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死闘南方戦線 第17章 マレー攻略前哨戦 2 橋頭堡攻防戦

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

「目標まで2分!」


 朝野が搭乗するV-22Bの機長の声が、ヘッドセットから、聞こえた。


「目標まで、2分だ!!」


 朝野が、叫ぶ。


「弾倉装填!!」


 小隊陸曹の命令で、朝野小隊の隊員たちが、89式5.56ミリ小銃に、30発弾倉を装填する。


「目標上空でホバリングし、特戦群狙撃班からの援護を受けながら、ファスト・ロープ降下を行う!!」


 朝野は、部下たちに最後の確認をとると、自身も89式5.56ミリ小銃の槓杆を引く。



 特殊作戦群で編成されている狙撃班に所属する、1等陸曹の狙撃手と、3等陸曹の観測手は、M24対人狙撃銃の狙撃眼鏡を覗きながら、発砲のタイミングを計っていた。


「まもなく、V-22Bが到着」


 観測手が、腕時計を確認しながら告げる。


「了解」


 狙撃手は、M24の引き金に指をかける。


 V-22Bのローター音が、聞こえる。


「状況開始時刻」


 観測手からの報告に、狙撃手が確認をとる。


「命令変更は、無いか?」


「中隊指揮所から、命令変更無し」


「了解」


 狙撃手は、最初に目標を定めた対空火器として設置されている、重機関銃の機関銃手に照準を合わせた。


 観測手が、小さく「撃て」と指示を出す。


 狙撃手は、M24の引き金を引く。


 M24から7.62ミリライフル弾が撃ち出され、機関銃手の頭部を貫いた。


 弾薬補給兵が驚き、叫ぼうとしたが、別の狙撃手に始末された。


 収容所に設置されていた対空式重機関銃は、コンマ数秒で無力化された。


「騎兵隊の、ご登場だ」


 狙撃手が空を見上げながら、つぶやくと、上空からV-22Bが2機、ホバリングし、機内から水陸機動団第1連隊第1中隊先遣部隊を降下させた。





「ロープ!」


 朝野が叫ぶと、陸士たちがロープを下ろした。


 隊員たちは、これまでの訓練通りにロープに掴まり、降下する。


 地面に着地すると、89式5.56ミリ小銃を構えて、展開する。


 もちろん守備隊側も、彼らの降下を、黙って見ている訳は無かった。


 収容所の警備兵たちが、手動装填式小銃を持って現れたが、朝野たちを援護するために、周囲に展開していた特戦群1個小隊が、狙撃仕様のHK417での近接援護を行った。


「前進!」


 朝野は、89式5.56ミリ小銃を、構えながら叫ぶ。


 収容所にいた警備兵の数は少なく、戦闘も降下時の妨害だけであった。


 収容所に収容されている日系人や、親日派の現地住民たちが、寝食する木製建物のドアにかけられた工業用の鍵を破壊し、ドアを開放した。


 朝野は、彼らがマレー半島や、ボルネオ島等から収容された、日系人や親日派の一部である事を確認した。


「希望する者には、水と食糧を分けてやれ、治療が必要な者は、衛生員に初期診察を」


 朝野は、彼らの姿を確認しながら、部下に指示を出した。


 収容者は500人ぐらいだが、健康体と言うには、少し疑問が出る身体付きだった。


 今のご時世なら、軍隊や後方支援を担当する組織に、優先的に糧食や医薬品等が回される。


 東南アジアでの貧民層(この時代の区分)の生活基準から考えれば、収容所に収容されている日系人と、親日派現地民の生活水準は、若干上のようだった。


 少なくとも、酷い扱いは受けてはいない様子に、朝野は安堵した。


「隊長。中隊指揮所から無線です」


 朝野小隊長付無線員が、無線機を渡す。


「はい」


 朝野は、携帯式の大型無線機を持つ無線員から、受話器を受け取る。


「収容された者たちは、無事に保護しました。怪我及び病気等の確認は、これから行います。状況が変わりましたら、また、報告します。では」


 朝野は短く交信を済ませると、周辺の状況確認と、イギリス軍の動きについて詳細な情報を確認した。





 6時を迎えると、[しょうない]から出撃したAAV7A1群は、海上を航走しながら、N-1島に接近していた。


 AAVA1は、水陸両用強襲車で、水上航行が可能な装甲車だ。


 1990年代以降、海兵隊と言えば、誰もが想像するのが、本車であろう。


 強襲上陸作戦のために、アメリカ海兵隊に導入された本車は、強襲上陸作戦時の上陸兵員の安全性向上と、強襲上陸後の内陸部への攻勢のために、通常の装甲車としての防護能力、攻撃能力を確保した車輌だ。


 陸上自衛隊では、水陸両用作戦を主任務とする水陸機動団に、配備されている。


 上陸地点の安全確保と、上陸時での敵勢力からの上陸阻止に対する、制圧及び援護のために水陸機動団偵察隊第1小隊(1個班)と第1連隊第1中隊(特戦群と共同行動をしている部隊とは別)が、隠密上陸している。


