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死闘南方戦線 第11章 戦争に容赦する事なかれ

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

[ロバスト]のCDCでは、作戦行動圏内で展開している無人偵察機から送信されている映像が、モニターで映し出されている。


「米仏連合軍空母機動部隊基幹空母2隻が、大破炎上中!護衛の巡洋戦艦も、中破以上!」


 CDCで、第1次攻撃の戦果を確認していた戦果評価要員が、報告をする。


「提督。これで、空母機動部隊の攻撃型空母機能は、壊滅しました」


 ニューワールド連合軍連合海軍艦隊総軍第2艦隊第3空母戦闘群[ロバスト]に、連絡将校として派遣されて、乗艦していた菊水総隊海上自衛隊司令部付きの、3等海佐が報告した。


「提督!各艦の、4.5インチ艦砲の延長型長距離誘導砲弾の射程距離圏内に、入りました!」


 クリントンが、報告する。


「敵中奥深くに侵攻した、米仏空母機動部隊の残存艦すべてを徹底的に叩く!各駆逐艦及びフリゲートは、4.5インチ艦砲用延長型長距離誘導砲弾を発射せよ!」


 ドルイトの命令を聞いた3等海佐は、彼が、大学教授のような温厚な老人から、敵を徹底的に叩く猛将に変わった事に驚いた。


「お、お待ちください!!提督、菊水総隊司令官である山縣幹也(やまがたみきや)海将からは、空母機動部隊の航空攻撃能力のみを喪失させるだけで十分、という事です。これ以上の攻撃は、人道上必要無しと思われます!!」


 3佐は、第3空母戦闘群の連絡将校として派遣されてから日が浅いため、ドルイトが、単に温厚な大学の老教授のような思慮深い性格としか思っていなかった。


 勿論、猛将という噂は聞いていたが、英国紳士的な彼の立ち振る舞いしか見た事が無かったため、ただの噂としか思っていなかった。


 ドルイトは、3佐からの発言を受けて、彼に向き直った。


「この、臆病者の似非人道主義者が!!このような敵中深くに侵攻してくる軍隊に、そのような自己満足の恩を売ったところで、戦争継続の意識が無くなるか!!これ以上の甘っちょろい戯言を吐くなら、貴様の激甘思考の司令官共々、その舌を引き抜いてくれるわ!!」


 と、ドルイトは怒鳴りつけると、再び、元の立ち位置に戻った。


「全艦!かかれ!かかれ!!1匹たりとも、生かして帰すな!!徹底的に叩きのめせ!!」


 ドルイトの命令により、第3空母戦闘群空母護衛隊の駆逐艦とフリゲートの艦首に搭載されている、55口径114ミリ単装艦砲が、一斉に吼えた。


 装填されているのは、対地対艦用の4.5インチ延長型長距離誘導砲弾である。


 ドルイトの幕僚も、各艦の艦長たちも、誰一人として、それを止める者はいない。


 延長型長距離誘導砲弾は発射後、ロケット推進が点火し、推進薬が損失後は、そのまま自由落下しながら目標の上部構造物等に直撃する。


 砲弾の先端には熱源感知装置があり、熱源目標を正確に感知、直撃する事ができる。


 無人航空機からの映像は、常に受信されているため、アメリカ海軍空母機動部隊の艦影がモニターに映っている。


「第1弾、命中8秒前!7、6、5、4、3、2、1!」


 クリントンが、ストップウォッチでカウントしていた。


 巡洋艦や駆逐艦で、最も熱源が高い部分(煙突部)に砲弾が直撃した。


「第2射!ファイア!!」


 ドルイトが、第2射の砲撃命令を出す。


 砲弾の直径は11.4センチ砲弾であり、駆逐艦レベルの砲弾だが、威力はこの時代の駆逐艦サイズの主砲弾の破壊力を上回る。


 ドルイトの猛将ぶりが、[ロバスト]のCDCで明らかになる。


「駆逐艦や、フリゲートの艦長どもは何をしている!艦隊から離れている巡洋艦が、見えんのか!?あれは戦闘能力を喪失しているから、戦線を離脱している艦だ!砲撃を集中して、海の藻屑にせんか!!ええい、儂は、1匹残らず生かして帰すなと命令したぞ!!」


