死闘南方戦線 第19章 マレー攻略前哨戦 4 SBUの戦闘 再び
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
[フォッシュ]の飛行甲板で、SA321[シュペルフルロン]とMCH-101が、発艦準備をしている。
クレマンからの出動命令を受けて、新世界連合軍多国籍特殊作戦軍海軍特殊戦コマンドー傘下のフランス海軍コマンドー・ア・チームに所属する1個小隊と、菊水総隊指揮下の海上自衛隊特別警備隊第2小隊が、それぞれのヘリに搭乗する。
「対象艦は、[いそしお]からの魚雷攻撃で、艦体に複数の亀裂が発生し、複数箇所のパイプが破裂している。航行不能及び潜航不能と思われる。恐らく、今頃はエンジンやその他の故障箇所の修理可能か、負傷者の状況把握に負われているはず、その隙をついて対象の潜水艦を強襲、制圧し、拿捕する。いいな?」
特別警備隊第2小隊長である管原和史1等海尉が、部下たちに確認する。
第2小隊指揮下の2個班に所属する隊員たちは、狭い場所での近距離戦闘に備えてMP5A5を装備している。
隊員たちは、弾倉を装填する。
管原が指揮する第2小隊は、フィリピンでの特定重要人物確保作戦に置いて、1名殉職(公式記録では病死とされている)という苦い経験がある。
補助隊員が配属され、規定通りの1個班9名編成になったが、彼らの記憶から、その時の苦い経験が、消える事は無い。
管原は、新しく訓練プランを作成し、同じ経験を繰り返さないために、特別警備隊創設時に教官として招かれた、イギリス海兵隊特殊部隊であり、「力と知恵を」を部隊モットーとした特殊舟艇部隊(SBS)や、大韓市国朱蒙軍統合特殊作戦軍海軍特殊戦隊、大韓市国海洋水産委員会傘下の海洋警察本部海洋警察特別攻撃隊、統合省保安局海上保安本部特殊警備隊等と合同演習を行い、さまざまな状況や事態を想定した状態での実弾射撃訓練から、近接戦闘訓練を実施した。
特に実弾射撃訓練は、わずか1ヶ月程度で、陸上自衛隊一般普通科部隊の公私を合わせた実弾使用量を上回った。
第2小隊に所属する18人の隊員たちは、強い表情で「「「なし!」」」と叫んだ。
その口調や面構えは、以前の実戦に参加する前の彼らとは、別人であった。
「状況を再度確認する。我々、第2小隊は対象潜水艦の艦首から攻め、後部に設置されている機関砲座を無力化しつつ、フランス海軍コマンドー・ア・チームの小隊が艦尾に降下完了するまで援護する。対象潜水艦の艦橋及び、上部甲板の制圧から突入路の確保まで20秒しか与えられていない。もし、20秒以内に第1段階が完了しなければ、作戦は失敗だ。理解しているな?」
「「「はい!!!」」」
対象潜水艦の完全制圧から目標物奪取まで、180秒しか時間を与えられていない。
イギリス海軍のT級潜水艦の艦内データや、その他の諸元については、新世界連合軍に属するイギリス軍から与えられており、クレマンから作戦内容を聞かされた時、彼らはT級巡洋潜水艦の艦内データを頭の中に叩き込み、同僚たちと確認し合いながら、目を瞑った状態でも司令塔から機関室や魚雷室まで、どこにでも行けるように、頭の中で何度もシミュレーションした。
「訓練通りに、やればいい」
管原が告げると、MCH-101が[フォッシュ]から発艦する。
これまで100の訓練を重ねて、さまざまな経験と教訓を積んだ。
ある兵士の言葉がある。
「100の訓練は、1つの実戦で生き残るために、日々行われている。どんなに勇敢に戦おうが、どんなに最高の戦果を掲げようが、まず、その戦いで自分が生き残らねば、何の意味も無い。死ねば、ただの犬死にである」
