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死闘南方戦線 第18章 マレー攻略前哨戦 3 暗号奪取作戦開始

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。


 菊水総隊海上自衛隊第1潜水隊群第1潜水隊に所属する[おやしお]型潜水艦[いそしお]は、深度80メートルの海中を、6ノットで航行していた。


[いそしお]の任務は、第2護衛隊群から派遣されたイージス艦[あしがら]と、汎用護衛艦[てるづき]と同じく、新世界連合軍連合海軍艦隊総軍第3艦隊第4空母戦闘群の護衛である。


[いそしお]艦長である新崎丈瑠(にいざきたける)2等海佐は、艦長室で航海日誌に1日の記録を、記入していた。


 航海日誌にペンを走らせながら、新崎は本艦の初陣を思い出していた。


[いそしお]は、僚艦の[まきしお]と共に、パナマ運河のミラ・フローレス閘門に、ハープーン・ミサイルを撃ち込んだ。


 その後、パナマ運河を警備する駆逐艦や潜水艦からの、しつこいぐらいの追跡を受けたが、[おやしお]型潜水艦の隠密性と静粛性だけでは無く、速力20ノットという高速航行能力で、追跡を振り切った。


 その間、[いそしお]も[まきしお]も、魚雷を発射しなかった。


[いそしお]の若手幹部や海曹の中には、89式長魚雷の発射を具申し、捜索、追跡中の駆逐艦、叉は潜水艦を撃沈する事を主張する者がいたが、彼は占領下のオアフ島近海に戻るまで、発射命令を出さなかった。


 理由としては、小物とも言える駆逐艦や潜水艦に、高性能誘導装置や高性能炸薬を搭載する89式長魚雷を使いたく無かった。であるが・・・それは、副長や水雷長の言い分である。


 新崎自身の言い分は、違っていた。


 この当時の駆逐艦には、数100人以上の人間が乗り込んでいる。


 彼らは、与えられた任務や命令を、忠実に遂行しているだけだ。


 そんな、彼らを目障りだからという理由で殺すのを彼は、躊躇った。


[おやしお]型潜水艦は、[そうりゅう]型潜水艦や[すいこ]型潜水艦が登場して以来、旧式の仲間入りをする事になるが、[おやしお]型潜水艦の隠密性、静粛性のレベルは、諸外国海軍が運用する潜水艦よりも格段に上だ。


 そんな[おやしお]型潜水艦が、この時代の潜水艦や駆逐艦に、遅れをとるはずが無い。


[おやしお]型潜水艦は、ドイツ第3帝国国防軍海軍の潜水艦の限界深度である200メートルより、さらに深く潜る事ができる。


 200メートル以上を潜航すれば、この時代の駆逐艦の爆雷攻撃や、潜水艦の追跡を回避できる。


 だから、彼は撃沈命令を躊躇ったのだ。


 もちろん、この時代にタイムスリップした海上自衛隊潜水艦の艦長たちにも、色々な考えを持つ者がいる。


 新崎のような考えを持つ上級幹部自衛官もいれば、当然ながら違う考えを持つ自衛官もいる。


「・・・・・・」


 新崎は、自分の考えが甘いという事は、重々承知している。


 しかし、甘い考えだからといって、非難される筋合いはない。


 自分と違う考えだからといって、それを排除する権利は誰にも無い。


 自分と異なる意見が気に入らないなら、その反論を堂々と主張すれば良いだけだ。


 ハワイ占領の前哨戦となった、真珠湾攻撃とほぼ同時に行われた、アメリカ海軍の空母[レキシントン]と[エンタープライズ]の撃沈だが、それを担当した2つの潜水艦の艦長は、それぞれの判断で作戦を実行した。


[レキシントン]には、一切の警告も無しに攻撃をした。


[エンタープライズ]には、退艦勧告と、その猶予が与えられた。


 それだけで無く、事前にハープーン・ミサイルか89式長魚雷のどちらを使用するかを、念入りに検討し、命中後に[エンタープライズ]の乗組員が退艦する時間を与えるために、ダメージの少ない方を選択した。


