死闘南方戦線 第20章 マレー攻略前哨戦 5 玉砕の島
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
N-1島にスペース・アグレッサー軍が強襲上陸する事は、N-1島守備隊司令部では、始めから予想されていた事だった。
マレー半島、ボルネオ島、スマトラ島を攻略するつもりなら、この島は邪魔な存在である。
まず、この島の攻略に着手するのは、自明の理である。
「閣下!上陸したスペース・アグレッサー軍は、三方向から進撃を開始!早く手を打たなければ、島が奪取されます!」
N-1島に駐留する、イギリス陸軍の上級将校が、口髭を生やした守備隊司令官である准将に声をかける。
「了解している」
しかし、准将は脳天気な口調で答えた。
「閣下!」
上級将校が、窘めようとした時、准将は手で制止した。
「中佐。港に、潜水艦と足の速い駆逐艦が、駆け付けてくれた。できる限りの兵を、潜水艦と駆逐艦に乗り込ませて、シンガポールやボルネオ島等に、撤退させてくれ」
「何ですと!?」
「すでに総司令部も、了解している事だ。ここの守備隊兵力では、とても彼らに対処できない。次の攻撃目標は、ボルネオ島やスマトラ島の油田地帯だ。ここにいる兵士たちは、1人でも貴重だ」
准将が、穏やかな口調で告げる。
「いいか、これが私からの最後の命令だ。貴官は、撤退する兵士たちと一緒に、ボルネオ島に向かうのだ」
最後の命令と聞いて、中佐は顔色を変えた。
「閣下は、どうなさるつもりですか?」
「私は、ここに残る。私と共に残る兵士たちだけで、できる限り撤退の時間稼ぎをするつもりだ」
そう言うと准将は、中佐に対し、挙手の敬礼をした。
その表情は、先ほどまでの脳天気な空気は感じられない。
強い信念を露わにしている。
「サー!」
中佐は、説得するのを止めて、挙手の敬礼をした。
「行け」
准将の言葉に、中佐は踵を返した。
N-1島に着任してから何度も顔を合せて、酒を飲み交わし、雑談した男を見送った彼は振り返り、自分と共に残る覚悟を決めた部下たちに叫んだ。
「ひたすら撃ちまくれ!スペース・アグレッサー軍の兵士を1人も、防衛網を突破させるな!!」
残存部隊による機関銃陣地や野砲陣地を構築し、できる限りのバリケードを構築し、撤退する兵士たちが撤退できるまでの時間稼ぎを目的とした防衛戦ができる態勢は整っている。
「閣下!最後に残った偵察機から通信が入りました!超大型空母を発見!艦載機の発艦準備中との事です・・・それを最後に、通信は途絶しました!」
通信兵からの報告に、准将は顎を撫でた。
最初にこの島を攻撃した超大型空母は、島を通り越し、シンガポール軍港や、インド帝国の軍港から出撃してくる、イギリス海軍の駆逐艦部隊や水雷艇部隊に対する制海権確保に展開しているはず・・・
「という事は、別の空母艦隊・・・か」
准将は、スペース・アグレッサー軍には、どのくらいの超大型空母があるのかと、彼らに聞きたい感情に捕らわれた。
「駄目だ、駄目だ」
准将は、頭を振った。
聞いたとしても、どうにかなる訳では無い。
大日本帝国海軍が、短期間でこれ程の空母機動部隊や、高性能のジェット戦闘機を量産、配備できる訳が無い。
普通の人に話せば、バカに思われるだろうが・・・宇宙人叉は神等、自分たちの常識を越えた何かの力を借り、彼らと共に世界大戦に参戦したとしか思えない。
(しかし、これ程の力があり、日本に手を貸す、という事は・・・宇宙人か、何かは知らないが、奴らの狙いは、この世界の征服・・・)
そんな与太話が、彼の頭の中に過ぎるが、あり得ない話では無い。
かつて、自分たちイギリス人等のヨーロッパ人が世界に何をしたか?
