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死闘南方戦線 第14章 コーヒーの香りと煙草の煙

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 ペリリュー島では、戦艦や空母を含む主力艦のほとんどを失った米仏連合軍は、大日本帝国軍、スペース・アグレッサー軍の勢力圏内で、完全に孤立していた。


 輸送船には、傷病兵が収容され、ほとんど病院船状態である。


 残存する健全兵たちは、橋頭堡まで押し戻され、防衛陣地を構築していた。


「そこに、重機関銃を設置しろ!」


 米仏連合軍アメリカ海兵隊の軍曹が、指示を飛ばす。


 兵卒たちが、重機関銃を設置する。


「軍曹殿!汎用機関銃設置完了しました!」


 兵卒たちが、報告する。


 小隊付の語学下士官であるスタンプ伍長も、M1[ガーラント]を肩にかけて、自分が担当する機関銃陣地に、予備のM1919汎用機関銃用弾薬や手榴弾を運ぶ。


 語学下士官であるため、射撃訓練は基本訓練しかしておらず、戦力としては心許ないという事で、防御陣地に弾薬の運搬係を任された。


 スタンプが担当する機関銃陣地では、M1919機関銃の整備を行っている。


 機関銃手と弾薬補給兵以外のライフル兵等の兵士たちは、M1[ガーラント]等携行火器の整備点検をしている。


「ご苦労さん。お前さんも、ここで少し休め」


 軍曹が、缶詰の牛肉をフォークで刺しながら、スタンプに声をかける。


「温かいコーヒーもあるぞ」


「煙草もあるぞ」


 同僚たちが、声をかける。


「あ、ああ。そうさせてもらうよ」


 スタンプは、明るい声で話しかけてくる彼らの誘いを断れずに、腰を下ろした。


「お偉方が何を考えているかは知らんが、徹底抗戦を決定すれば、ここは激戦地になる。休める時に休んでおけ」


 軍曹が、フォークで突き刺した牛肉を、口に運びながら告げる。


「ほら、気分が落ち着くぞ」


 同僚の1人が、煙草の箱を差し出す。


「ああ、いただくよ」


 スタンプが、煙草の箱から一本煙草を受け取る。


 煙草を、口に咥えた。


 同僚の1人が、火をつけくれた。


 他の兵たちも煙草やコーヒーで気分を落ち着かせながら、談笑している。


「おかしいな・・・」


 スタンプが煙草の煙を吐きながら、つぶやいた。


「何が?」


 軍曹が、顔を上げる。


「いつもは煙草を勧められても、吸わないって断るのに、今日は吸いたい気持ちになった」


「そうだろうな」


 煙草を勧めた兵士が、うなずく。


「こんな状況下だ。無理も無い。気分を落ち着かせるために必要な物だ」


 米仏連合軍上陸部隊は、ペリリュー島に上陸を開始した時は、上陸兵力6万人だった。


 しかし、現段階での残存する健全兵たちは、1万程度だ。


 撤退するにしても、米仏連合軍空母機動部隊も戦艦部隊も壊滅し、ニューギニア島を航空基地として、B-25やB-17が支援爆撃のために出撃していたが、ニューギニア島航空基地は、スペース・アグレッサー軍の攻撃で壊滅した。


 さらに、潜水艦による海上封鎖や輸送船団への攻撃により、満足に補給物資が、ニューギニア島から届かない。


 自分たちに残された道は、2つしか無い。


 降伏か、徹底抗戦かである。


 海兵隊魂を見せ、最後の一兵になるまで徹底抗戦し、敵に可能な限りの損害と打撃を与えて全滅する。


 確かに、アメリカ海兵隊のモットーに恥じない働きではあるが、ここで大日本帝国軍やスペース・アグレッサーに損害を与える事が出来ても、戦局全体から見れば、こちらの犠牲の割には、敵に被害を与えていない。