 因みに、上陸地点の査定は、海上自衛隊の特殊部隊である特別警備隊(1個小隊)が、担当している。


 AAV7A1が、砂浜に上陸すると後部ドアから、第1連隊第2中隊の隊員たちが、小隊単位で下車し、展開する。


 第2中隊は、最初に上陸している第1中隊と合流し、上陸地点が安全である報告を受ける。


「2中隊長。上空援護の[アパッチ]2機が、燃料補給と上陸時の上空護衛のために、[しょうない]に帰還するそうです」


 第2中隊長は、指揮車型AAV7の側面で第1中隊長と打ち合わせをしている時に、同車に搭乗する中隊長付無線員から報告を受けた。


「そうか。各小隊に連絡し、橋頭堡の防御態勢を構築しろ」


 第2中隊長の指示で、第2中隊は第1中隊と共同で防御陣地に展開している。


「1中隊長!2中隊長!偵察隊第1班から緊急連絡です!橋頭堡に接近中のイギリス陸軍歩兵部隊を確認、規模は1個中隊クラスから、それ以上!!」


「敵も、みすみす、俺たちの上陸を、黙って傍観をしている訳では無い。という事だな」


「それは、当然だな」


 2人の中隊長が、うなずき合う。


 水陸機動団特科大隊に所属する特科中隊が、運用するAAV7(特科部隊仕様)から120ミリ重迫撃砲を素早く展開させる。


 榴弾砲よりも取り回しが良く、火力は榴弾砲並の威力を発揮するため、120ミリ重迫撃砲は第1中隊と第2中隊には、心強い火力支援だ。


「至急!洋上艦に連絡し、近接航空支援を要請しろ!」


 第1中隊長は、無線員に叫ぶ。


「了解!」


 無線員が、洋上にいる[しょうない]の統合運用司令部作戦室に、緊急連絡する。


 N-1島周辺には、第2護衛隊群のイージス艦[あしがら]や[てるづき]、第3艦隊だけでは無く、連合支援軍海軍艦隊も展開している。


 不測の事態が発生していなければ、すぐに近接航空支援の戦闘攻撃機を寄越すだろう。


「各小隊に告ぐ。イギリス軍からの攻勢は、フィリピン本土で経験した米英比軍以上の激戦が予想される。絶対に敵を過小評価するな!」


 第1中隊長が、中隊無線で各小隊に注意を促す。


 イギリス本国は、ドイツ第3帝国軍とイタリア王国軍、ヴェルサイユ条約機構軍による大規模な上陸作戦が、秒読み態勢である。


 アメリカは現在の所、ヨーロッパへの参戦を表明すらしていない。


 そんな状況下での、南東諸島及びマレー沖海戦での敗退は、彼らに想像を絶する心理的打撃を与えただろう。


 本国が占領され、東南アジア、インド帝国が陥れば、自分たちは、国無き民になる。


