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死闘南方戦線 第16章 マレー攻略前哨戦 1 N-1島攻略戦開始

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 N-1と、呼称される島。


 南東諸島と同じく、元の時代では存在していない島である。


 北はベトナム南部、南はシンガポール島という中間位置に、その島が存在する。


 島は横幅4キロメートル、長さ8キロメートル程度の島であり、島のほとんどは平原地帯と硬い岩で出来た山岳地帯が占めている。


 島の中間位置に、200メートル程度の山がある。


 山頂には、レーダー施設と通信施設が建てられており、レーダーによる広域の監視を行っている。


 N-1は、イギリス軍が管理し、陸海空軍が2000人近く配備されている。


 1年以上前は、無名の無人島だったが、大日本帝国の南進警戒と、東南アジアでの親日派勢力及び国家(タイ王国)への牽制等を目的に、イギリス軍が進駐した。


 広域警戒監視レーダー基地では、夜間当直のイギリス空軍兵たちが、レーダー画面を眺めていた。


「少佐。相変わらず通信基地の連中は、黙りです。イギリス本国の状況も、マレー沖での新東洋艦隊の状況、大日本帝国本土に攻撃を加えた、英蘭印連合軍の状況についても、何も教えてくれません」


 レーダー基地に勤務する、イギリス空軍の中尉が報告する。


「中尉。貴官の弟は、新東洋艦隊旗艦勤務だったな」


 少佐が、中尉に顔を向け、告げる。


「海軍の連中は、何も話しません・・・」


 中尉は、自分の席に腰掛けながら答えた。


「・・・・・・」


 同島で整備された海軍基地に、数日前に新東洋艦隊に所属している駆逐艦や、軽巡洋艦が入港した。


 しかし、入港したほとんどの艦は、傷ついていた。


 海軍基地に勤務する、イギリス海軍の将兵は何も喋らない。


 そして、[キング・オブ・ジョージ5世]の艦影は見当たらない。


(きっと、シンガポールに直接帰投したんだ・・・きっと・・・)


 嫌な予感を、中尉は無理やり、ねじ伏せていた。


「?」


 その時、レーダー基地に勤務する下士官が、レーダー画面に顔を近づけた。


「どうした?」


 中尉が、声をかける。


「いえ、先ほどレーダーに、何か微弱な反応がありましたが・・・消えました」


「また、故障か・・・?」


 少佐は呆れたように、レーダー管制室に設置されている、内線電話の受話器を取った。


「技術兵を呼べ。また、レーダーの故障だ」


 少佐は、何度目かわからない電話をする。


「こんなに故障が続いたら、実戦時に何にもできない。技術兵の連中は、きちんと整備したのか・・・昨日の修理の時に、新品の部品に交換したと、ほざいていたが、結局、また故障だよ」