 防御陣地の構築に、大日本帝国軍やスペース・アグレッサー軍は、何の妨害も行ってこない。


恐らく、一気に攻めるつもりなのだろう。


 戦車もできる限り、戦車壕に伏せて配置している。


 野砲から重砲もすべて、陸揚げし、攻撃があれば、徹底的に砲火を集中する段取りだ。


 恐らく、これが最後の夜かも知れない・・・煙草の煙を吐き出し、微妙な温度になったコーヒーを飲みながらスタンプは、そう思った。


 奇妙な事だが、終わりが見えた事に、ほっとしている自分がいる。


 もしかすると、最後かも知れない夜は、どこか穏やかで満ち足りた安堵感に包まれて、静かに更けていった。





 ペリリュー島に増援部隊として派遣されていた第22歩兵聯隊と、それより先に到着していた、第1大隊と残りの2個歩兵大隊が島に上陸して合流し、完全な1個歩兵聯隊規模になった。


 現代の陸上自衛隊普通科連隊編成とは異なり、大日本帝国陸軍歩兵聯隊編成は、3個の歩兵大隊(1個歩兵大隊800名)を基幹とし、傘下に機関銃中隊、歩兵砲中隊等が編成されている。


 そのため、1個歩兵聯隊は、3000人規模である。


 陸上自衛隊も、一時期は普通科連隊の下に普通科大隊が編制され、1個普通科連隊に3個普通科大隊で、定員3200人程度だった。


 運用上の問題から大隊が廃止され、普通科連隊の下に中隊が直接置かれるようになった。


 フィリピン本土に駐留する南方攻略軍から、2個歩兵聯隊がペリリュー島に上陸し、第12機動旅団第2普通科連隊と協力し、総攻撃の準備を整えていた。


 第2普通科連隊長の井ノ宮は、82式指揮通信車後部の指揮・通信室で、折り畳み式テーブルの上に広げられた、作戦地図を見下ろしていた。


「状況開始時刻まで、後6時間」


 井ノ宮が、腕時計を見ながらつぶやいた。


 日本人のお家芸である、夜襲をかけるのである。


 ペリリュー島飛行場では、特殊空中機動隊のUH-2と、予備機として待機していたAH-64D[アパッチ・ロングボア]4機が離陸準備をしている。


 洋上からは、戦艦[大和]を旗艦とする第1艦隊に所属する戦艦や重巡洋艦で編成された各戦隊による艦砲射撃が行われる。


 第2護衛隊群旗艦[かが]からも、地対地ミサイルを撃ち込む手筈になっている。


「連隊長も、お食事をとってください」


 トレイを持った、連隊長付上級曹長である准陸尉が、声をかけた。


「ああ。そうさせてもらおう」


 井ノ宮は、アルミ製の食器に盛り付けられたパックメシを、折り畳み式テーブルの上に置き、遅い夕食をとる。


 守る側もそうだが、攻める側にとっても、総攻撃の時間までの待ち時間は、とても長い。


 ただし、その時間は、双方で異なる。


 守る側は、総攻撃の時刻がまったくわからないため、いつでも総攻撃に備えた防御態勢を維持していなくてはならない。


 攻める側は、総攻撃の時刻がわかっているため、それに対応した食事と休息を、とる事ができる。





 第2護衛隊群旗艦である、ヘリコプター搭載護衛艦[かが]でも、ペリリュー島での総攻撃に備えて、準備が行われている。


 新世界連合軍連合陸軍に属するシンガポール陸軍ミサイル砲兵部隊のHIMARSへの、ミサイルやロケット弾補給のために、新世界連合軍連合空軍に属するシンガポール空軍輸送ヘリ部隊であるCH-47SD[チヌーク]が、[かが]の飛行管制室から着艦誘導を受けて、着艦している。


 海上自衛隊飛行科要員たちで編成されている第5分隊の隊員たちが、忙しく[かが]の飛行甲板を走り回っている。


 シンガポール陸軍の迷彩服を着た兵士たちと交差しながら、運ばれてくる補給物資の輸送や、対潜水艦捜索のために、SH-60Kの発艦も同時に行う。


[いずも]型ヘリコプター搭載護衛艦2番艦[かが]は、全長248メートル、全幅38メートルを誇る[いずも]型ヘリコプター搭載護衛艦でも、ここまでの陸上部隊の洋上発射基地、その部隊の弾薬輸送、対潜水艦捜索のために対潜水艦ヘリの発艦や着艦等を一度に行っていると、[かが]でも狭く感じる。