 そんな事を想像すれば、どのような地獄が待っているか、理解できる。


 恐らく、必死の覚悟で抵抗するだろう。


 戦闘は泥沼化・・・戦局好転の兆し無し等の言葉が、頭の中を過ぎる。


 どれ程の犠牲者が、出るか・・・





 1輛のAAV7A1と、1個小隊が第2中隊長の指示下で、橋頭堡の防御配置についた。


 89式5.56ミリ小銃や5.56ミリ機関銃MINIMIの2脚を立て、伏せ撃ちの姿勢で射撃準備を行う。


 AAV7A1には、40ミリ自動擲弾発射器と、12.7ミリ重機関銃M85が、主武装されている。


 能力的には、この時代の軽戦車程度だが、追加の増加装甲板が取り付けられ、防護性、生存性は大幅に向上している。


 小銃小隊が装備する、3門の84ミリ無反動砲に、装填手が榴弾を装填する。


「敵、発見!」


「撃て!!」


 小隊陸曹からの報告に、小隊長が発砲命令を出す。


 伏せ撃ちの姿勢状態から、全隊員たちが89式5.56ミリ小銃、MINIMIの引き金を引く。


 彼らに攻撃を仕掛けてきたイギリス陸軍は、1個小隊からそれ以上の戦力であった。


「発射!」


 84ミリ無反動砲を装備した砲手が叫び、無反動砲の砲口が火を噴く。


 撃ち出された榴弾は、軽機関銃で武装したイギリス兵たちの足下に着弾し、榴弾の炸裂で吹き飛ばした。


 AAV7A1の銃塔から、M85が火を噴く。


 発射されている弾種は曳光弾であるため、発射されている弾丸を目視で確認をする事ができる。


「携帯式対戦車火器を持った奴がいる!」


 伏せ撃ちから膝撃ちの姿勢に変えた、小隊に所属する陸士長が叫ぶ。


「確認した。任せろ!」


 隊員の報告に、小隊に所属する狙撃手である陸士が、M24対人狙撃銃の槓杆を戻し、次弾を薬室に送り込みながら、叫ぶ。


 狙いを定めて、引き金を引く。


 M24から撃ち出された7.62ミリライフル弾が2.36インチ対戦車ロケット発射器M1で武装した対戦車兵の頭部を破壊する。


 絶命した対戦車兵は、そのまま倒れながら、M1を発射し、味方のイギリス兵を吹き飛ばす。


 その時、イギリス兵と銃撃戦を行っていた第2中隊に所属する小隊員の1人が、膝撃ちの姿勢で、空になった89式5.56ミリ小銃の30発弾倉を外し、新しい弾倉を装填中に88式鉄帽に、ライフル弾の直撃を受けた。


 自衛隊を問わず、諸外国軍が導入している軍用ヘルメットの防護性能は、戦場での砲爆撃による破片や、流れ弾から頭部防護に重点を置いているが、ライフル弾の直撃を阻止するのは困難だ。


