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死闘南方戦線 第8章 嵐の前

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 ペリリュー島に投入された、第12機動旅団第2普通科連隊は、部隊展開の最大武器である第12ヘリコプター隊の空中輸送力をふんだんに使い、島に1個普通科連隊(軽)の装備や資材だけでは無く、予備装備と予備資材を空輸した。


 第2普通科連隊指揮所は、ペリリュー島飛行場の地下陣地(予備施設)に、指揮所を設置した。


 第2普通科連隊長である()宮伊(みやい)太郎(たろう)1等陸佐は、本部管理中隊の隊員たちが忙しく設備の設置に駆けずり回っている所で、各科長たちと状況把握を行っている。


「飛行場防衛に第2普通科中隊を配置し、第3普通科中隊は緊急対応部隊として、別命あるまで待機させています」


 第3科長(3佐)が、部隊展開を報告する。


 陸上自衛隊の旅団編成の普通科連隊は、師団編成の普通科連隊より、規模が小さく編制されている。


 師団編成の普通科連隊は、4個普通科中隊を基幹とした編成で、重迫撃砲中隊が1個配備されている。


 そのため、師団編成の普通科連隊や、特定の命令系統で行動する普通科連隊の指揮官は、1等陸佐2等が配置される。


 旅団編成の普通科連隊は、3個普通科中隊を基幹として、重迫撃砲部隊も本部管理中隊指揮下の小隊で置かれている。


 指揮官の階級は、1等陸佐3等である。


「米仏連合軍上陸部隊の状況は?」


 井ノ宮が質問すると、第2科長が答える。


「情報小隊と監視小隊が、敵地奥深くに潜入し、情報収集を行っています」


 情報小隊は、本部管理中隊に所属する偵察部隊。


 監視小隊は、第2普通科連隊でレンジャー資格を有する隊員たちで編制した、臨時のレンジャー小隊だ。


「台風の接近に伴い。米仏連合軍輸送船団も、上陸部隊の増兵及び、物資の揚陸を行っています」


 第2科長の報告に、井ノ宮は腕を組んだ。


「台風の規模は?」


「はい。気圧は970ヘクトパスカル、風速25メートル程ですが、勢いは増加の傾向を辿っています」


 第2科長からの報告に、井ノ宮が唸り声を上げた。


「旅団司令部からは、台風の今後の状況を把握できるまで、明日以降の空中強襲輸送作戦は中止すると通達してきた。飛行場への攻撃を仕掛けて来るアメリカ軍は、精強精鋭のアメリカ海兵隊だ。次は1個師団クラスが投入されるだろう・・・台風接近のどさくさに紛れて、攻勢に出る可能性がある」


 井ノ宮が、もっとも危惧している事をつぶやく。


 日本には神風という、戦に置いて戦局を左右する突風が吹くと、古くから伝えられている。


 だが、その風がいつも自分たちの戦況を有利に進めるとは限らない。


 時には、敵にも神風が現れる。


「台風の接近に伴い、アメリカ軍やフランス軍から大規模な攻勢が無いとは限らない。攻勢に備えて、防衛計画を早急に立案してくれ。大日本帝国陸軍ペリリュー島守備隊と議論する必要がある」


 井ノ宮の指示を受けて、第3科長が口を開いた。


「わかりました。ただちに、大日本帝国陸軍と航空予備軍と共に、飛行場防衛に必要な防衛計画を立案します」


 第3科長の言葉にうなずき、井ノ宮はパイプ椅子に深く腰掛けた。


 第12機動旅団第2普通科連隊は、フィリピン攻略作戦が開始された時、コレヒドール島攻略作戦に投入された。


 奇襲攻撃ではあったが、ジョンブル魂を最大限に引き出し、それを前面に出しての防衛戦では戦車や戦闘機動車が無い第2普通科連隊では、防御線の突破は不可能だった。


 対戦車ヘリコプター隊からの援護下で、突破する事ができた。





 日が沈み、月が高く昇る時間帯の時刻を迎えると、予報通りに分厚い雲が垂れ込め、雨が降り出した。


 パラオ諸島ペリリュー島飛行場防衛陣地では、大日本帝国陸軍南方攻略軍として、フィリピンに駐留する第24歩兵師団第22歩兵聯隊第1歩兵大隊は、一号型高速輸送艦でペリリュー島に上陸し、同島の飛行場防衛を第12機動旅団第2普通科連隊と共同で、防衛陣地を構築していた。