歴史を思い返せば、答は明らかだ。
新世界連合軍連合支援軍海軍に属する大連艦隊は、[遼寧]級航空母艦([アドミラル・クズネツォフ]級航空母艦)の準同型艦であり、国産の練習空母として就役した[大連]を基幹とし、防空及び対潜を担当する駆逐艦、フリゲート、補給艦を合わせた8隻の空母艦隊である。
元の時代では、旧中華人民共和国解放軍陸海空軍に所属していた国民主義派の職業軍人が、中核となっている。
[大連]は練習空母艦隊として僚艦であり、準同型艦の[遼寧]と共に、旧中国人民解放軍海軍が計画する外洋型海軍計画及びアジアからのアメリカ及びヨーロッパ諸国軍による軍事的圧力を背景にした外交政策に対抗策として、実戦型空母である原子力航空母艦2隻と通常動力型航空母艦2隻による空母4隻運用計画のために、空母運用のノウハウ取得と練度向上を目的としている。
[大連]の艦橋では艦隊司令官の常亮少將が、窓から飛行甲板を見下ろしていた。
4機の殲-15が、発艦準備をしている。
[大連]には、30機の殲-15が搭載されており、制空戦闘、対艦攻撃、対地攻撃が可能だ。
今回は、N-1島に上陸した水陸機動団第1連隊、新世界連合軍連合海兵隊、朱蒙軍海軍海兵隊の近接航空支援及び、守備隊陣地への航空攻撃である。
「阿片戦争での敗北により、5つの湾港都市がイギリスに奪われ、以降数世紀にも渡る混沌の時代を経験した。今こそ、その借りを返す日が来た」
「中国史の中では、もっとも長い、混沌とした時代でしたね」
[大連]艦長の張貞明上校が隣に立ち、つぶやく。
1900年に発生した庚子事件では、8ヶ国連合軍(日本、ロシア、イギリス、フランス、アメリカ、ドイツ、イタリア、オーストリア)が組織され、治安回復に派遣されたが、西洋列強派遣軍が中国入りした際に行われた無差別虐殺は、近代戦史以降最大であったとされる。
この時の大日本帝国は、西洋列強から注目を集めていたため、国際法や、厳しい交戦法規(一説では、自衛隊の海外派遣より、厳しい交戦規定が定められていた)を遵守した。
しかし、特に極東を支配下に置く事を国家戦略にしている西洋列強の某国派遣軍は、まったく無関係の中国人を虐殺しただけで無く、中国固有の貴重な遺産を数多く略奪した。
この時の、日本陸軍将校の証言に、このような記録がある。
「彼らは、異教徒は殺せという教えに従い、多くの無抵抗の農民を虐殺し、墓や家を荒らし、金になる物はすべて奪った・・・あれは、軍人のする事では無い。ただの山賊だ」
当然ながら、多くの中国民たちは、8ヶ国連合軍に属する大日本帝国陸軍に助けを求めた。
しかし、当時の日本では、西洋列強に立ち向かう力は、十分に無かった。
だが、何もしなかった訳では無かった。
力で勝てないのなら、頭を使う。
数々の機転を利かし、どうにか中国一部の歴史遺産や、民衆を保護する事に成功した。
中国5000年の歴史でも、西洋列強が介入してからは、もっとも悲惨で過酷な黒歴史であろう。
殲-15が、轟音と共に[大連]から飛び立つ。
「200年間の雪辱を、晴らす時が来たな・・・」
常が、空高く飛び立つ殲-15群を眺める。
中国人民解放軍海軍が、本格的な外洋型海軍建設計画に着手し、彼ら中国人が待ち望んだ、アジアからの西洋人排除が、80年後の現代では無く、80年前の時代で実現しようとしている。
[大連]から発艦した2機の殲-15は、Ku-59を搭載した同機2機を護衛し、N-1島に上陸した連合上陸部隊の近接航空支援に、向かった。
殲-15のパイロットであり、[大連]空母航空団戦闘飛行隊に所属する少校は、対地兵装を搭載した殲-15を護衛しながら、攻撃空域に急行していた。
旧ソ連空軍及び、ロシア連邦空軍で主力戦闘機として配備されたSu-27[フランカー]を空母運用型として改良されたSu-33[シーフランカー]をベースに、中国海軍仕様に開発されたのが、殲-15である。
