死闘南方戦線 第15章 戦場と銃後 反戦の意志が繋げる戦争無き世界への道
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
「地獄絵図だ・・・」
第1ヘリコプター団第3対戦車ヘリコプター隊第2飛行隊に所属するOH-1[ニンジャ]の機長である1等陸尉が、戦艦[大和]の艦砲射撃と[かが]から発射された、地対地ミサイルの着弾地点の惨状を目視で確認しながら、つぶやく。
第3対戦車ヘリコプター隊は、AH-64D[アパッチ・ロングボア]が配備された戦闘ヘリコプター部隊である。
同隊の第1飛行隊は、水陸機動団第1連隊の上空援護と支援のために[しょうない]型多機能輸送艦に積まれているが、第2飛行隊は出撃待機が命ぜられていた。
「機長。まもなく、艦砲射撃と地対地ミサイル攻撃が、終了します」
観測手兼副操縦士が、報告する。
「各機!攻撃開始!!ウサギ狩りの最終局面だ!!」
フライト・ヘルメットに装着されている通信機から、霧野の声が響く。
「・・・・・・」
地獄絵図とも言える光景を見て、惨状と思っているOH-1の機長は、死神3佐の通信を聞いて、自分はとんでもない場所に志願したと、心中でぼやいた。
突撃命令を受けた第2普通科連隊は、第22歩兵聯隊と共同して突撃した。
連隊長命令で、89式5.56ミリ小銃の先端に89式多用途銃剣を装着し、米仏連合軍上陸部隊の防衛陣地に突入する。
軽装甲機動車や高機動車がMINIMIを車載した状態で、突入する隊員たちの先導に立って、敵陣に突っ込む。
第22歩兵聯隊も、64式7.62ミリ小銃改Ⅰ型や、62式7.62ミリ汎用機関銃を撃ちまくりながら突撃する。
連隊規模の突撃は、防御する側から見れば、目に映る範囲内全域に、無数の兵士の姿が津波のように押し寄せて来る感じだろう。
守る側からすれば、4000人以上の兵士たちが、叫び声を上げながら、突撃してくるのは恐怖でしか無い。
見渡す限り、敵、敵、敵である。
それが、夜襲ともなれば尚更だ。
いかに夜襲に備えた防御態勢を整えていても、ほとんど、気休めにしかならない。
例えば日露戦争時、二〇三高地攻防戦や旅順要塞の正面攻略でも、夜襲による突撃戦法では、榴弾砲の援護無しでも、複数のバリケードを突破し、陣地を制圧した。
これは、突撃する際の叫び声や、絶対に攻略するという執念を、末端の兵卒まで強く持っているためである(ただし、守るロシア帝国陸軍側では、主君に対する忠誠心どころか、直属の上官に対する忠誠心も欠如している所が見えていた)。
その執念に敗北した、と言っても間違いでは無い。
突撃開始初期では、双方とも小銃対小銃による戦闘が、繰り広げられていた。
米仏連合軍防御陣地でも、無事な機関銃陣地からは軽機関銃による弾幕が張られ、半自動小銃、短機関銃、騎兵銃、携行式対戦車ロケット弾発射機が火を噴き、銃弾の壁のような物が貼られた。
第22歩兵聯隊や第2普通科連隊でも、重迫撃砲中隊、歩兵砲中隊等から火力支援が行われ、各歩兵大隊、各普通科中隊の迫撃砲小隊から、迫撃砲による火力支援が行われる。
無事な戦車壕から、中戦車から軽戦車の戦車砲が火を噴くが、上空から突撃部隊の援護を行っている、AH-64DやUH-2のヘルファイア・ミサイルが撃ち込まれ、撃破される。
「ハチヨンで、機関銃陣地を吹き飛ばせ!」
第2普通科連隊に所属する中隊麾下の小銃小隊班長が叫び、1個班に1門装備されている84ミリ無反動砲手が、砲口を機関銃陣地に向ける。
「弾種、榴弾!」
砲手が、装填手兼予備弾薬運搬員に命令する。
装填手が、榴弾を84ミリ無反動砲に装填する。
「後方安全確認良し!」
装填手が装填しながら、すばやく後ろを振り返り、砲手に叫ぶ。
この時、装填手は砲手が被っている88式鉄帽を2回叩く。