 ドルイトの怒号を特等席で聞きながら、連絡将校の3佐は、この場から逃げ出したい心境だった。


(このお方の本性は、これなのか。山縣司令官のように温厚な、平和主義者だと思っていたが・・・)


 3佐は、彼の副官のクリントンに、顔を向ける。


 それは、提督を止めて欲しいという願いからだったが、クリントンの次の言葉が、その願いを木っ端微塵に粉砕する。


「イギリス人の、積年の恨みを晴らす時が来た!徹底的に、やってしまえ!!!イギリスの反逆者どもの子孫を、1人たりとも生かして帰すな!!」


 クリントンが、通信機に叫ぶ。


(イギリス人の本音、出たぁぁぁ!!!!!)


 3佐は、この任務を引き受けた事を後悔した。


 イギリスの歴史では、アメリカ合衆国の建国者たちは、国家の反逆者としての烙印を押されている。


 そのため、現代のイギリスでもアメリカ合衆国の建国者たちは、反逆者として教えられる。


 この件に関しては、アメリカ政府も認めている。


 もちろん、アメリカの教育では米英戦争終盤にイギリス軍がワシントンDCを攻撃し、ホワイトハウスや合衆国議会議事堂等の政府関係施設に火をつけた事については、イギリス人の狂信的行いと伝えている。


 これは、ヨーロッパ諸国でも同じ事が多々ある。


 例えば、フランスの英雄であるナポレオンは、フランスでは英雄として教えられるが、侵略されたヨーロッパ諸国では侵略者として教えられる(国によっては、史上最悪の独裁者とされている、ヒトラー以上に憎まれているらしい)。





 第3空母戦闘群空母護衛隊の駆逐艦やフリゲートの主砲砲撃により、延長型長距離砲弾は確実にアメリカ海軍空母機動部隊と自由フランス海軍巡洋戦艦部隊の残存艦に集中的に撃ち込まれ、巡洋艦や駆逐艦の上部構造物に次々と着弾し、爆発炎上する。


 米仏連合軍空母機動部隊は、今までのように空母や戦艦の戦闘能力が喪失させられたら、それ以上の攻撃は滅多には受けなかった。


 自衛隊にせよ、大日本帝国軍にせよ、戦闘継続の能力、意思を喪失させた時点で、撤退する敵を必要以上に追撃しなかった(それを、武士の情けによる温情と取るか、蛇の生殺しと取るかは、人それぞれである)。


だが、今回はそんな、生易しい感じは無い。





「空母護衛隊の駆逐艦及びフリゲートは、残りの残存艦に対し、ハープーン・ミサイルを発射せよ!これで徹底的に決着をつける!」


「サー!空母護衛隊各艦は、ハープーン・ミサイルを一斉発射!残存するテロ国家連合に属するアメリカ艦隊及び自由フランス艦隊を、海の藻屑にせよ!!」


 ドルイトの命令を、クリントンが復唱し、各艦に伝えた。


「提督。各駆逐艦及びフリゲートからハープーン・ミサイル発射準備完了!」


 クリントンの報告に、ドルイトは叫んだ。


「全艦、ハープーン・ミサイル発射!」


 彼の発射命令で、45型駆逐艦と23型フリゲートの、4連装ハープーン・ミサイル発射筒からハープーン・ミサイルが発射される。


 45型駆逐艦は、55口径4.5インチ単装艦砲とVLSに搭載されている短距離艦対空ミサイルや艦対空ミサイル、30ミリ単装機関砲が装備されているだけで、CIWSやハープーン・ミサイルは、後付けのための余地が確保されているだけで、装備はされていない。


 しかし、この時代にタイムスリップした同型艦は、すべて後期建造型であり、CIWSやハープーン・ミサイルが搭載され、SM-2[スタンダード・ミサイル]の発展型である対航空機だけでは無く、対艦巡航ミサイルの迎撃機能があるSM-6が、搭載されている。


