している。この状況下で、外交的問題を増やす訳にはいかない。





 千歳基地からスクランブルした、菊水総隊航空自衛隊第11航空団第111飛行隊所属の2等空尉は、ソ連軍が降伏後、再びいつもの日常生活に戻れた矢先に、スクランブルが発令された。


「アォウル2からアォウル1へ、防空識別圏に侵入した侵犯機の交信を、どう思いますか?」


「さあ、俺たち下級幹部には、わからん。最近、ソ連で異変が発生している話を、上級幹部のお偉方が、こそこそ話していたが・・・」


 2等空尉は、F-15J改のパイロットとして10年以上の経歴を持つベテランパイロットであり、1000時間以上の飛行時間を有する、ベテランである。


 いかなる命令が出ても、確実に与えられた任務を遂行、完遂する自信のある口調で、ウィングマンである3等空尉に告げた。


「亡命機に危害を加える、戦闘機に対する、交戦許可は出るんですかね?」


 ウィングマンである、3尉が尋ねる。


「あくまでも、日本領空内に入れば、出るかもしれないが、防空識別圏内では、認められないかもな」


 その時、F-15J改が装備するレーダーが、亡命を申し込んだ機を捕らえた。


「目標を、レーダーで確認した。これより、目標を目視で確認する」


「コントロールより、アォウル1。了解」


 三沢基地に置かれている要撃管制及び、航空警戒管制等の指揮を任されている大日本帝国第3防空警戒管制区群航空作戦指揮隊司令部から、了承の返答がきた。


 2機のF-15J改は、高度を下げて、侵入機の機影を確認する。


「目標視認。アンノウンは、Tu-4と確認!」


「コントロールより、アォウル1。確かに、Tu-4なのか?」


「こちら、アォウル1。間違いない」


 Tu-4は、ソ連空軍が開発した戦略爆撃機である。


 旧日本軍の対空砲火で被弾し、ソ連領内で不時着したB-29の機体を回収し、ソ連仕様に開発、製造された。


 しかし、史実では初飛行が1947年で、量産、運用されたのは、冷戦期の1950年代である。


 三沢基地にある航空作戦指揮所が確認をとったのは、そのためだろう。


 2尉は、あまり驚愕しなかった。


 彼の友人が、陸上自衛隊第2機動師団にいる。


 友人の話では、ソ連陸軍の戦車隊の中に、T-54が確認されたそうだ。


「コントロールより、アォウル・エレメントへ、ソ連方面から出撃したアンノウン2機が、速度を増速した。速力、マッハ1.5以上だ」


 コントロールから報告に、2尉は接近中のアンノウンは、ジェット戦闘機である事を認識した。


「アォウル1からコントロールへ、速度マッハ1以上のジェット戦闘機は、この時代に無いはず、何か知っているのなら、教えてくれ」


 コントロールに所属する航空管制官(幹部自衛官)の声に、まったく驚き等が伝わらなかったため、自分たちに知らされていない情報が、あるのでは無いかと思い聞いた。


「コントロールより、アォウル1。こちらも完全に把握できていない。詳細は、後ほど伝える。アォウル1とアォウル2は、亡命を申し込んだTu-4を誘導せよ」


「アォウル1。ラジャ」





 編隊長である2等空尉が操縦するF-15J改が、Tu-4の前に付き、翼を左右に振る。


[我に従え]という信号である。


「アォウル2。貴機が、Tu-4を最寄りの飛行場に誘導せよ。俺は、接近中のアンノウンに警告を実施する」


「アォウル2。ラジャ」


 相棒からの返答を聞き、2尉は操縦桿を倒し、左に旋回した。


「コントロールより、アォウル1。まもなく、機影を確認できる」


 彼の操縦するF-15J改のレーダーが、アンノウンを捕捉している。


「接近中のアンノウンを視認!」


 2尉が、叫ぶ。


 見間違えるはずが無い。


 旧東側陣営の主力戦闘機である、前線戦闘機MiG-29である。


「こちらは、日本共和区大日本帝国駐留航空自衛隊。ソ連国内で発生している国内問題に、介入する意思は無いが、現在貴機が追跡している機は、大日本帝国防空識別圏内を飛行中であり、まもなく領空に入る。当機の飛行妨害及び、墜落に至るダメージを与える行動を行う場合、大日本帝国の主権侵害である。速やかに退去せよ!」