機体性能及び機動力、格闘戦力は、F-15シリーズと互角に戦えるレベルだろう。
「攻撃目標まで、2分」
少校は、[大連]の司令部作戦室に伝えると、司令部作戦室で航空作戦を担当する管制官から返答がきた。
「菊水総隊海上自衛隊[しょうない]から作戦変更の連絡無し、攻撃を開始せよ」
「了解」
N-1島攻略の陸上部隊の統合運用指揮は、[しょうない]に設置されている統合運用司令室で行われている。
そのため、指揮系統及び命令系統が異なる新世界連合軍や、統合省防衛局自衛隊、大韓市国統合軍等とは、それぞれの上位を中継して、各部隊に伝えられる態勢になっている。
AAV7A1を主力として、軽装甲機動車や高機動車に搭乗した第1水陸機動連隊の普通科隊員たちは、爆撃予定時刻に合せて、突入態勢をとっている。
爆撃予定時刻を迎えると、彼らの展開している上空から轟音が響き、2機の殲-15が飛来し、イギリス軍守備隊の即席の防御陣地と、事前に構築された防御陣地に、航空攻撃を加えた。
「あれが、Ku-59の威力・・・」
「アメリカ海軍が導入しているSLAMよりも、射程距離や性能が劣ると聞いた事はあるが、地上から見ると、まったく、そんな気がしない」
水陸機動団第1連隊本部に所属する科長たちが、つぶやく。
「連隊長。無人観測機からの映像を、受信しました」
「爆撃効果を確認する」
連隊長である1等陸佐の言葉を受けて、ノートパソコンを操作する本部班の隊員が、無人観測機から送られている映像を画像に映し出す。
「赤外線映像に切り替えろ」
連隊長の指示で、無人観測機の電子機器等を操作する隊員が、画像を切り替える。
「爆撃の戦果は、十分だな・・・」
連隊長がつぶやき、本部班の通信員に指示する。
「上空にいる殲-15に、上空待機と上空警戒を指示してくれ。それと戦闘ヘリ隊を出撃させて、突入部隊の援護をさせろ」
彼の指示で、戦闘ヘリコプターが攻撃部隊の上空で展開し、隠蔽された野砲陣地や迫撃砲陣地から攻撃を加えられた際、陣地転換叉は、次弾攻撃を行わせないように、空中待機兼空中警戒を行う。
連隊長の指示で第1中隊と第2中隊がAAV7A1、高機動車、軽装甲機動車に搭乗して、突撃する。
第3中隊は、予備部隊として待機する。
軽装甲機動車や高機動車には12.7ミリ重機関銃や5.56ミリ機関銃MINIMI等を装備しているため、普通科隊員たちが車輌から下車し、展開した際にも、部隊の近接火力支援も十分だ。
特科部隊や砲兵部隊も展開しており、制圧射撃から援護射撃もできる。
「前進!!」
AAV7A1(指揮車型)に搭乗した第1中隊長が叫び、AAV7A1群が前進する。
普通科隊員たちは、89式多用途銃剣を装着した89式5.56ミリ小銃やMINIMIだけでは無く、対人火器として携帯放射器を装備した隊員もいる。
AAV7A1の車影に隠れながら、第1連隊第1中隊は前進した。
朝野が指揮する小隊も、AAV7A1の盾にしながら、前進する。
彼らの姿を確認すると、イギリス陸軍守備隊陣地から機関銃や小火器による攻撃を受けた。
それに混じって、隠蔽された対戦車砲陣地から対戦車砲が火を噴く。
「対戦車砲だ!」
朝野が叫び、姿勢を低くする。
対戦車砲弾がAAV7A1の正面装甲に直撃したが、増加装甲が取り付けられているため、被弾しても傷一つ付かない。
「対戦車砲、正面!」
朝野が、84ミリ無反動砲を装備した砲手に叫んだ。
AAV7A1の新型銃塔に搭載されているMk19自動擲弾銃が火を噴き、40ミリ榴弾が撃ち出される。
砲手が84ミリ無反動砲を構えて、弾薬運搬員が対戦車榴弾を装填する。
「装填完了!」
「発射!」
朝野小隊に所属する、84ミリ無反動砲を装備する隊員は3人であり、3門の無反動砲が咆吼を上げる。