 イギリス空軍の、下士官の1人がぼやく。


 この時、レーダー基地に勤務するイギリス空軍の士官、下士官たちは、誰もがそう思った。


 しかし、レーダーは故障していた訳では無かった・・・





 N-1島を、レーダー探知圏外の高々度から接近する、C-2輸送機の機影があった。


 機内には、菊水総隊司令部指揮下に置かれた、特殊作戦群第2中隊が搭乗していた。


「降下5分前!」


 C-2輸送機の、先任航空士が叫ぶ。


「5分前!降下準備!」


 中隊長である、3等陸佐が叫ぶ。


 隊員たちが、降下のための最終点検を行う。


「降下1分前!後部ランプを開放!」


 C-2輸送機の後部ランプが開放され、機内に冷たい外気が入り込む。


 機内を減圧しているため、外気は猛烈な風となって、吹き込んでくる。


「降下用意!」


 中隊長が叫び、HALO(高々度降下低高度開傘)降下の最後の準備に入る。


 視認可能圏外である、高度1万メートル以上を飛行する航空機から降下し、高度300メートル以下でパラシュートを開き、敵地に隠密降下潜入する降下方法である。


 高度1万メートルクラスでは、敵勢力圏のレーダー網を回避しやすいため、この方法が取られた。


「降下!!」


 先任航空士からの叫び声で、特殊作戦群第2中隊の隊員たちが、C-2輸送機から月明かりの夜の空を飛び出す。





 菊水総隊特殊作戦群第2中隊は、予定通りに島への隠密降下に成功した。


「お待ちしていました」


 N-1島に、事前に潜入していた、現地情報隊の隊員と合流した。


「ご苦労。早速だが、島の詳細についての報告を頼む」


「了解しました」


 陸上自衛隊情報科隊員で編成されている、現地情報隊は、陸上自衛隊が海外派遣される際に、必ず先遣部隊として派遣される部隊である。


 主な任務は、派遣先での情報収集である。


 いかに有人偵察機や無人偵察機等の偵察能力が高くても、最後に重要となるのは、人間の目と耳で確認する情報である。


 現地情報隊の情報科隊員からの報告を受けながら、中隊副長(1等陸尉)が、地図に印を付ながら、事前に精密な情報が記された地図と、照らし合わせながら確認する。


「我々の任務は、レーダー施設及び通信施設に行われる砲爆撃の戦果報告と、収容所に収容されている日系人及び、親日派のマレー等の現地民を保護する事だ。第1小隊は、砲爆撃の戦果報告、第2小隊と第3小隊は、収容所に向かえ」


 中隊長は、事前に取り決められた行動計画通りに指示を出し、各小隊長に、行動計画の確認をとる。


[フォッシュ]から発艦したシュペルタンダールが、対レーダーミサイルを発射し、レーダー施設及び、通信施設を破壊する。


 航空攻撃と同時に、イージス護衛艦[あしがら]と、防空型ミサイル駆逐艦[ダンケルク][カレー]による、長距離対地攻撃用誘導砲弾による艦砲射撃が開始され、湾港施設や飛行場の破壊が行われる。


 同時に、多機能輸送艦[しょうない]から水陸機動団第1連隊が、特別警備隊第2小隊から上陸誘導を受けながら、島に強襲上陸する手筈だ。


 中隊長は、腕時計を確認する。


「航空攻撃開始は4時間後だ」


 因みに、4時間以内に特殊作戦群が行動配置についていなくても、予定通り爆撃が開始される。





 ニューワールド連合軍連合海軍艦隊総軍第3艦隊第4空母戦闘群原子力空母[フォッシュ]の飛行甲板に、2機の制空兵装を装備したラファールMと、2機の対レーダーミサイルや空対地ミサイルを装備した、シュペルエタンダールが発艦準備を行っている。


 すでに、早期警戒機であるE-2C[ホークアイ]と、6機のラファールMが発艦し、作戦空域手前で待機している。


 同飛行隊は、特殊作戦群第2中隊を空輸した、C-2の護衛も任されていた。


 C-2輸送機は、ニューワールド連合軍連合空軍に属する、カナダ空軍のCF-18A[ホーネット]が、護衛の任を引き継いでいる。


 クレマンは、CDCでは無く、艦橋から2基のカタパルトで発艦準備を行っている、ラファールMを見下ろしていた。


 2機のラファールMが、[フォッシュ]から飛び立ち、続いてシュペルエタンダール2機の、発艦準備に入った。


「ニューワールド連合軍連合海軍で編成された、主力艦隊である第1艦隊、第2艦隊、第3艦隊の空母艦隊が、同じ時期に初陣した・・・」


 クレマンは、つぶやく。


 アメリカ海軍、イギリス海軍、フランス海軍が運用する原子力空母、通常動力空母は2010年以降に就役した新鋭空母であり、作戦展開海域から交戦国軍叉は交戦勢力が存在する内陸部まで侵入し攻撃する。


