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死闘南方戦線 第5章 反跳爆撃

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 菊水総隊海上自衛隊第2護衛隊群第2護衛隊汎用護衛艦[はるさめ]から、ヘリコプター搭載護衛艦[かが]に、第2航空艦隊に接近するB-25の編隊を汎用護衛艦[はるさめ]の対空レーダーが探知した、との通信が入った。


「久賀。B-25が、このタイミングで現れたという事は?」


 第2護衛隊群司令の峰山(みねやま)(とおる)海将補は、[かが]のCICで首席幕僚の久賀信也(くがしんや)1等海佐に聞いた。


「間違いありません。史実でアメリカ陸軍航空軍が、南太平洋方面で旧海軍の船舶に多大な被害を与えた、反跳爆撃を実行するつもりでしょう」


 久賀の台詞に、峰山はうなずいた。


「久賀。先行する護衛艦[はるさめ]と[おおなみ]に連絡。第2航空艦隊の援護に急行せよ!それと、本艦で稼働可能な対潜哨戒ヘリを発艦させて、急行する2隻の護衛艦の対潜警戒と護衛を行え!」


「わかりました!」


 久賀が叫び、CICで戦闘指揮を行っている艦長に指示を出した。





[かが]の航空管制室では、SH-60K[シーホーク]2機が飛行甲板に移動し、誘導士や誘導員等の指示に従い発艦準備を行っている。


 先ほどまで、航空管制室の窓に叩き付けられていた小降りの雨が、少し強くなった。


「台風の状況は?」


 ペリリュー島に米仏連合軍が上陸した時に、発生した台風は、少し速い速度で勢力を維持したまま、ペリリュー島に接近している。


 4月に発生するのは、少し早い気がするが、世界的に異常気象が発生しているという情報が入っているので、これもその1つと考えれば、それもあると考えられる。


「針路変わらず、予報通りのコースをとっています」


 航空管制室にいる気象員が、報告する。


「大昔の日本では台風という神風が吹き、元軍の大船団を壊滅させた。この台風が果たして、どっちの神風になるか・・・」


 飛行長の3等海佐が、つぶやいた。


「飛行長。シーホーク2機、発艦準備完了!」


「発艦させろ」


 飛行長の指示で、航空管制官の幹部自衛官が、発艦命令を出した。


[かが]の飛行甲板からSH-60Kが、2機発艦する。


 一部の飛行甲板には、新世界連合軍連合陸軍に属するシンガポール陸軍のHIMARSと、菊水総隊航空自衛隊第7高射群に所属するPAC-2が配備されているため、回転翼機の発着艦ができない。


[かが]に乗艦している航空自衛隊第7高射群の高射部隊員たちは、攻撃機の正確な位置情報をリアルタイムで送信してくれれば、ペトリオット・ミサイルの発射も可能だと進言してきた。