SA321に搭乗するフランス海軍の特殊部隊である海軍コマンドー部隊は、元の時代では6つのコマンドー部隊が編成され、部隊名はフランス軍が参加した戦争で戦死した将校の名前が与えられていた。
しかし、ニューワールド連合軍多国籍特殊作戦軍海軍特殊戦コマンドーでは、フランス語のアルファベット順に編成されている。
海軍コマンドー・ア・チームは、艦艇及び船舶への強襲制圧から海上に設置された施設の防護、制圧等を担当するコマンドーである。
コマンドー兵たちは、MP5Fを点検しながら、ヘルメットに設置可能な小型カメラの電源を入れる。
「海上自衛隊の特殊部隊と、実戦で肩を並べるのは初めてだが、環太平洋合同演習や合同海賊対策訓練等では、何度か合同演習した。あくまでもアメリカ海軍主催の演習であり、このような事態は、演習でもやった事が無い。皆も不安に思う所もあるだろうが、必ず成功させるぞ」
小隊長である大尉が、部下たちに告げる。
「俺たちは、SBUの小隊が艦首に降下する際に、妨害を受けないように狙撃銃で援護、彼らが艦首部分から艦尾までの上甲板を制圧したら、艦尾から降下し、そのまま艦内に潜入する」
FRF2を持った狙撃兵が、自分たちの任務を確認するように、つぶやく。
[あしがら]のCICでは、対空索敵レーダーを写し出しているスクリーンからMCH-101と、SA321の識別信号を発信しながら飛行する光点を確認できる。
「第2次世界大戦中に敵の潜水艦を強襲し、暗号表等を奪取する話を題材にした映画が、あったな。それと似たような物か・・・」
向井が、クレマンから告げられた、作戦内容を思い浮かべながら、つぶやく。
「艦長。あれは第2次世界大戦中に、大西洋上でドイツ帝国海軍の潜水艦による通商破壊に悩まされた連合軍側の、苦悩を描いた話です。確かに、今回の作戦とあまり変わりませんね」
権藤が、つぶやく。
「しかし、そんな重要な暗号表や軍事機密文書が、あっさり手に入れられるのか?普通に考えたらそんな物、すぐに処分されるだろう?」
向井が、誰もが考える台詞をつぶやく。
「水上艦勤務なら、それも可能ですが、この時代の潜水艦勤務者では、かなり難しいでしょう」
[あしがら]に勤務する海曹の1人が、指摘する。
彼の着る作業服には、潜水艦勤務章が縫われている。
潜水艦勤務の自衛官は、ずっと潜水艦や陸上施設に勤務をする訳では無い。
水上艦に、勤務する事もある。
「この時代の潜水艦の生活は、過酷の一言です。旧日本海軍の伊号潜水艦は、他国の潜水艦と比べれば、かなり生活性や居住性は高いレベルですが、他の国の潜水艦は、そういう訳にはいきません」
海曹の言う通り、伊号潜水艦は乗艦する乗組員全員にベッドが渡るが、ドイツ第3帝国海軍のUボートでは、1つのベッドを2人無いし3人が、ローテーションで使用する。
しかし、それでもベッド数が足りないし、休憩時間を迎えても、自分にベッドがあるかどうかわからない、という惨状だった。
食事も決して、良い事が無く、生野菜や魚、肉類は、保存性の問題から出航後一週間で底を尽き、後は保存食を口にするだけだ。
そのため、長期航海時は、ビタミン不足が深刻化する。
ビタミン剤も処方されるが、長期勤務になれば、冷静な判断能力が低下したり、仕事でのミスが重なる事もある。
「目標を、確認!」
MCH-101の機長が、目視で目標のT級巡洋潜水艦を、確認する。
[テンプラー]の機関室では、エンジンとバッテリーの修理を行っていた。
機関要員は機関長以下、ベテランの機関要員たちが、雷撃を受けた際に発生した火災で、命を落とした。