 しかし、ここまでの大規模作戦は、2000年代以降の戦争には存在しない。





 レーダーシステムの点検を行っていたイギリス空軍の技術下士官は、レーダーそのものに異常が見当たらない事を確認し、レーダー管制室に報告した。


 この時も、レーダーは稼働しており、広域警戒を行っている。


「少佐!レーダーに感あり!4機・・・いえ、10機以上の高速飛行物体を探知!」


 レーダー管制下士官が叫ぶ。


「何だと!!」


 その時、内線電話が鳴った。


 電話をかけてきたのは、レーダーシステムの点検に向かった技術兵たちだ。


「スペース・アグレッサー軍のジェット戦闘機が、来襲した!すぐに、そこから離れろ!!」


 少佐は技術兵たちに叫ぶと、レーダー管制下士官に聞いた。


「後、どのくらいで来る?」


「まもなく・・・・こちらに向かってくる12機の高速飛行隊から、複数の目標が分離!!高速で、こちらに向かってきます!」


「まずい!ロケット弾だ!総員退避、急げ!!」


 少佐は、下士官からの報告を受けると叫んだ。


 警報装置作動ボタンは押してあるから、飛行場には、すぐに緊急出動命令が出ている。


 レーダー管制室にいたレーダー要員たちは慌てて、管制室を飛び出す。


 少佐が、レーダー管制室を飛び出した時、空からロケット弾が現れた。


 そのロケット弾は、そのままレーダー基地を直撃した。


 猛烈な爆発と共に、レーダー基地がオレンジ色の輝きを発した。


 同時に通信基地でも、同じようにロケット弾が直撃し、破壊された。





「0400、艦長。時間です」


[あしがら]のCICで、砲雷長が告げる。


「砲撃開始!砲術長。工兵隊や工兵機材は巧妙に隠されている。飛行場を破壊しても、すぐに滑走路等は修復される。だが、上陸開始までに滑走路が修復され、島周辺をスピット・ファイアに飛び回られては面倒だ。修復に時間がかかるように、工兵機材を優先的に叩け」


 向井は、ミサイルや主砲等の水上戦、対空戦、対地戦での指揮を任されている砲術長に告げた。


「はい!砲術手。しっかり狙って、撃て!」


「了解!」


 主砲発射管制を任されている海曹が、モニターを見ながら、慎重に主砲照準を微調整する。


「照準良し!」


「撃ち方始め!」


 砲雷長の命令で砲術手が復唱しながら、主砲射撃を開始する。


[あしがら]の艦首に搭載されている62口径5インチ速射砲が旋回し、装填された対地攻撃用誘導砲弾が撃ち出される。


 誘導砲弾は、現地で砲爆撃の戦果確認を行っている特戦群の、1個小隊に所属する1個班からのレーザー誘導で、目標に着弾する。


 同島上空には1機のOP-3Cが展開し、長距離赤外線偵察カメラの映像を[あしがら]に送信し、その映像と特戦群と共に、島の情報をリアルタイムで流している現地情報隊1個小隊からの映像を、CICのスクリーンで照らし合わせて、正確無比で効果的な対地砲撃を行っている。


[ダンケルク]と[カレー]の2隻も、湾港施設への艦砲射撃を行っていた。


 こちらは、ニューワールド連合軍多国籍特殊作戦軍フランス統合特殊作戦軍海軍コマンド(隠密上陸や隠密空挺降下による隠密潜入を専門にする、偵察部隊に特化した特殊部隊チーム)からの精密な情報と、偵察機からの情報で精密砲撃が行われている。


 湾港機能と飛行場機能の、無力化が同時に行われた。


「撃て、撃て、撃て!!!港湾施設に係留されている駆逐艦や巡洋艦を、1隻残らず鉄屑に変えてしまえ!!!」


 いつものオネエ口調はどこへ行ったのか、完全な男口調でボードレールは部下を嗾けていた。


「・・・艦長、完全に人格が変わっていないか?」


「・・・ニューワールド連合軍総司令部から無茶な命令ばかりが届くから、苦労している俺たちの事を心配して、総司令部の連中に、マジ切れしたんだよ・・・[フォッシュ]での、作戦会議で、愛しの向井艦長に気安く声を掛けられた時も、八つ当たりで怒鳴りつけたらしい・・・今、その怒りをイギリス軍に向けているんだ・・・連中からしたら、『知らねーよ』と言うだろうがな・・・」