これはダブルチェックも兼ねているのと、戦場では、いかに熟練兵でも接近戦が想定される戦闘では、極度の緊張状態になり、簡単な命令や合図も耳に入らない場合がある。
そのため、このような処置が取られている。
「発射!!」
砲手の叫び声と共に、無反動砲が火を噴く。
発射された榴弾は、機関銃陣地に直撃し、炸裂する。
暗い空に、吹き飛ばされた土砂が、舞い上がり、3脚に装着されていた軽機関銃が、空中に飛ぶ。
「前進!!」
小隊長が、機関銃陣地の破壊を確認して号令をかける。
艦砲射撃や、地対地ミサイルからの攻撃を受けても無事だった機関銃陣地は、戦闘ヘリや迫撃砲による攻撃で排除され、突撃した普通科連隊や歩兵聯隊は、米仏連合軍上陸部隊の防御陣地を突破した。
ここから先は、歩兵対歩兵の接近戦である。
砲爆撃から身を守るために掘られた蛸壺から、アメリカ海兵や自由フランス兵が飛び出し、双方が顔を合わせながらの激戦が繰り広げられた。
89式5.56ミリ小銃の銃口に装着した89式多用途銃剣を、相手の胸元に突き刺し、銃床を相手の顔面に叩き込む。
アメリカ海兵や自由フランス兵が飛び出していない蛸壺には、携帯放射器を装備した普通科隊員が近づき、携帯放射器の火炎を浴びせる。
携帯放射器は、第2次世界大戦中にアメリカ軍が導入した、M2火炎放射器の改良型である。第2次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争では、洞窟陣地や塹壕等に潜んでいる敵に対して、有効な攻撃方法だった。
携帯放射器から放射された火炎は、容赦無く蛸壺の中に入り、潜んでいる兵士たちを、炎で、あぶり出す事に成功した。
炎で、あぶり出された兵士たちは、全身を燃やされながら、蛸壺を飛び出すと、89式5.56ミリ小銃やMINIMIを構えて待ち構えていた隊員たちからの、一斉射撃で絶命した。
他の蛸壺でも、手榴弾を投擲したり、同じように携帯放射器による火炎放射で制圧した。
南方戦線は、密林での森林戦が主流になる事を想定し、南方攻略に参加する菊水総隊陸上自衛隊第12旅団の3個普通科連隊は、新世界連合軍連合支援軍に属する陸上部隊で密林での森林戦に詳しい兵士たちから、指導を受けていた。
「火炎放射兵が最も恐れられ、最も憎まれる存在だったという話も、これを見れば理解できる」
消えない火炎で、全身を燃やされながら、89式5.56ミリ小銃弾に貫かれて絶命した、自由フランス兵の姿を見ながら、普通科隊員がつぶやいた。
「こちら第2普通科連隊第1中隊!第1制圧地点を制圧した!これより、弾薬補給の後、進撃を続行する!!」
中隊長が、82式指揮通信車で指揮をとっている連隊長に、報告した。
本部管理中隊に所属する補給小隊から、1個班が第1中隊に派遣され、3トン半トラックの荷台に積まれていた予備の弾薬が降ろされ、各小隊単位で弾薬の補給を行う。
この間、第2普通科連隊に所属する普通科隊員の負傷者は、負傷の度合いを衛生科隊員から判断され、応急処置が行われる。
戦場での負傷者は、軽傷者の治療が優先される。
これは、軽傷者は治療後、傷の治癒も早く、部隊への原隊復帰も早い意味もあるが、戦場では医薬品には限りがあり、絶対に補給が届くという保障も無い。
戦場で、最も消費するのは、武器、弾薬では無い。
どちらかと言えば、医薬品や飲料水である。
ただし、重傷者は見捨てる訳では無い。
応急処置を施した後、ヘリで後方に下げられる。
第22歩兵聯隊が展開する戦場では、壮絶な接近戦が繰り広げられていた。
白兵戦に手慣れた大日本帝国陸軍は、64式7.62ミリ小銃改Ⅰ型をうまく使いこなし、銃口に取り付けた銃剣を、相手の胸元に突き刺し、絶命させ、銃床を相手の顔面に叩き付けるだけでは無く、時には足払いをかけ、地面に倒れたところで、銃剣を突き立てて止めを刺す。
至近距離で、64式7.62ミリ小銃改Ⅰ型を撃ち込み、アメリカ兵や自由フランス兵を絶命させる。
将校クラスは、軍刀を振りかざし、米仏連合軍兵士を絶命させる。