 2尉は、ロシア語で退去する指示を出す。


「こちらは、サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟航空宇宙軍防空総軍第1防空軍第11防空軍団第11防空戦闘機連隊所属の、キリル・ボチャロフ中尉だ。我々は、日本共和区及び、大日本帝国との紛争及び、武力衝突を望んでいない。あくまでも、国外脱走した反逆者たちの拘束叉は、強制排除が目的である。日本共和区及び、大日本帝国とは、平和的外交をする事をサヴァイヴァーニィ同盟総帥は、望んでいる。決して、戦争をする意志は無い」


 MiG-29から、ロシア訛りのある日本語での返信が、返ってきた。


「自衛隊機は、速やかに国外脱走の反逆者が搭乗する機から離れよ。離れない場合は、不幸な結果を招く」


 ボチャロフと名乗った中尉が、再度警告する。


「貴機及び、その上位組織の意向には感謝するが、その警告を受け入れる事はできない。こちらは日本共和区政府より、亡命機を、誘導及び護衛せよとの命令を受けている。貴官も軍人であれば、この意味がわかるはず、自衛官及び軍人にとって、政府の命令は絶対だ。たとえ、いかなる馬鹿げた命令であってもな。貴機がこれ以上、自身が属する上位組織の命令に従うのであれば、自衛隊法で認められている法的処置をとる」


 2尉は、絶対に引かないという強い口調で、警告する。


「貴官は、戦争行為に発展する事を、恐れないのか?」


 これまで役所的な口調だった、ボチャロフが、私的な口調に変わった。


「自分たちの恥を晒すようだが、別の誰かに責任をなすりつける腰抜けの日本人では無いという事を、知らしめるためだ。ここで戦争になるかもしれないからと考え、何もせず、我関せずとばかりに、傍観するのは、それこそ人間の恥だ。人の行動とは、人命を優先するのでは無い!その行動のために、人命を犠牲にする事も、厭わない事を言うのだ!」


 いつの間にか、2等空尉の発言は、政治的発言と思われてもおかしくない主張に変わった。


 だが、彼はそれを撤回する気も、謝罪する気も無い。


 むしろ、それで罰せられた方が、名誉と感じる。


「・・・・・・」


 ボチャロフからの交信が、途絶えた。


 しばらくした後、彼から交信が再開された。


「了解した。これより、対象機への追跡を中止し、帰投する」


 ボチャロフからの返答を聞いた後、2機のMiG-29が、針路を変更した。


 大日本帝国防空識別圏外に、退去する針路だった。


 2尉は、彼らが防空識別圏外に退去するまで、監視を続ける。





 スペース・アグレッサー軍のジェット戦闘機に誘導され、北海道庁所在地である札幌市に新設されたばかりの、札幌飛行場に着陸するよう指示されたTu-4は、そのままゆっくりと高度を下げて、2000メートルクラスの滑走路に着陸した。


「ずいぶんな警戒態勢ですね」


 Tu-4のコックピットで、副操縦士の大尉が、風防ガラスから見える光景を眺めながら、つぶやく。


「同志大元帥閣下が、行方不明の折、ソ連の救国者と自称する、スペース・アグレッサーに踊らされ、剰えアメリカの甘言に乗って、不可侵条約を破って、北海道に侵攻したんだ。当然の処置だ」


 機長席に座る、アレクサンドル・ポクルィショキン大尉が、副操縦士の大尉に答える。


 彼は、独ソ戦緒戦から、モスクワ攻防戦までの間に、砂漠の狐の異名を持つロンメル軍集団傘下の、ドイツ第3帝国国防軍空軍の、戦闘機や爆撃機等を、100機以上撃墜した。


 ソ連空軍エースパイロットの1人であり、エースパイロットらしく、落ち着いた口調だ。


「Tu-4の搭乗員は、両手を頭の上より高く上げて、ゆっくり機から姿を見せろ!!」


 Tu-4の周囲を固めている、青色と白色で塗装されている装甲車から、ロシア語で指示された。


 装甲車の側面から、銀色の盾を持った黒色の戦闘服を着た、兵士らしき者たちが、展開している。


 その後ろには、自動小銃を構えている兵士たちの姿も見える。





 丘珠駐屯地の主滑走路(2000メートル)を見渡せる、陸上自衛隊施設の屋上で、陽炎団警備部SAT(特殊急襲部隊)狙撃小隊に所属する高荷尚也(たかになおや)巡査部長(友人と共に巡査長から昇進)が、2脚を立ててPSG-1の狙撃眼鏡を覗きながら、Tu-4の機体を確認している。