 汎用護衛艦[はるさめ]は、僚艦[おおなみ]と共に速力30ノットという全速航行で、第2航空艦隊が展開する海域に急行していた。


[はるさめ]のCICでは、艦長の2等海佐がCICのスクリーンを眺めながら、戦況を把握していた。


「砲雷長。先行させている、SH-60Kから詳しい情報は?」


[はるさめ]が搭載している1機のSH-60Kを発艦させて、第2航空艦隊にまで近づけさせた。


「B-25の大編隊を探知しました。2機編隊の小単位に別れて、低空で接近しています!」


 砲雷長が、報告する。


「距離から、本艦が搭載するESSMの射程距離だな」


 艦長がつぶやき、砲雷長に指示を出した。


「対空戦闘用意」


「対空戦闘用意!ESSM発射準備」


 砲雷長の命令でCICでは、射撃管制員たちがデータを入力する。


 ESSMのデータを入力すると、CICにいる幹部自衛官が発射ボタンを叩く。


[はるさめ]の中部甲板のVLSに収められているESSMが、連続発射される。


[はるさめ]型護衛艦は、就役当初は従来型シースパローであったが、近代化改修で発展型シースパローが装填されている。


[はるさめ]型護衛艦は改修前よりも、格段に対空戦闘能力が向上している。



 汎用護衛艦[おおなみ]は、僚艦[はるさめ]と並行し、速力30ノットを出していた。


「[はるさめ]より、ESSMの発射を確認!B-25編隊に向かって飛翔中!」


「本艦も[はるさめ]も汎用護衛艦の中では旧式に分類される。近代化改修が行われたとしても、イージス艦や他の新鋭護衛艦と比べれば、一度に発射できるESSMは限られる・・・」


[おおなみ]艦長の(たちばな)光夫(みつお)2等海佐は、紺色の作業帽を脱ぎ、薄くなった髪を目立たせないために、他の髪を切り揃えた頭を撫でる。


「艦長。いかが致しますか?」


 副長である、3等海佐が尋ねる。


「本艦のESSMも発射可能です。[はるさめ]と共に、発射しますか?」


「その必要は無い」


 紺色の作業帽を被り直した橘が、副長の具申を却下した。


 2等海佐の区分で言えば、彼は今年の3月で定年退職しているが、タイムスリップ前に勤務継続手続きを済ませているため、今も[おおなみ]の艦長職を続けている。


「[はるさめ]の対空戦闘能力は十分だが、VLSに装填されているESSMの即応弾には、限りがある。再装填をするにしても、撃ち尽した状態では対空戦は限られる。本艦はその時のために、ESSMを温存しておく」


 橘は、まるで教師のような口調で、副長に語りかけた。


 もっとも、これは彼の癖のような物だ。


 彼の実家は合気道の道場であり、自衛隊に入隊する前は、仕事をしながら道場で、合気道の臨時講師を勤めていた。


 しかし地元では、道場に稽古に通う子供たちが少なくなり(主な原因は、地元(島)の高齢化)、道場の経営が難しくなった。


 1人息子であった彼は、道場の経営を維持するために、任期制自衛官に入官し、2等海士からスタートし、持ち前の努力家振りをふんだんに活用し、士から曹へ、そして、幹部の道を切り開き、50代で護衛艦の艦長に任命された。


「艦長!第2航空艦隊に接近していたB-25編隊のうち、2個編隊クラスが針路を変更!こちらに向かってきます!」


 対空レーダー員からの報告に、橘はスクリーンに顔を向ける。


「副長。こちらに接近中の攻撃隊は、本艦が引き受けると、[はるさめ]に打電してくれ」


「はい!」


 副長が叫ぶ。


「対空戦闘!主砲、短SAM発射用意!CIWSはいつでも自動射撃できるように準備しろ!」


 橘の指示が飛び、砲術士や砲術員たちは、気を引き締める。


「対空戦闘!接近中の航空機群のうち、最接近している2機に対し、ESSMを発射する!」


 砲雷長である1等海尉が叫ぶ。


[たかなみ]型護衛艦は、[むらさめ]型護衛艦の発展型として建造され、前型の[むらさめ]型護衛艦と異なり、前部と中部にVLSの2箇所では無く、前部に統一されている。