 もちろん、不可能では無い。


 距離やその他の条件で、軍用ヘルメットがライフル弾を防ぐ事ができるが、その可能性は低く、ほとんど奇跡に近い。


 撃たれた隊員の88式鉄帽は残念ながら、ライフル弾が貫通し、頭部に被弾した。


「1名!撃たれた!!」


「後方に運べ!」


 2人の隊員が、89式5.56ミリ小銃を肩に担ぎ、撃たれた隊員を後送する。


 その間、後送中の隊員2人が撃たれないようにするため、他の隊員たちが援護射撃を行う。


 これも、普段の訓練と、フィリピンでの初の実戦経験から得られた結果である。


 どんなに訓練に時間をかけても、実戦時の恐怖、不安、緊張状態であれば、訓練での経験は無意味化する。


 初の実戦を経験する兵は、普段の訓練の3分の1程度ができれば、一人前と言われる(もっとも、これはその初の戦闘参加で生き残っていればの話だが・・・)。


「衛生!衛生!」


 戦闘地帯後方に設置された、救護分所に到着した隊員が叫んだ。


 衛生科に所属する衛生員が駆け付け、後送された負傷した隊員に応急処置を施す。


 軽傷者は救護分所で治療されるが、重傷者は1トン半救急車で収容された後、医官が常駐している救護所に移送される。





 スペース・アグレッサー軍が、N-1島に上陸した報せを受け、同島守備隊のイギリス陸軍海岸警備隊が、上陸地点の橋頭堡への攻勢に出た。


 リー・エンフィールド小銃で武装したライフル兵である1等兵は、人の腰ぐらいまである茂みの中を進みながら、突撃のタイミングを計っていた。


 スペース・アグレッサー軍の兵士たちの姿を確認したと同時に、敵側から自動小銃による連発射撃を受けた。


「撃て!!撃ち返せ!!」


 指揮官からの命令で、リー・エンフィールド小銃を武装したライフル兵たちが、射撃を開始する。


 ボルトアクション式であるため、1発撃つ事にボルトを引き、空薬莢を排出し、次弾を装填しなくてはならない。


 正面戦闘では、連発射撃機能を有する自動小銃と単発射撃のみの手動装填式小銃では、火力の差は歴然だが、7.7ミリブリティッシュ弾は、ヴィッカース重機関銃とも併用可能である。


 ヴィッカース重機関銃を素早く設置し、スペース・アグレッサー軍の防御陣地に向けて射撃を行うが・・・すぐに、高威力の携帯式対戦車火器による攻撃と、大型の戦闘車から12.7ミリ重機関銃クラスの機関銃による機銃掃射を受ける。


 重機関銃座は、機関銃兵や弾薬補給兵もろとも吹っ飛ぶ。


「くそぉぉぉ!!こっちも対戦車兵器だ!!」


 指揮官からの叫び声で、アメリカ軍から大量に供与されたM1対戦車ロケット発射器を持った対戦車兵が、M1を構える。


 発射の寸前で、対戦車兵の頭部にライフル弾が直撃し、血が噴き出す。


 そのまま倒れる状態でM1が発射され、味方数人を巻き込む。


「スナイパーだ!!」


 誰かが、叫ぶ。


 他の対戦車兵たちも、同じように正確にライフル弾が頭部や胸部に被弾し、絶命する。


「くっ!」


 リー・エンフィールド小銃を持った1等兵が、自分の小銃を地面に捨てて、地面に落ちたM1を拾い上げた。


「見ていろ!宇宙人め!!」


 1等兵が、M1を構えた。


 彼は、大型戦闘車の側面に照準を合わせ、M1を発射する。


 60ミリ対戦車ロケット弾が撃ち出され、大型戦闘車の側面に直撃する。


 対戦車ロケット弾が炸裂したが・・・大型戦闘車は、まったくの無傷だった。


 彼が撃破しようとした大型戦闘車は、AAV7A1である。


 同車には、増加装甲板が施されているため、現代戦において、ゲリラ部隊による携帯式対戦車兵器による遊撃戦にも耐えられる追加装甲であるため、60ミリ対戦車ロケット弾程度では、撃破は不可能である。


「化け物・・・」


 1等兵がつぶやいた後、上空から砲弾の飛来音が響き。


 次の瞬間、砲弾が炸裂し、1等兵は絶命した。





「隊長!敵が引いていきます!」


 部下から報告に、小隊長が双眼鏡で確認する。


 半数以上の損害を出した状態で、イギリス兵たちが後退している。


「総員!残弾を再分配しろ!次の攻勢に備える」


 小隊長の指示で、小隊員たちが小銃の予備弾倉を確認する。


 小隊戦闘であるが、隊員個人の差により、弾薬消費は異なる。


 自動小銃である以上は、尚更だ。


 弾薬の補給態勢はあっても、確実にそれが自分たちに届くかどうかは、わからない。


 できる限りは、各隊員が持っている予備弾薬だけで、対応しなくてはならない。


 この確認作業の間に、隊員たちは、水筒を取り出して水を飲む。


 南方であるため、当然暑い。


 塩飴等の各飴類を隊員個人たちが取り出し、口の中に入れる。


 次の戦闘に、備える為である。


 少しの小休憩でも、取れる時に取っておかなくてはならない。

 死闘南方戦線 第17章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますがご了承ください。

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