 時間が時間であるため、ほとんどの防衛展開部隊は僅かな見張兵(陸自は見張員)のみが敵の夜襲に備えて監視しているだけで、後は雨の中で塹壕やトーチカで眠るか、戦闘配食で夕食をとっている。


 第2普通科連隊第2中隊に所属する小隊の1つが、第22歩兵聯隊第1歩兵大隊に所属する小隊と食事をしていた。


「これで、よし」


 戦闘糧食Ⅱ型[パックメシ]を、コップ一杯の水で加熱できる携帯加熱剤と共に、大きなパックの中に入れて、ご飯とおかずを暖める。


「何度見ても、ええ飯だな。すぐに、温かい食事にありつけられる」


 同じ塹壕で、温かい夕食にありつけていた第22歩兵聯隊第1歩兵大隊中隊傘下の小隊に所属する兵卒がつぶやく。


「私たちの、パックメシもいかがですか?」


 パックメシを携帯加熱剤で暖めながら、陸士が勧める。


「だんだん(ありがとう)。少し頂こう」


 20代前半の上等兵が、同じ歳ぐらいの1等陸士に愛媛方言で、お礼を言った。


 彼らにも、お湯で暖める携帯野戦食があるが、どれも自衛官たちの時代では、カップ麺の変わりにご飯が入ったカップ飯のような物である(大日本帝国のとある食品会社が、インスタントのカップ麺をヒントに、独自開発したそうだ)。


 歴史的にも、有名な伊予の肉弾聯隊と名付けられた精強精鋭の第22歩兵聯隊の屈強な兵士たちの顔を眺めながら、陸上自衛隊唯一の空中機動部隊であり、その中で精強精鋭と自負している第2普通科連隊の隊員たちは、彼らの顔を見て取るに足らない日常的な会話をする事が、とても楽しい時間に思えた。


 史実では、第22歩兵聯隊の最後の従軍は、沖縄本島である。


 沖縄本島に上陸したアメリカ軍は、彼ら第22歩兵聯隊と正面からぶつかり、数々の戦いで一泡も二泡も吹かせられた。


 これは、竹槍部隊で編成された肉弾部隊に匹敵する戦果を掲げた。


 彼らの出身地は、伊予(今で言う愛媛県)である。


 カシャ!という音が響いた。


「何だ?また、写真を撮ったのか?」


 日本共和区に本社を置く、報道局から派遣された従軍カメラマンが、自衛官と帝国陸軍兵の姿を写真に収めた。


「良い笑顔だったからな」


 耐久性に優れて、故障も起こりにくいデジタルカメラを構えた、30代を迎えたばかりの男が告げた。


「度胸は、とても精強な精鋭兵に負けてないのに、何故、兵隊にならない?」


 歩兵小隊の、伍長が問いかける。


「俺は、反戦カメラマンだからな。反戦のために、戦場で武器の代わりにカメラを持って、戦っているのさ。その意味では、あんたたちと同じ兵士みたいなものだよ」


 男の台詞に、陸士長が疑問を口にした。


「1つ疑問に思うんですが、それなら、どうして、私たちの笑顔や、普通の日常を過ごしている姿ばかりを撮影するんです?反戦を訴えるなら、戦場の悲惨な状態を記事にする方が効果的だと思うんですけれど・・・」


「それは、物事の本質を考えない人たちや、人の死や苦痛を見世物としか考えない人たちを喜ばせるためだけの効果しかない。実際、そんな映像や写真では、人の心は動かない・・・精々、自分たちがこんな目に遭わなくて良かったと思わせるだけだ。それを見て、反戦を叫んでいる連中が、どこで声を上げている?絶対に銃弾や、砲弾が飛んでこない所でだろう。そんな、連中の言うことに煽られるのは、なんちゃって反戦主義者だけだ。本当に反戦活動をするには、貴方がた兵士たちが地獄の戦場で楽しい時間を過ごす姿を大勢の人々に見せる事が大事。その姿を収める事が戦争を早期に終結させるコツだ」