「前進!前進!!」
第22歩兵聯隊第1歩兵大隊に所属する中隊長が叫びながら、軍刀で自由フランス兵を斬りつける。
62式7.62ミリ汎用機関銃改を装備する機関銃兵は、2脚を立て、伏せ撃ちの姿勢で連発射撃を行う。
7.62ミリライフル弾を使用するため、破壊力は抜群である。例え、極限の興奮状態になったアメリカ兵や自由フランス兵でも、7.62ミリライフル弾が、まともに被弾すれば致命傷を避けられても、行動不能になる。
「籠城陣地に、擲弾をぶち込め!!」
小隊長である中尉が、叫ぶ。
小銃兵が、弾帯から64式7.62ミリ小銃改Ⅰ型の銃先端に装着する、擲弾を取りだした。
擲弾を装着すると、籠城陣地に撃ち込む。
擲弾が炸裂し、陣地が吹き飛んだ。
「突撃!!」
軍刀を振り下ろして、叫ぶ。
この間も、歩兵聯隊麾下の歩兵砲や歩兵大隊に所属する迫撃砲中隊から、砲弾が撃ち込まれる。
後方から、さらに火力が高い一〇.五糎榴弾砲や、155ミリFH-70榴弾砲が火を噴き、突入部隊の火力支援を行う。
米仏連合軍上陸部隊防御陣地は、大日本帝国陸軍と菊水総隊陸上自衛隊の2個連隊規模による突撃で陣地は壊滅し、上陸地点まで後退する始末である。
「洋上にいる護衛の駆逐艦と軽巡も、大日本帝国海軍の軽巡で編成された攻撃部隊による奇襲攻撃で、ほとんどの戦闘艦が戦闘不能にされた!防御陣地は突破され、最終防衛線で食い止めている状態だ!もはや、組織的抵抗は困難だ!!」
最終防衛線で指揮を取っている、アメリカ海兵隊の大佐が、無線機で叫んだ。
「降伏か戦死か、どちらかを選ばなくてはならない!」
大佐が叫んだ後、伝令兵がテントに飛び込んで来た。
「訂正する」
伝令兵からの報告に、大佐が無線機の受話器に、他人事のように最後の報告をした。
「最終防衛線が、突破された」
戦闘開始から2時間程で、米仏連合軍が壊滅したが、日本帝国軍部及び菊水総隊からの降伏勧告に最後まで従わず、残存兵は高級士官、上級士官を問わず、銃を握り、最後の兵が死ぬまで抵抗した。
同時多発的連合軍の攻勢で、ソ連軍、英蘭印連合軍と合わせても、最も規模が少なかった米仏連合軍だが、最も戦死者比率が多かったのは、米仏連合軍であり、組織的無降伏主義を貫き、玉砕した激戦である。
「アメリカ兵やフランス兵は、玉砕を否定していたはず・・・」
第2普通科連隊普通科中隊に所属する、下級幹部がつぶやく。
「これが、戦争だからですよ」
その幹部自衛官の背後で、声がした。
振り返ると、従軍カメラマンとして派遣された、反戦カメラマンの姿があった。
「貴方がたも戦闘の最中、敵の攻勢に備えていた時も、温かい食事をしながら団欒をしていました。それは敵も同じ。たとえ、いかなる状況下でも楽しい食事と、明るい話題で団欒します。ですが、戦場では今日の晩、部隊の仲間と楽しく団欒し、明日の戦闘に備えた。そして、明日の晩には、誰かが欠員した状態で再び団欒が始まります。それの繰り返しです。そうなれば、たとえ、道徳や教養で玉砕を禁止しても、玉砕に走ります」
「・・・・・・」
反戦カメラマンの言葉に、幹部自衛官は何も言えなかった。
ただ、彼が悲惨な戦場の様子だけでなく、戦闘の合間の和みの時間を、記録に収めている理由は、朧気にわかった。
想像させるためである。
例えば、テレビのニュースで紛争地域の様子が映し出されたとしよう。
その映像を見ている人の何人が、現実の出来事と受け止めているだろうか?
特撮技術の向上により、リアルに戦場を表現出来るような戦争映画と同じ様な感覚を覚えた事は無いだろうか?
映画では人は死なないが、現実では多くの命が消えているのに・・・
直接それを目撃しない限り、現実と虚構の区別が付かなくなりつつある。
史実でも、日本軍の玉砕の記事は、新聞のトップを飾っていた。
しかし、それを見た当時の日本人が、どれ程その光景を想像出来たのだろうか?