 前部VLSにはESSMとアスロックが装填されている。


「ESSM発射用意よし!」


 担当する2等海曹が叫ぶ。


「発射用意、撃て!」


 砲雷長が、ヘッドセットのマイクに叫ぶ。


[おおなみ]前部に設置されたVLSが開放され、ESSMが轟音とオレンジ色の閃光と共に飛翔する。


「単装速射砲発射準備!」


 砲雷長は、ESSMが発射されたと同時に、新たなる命令を出す。


 主砲操作員が、主砲を対空射撃モードで起動させる。


「低空から接近するB-25を狙え!反跳爆撃を開始されたら、回避は不可能だ!」


 橘が、注意する。


「目標ロックオン!発射!」


 発射装置である、ピストル型の引き金を絞る。


[おおなみ]の艦首に搭載されている127ミリ単装速射砲が旋回し、吼えた。





「取舵一杯!急げ!」


 第2航空艦隊第2航空護衛戦隊に所属する護衛空母[巻雲]の艦長(中佐)は、低空で高速接近するB-25の攻撃に備えて回避行動を命じる。


 航海長が復唱し、左に舵を切る。


[積雲]型護衛航空母艦2番艦である[巻雲]は、大日本帝国海軍急増艦艇計画で建造された、艦隊型護衛空母だ。


 基準排水量1万8000トン、全長185メートル程度の小さな空母だが、速力30ノット、搭載機は、艦隊防空の零式艦上戦闘機[海鷹]型を18機、零式艦上戦闘機を偵察機仕様に改良した零式長距離偵察機12機を搭載している。


 第1航空艦隊と第2航空艦隊の空母機動艦隊と、新設中の第4航空艦隊には、それぞれ1個航空護衛隊が編制され、[積雲]型護衛航空母艦が1隻配備されている。


 速力25ノット以上の全速航行であるため、舵の効きは速く、艦が大きく傾く。


 しかし、事前に飛行甲板に待機させていた[海鷹]は、艦隊防空のために発艦させているため、甲板には1機もいない。


「対空砲!敵機に攻撃の隙を与えるな!」


[積雲]型護衛航空母艦は、[神武]型航空母艦と同じく対空兵装や索敵電探が搭載されている。


 護衛空母でありながら、自艦防空だけでは無く、艦隊の防空戦闘支援もある程度できるだけの対空射撃電探と対空兵器が搭載されている。


 三五粍連装対空高射機関砲と七.六糎単装速射砲が搭載され、どれも対空射撃電探と連動している。近接防空火器として、手動式二五粍対空機関砲が存在する。


「敵機2機!対空砲火をすり抜け!爆弾を投下!反跳爆撃です!」


 見張員が、叫ぶ。


 反跳爆撃とは、爆撃機を海面から高度60メートルぐらいまで降下させ、飛行速度370キロ以上で水平飛行し、爆弾を投下する戦法だ。


 投下された爆弾は子供が良く遊ぶ水切り石と同じ原理で、海面を反跳し、目標艦の側面に・・・喫水線に直撃させる事ができる。


 一度爆弾が反跳すると、対象艦は回避行動で反跳爆撃を回避する事は困難であり、基本的には爆弾を投下する前に対象機を撃墜するしか無い。


「総員!直撃に備え!」


[巻雲]艦長が、叫ぶ。


 2機のB-25から投下された250キロの爆弾は反跳しながら、[巻雲]の側面を直撃し、巨大な水柱と火柱を上げた。


[巻雲]の艦体が、大きく揺れた。


「被害報告!」


 副長が、戦闘指揮所の設備に掴まり、衝撃に堪えながら叫んだ。


「格納庫で火災発生!」


「機関室火災!」


 被害報告が、続けざまに報告された。


「先ほどの攻撃で、浸水箇所多数!復旧作業は困難です!」


 反跳爆撃のために投下された爆弾4発中、3発が被弾した。


「司令官。本艦の命運は、尽きました・・・」


 艦長である中佐が、堂々とした態度で告げた。


「直ちに、総員退艦せよ!」


 司令官である大佐が叫び、司令官席を立ち上がった。


「艦長。何をしている?」


 司令官が退艦指示を出した艦長がその後、何も行動しない事を見て、顔を向けた。


「いえ、自分は艦を預かる艦長でありながら・・・艦を守れませんでした」


 沈んだ口調で告げる艦長に、司令官が厳しい顔つきで怒鳴った。


「艦長は私の命令を聞いていなかったのか!?総員退艦せよ、と言ったのだ!!退艦できる者が無駄に命を捨てる事は断じて許されない皇国への反逆だ!!乗艦する艦を棄てるのは慚愧に堪えない。しかし!!ここで無駄に命を捨てれば、それは無意味以外の何ものでも無い!!この悔しさを次に生かす事が、この屈辱を晴らす最良の方法だ!!」