「部長。どうして自衛隊の施設に着陸した外国の軍用機に、警察が出動するんですか?これは、自衛隊の管轄では?」


 観測手である市川宣(いちかわのぶ)()巡査が、上官になった、高荷に尋ねる。


 日本警察の階級で、巡査長という階級は無い。


 巡査長たる巡査であり、階級は巡査である。


 巡査部長に昇進する過程で、教育及び研修期間中に拝命する場合と、経験豊かな巡査が、新人巡査の現場教育のために、拝命する場合がある。


「はぁ~」


 高荷は、ため息をついた。


「まったく、ドボンのお騒がせ巡査といい、お前といい。どうして最近の巡査は、知らないんだ」


「仕方無いよ。最近は、そのような法的な事については警察学校では、詳しく教えてないんだよ。幹部ならともかく、下っ端の巡査にはね」


 森山(もりやま)重信(しげのぶ)巡査部長の声が、無線機から聞こえる。


「高荷巡査部長。巡査部長昇進後の、初仕事だぞ。警察学校では、巡査部長は、助教だからな」


 指揮所にいる指揮官が、からかうような口調で告げた。


「いいか、一度しか説明しないからな。領空侵犯及び防衛に関わる事項で、地上に着陸した軍用機は、警察の管轄下になる。軍用機は・・・特に戦闘機は、強力な武器を保有しているが、地上に着陸すれば、その武器は効力を失う。パイロットは、1人若しくは2人で携行する武器は、拳銃とナイフぐらいだ。そんな状況下で完全武装の陸上自衛隊が包囲したら、国内外を問わず過剰だ」


 高荷は、簡単に説明した。


「目標に、動きがあり!」


 陽炎団警備部機動隊特科車輌隊派遣隊の、特型警備車に乗る機動隊員が報告する。


 周囲には、第6機動隊派遣隊の銃器対策部隊の隊員たちと、SAT派遣隊の隊員たちが、89式5.56ミリ小銃折曲式銃床を装備して、防弾盾を装備する機動隊員たちと展開している。


 Tu-4の側面ドアが開放され、そこからソ連軍将兵たちが両手を挙げて、姿を現した。


「狙撃班へ、ソ連兵を確認!狙撃準備、緊迫不正の事態以外の発砲は、指揮所からの命令があるまで発砲するな!」


 指揮所から通信に、高荷はPSG-1の狙撃眼鏡を覗いたまま、安全装置を解除する。





「ソ連軍将兵に告ぐ。その場で止まれ!」


 特型警備車から、警告が発せられる。


 ソ連軍将兵たちが、立ち止まった。


「前進!」


 SAT派遣隊制圧第1班選出された隊員4人が、SAT仕様の灰色塗装された大型防弾盾を構え、その後ろから89式5.56ミリ小銃折曲式銃床を構えて前進する。


 その中には、大日本帝国外務省と、日本共和区統合省外務局から派遣された交渉人が、防弾チョッキと防弾ヘルメットを被って、随行する。


「彼らと穏便に話がしたいので、できれば銃器使用は、控えてください」


 外務局総合外交政策部特別国外情勢調査室に所属する調査官が、告げる。


「了解しています。ですが我々は、貴方がたを守れとの、命令を受けています。貴方がたの要望は、法的制限下で、最大限の約束をします」


 89式5.56ミリ小銃折曲式銃床を装備した、森山が答える。


「我々に、敵対の意志は無い!あくまでも、貴国に亡命を申し込みにきた!」


 ソ連軍高級士官の制服を着た男が、叫んだ。


 外務省高官と、外務局特別調査官の指示に従い、彼らが本当に亡命希望者である事を確認すると、彼らを丘珠駐屯地庁舎の1つに案内した。


Tu-4は、格納庫に収容した。


 菊水総隊陸上自衛隊第2機動師団第26普通科連隊1個普通科中隊が派遣され、駐屯地及び格納庫、庁舎を陽炎団警備部テロ対策部隊の警察官たちと、厳重に警備している。





 太平洋側で、マレー攻略作戦が開始された頃と、ほぼ同時期に大西洋側では、ソ連で起こった異変に、連合国と枢軸国との間で、新たな動きが始まろうとしていた。

 死闘南方戦線 第22章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますがご了承ください。

 次回の投稿は3月27日を予定してます。

 次話は終章、番外編、閑話を投稿しますので、次回の投稿で死闘南方戦線篇は終了します。

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