 対する[レキシントン]は、そのような配慮はまったくされず、ハープーン・ミサイルと魚雷による攻撃で轟沈され、ほとんどの乗員が、艦と運命を共にした。


 単純に考えれば、[エンタープライズ]に勧告をした[そうりゅう]型潜水艦7番艦[じんりゅう]の艦長の判断は、人道的と言えるかも知れないが、本来の潜水艦の任務と、特性を考えれば、必ずしも正しいとは言えない。


 どちらが正しく、どちらが間違っているか、それは誰にも言えない。





[いそしお]のソナー室で、ソナー員である1等海曹が、潜水艦らしきスクリュー音を確認した。


「艦長。深度50メートルを、速力3ノットで航行する潜水艦を、探知しました」


 ソナー員として15年の経験を持つ潜水艦乗りの彼は、微弱な音も識別する能力がある。


「恐らく、近海で展開していた潜水艦が、こちらに急行したのだろう」


 新崎は、艦長席から立ち上がった。


「副長。速力7ノット、接近中の潜水艦を確認する」


 新崎が、副長兼航海長の3等海佐に告げる。


 副長は復唱し、航海士に指示する。


「ソナー。接近中の潜水艦は?」


 新崎が聞くと、ソナー員が答える。


「イギリス海軍の、T級潜水艦です」


「気づかれたか?」


 新崎の言葉に、ソナー員は、ヘッドフォンを抑えながら答えた。


「いえ、目標は、まっすぐこちらに向かってきます」


「艦長。状況から見ても、敵潜は第4空母戦闘群に、向かっています。恐らく正規空母への魚雷攻撃をするつもりでしょう」


 水雷長の1等海尉が、告げる。


「フィリピン独立後、大日本帝国陸海軍や菊水総隊陸海空自衛隊が進駐して以降、米英蘭連合軍の潜水艦による通商破壊が何度か行われた。フランス海軍の原子力空母も狙っているだろうが、違うかも知れない」