 戦艦[大和]第1艦橋では、大日本帝国海軍将校用勤務服姿の聯合艦隊司令長官である山本五十六(やまもといそろく)大将以下、彼の幕僚たちが、ペリリュー島への艦砲射撃開始時刻を待っていた。


 艦砲射撃開始の30分前だ。


 彼らと共に、石垣達也2等海尉、メリッサ・ケッツアーヘル少尉の姿もある。


 そっと山本は、石垣の顔色を一瞥した。


 彼の表情には、初めて会った時のような、戦争の現実を知らないのに知っているふりをしているような、雰囲気は感じられない。


 本当に、戦争を理解した顔つきである。


(今の彼なら、厚木基地でのドッキリ演習でも、新世界連合軍、破軍集団等からも、最高の評価を与えられただろう。弟も兄に負けない力量がある、という事を・・・)


 今さら思っても仕方が無いが、これから、挽回するチャンスは得られる。


 最初から上の席が用意されて、そこから評価を得た人間よりも、一度、周りから失望され、そのままどん底に墜ちてなお、再び上に這い上がった者は、前者よりも高い評価を、後世に受け継がれていく。


 そして、それを知っている者は、それに力を貸している。


 彼の実兄、防衛局長官、そして幾人かの人々。


 山本の私室の個人用金庫には、日本共和区統合省防衛局防衛局長官から、山本宛に送られた封書が、厳重に保管されている。


 1人の人物についての、極秘身上書だ。


 その驚愕する内容は、とても人目に触れさせる訳にはいかないものだ。


「長官。まもなく、砲撃開始時刻です」


 戦艦[大和]艦長の有賀幸作大佐が、第2艦橋の戦闘指揮所から艦内通信機で報告してきた。


 その声で、山本は現実に戻った。


「通信参謀。作戦開始に変更は無いか?」


 山本は、通信参謀に問いかける。


「ありません。作戦開始は、予定通り行われます」


「艦長。作戦に変更は無い」


 通信参謀からの報告を受けて、山本は有賀に告げた。


「はっ!」





 第2艦橋戦闘指揮所で戦闘指揮を行っている有賀は、作戦変更無し、の報せを受けて、指示を飛ばす。


「主砲射撃用意!」


 有賀の指示を、先任砲術長が復唱する。


「主砲射撃用意!!弾種対地攻撃用二式弾!!」


 戦艦[大和]の1番主砲塔と、2番主砲塔が左に旋回し、砲身をペリリュー島に向ける。


 ペリリュー島までの距離3万メートル。


四六糎主砲の、有効射程である。


「砲撃予定時刻まで、10秒!9、8、7、6、5、4、3、2、1。砲撃時間です!」


 副長からの報告に、有賀は叫ぶ。


「第1射、撃て!!」


 有賀の号令で、主砲操作を担当する砲術士たちが叫ぶ。


「撃ち方始め!!」


「撃ぇぇぇ!!」


 戦艦[大和]の前部に搭載されている、3連装四六糎主砲2門が一斉に吼えた。


 すさまじい砲撃音と衝撃波が、戦艦[大和]の艦体を襲う。


 6発の対地攻撃用二式弾は、史実の三式弾を対空用では無く対地攻撃仕様にした物である。


 時限信管式であり、砲術員たちが電算機で弾道計算を行い、弾着10秒前に空中で炸裂し、無数の鉄の矢が降り注ぐ構造である。


 現代兵器では、対人殺傷兵器フレシェット弾に該当する兵器である。


 アメリカ軍や自由フランス軍の兵士たちの頭上から、無数の鉄の矢が降り注ぐ。


 考えただけでも、背筋が凍るような惨状だ。


 戦艦[大和]による艦砲射撃が開始されたと同時に、第2護衛隊群旗艦[かが]の飛行甲板から、地対地ミサイルが発射されているはずだ。


「第1射!弾着5秒前!4、3、2、1、弾着、今!」


 先任砲術長からの報告に、有賀は米仏連合軍陣地の惨状を思い浮かべる。


 無数の鉄の矢が降り注ぎ、塹壕に潜んでいた兵士たちは、真上からの攻撃で、身を隠す間もなく死傷するであろう。


「第2射、発射用意!」


 有賀は、第2次砲撃準備の命令を出す。


 洋上にいる戦闘艦艇に対しても、攻撃が行われている頃だ。





 第2護衛隊群旗艦である[かが]のCICでは、ペリリュー島攻撃開始時刻を迎えて、飛行甲板の一部を間借りしている新世界連合軍連合陸軍に所属するシンガポール陸軍ミサイル砲兵部隊のHIMARSからMGM-140地対地ミサイルが発射される。