「?」


 今一つ、陸士長は男の言う意味を理解出来ていない様子で、首を捻っていた。


 彼の言葉は、ある意味では、自称反戦団体を否定する発言だ。





 パラオ諸島では、滅多に接近する事が無い台風が接近し、雨風が強くなった。


 ペリリュー島飛行場防衛陣地の塹壕や、トーチカ等で防御配置されている第2普通科連隊第2中隊と、第22歩兵聯隊第1歩兵大隊第3中隊の隊員、兵士たちは、米仏連合軍からの攻勢に備えていた。


 当直の監視兵と監視員が、米仏連合軍上陸部隊に動きがある事を確認した。


 監視壕に展開している監視隊員は、赤外線暗視装置で周辺を警戒しているため、雨の中に紛れて動く熱源を見つけた。


「敵に攻勢の可能性あり!!」


 監視隊員が、携帯無線機で緊急連絡した。


 防衛陣地で仮眠や食事をとっていた隊員たちが飛び起き、89式5.56ミリ小銃、64式7.62ミリ小銃改Ⅰ型、5.56ミリ機関銃MINIMI、62式7.62ミリ汎用機関銃改を構えて、攻勢に備える。


 第2普通科連隊第2中隊に所属する迫撃砲小隊や、第22歩兵聯隊第1歩兵大隊に所属する迫撃砲小隊が、迫撃砲に砲弾を半装填する。


 雨風に紛れて、米仏連合軍上陸部隊はゆっくりと身を低くして、前進していた。


「中隊長より、各小隊長へ、射撃準備!いいか、弾薬は節約しろ、単なる威力偵察の可能性もある。無駄撃ちをするな」


 中隊長である1等陸尉が、中隊付無線員から無線機の受話器を持って、各小隊長に伝える。


 89式5.56ミリ小銃を持つ小銃員たちは、3点射制限射撃にセットした。


 64式7.62ミリ小銃改Ⅰ型を持つ小銃兵も、単発射撃で射撃を行う。


「いいか、照明弾の発射が、射撃の合図だ」


 米仏連合軍上陸部隊飛行場奪取部隊の将兵たちの足下には、対人感知式センサーに接続された、照明弾発射装置がある。


 これは感知範囲内に接近した人間を感知し、照明弾を打ち上げる発射装置だ。


 主に味方同士の同士討ちが予想される森林戦や、複数の指揮系統や通信系統が異なる他部隊が同じ戦場で共同作戦行動時に使用される物だ。


 飛行場奪取部隊の兵士が、対人感知式センサーに感知され、大きな発射音と共に照明弾が打ち上げられた。


「「「撃て!!!」」」


 防衛陣地に展開する各小隊長たちの声が重なる。


 同時に、89式5.56ミリ小銃や64式7.62ミリ小銃改が火を噴く。


 MINIMIや、62式7.62ミリ汎用機関銃改も火が噴き、猛烈な火力が夜襲を仕掛けるために前進してきたアメリカ兵や自由フランス兵に襲いかかる。


 夜襲が失敗したから、彼らは撤退するかと思われたが、撤退する事は無く、そのまま銃剣を装着した半自動小銃等を前に出し、突撃する。


 アメリカ兵や自由フランス兵も、汎用機関銃や自動小銃を撃ちまくりながら、突撃の援護をする。


「本格攻勢だ!各小隊長の判断で、連発射撃を許可する!!」


 中隊長である1等陸尉が叫び。連隊指揮所に緊急連絡した。


 89式5.56ミリ小銃の銃口に、06式小銃擲弾を装着し、発射する。


 発射された小銃擲弾は、アメリカ兵や自由フランス兵の頭上に降り注ぎ、連続的に炸裂する。


 飛行場への攻勢は、今までのように複数の連隊クラスによる攻撃では無かった。


 旅団クラスの突撃だった。


 猛烈な火力による撃ち合いが行われた。


「接近戦に備えろ!!」


 戦況を、直接確認した井ノ宮は、無線機が第2中隊に叫んだ。





 ペリリュー島飛行場地下陣地で設置された第2普通科連隊指揮所では、同連隊に所属する第2中隊から米仏連合軍上陸部隊から旅団規模の攻勢を受けた事が報告された。


 井ノ宮は、本部管理中隊連隊通信小隊の無線員から報告を受けると、状況確認のために地下指揮所から外に出た。