[ダンケルク]のCICでは、そんなヒソヒソ話が交わされていた。


 その頃。


「そろそろ、島の近海に[しょうない]等の空母型輸送艦群が、展開している頃か・・・」


 向井が腕時計を確認しながら、N-1島攻略作戦内容を思い出していた。





[しょうない]の飛行甲板で、水陸機動団第1連隊第1中隊は、迷彩塗装されたV-22B[オスプレイ]に乗り込んでいた。


 第1中隊は、V-22Bで島に接近し、特戦群第2中隊第2小隊と第3小隊と共同で、島内の収容所に収容されている者たちを、空から保護する手筈になっている。


 第1中隊は完全装備状態であり、背嚢には5日分の飲料水と食糧、予備弾薬、予備の手榴弾等がある。


「小隊搭乗しました!」


 小隊付陸曹の1等陸曹が、小隊長の朝野に報告した。


「了解」


 朝野は、ヘッドセットを付けた。


 V-22Bの機長からの報せ等を、部下たちに伝えるためだ。


「離陸する」


 機長の声が、ヘッドセットから聞こえた。


[しょうない]の第5分隊からの指示を受けながら、V-22Bが4機、順次発艦する。


「皆!降下地点まで、15分!」


 朝野は、部下たちに伝える。


「ソ連軍、英蘭印連合軍、米仏連合軍との地上戦で、陸上自衛官に50名以上の戦死者が出た。自分の命を第一に考えて行動してくれ。仲間の命が優先だ、民間人の命が優先だ等と映画やドラマの主人公のような、ご都合主義全開の考えで、行動しないように。映画やドラマは、どんなに主人公が無茶な行動をしても、命を失う事は無い。だが、ここは映画やドラマの世界では無い。本物の戦場だ。誰も主人公では無いし、脇役でも無い。無茶をした代償の死は、全員に平等に訪れる。自分が死んだら、仲間の命も守れないし、民間人の命も守れない。いいな!!」


「「「はい!!」」」


 朝野の言葉に、隊員たちが叫んだ。


 彼らも、フィリピン攻略作戦で実戦を経験しているため、ある程度は戦争に対する耐性が出来ているから、守るために戦う事を許された自衛官の言葉とは思えない台詞に、誰も異義を唱えない(勿論、反対の意見を持っている者もいるだろうが、きれい事で人は守れない。同僚を守るのも、民間人を守るのも、まずは、自分が生き抜いてこそである)。


「レーダー基地、通信基地への航空攻撃と、飛行場と湾港施設への艦砲射撃で、イギリス軍は混乱していると思うが、収容所には1個歩兵中隊クラスが展開している。混乱により、収容所に収容されている、日系人や親日派現地民を、戦闘状態に巻き込む可能性もある。発砲する時は、確実に相手を確認した上で戦うように。何か、質問は?」


 朝野が最後に確認すると、隊員たちから「なし!!」という叫び声が重なった。


 こういう事態に備えて、開戦前から陸上自衛隊の戦闘部隊は、実弾射撃訓練の回数を増加していた。


 陸上自衛隊普通科部隊の小銃による各部隊の実弾射撃訓練は、年間100発程度だが、これを各中隊単位で300発以上の実弾射撃にした。


 同時に、各隊員が個人個人で練度向上のために、新世界連合に属する多国籍民間軍事企業から派遣された社員の指導下で、実弾射撃を行った(この時、使用された小銃はM16A2である)。


 実際、水陸機動団は、第1空挺団、特殊作戦群と同じくらい実弾射撃訓練を大幅に増加しているため、各隊員の実弾射撃は、この4ヶ月で公私を合わせても約1000発から2000発程度である。


 特に多国籍民間軍事企業からの、厳しい軍事指導にも参加し、現役のSASや、デルターフォースの隊員でも難しいとされる高度な実弾射撃訓練も受けている。


 射撃訓練時の的は、撃っていい的と撃ってはいけない的が現れるだけで無く、電子表示板に命令が出る。


 例えば1番は射殺、2番は射殺不可、3番は市民、という指示が出て、的が2秒間だけ現れる、という物だ。


 そのため、各隊員の練度は高い。

 死闘南方戦線 第16章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますがご了承ください。

 次回の投稿は3月6日を予定しています。

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