 司令官の言葉に、艦長は「はっ」と叫んで、頭を下げた。





 護衛空母[巻雲]が被弾した詳細は、[おおなみ]の船務士が報告した。


「艦長![巻雲]が反跳爆撃により、被弾!格納庫と機関室で火災が発生しました。格納庫の航空機用予備燃料の1つに引火し、手が付けられない状況です!」


「退艦命令は?」


 橘が聞くと、船務士が即答する。


「はい、先ほど出されました!」


「そうか・・・」


 橘は、作業帽を被り直す。


「護衛艦[はるさめ]に連絡!貴艦は引き続き対空戦闘と第2次攻撃に備えよ、と」


 橘は船務士に僚艦への連絡を伝えると、橘は艦内マイクを持った。


「これより本艦は[巻雲]の救助に向かう。面舵一杯!」


 橘の指示は艦橋に届き、航海長が復唱し、[おおなみ]が針路を右へ旋回する。


「敵残存機は?」


 橘が対空レーダー員に問いかける。


「B-25編隊を8割撃墜し、残存機は撤退しています」


 対空レーダー員からの報告に、橘はうなずいた。


「艦長。第2航空艦隊司令長官南郷中将より、電文![巻雲]及び他艦の重傷者の収容を要請する、以上です!」


「うむ」


 橘は、腕を組んだ。


[おおなみ]の医療設備は、大日本帝国海軍艦艇と比べれば、艦内での医療レベルは格段に違う。通常、戦闘時においては、重傷者の治療は大規模災害時と同様に後回しにされる。


 軽傷者は、助かる確率が高いだけでは無く、限りのある治療品や医薬品を効率よく回さなければならないという、切実な現実がある。


 しかし、軽傷者は回復が早く、すぐに現場復帰も可能だが、重傷者も早期治療を行う事で、軽傷者程では無いが、現場復帰も不可能では無い。


「[かが]に通信。MCH-101を、本艦に回すよう要請してくれ」


[いずも]型ヘリコプター搭載護衛艦は、小規模な病院船としての機能を有している。


[おおなみ]は早急な治療が必要な重傷者のみを治療し、応急処置だけでしばらく持ち堪えられる者は、[かが]へ搬送する事にした。


 フィリピンでは、自衛隊の病院船や大日本帝国陸海軍の病院船も待機しているため、重傷者の収容は可能だ。


「船務士。第2航空艦隊旗艦[神功]に打電。了解した」


 橘は、すぐに承諾した。


[かが]からも、救難輸送ヘリコプターであるMCH-101を発艦させたという通信が届く。


[おおなみ]では、内火艇が降ろされて、他の駆逐艦から降ろされた救助艇と共に[巻雲]の救助作業を行った。


 同時に重傷兵が[おおなみ]に収容され、研修医官(こちらは大日本帝国医科大学卒者を対象に自衛官として採用した者)たちが、予備衛生隊(第4分隊以外の分隊で救急救命士等の特定資格を有する隊員で編成された隊)の隊員たちと共に、重傷のレベルを把握し、士官室、食堂に搬送する。


 応急処置を施した重傷兵は、格納庫に搬送され、そのまま[かが]から出撃したMCH-101に収容されて、[かが]に戻る。


 その間、[はるさめ]と他の駆逐艦数隻は、敵の第2次攻撃に備え、対空、対潜警戒を厳にする。


 戦争中である以上、敵もこちらの都合には合わせてはくれない。


 救助作業中に潜水艦からの雷撃や、攻撃機からの航空攻撃を連合軍、枢軸国軍、どちらもが行った事例が、史実には存在する。

 死闘南方戦線 第5章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますがご了承ください。

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