戦場から、遠く離れた場所で、それを想像出来るのは、実際に戦場を知っている者でなくては、かなり難しい。
だが、兵士たちの僅かな和みの時間。
それを想像するのは、比較的容易だろう。
家族の団欒に置き換えて、想像すればいい。
家族の笑顔が、1つ減り、2つ減り・・・その意味を理解した時、戦場から遠く離れた人たちは、戦場の惨状を自分たち家族に置き換えて、想像できる。
それを、理解し、認識するには、確かに時間は掛かる。
それでも、それは土に染みこむ水のように、人々の心に反戦の意志を少しずつ抱かせる事が出来るのではないだろうか・・・
それは、漠然としたお花畑思想の反戦主義では無く、強固な鉄の意志を持った、真の反戦主義となり、人々の心に根を張るだろう。
反戦カメラマンは、静かに、淡々と、人々にそれを訴え続けている。
自分たちの行動を、肯定もしないが、否定もしない。
ただ、ただ、事実を人々に伝え続けている。
「これが、俺の戦争だ」
反戦カメラマンの言葉が、静かに響く。
フィリピン本土で、ペリリュー島に上陸した米仏連合軍上陸部隊への対処の作戦指揮を行っていた、菊水総隊陸上自衛隊副司令官の星柿いさめ陸将は、ペリリュー島上陸した米仏連合軍に上陸部隊及び、艦隊を排除した事を報告された。
「副司令官。統合幕僚本部より、菊水総隊旗艦[くらま]を経由して、大日本帝国本土に上陸した、ソ連軍及び英蘭印連合軍を、撤退叉は降伏させたと報告が入りました」
副官からの報告に、星柿はうなずいた。
「これを・・・勝利と呼んで、よろしいのでしょうか・・・?」
陸自部隊の幕僚長である、飯崎希之助陸将補が、つぶやいた。
大日本帝国本土への上陸を許しただけでは無く、2度の本土空襲に際して、首都圏への小技による空襲を許し、京都と奈良に開戦初期、自分たちが行った、アメリカの交戦意識を失わせるために行った戦法を、そのまま返された。
大日本帝国も、明治以降の対外戦争で、一度も他国に国土を踏み荒らされた事が無い以上、その心理的効果は大きい。
「幕僚長、その台詞はまだ早い。我々は、100戦の中の1戦を終わらせたに過ぎない。その言葉は、この戦争の最終局面とも言える会戦の後に、問うべきものだろう」
星柿は、飯崎に告げた。
「戦争の最終局面ですか・・・それは、いつになりましょうか・・・」
誰かが、つぶやく。
マレー、シンガポール、ボルネオ島等への南方攻略作戦は開始された。
その第1段階として、友好国であるタイ王国との海上交通路の確保が開始される。
水陸機動団1個連隊を乗せた、多機能輸送艦[しょうない]が、レーダー基地と大日本帝国とタイ王国との海上封鎖のために設置された補給基地の無力化させる作戦が開始される。
第2護衛隊群第2護衛隊イージス護衛艦[あしがら]、第6護衛隊汎用護衛艦[てるづき]による艦砲射撃と、新世界連合軍連合海軍艦隊総軍第3艦隊第4空母戦闘群所属する艦載戦闘攻撃機ラファールによる航空攻撃で、島内のレーダー施設、通信施設、湾港施設、対空砲陣地を無力化する予定だ。
島内に収容されている日系人や、親日派の現地民保護のために、事前に島に空挺降下した特殊作戦群が、収容所を襲撃する手筈だ。
「陸将!本土から、緊急連絡が入りました」
通信科に所属する、2等陸尉が報告する。
「どうした・・・?」
星柿が、通信科の2尉がいつも以上に血相を変えた表情であるため、何事が起きたのか、思った。
「それが・・・」
2尉は、言いにくそうにつぶやく。
その手に、メモ帳がある。
「先ほど、統合省防衛局を経由して、保安局から連絡がありました。陽炎団警備部SAT所属の、ご子息が殉職しました」
その報告の内容を、星柿はすぐに理解できなかった。
「あいつは・・・SATに、所属していたのか?」
星柿が、ようやく口にできたのは、それだけだった。
彼は自身の息子の1人が、警察官として陽炎団に所属している事は、聞かされていたが、SATの隊員だとは、聞かされていなかった。
死闘南方戦線 第15章をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますがご了承ください。