 新崎は、顎を撫でながら、つぶやく。


「史実でも、東南アジア方面は、連合軍による通商破壊が主に行われました。その結果、ボルネオ産の原油を満載したタンカーが、数多く沈められました」


 史実に知識がある、船務士が告げる。


「古典的だが、海を渡らなければ陸上部隊を展開できない海洋国家に対しては、有効な戦法だ」


 新崎が、腕を組みながら、つぶやく。


 通商破壊戦法の歴史は、大航海時代まで遡る。


 この当時の主な戦法は、私掠船を使った海賊行為である。


 海賊行為と言えば、あまりいいイメージは出ないが、日本語訳では海賊と簡単に片づけられるが、英語訳では2つの意味が存在する。


 日本人のイメージ通りの、見境無く商船を襲撃する犯罪行為を行う海賊と、特定の国家等と契約し、その国家の敵対国の商船等を襲う、一種の傭兵的な役割を担う、海賊である。


 商船破壊は、後者の海賊行為に該当する場合が多い。


 主に交戦国の商船を襲い、積み荷を略奪し、それを戦費に使う(主に私掠船の船員の懐に入りきらない物)。


 因みに、海賊行為を交戦国への主戦法として採用したのは、フランスであり、その後に続いたのがイギリスである。


 こういった私掠行為を行った海賊の中には、協力した国家の海軍の提督にまで、登り詰めた者もいる。


 ただし、17世紀を迎えると、このような通商破壊は戦争犯罪に認定され、その後の戦争から急速に減退した。


 第1次世界大戦以降、潜水艦が導入されてからは、敵国の輸送船や貨物船等を撃沈するという形で、再び通商破壊が本格化した。


「史実のような轍を踏むわけにはいかない。1番、2番発射管に魚雷装填」


 新崎の命令に、水雷長に復唱する。


[いそしお]に装備されている、89式長魚雷2本が、魚雷発射管に装填される。


 見逃せば、1隻の潜水艦だけで、10隻近い輸送船や貨物船が、沈められる事になる。


 確実に、沈めなくてはならない。


「第4空母戦闘群に、接近中の潜水艦に、魚雷攻撃を行うと通信せよ」


 新崎が、通信士に告げた。


「魚雷発射管開放!」


 1番、2番の魚雷発射管が、開放される。


 新崎が、魚雷発射命令を出そうとした時・・・


「艦長。空母[フォッシュ]から通信です」





[フォッシュ]のCDCで、クレマンは司令官席から立ち上がり、東南アジア方面の地図を表示したデジタル表示板に視線を向けていた。


「提督。[いそしお]との通信回線が、繋がりました」


「うむ」


 クレマンは、通信マイクを持った。


「[いそしお]艦長の、新崎です」


「新崎中佐。長期潜航能力を有しない貴艦に、かなり無理をさせて恐縮だが、乗組員の士気はどうだ?」


「潜水艦乗り、という道を選んだ以上は、全員、覚悟は出来ています。クレマン提督は、わざわざ我々に、労いの言葉を掛けるために、本艦の戦闘準備を、止めたのですか?どんなに時代が変わろうとも、空母の天敵は潜水艦です。今、敵の潜水艦が貴艦隊に、ゆっくりと近づいているのですよ」


 新崎は、この時代にタイムスリップした海上自衛隊の潜水艦艦長の中では、[あしがら]艦長の向井と同じ、あまり戦闘を好まない方に分類されるが・・・さすがに、潜水艦乗りだけあって、やる時にはやる。という精神力は、極めて高い。


「それを聞いて安心した艦長。貴艦には、南方攻略作戦を確実に成功させるために、極めて重大な任務を要請したい。もちろん、これは要請であるから、拒む権利もある」


「何でしょうか?」


 新崎が、小さく問う。


 水上艦と潜水艦との水中交信は、かなり制限を受けるために、長々と会話をする事はできない。


「接近中のイギリス海軍潜水艦を撃沈せず、水中航行不能にしてほしい。その後、本艦から出撃した強襲チームが、同潜水艦を拿捕し、暗号表と暗号送受信器を奪取する」


「・・・・・・」


 クレマンの言葉に、新崎は言葉を失った。


「もちろん、[ディアモン]を、貴官の指揮下に入れる。それで、できるか?」


「不可能ではありませんが、イギリス海軍が使用する暗号解読に、進展が無いのですか?」


 新崎の質問に、クレマンは即答でイギリス海軍、オランダ海軍等が使用する暗号解読に、まったく進展が無い事を伝えた。


 ニューワールド連合に属する連合情報局と、ニューワールド連合軍統合情報局に属する情報分析官たちが、東南アジアで対日戦を行う英蘭印豪新連合軍が使用する新型の暗号の解読に、不眠不休で取り組んでいるが、意味不明な単語や用語が並び、まったく解読できないでいた。


 英蘭印豪新連合軍も、度重なる大日本帝国軍(実際に解読をしているのは、ニューワールド連合軍と統合省防衛局情報部)による暗号解読で、作戦行動を阻害されて以来、彼らは、従来方法の暗号作成を変更し、まったく、異なる方法での暗号作成を行っていた。


 各情報機関からも、暗号表叉は、暗号の原本と思われる物がなければ、解読するのは困難と言われている。


 接近中の潜水艦の中には、暗号表だけでは無く、新型の暗号送受信器があるはずだ。


これらを完全に奪取できれば、南方攻略作戦は、スムーズに展開できる。


「了解しました。最善を尽します」


 しばらくの沈黙の後、新崎から承諾の返事がきた。


「苦労をかける」


 クレマンはそう言って、通信マイクを置いた。





[いそしお]艦内では、クレマンからの要請で、新しい行動案が議論されている。


 艦長、副長、水雷長、船務長の4人とこの時代の潜水艦に詳しい自衛官や、イギリス海軍軍人の心理に知識を持つ自衛官を集めて、新しい対潜水艦戦の案を模索する。


 撃沈する訳では無く、水中航行不能に追い込み、浮上航行をさせる。


 ある意味、非常に困難な任務である。





 イギリス海軍T級巡洋潜水艦[テンプラー]は、無音潜航で新東洋艦隊旗艦を爆沈させ、N-1島に上陸作戦を開始したスペース・アグレッサー軍の機動部隊に発見されず、フィリピン本土から出撃する大日本帝国輸送艦隊への攻撃のために、シンガポール軍港から出撃した。