 45型駆逐艦は前期建造型とは異なり、艦隊防空能力、対地攻撃能力、対艦攻撃能力は格段に向上している。





「艦長!本艦隊に向けて、接近中の複数のロケット弾を確認!!」


 アメリカ海軍空母機動部隊の空母随行艦である、駆逐艦の見張員が叫ぶ。


「何ぃ!?」


 すでにこの駆逐艦も、空母が大破炎上後に受けた砲撃により、煙突部が破壊され、全速航行が不可能になっていた。


 艦長である少佐が、艦橋横のウィングに飛び出した。


 10発以上のロケット弾が、こちらに向かってくる。


 その一部のロケット弾が、海面すれすれから急上昇し、そのまま急降下する。


 ロケット弾が、駆逐艦の中部甲板に直撃し、そのまま炸裂した。


 駆逐艦クラスは、ロケット弾攻撃で轟沈し、巡洋艦クラスは大破、火災炎上した。


 この猛烈な攻撃で生き残った艦は、駆逐艦が2隻程度だった。


 上部建造物は破壊され、どうにか空母機動部隊と巡洋戦艦部隊の生存者たちを、収容する病院船としての機能しかしないだろう・・・


 米仏連合軍の戦艦部隊と空母機動部隊は事実上、壊滅した。


 ペリリュー島に上陸した米仏連合軍上陸部隊と輸送船団は、敵のど真ん中で孤立を余儀なくされた。





 菊水総隊旗艦であるヘリコプター搭載護衛艦[くらま]は、直轄護衛隊のミサイル護衛艦[しまかぜ]の護衛下で、フィリピン方面等の統合運用作戦指揮を行っている。


[くらま]の司令部作戦室では、菊水総隊司令官である山縣が、同総隊の陸海空自衛隊副司令官から戦闘詳細についての報告を受けている。


「司令官。戦艦[大和]を旗艦とする聯合艦隊第1艦隊が、米仏連合軍の戦艦[ノースカロライナ]を基幹とする戦艦部隊との砲撃戦で、朱蒙軍海軍空母[階伯]から発艦した艦載機との共同作戦で、同戦艦部隊を壊滅させました。新世界連合軍連合海軍艦隊総軍第2艦隊第3空母戦闘群は、航空攻撃と護衛のミサイル駆逐艦とミサイルフリゲートからの対艦攻撃で米仏連合軍の空母艦隊と、巡洋戦艦部隊を全滅させました」


 菊水総隊司令官付特務作戦チーム主任である坂下(さかした)亜門(あもん)1等空佐が、報告書を片手に、山縣に報告した。


「司令官。これで米仏連合軍の主力となる空母機動部隊と戦艦部隊は、壊滅若しくは全滅しました。空母による制空権と制海権確保も非常に困難になり、主力となる戦艦部隊も壊滅しましたから、作戦行動継続は不可能でしょう」


 菊水総隊高級幕僚長である、広間(ひろま)一進(いっしん)陸将が告げる。


 手入れされた口髭に、鍛え抜かれた筋肉質の身体は、老体を感じさせない雰囲気を、強く出している。


 年齢は、61歳を迎えたばかりであり、タイムスリップ前では59歳で、後3ヶ月で定年を迎える年齢だった。


 しかし、広間は人生の半分以上を、ただ単に普通に暮らしていただけだ。


 できる事なら、残りの人生を、普通の人が経験しない事を1つでもいいから経験したい、という強い要望で、強引に菊水総隊司令部幕僚として志願した。


 タイムスリップ前は陸将補だったが、定年退職年齢が数ヶ月後に迫っていたため、1階級昇進し、陸将になった。


「米仏連合軍空母機動部隊が、第3空母戦闘群からの航空攻撃を受ける前に、70機の攻撃隊が出撃したが、どうなっている?」


 山縣が、顎を撫でながら、つぶやいた。


「すでにペリリュー島飛行場で整備、補給を完了した特殊空中機動隊のヘリ部隊が迎撃に出撃しました」


 幕僚からの報告に、山縣は唸った。


「広間陸将。UH-2で、この時代のレシプロ戦闘機と戦えるのか?」


「UH-2は、ベル412をベースに開発された汎用ヘリコプターです。防弾性能、搭載可能な武装を考えれば、この時代のレシプロ戦闘機なら、空中戦でも勝算はあると考えます。それに、そのヘリ部隊の指揮をするのは、死神3佐と恐れられた彼女です。はっきり申し上げて、私の予想の斜め上の結果が出ても、驚くに値しません」