生き残った機関要員は、水兵であり、当然経験も浅い。
「どうだ?」
艦長が、生き残った機関要員に問いかける。
「これで、大丈夫だと思います・・・多分」
機関要員は、自信無さそうにつぶやきながら、スパナーを工具入れに入れる。
「動かしてみてください」
機関水兵が告げると、1人の下士官がエンジンを動かす。
だが、エンジンは始動するどころか、不快な音と共に停止した。
「治せるんじゃ、なかったのか?」
艦長が、問う。
「小型ボートのエンジンなら、治した事があります・・・親父と一緒に、潜水艦のエンジンついては訓練学校で基本的な整備と点検を習っただけです・・・」
機関水兵の言葉に、艦長はため息をついた。
「バッテリーの残量は?」
艦長が、電気技師の下士官に問いかけた。
「応急電源に接続しましたから、艦内の電力は、ある程度確保できます。しかし、主バッテリーを修理できなければ、潜航もできません」
下士官の報告に、艦長は、さらに深くため息をついた。
「どうにか動かせるように、エンジンとバッテリーの修理を続けろ」
艦長は、それだけ言うと機関室を離れた。
彼は司令塔に移動し、艦橋に姿を現した。
幸運にもゴースト・フリートの潜水艦から雷撃を受けたが、水上艦や潜水艦からの追跡は受けていない。
時刻も、夕方を迎え始めている。
太陽が、沈む位置に移動している。
「対空警戒はどうだ?」
魚雷が至近距離で炸裂した際に、レーダー機器や通信機器が破壊され、すべて使用不能である。
対空対水上警戒は、従来の双眼鏡を使った警戒である。
「通信アンテナの修理が完了すれば、暗号通信で救援を頼めるのだが・・・」
艦長が、小さくつぶやく。
このまま夜になれば、浮上したままでも敵に発見される可能性は、かなり低くなる。
夜のうちに、通信を回復する事が出来れば・・・
艦長は、一刻も早く太陽が沈んでくれるように祈った。
「?」
沈みつつある太陽を背にして、何か動く物体らしき物が見えた。
「て、てき・・・」
艦長が敵襲を叫ぼうとした時、眉間を何かが貫く感覚を感じた。
一瞬の苦痛と共に、彼の意識は消滅した。
海を血の色に染めて沈む太陽が、彼の最期に見た光景だった。
同時に艦橋で見張りについていた水兵たちが、眉間やこめかみを撃ち抜かれて、次々と絶命した。
「おい!どうした?」
異変に気づいた将校が、艦橋に姿を現すと、彼の目には艦長以下、見張り員たちが狙撃され、絶命した姿が映った。
その後、すさまじいローター音が響いた。
「敵襲!!」
将校が叫ぶが、すでに回転翼機からロープが降ろされ、黒色の戦闘服を着た兵士たちが[テンプラー]の艦首に降下していた。
「敵襲!敵襲!」
将校が叫び、倒れた将校から自動式拳銃を取り、彼らに向けて発砲する。
しかし、彼らは短機関銃らしき銃で撃ち返してきた。
敵襲を知らせた将校は、撃たれて絶命した。
艦橋及び上部甲板は、すでに制圧され、2機目の回転翼機からも、黒色の戦闘服を着た戦闘兵が[テンプラー]の艦尾に降下する。
「突入するぞ!」
SBU第2小隊第1班長が、特殊閃光手榴弾の安全ピンを外した。
「投擲!」
第1班長の命令で、特殊閃光手榴弾を司令塔に投擲した。
特殊閃光手榴弾が投擲後、炸裂した。
「行け!行け!」
SBU第2小隊第1班が、艦内に突入する。
狭い場所での戦闘や、近距離での対人戦闘に優れたMP5A5を装備した隊員たちが、艦内に侵入する。
同じく、フランス海軍コマンドー部隊も、艦内に突入する。
艦橋から司令塔に突入したSBU第2小隊第1班は、特殊閃光手榴弾で、ほとんど戦闘不能になった水兵たちを制圧する。