「艦長。これ以上の潜航は、危険です。安全限界深度を、超えています」


 副長からの具申に対して、髭を生やした50代のイギリス海軍中佐は、首を振った。


「副長。さらに20メートル潜れ」


「艦長!!」


「わかっている。しかし、奴らの対潜水艦探知能力は、極めて高性能である。できる限りの危険をおかす、必要がある」


 艦長の言い分は、もっともではあるが、このような事で果たして効果があるのか、副長には疑問が残るのであった。


「ソナー。何か音を、拾ったか?」


 艦長が問いかけると、ソナー員がソナーの感度を上げながら、周囲を確認する。


「!!?」


 ソナー員が、反応した。


「艦長!!下方から、スクリュー音を探知しました!!」


「下方!!?」


 副長が、驚愕したような声を漏らした。


[テンブラー]は、現在120メートルという、この時代の潜水艦の安全深度を越えた深度で潜航している。


 それよりも深く潜る事ができる潜水艦が、存在している事には驚愕だった。


 大日本帝国海軍の新型潜水艦も、150メートルまで潜航可能な潜水艦が量産されている事は、イギリス海軍情報部が日系出身者や、東洋系出身者たちを大日本帝国本土や、統治領に合法、非合法を問わず潜入させ、何とか把握している。


 大日本帝国本土、及び統治領でのスパイ狩りの成功率は極めて高く、行方知れずになった諜報員の数は、あまりに多い。


 その割に入手出来た情報は、不確定なものを含めても、あまりにも少なかった。


「接近中の潜水艦より、魚雷発射音!!!」


「くっ!もはや、これまでか・・・」


 艦長は、諦めたような口調でつぶやく。


「機関全速!左舵一杯!!」


 副長が、叫ぶ。


「魚雷接近!回避できません!!」


 ソナー員が叫んだ後、魚雷が、[テンプラー]の至近で炸裂した。


 その爆発の衝撃により、[テンプラー]の艦体が、激しく揺れる。


 乗組員たちは、隔壁や床に叩き付けられる。


 至近での魚雷の爆発により、[テンプラー]艦内各所に設置されているパイプが裂け、海水が噴き出す。


 その他の場所でも、微量の浸水が発生している。


「機関室で火災発生!!至急、消火班を・・・!!」


 艦内マイクから響いた機関要員の叫び声は、そこで止まった。


「モーターを止めろ!機関室の状況が把握できるまで、モーターを動かすな」


 魚雷爆発の衝撃で、艦内の照明器具が破壊されたため、艦内は暗かった。


 乗員の何人かが、懐中電灯を照らし、明かりを確保する。


 しばらくしてから、艦長の元に、機関室の火災を鎮火したという報告が入った。


「機関室の状況は?」


 艦長が問いかけると、消火班の指揮を取っていた上級下士官が、苛立った口調で答えた。


「状況!?機関室は最悪です!その一言しか無い。機関長以下、機関要員や技師たちは、全員死亡しました。機関の再起動も、できません!!」


 消火班長からの報告に、艦長は肩を落とした。


 幸いにも艦を止めていたため、バッテリーの残量は僅かながら残っているし、海流に流されているから、敵の潜水艦に追跡されていなければ、見つかる事は無い。


「浮上しろ!」


「浮上する。メイン・タンク・ブロー!」


[テンブラー]艦内の海水が排水され、艦はゆっくりと浮き上がる。

 死闘南方戦線 第18章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますがご了承ください。

 次回の投稿は3月13日を予定しています。

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