発射された3発の対戦車榴弾が、対戦車砲陣地に直撃し、炸裂する。
予備砲弾に誘爆したのか、かなり大きな爆発が起こった。
AAV7A1の新型銃塔に搭載されている12.7ミリ重機関銃が火を噴き、歩兵分隊の防御陣地に撃ち込み、反撃を鈍らせる。
その隙に普通科隊員が近づき、MK3攻撃手榴弾を、歩兵分隊防御陣地の中に投擲する。
MK3攻撃手榴弾は、防御手榴弾に区分されるM26破片手榴弾とは異なり、完全な攻撃手榴弾として開発された手榴弾だ。
破片手榴弾は、炸裂時に破片を周囲に飛散させる。
そのため、あくまでも敵の攻勢を鈍らせるのと、反撃を遅らせる事が主目的だ。
攻撃手榴弾は炸薬を爆発させ、爆発時に発生する衝撃波で、敵勢力を無力化する。
このため、塹壕戦や建物内での狭い空間で、一気に敵部隊を壊滅させるには、最も威力を発揮する。
さらに攻撃手榴弾の特性から、湾港施設や水上艦への水中から破壊工作を行う、水中工作員に対しても有効である。
海上自衛隊では個人携行式爆雷という名称で陸警隊、艦艇部隊にも配備されている。
MK3攻撃手榴弾による攻撃で、防御陣地が吹っ飛んだ。
衝撃波を主攻撃にするため、狭い空間で衝撃波を逃がす場所は、小銃や機関銃等の射撃を行う程度の小さな穴があるだけだ。
当然、衝撃波はより一層凶悪化し、人工的に作られた砲爆撃の衝撃や飛散物から守る天井を吹き飛ばした。
「地下壕だ!」
「携帯放射器!」
地面を慎重に捜索していた普通科隊員が、地下壕を確認すると、朝野は携帯放射器を装備した隊員を呼んだ。
「地下壕に放射しろ!」
携帯放射器を装備した普通科隊員が、地下壕の小さな出入口に向けて火炎を放射する。
ゲル化油を使用しているため、40メートルの射程距離を持つ。
南方地帯は密林のジャングルや、腰以上の高さがある草が多くあるため、対ゲリラ戦装備として普通科部隊、施設部隊等の戦闘部隊に小隊単位で装備されている。
携帯放射器を装備した普通科隊員は、地下壕に向けて20秒程火炎を放射した。
すると、地下壕の出入口から20メートル離れた地面から兵士数人が、全身を燃やされながら姿を現した。
「出てきたぞ!」
朝野小隊に所属する小隊陸曹が叫び、89式5.56ミリ小銃を単発射撃で発砲し、全身を燃やされながら出てきた兵士たちを絶命させる。
「そのまま前進!!」
朝野が部下たちに指示を出し、さらに前進する。
N-1島で、最後まで徹底交戦したイギリス軍守備隊は、激しい抵抗を繰り広げたが、菊水総隊陸上自衛隊水陸機動団第1連隊、朱蒙軍海軍海兵隊、ニューワールド連合軍連合海兵隊による地上攻撃と連合支援軍海軍[大連]から出撃した殲-15による航空攻撃で、イギリス軍守備隊は玉砕した。
戦場となった島に、激しい雨が降り出した。
累々と横たわる、軍人だった亡骸。
血と硝煙、死臭を雨水が洗い流していく。
「じいちゃん・・・」
朝野は、その光景を見ても、何とも感じていない自分に気が付いた。
開戦直後の戦闘に参加した、多くの陸自隊員たちの中には、初めて見る実際の戦場の惨状の様子に、軽度叉は中度の戦闘ストレス症から嘔吐、不眠等に悩まされる者もいた。
しかし・・・
今は、そういった不調に悩まされる者が、少なくなってきている。
単に慣れたと言えばそれまでだが・・・
『戦争は、人を化け物に変える・・・』
地獄の沖縄地上戦を生き残った、祖父の言っていた言葉。
その意味が、今になってよくわかる。
自分の心の内に生じている、どす黒くモヤモヤしたもの・・・
それに飲み込まれた時、自分はどうなってしまうのか、朝野は一抹の不安を感じた。
死闘南方戦線 第20章をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますがご了承ください。
次回の投稿は3月20日を予定しています。