 地下指揮所及び出入口の警備として、予備自衛官から編成された警備小隊が交替で警衛配置に着いている。


 彼らは、銃剣を装着した64式7.62ミリ小銃を装備している。


 井ノ宮は、飛行場防衛陣地に設置されている観測塔に上がり、状況を確認した。


「連隊長!ここは、戦闘状態になればとても危険です!」


 本部管理中隊重迫撃砲小隊観測班が使用する観測塔である。


 師団編成の普通科連隊では、重迫撃砲中隊が存在するが、旅団編成の普通科連隊(軽)では本部管理中隊麾下に重迫撃砲小隊がある。


 井ノ宮は、観測班に所属する隊員の声にも耳を貸さず、双眼鏡を覗いた。


「どうやら敵は、滅多に現れない台風を最大限に利用して、攻勢に出たな・・・」


 井ノ宮は、連隊長付の無線員から受話器を受け取り、現在、防衛戦中の第2中隊に繋いだ。


「連隊長だ!接近戦に備えろ!」


 第2普通科連隊に所属する3個の普通科中隊には、事前に歩兵対歩兵の接近戦に備えて89式5.56ミリ小銃の銃先端に89式多用途銃剣を装着させている。


「連隊長!」


 連隊指揮所から井ノ宮の後を追いかけてきた、第2普通科連隊に配置されている連隊等最先任上級曹長の准陸尉が、9ミリ機関拳銃を2挺持って、彼の後ろに立った。


「連隊長。激戦が予想されます。護身のために、9ミリ機関拳銃を携帯してください」


「わかった」


 井ノ宮は、准陸尉から9ミリ機関拳銃を受け取った。





 飛行場防衛陣地では、米仏連合軍上陸部隊との激戦が行われていた。


 闇が支配しているとはいえ、すでに防衛する側も、奪取する側も、お互いの顔が確認できるまで接近している。


「撃て!撃て!撃ち続けろ!!狙って撃つ必要は無い!!撃てば当たる!!」


 小隊の指揮官である、2等陸尉が叫ぶ。


 彼も、30発弾倉が空になった弾倉を捨て、新しい30発弾倉を再装填する。


「補給です!」


 第2中隊付の補給班から、89式5.56ミリ小銃用予備弾倉が入った弾薬箱とMINIMI用予備弾薬が入った弾薬箱が置かれた。


「弾薬を、分配しろ!」


 小隊長が指示し、小隊に所属する各班から弾薬係の隊員が駆け込み、弾薬を受け取ると、自分たちの班に戻った。


 アメリカ兵や自由フランス兵が目の前まで接近し、小隊長は89式5.56ミリ小銃の固定式銃床を、相手の顔面に叩き込んだ。


 他の隊員たちも、89式5.56ミリ小銃の先端に装着した89式多用途銃剣を敵兵の胸元に突き刺した。


 戦後、警察予備隊、保安隊、陸上自衛隊が創隊されてから初となる、防衛陣地での歩兵対歩兵の白兵戦である。


 アメリカ兵、自由フランス兵、自衛官を問わず、断末魔の叫び声が響く。


 第22歩兵聯隊第1歩兵大隊第1中隊の防衛陣地でも、同じような事態が発生している。


 しかし、彼らは伊予の肉弾聯隊、と呼ばれているだけあって、白兵戦は、かなりの物だった。


 敵兵が間合いに入っても、強烈な蹴りを腹部に叩き込み、そのまま64式7.62ミリ小銃改Ⅰ型の先端に装着した銃剣を突き刺す・・・若しくは器用に使い敵兵を切り裂く。


 永遠に続くと思われた白兵戦だが、やがて米仏連合軍上陸部隊の兵士たちが、後退を始めた。





 激闘の続くペリリュー島。


 台風と共に、近付いてくる巨大な嵐が2つ。


 米仏連合軍は、それをまだ知る由も無かった。

 死闘南方戦線 第8章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますがご了承ください。

 次回の投稿は2月6日を予定しています。

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