 射程130キロメートルという長射程を持つ地対地ミサイルMGM-140が、オレンジ色のジェット噴射しながら、[かが]から飛翔する。


「HIMARSからMGM-140の発射を確認!次弾発射準備に入ります!」


[かが]のCICで勤務する運用要員が報告する。


 群司令の峰山は、CICにあるモニターの1つで映し出している飛行甲板の映像から発射のシーンを見送った。


「STOVL機の運用能力が無くても、このように運用すれば攻撃型空母に匹敵する作戦行動ができる」


 峰山が最後に護衛艦の艦長職を務めたのは、ヘリコプター搭載護衛艦[かが]である。


[いずも]型ヘリコプター搭載護衛艦2番艦が就役した時、国内外から当時世界的に導入されていた、大ベストセラー統合打撃戦闘機であるF-35Bを本型で配備、運用するという話が報じられた。


 しかし、就役している[いずも]型ヘリコプター搭載護衛艦2隻では、諸外国海軍が運用するSTOVL機発着艦可能な軽空母(強襲揚陸艦機能も備えられているが)のように、後付けで運用するのは、技術的に不可能では無いが・・・運用方法に問題が生じる可能性がある。


 これは、防衛省からの説明もあったが、そもそも本型艦は、対潜水艦対処能力向上と統合運用部隊の前線指揮所として機能する事に重点を置いていた。


 実際にSTOVL機運用能力を持つ艦は、破軍集団海上自衛隊が運用する[かいよう]型多目的護衛艦である。


 搭載機数やSTOVL機の運用方法等を計画し、本来の目的である対潜水艦対処能力と航空機の洋上基地能力が低下しないようにしなくてはならない。


 これらの問題を1つ、1つ議論すれば新しく建造した方が、運用上の問題が出る事は少ない。


 最も[かいよう]型多目的護衛艦は、回転翼機と固定翼機の運用能力を持つ護衛艦と輸送艦としての機能を併せ持つ多目的艦として就役した。


 だが、別にヘリコプターしか運用できないからと言って、他に使い道が無い、という訳では無い。


 このような運用方法もある。


「群司令。戦艦[大和]から発射された主砲弾が、まもなくペリリュー島米仏連合軍橋頭堡に着弾します」


 久賀が、腕時計を見ながら告げる。


「ペリリュー島米仏連合軍橋頭堡の映像を出せ」


 峰山の言葉に、CICの船務科に所属する電測員が操作する。


「橋頭堡上空に偵察飛行をしています、陸自の無人偵察機からの映像が入ります!」


 モニターの1つが、陸自の無人偵察機から送信されている画像を映し出す。


 戦艦[大和]から発射された二式対地攻撃散弾が、米仏連合軍上陸部隊の頭上に降り注いだ、すぐ後の光景が映し出された。


 夜間であるため、赤外線暗視モードでの映像だ。


 複数の光点が、動き回っている。


「動き回っているのは、塹壕に潜んでいた兵士たちだろうな・・・6発で約数万の鉄の矢が降り注いだはず。無事な兵たちが、負傷兵を搬送しているのか・・・」


 峰山がつぶやくと、新たな報告が入る。


「MGM-140が、着弾します!」


 報告と同時に、高速で橋頭堡に接近中のミサイルが映り、着弾し、動き回る光点の上を爆発する映像が上乗せされた。


「現場では、相当な惨状だろうな・・・」


 誰かが、つぶやく。


 大口径砲を有する戦艦の主砲と、500ポンドの炸薬量を搭載した対地ミサイルの直撃である。


 この映像が現在、進行形の映像であるため、その悲惨な現場をある程度は理解できる(理解できると言っても、映像から見たレベルである)。


 この後、陸上自衛隊第12機動旅団第2普通科連隊の突撃がある。


 彼らが見る光景は、この映像以上に悲惨であろう。

 死闘南方戦線 第14章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますがご了承ください。

 次回の投稿は2月27日を予定しています。

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