抵抗能力がある訳でない彼らは、艦艇や船舶内での武装勢力を無力化する事を専門的にマスターしている、特別警備隊員の前では適う訳が無かった。
いくら、海軍でも潜水艦乗りである彼らは、軍艦の運用については熟知していても、戦闘部隊では無い。
軍隊格闘や、銃火器の取り扱いを習得していても、本業でない以上は、それらを本業にしている彼らには適わない。
「床に伏せろ!」
SBU第2小隊第1班に所属する海曹が、英語で叫ぶ。
MP5A5を無力化したイギリス兵たちに向けながら、彼らを一箇所に集めた。
司令塔で捕らえられた仲間を救おうと、水兵数人が短機関銃や拳銃を持って現れたが、待ち構えていたSBUの隊員が、MP5A5を発砲した。
「班長!これを見てください!」
海曹の1人が、班長である2等海尉に報告した。
「これは、暗号送受信器では無いか?」
班長はポケットから写真を1枚取り出し、奪取目標である暗号送受信器であるか、どうかを確認する。
「暗号表や暗号交信手順表は、あるか?」
班長が指示し、隊員の1人が周囲を確認する。
「それらしい物は、ありません!」
「恐らく艦長室か、士官室にあるのでは?」
部下からの指摘に、班長がうなずく。
「よし!俺とお前たち2人で、艦長室に行くぞ!」
班長が海曹2人を連れて、司令塔から艦長室へと向かう。
MCH-101で、小隊長である管原が、T級巡洋潜水艦に突入した小隊に属する2個班の指揮を取っていた。
「隊長。[あしがら]から派遣された、乗船隊が、後3分で到着します」
特別警備隊第2小隊長付の通信員が、報告する。
「了解」
管原は、ノートパソコンで、突入したSBUの隊員たちの鉄帽に装着された小型カメラの画像を確認しながら、ヘッドセットのマイクに向かって、指示を出す。
「各班長へ、3分後に[あしがら]から発艦したSH-60Kがやってくる。奪取目標の機材や資材を確保したら、ただちに艦首部分に集めろ」
特別警備隊第2小隊と海軍コマンドー部隊による強襲制圧で、T級巡洋潜水艦は当初の行動計画で立案された制圧予定時刻よりも早く、制圧が完了した。
これは、艦長を始めとした指揮官クラスが狙撃されて、統制が取れなくなったため、彼らが早々に降伏叉は、無力化されたからだ。
目的の暗号表や、暗号送受信器の奪取には成功し、ただちに[あしがら]から発艦したSH-60Kに積み込まれ、そのまま新世界連合と統合省防衛局情報部等の情報機関に運ばれた。
暗号解読の諜報合戦はこれで終わりでは無いが、潜水艦という海中を自由自在に航行し、シーレーンを脅かす存在。
潜水艦は、海中を航行するという独特の特性を生かし、独自の暗号システムを駆使し、通商破壊を行う。
貨物船やタンカー等による海上輸送は糧食、水、医薬品、武器、兵器、予備部品を一度に莫大な量を、目的地に運ぶ事ができる。
それは、潜水艦からすれば、絶好の獲物である。
いかに80年後と言え、水上艦による対潜水艦対策は、万全では無い。
敵性国家の潜水艦の位置、展開状況、投入されている数がわからない以上は、戦略的に見ても、戦術的に見ても不利である事は変わらない。
今回の新型暗号システムを奪取した事で、戦局を有利に進める事ができる。
史実でも、ドイツ第3帝国海軍の潜水艦部隊が使用する暗号解読は、暗号推進国であるイギリスでも未知の世界であり、解読にはあらゆる手段が持ち込まれたとされている。
死闘南方戦線 第19章をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。