「・・・・・・」


 広間からの説明に、山縣は頭を抱えたくなる心境だった。


 台風の中を突っ込み、そのまま台風の目に入ると、彼女はペリリュー島米仏連合軍陣地にヘルファイア・ミサイルと誘導爆弾による対地攻撃を行った。


 その情け容赦無い光景は、霧野のヘリ隊から撮影された映像で確認したが、まさしく地獄絵図だった。


 彼女なら、本当にヘリでレシプロ戦闘機を撃墜するだろう・・・それどころか、ジェット戦闘機も撃墜するかもしれない。


「海上からは、猛将提督のドルイト少将・・・ペリリュー島には、死神3佐に率いられたヘリ部隊。ペリリュー島での戦闘が終結し、その後の南方攻略作戦が開始されたら、その結末が想像できる・・・」


 楽観主義の山縣でも、ここまでの状況を見せられれば、さすがに楽観はできない。





 ペリリュー島飛行場では、UH-2の機体整備と弾薬補給を行っていた。


「姐御!」


 特殊空中機動隊本部付隊の通信員が、霧野を呼んだ。


「敵空母機動部隊から、攻撃隊でも出撃した?」


 通信員が何の報告に現れたか、大方の予想ができた霧野は、彼が報告する前にその内容を当てた。


「はい!その通りです、姐御!!」


 通信員が、叫ぶ。


 霧野は、腕時計を見た。


「ふ~ん。確かに、攻撃には絶妙なタイミング」


 そうつぶやいた後、彼女は振り返った。


「ウサギどもが、タカを雇った!!かわいい健気なウサギどもが、キツネに喰われるのに同情した偽正義のタカどもに、その行いが愚かである事を、教えてやれ!!」


「「「おおっ!!!」」」


 霧野の叫び声に、特殊空中機動隊ヘリ部隊のパイロットたちが、叫んだ。


 整備、燃料、弾薬の補給が完了したUH-2が、エンジンを始動させた。


 霧野は、フライト・ヘルメットのバイザーを降ろし、離陸準備に入る。


 彼女が操縦するUH-2には、OH-1にも自衛用に搭載されている、91式地対空誘導弾を転用した空対空誘導弾が4発搭載されているのと、対航空機用徹甲弾を装填した6砲身の12.7ミリ連装式機銃が2門武装されている。


 他のヘリも、同じ対航空機装備である。


「霧野少佐殿。できれば、お手柔らかにお願いします」


 彼女が操縦するUH-2の兵員室で、地上部隊の誘導や守備隊司令部への作戦助言や戦況説明のために搭乗する辻が、ヘッドフォンを通じて話しかけてくる。


 因みに、彼の頭には包帯が巻かれている(霧野がUH-2で出撃した時には、彼は無傷だった)。


「大和魂最強!!!と、ほざく日本人男子が、弱音を吐くな!今度は、顔をミイラのように包帯で、ぐるぐる巻きにされたいか!!?」


「すみません!姐様!!」


 霧野の怒号に、辻は、すかさず謝罪する。


「姐御。出撃準備完了!」


「全機発進!!」


 副長からの報告に、霧野が出撃命令を出す。




 台風が過ぎ去り、ペリリュー島への増援部隊投入が可能になった第12機動旅団は第12ヘリコプター隊を全力投入し、さらに地上部隊の空輸を再開している。


 米仏連合軍の空母機動部隊が壊滅したからと言って、ニューギニア島等からアメリカ陸軍航空軍の爆撃機が出撃してこないとは限らない。


 そのため、第12機動旅団第12高射特科中隊の人員と装備や資材を、CH-47JAやUH-60JAに積み込んでいた。


 11式短距離地対空誘導弾と発射機を装備した3トン半トラックを吊した状態でCH-47JAが離陸した。


 半数が車輌を吊した状態で離陸し、残りが資材や予備の誘導弾等を積み込んだ状態で、運用員が乗り込んだ。


 彼らが到着すれば米仏連合軍の航空支援に対する防空戦が可能になり、アメリカ軍等の連合軍は同島での戦闘が極めて困難になる。


 物資や人員を空輸する事もできず、輸送船団は、駆逐艦や軽巡洋艦の護衛のみで、包囲網から脱出しなくてはならない。





 ペリリュー島に上陸した、米仏連合軍上陸部隊は、完全に孤立した。

 死闘南方戦線 第11章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますがご了承ください。

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