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死闘南方戦線 第4章 第2航空艦隊 出撃

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 南郷伊之(なんごういの)(すけ)中将が指揮する聯合艦隊第2航空艦隊は、パラオ諸島沖に迫っていた。


 第2航空艦隊は、第1航空艦隊と同様に、聯合艦隊で編成された空母艦隊の中では別格で、機動部隊編成計画の下で、4隻編成から5隻の正規空母編成が行われた。


 第2航空艦隊独立旗艦は、最新鋭航空母艦である[神武]型航空母艦2番艦、[神(じん)(くう)]である。


 就役したのはかなり最近であり、第2航空艦隊独立旗艦になったのは数日前だ。


 空母艦隊旗艦としての運用を前提にした新造空母であり、最新の電子機器等の設備を有する。


[神功]の司令部作戦室で、南郷以下第2艦隊の幕僚たちが詰めていた。


 司令部作戦室の区内に、艦長や副長たちが詰める戦闘指揮所も存在する。


「長官。第2航空戦隊司令部及び第6航空戦隊司令部から入電!第1次攻撃隊全機発艦準備完了!」


 通信参謀が、報告する。


 南郷は、今までと違う格段に進歩した通信態勢や情報把握態勢に、慣れるのに苦労している。


 もちろん、それは南郷だけでは無い。


「米仏連合軍空母機動部隊の位置は?」


 南郷は、航空参謀に顔を向ける。


「偵察機からも、潜水艦からも、何の報告もありません」


「・・・・・・」


 南郷は、航空参謀からの報告に、長官席で腕を組んだ。


 第2航空艦隊の任務は、アメリカ海軍の空母機動部隊と、フランス海軍の空母機動部隊を撃滅する事である。


 聯合艦隊司令長官の山本五十六(やまもといそろく)大将に、直接助言する副官的位置付けの菊水総隊海軍中尉の石垣(いしがき)達也(たつや)が、自分たちに見せた太平洋戦争史を、南郷も幕僚たちも、何度も資料を読み返して敗退の原因を研究した。


 南郷は、自身が率いる空母機動部隊は、あくまでも敵空母撃滅に専念し、島の防衛や支援等は他の艦隊に任せる事にしている。


「長官!菊水総隊海軍の対潜水艦哨戒機より、緊急入電!敵空母を発見」


 通信参謀が、報告する。


「艦種及び艦数は?」


「はっ!アメリカ海軍の空母[ホーネット]及び、[レンジャー]と確認!護衛艦に駆逐艦及び、軽巡洋艦が多数です!」


 通信参謀の報告に、航空参謀が海図に印をつける。


「長官!」


「うむ」


 参謀長の言葉に、南郷はうなずいた。


「第1次攻撃隊は、全機発艦せよ!」


 南郷の指示は、すぐに他の4空母に伝達された。





 空母[神功]、[翔鶴]、[瑞鶴]、[日向]、[伊勢]から艦上戦闘機、艦上攻撃機、艦上爆撃機100機が、次々と母艦から発艦していく。


 5隻の空母には、合計300機以上の艦載機が、搭載されている。


 艦隊防空は、防空駆逐艦と艦隊護衛空母の艦上戦闘機が、担当している。


 広域対空電探は、設備の設置にゆとりがある軽巡洋艦に、搭載されている。


 空母[神功]にも、それなりの電探が搭載されているが、あくまでも自艦防衛の電探であり、ほとんど空母艦隊独立旗艦として必要な情報収取能力や分析能力、各戦況の把握にその能力が集中している。


 各空母1隻には、必ず防空駆逐艦1隻、対潜駆逐艦1隻、汎用駆逐艦1隻が随行できる編成が行われている(艦隊独立旗艦[神功]には軽巡1隻、防空駆逐艦1隻、対潜駆逐艦1隻、汎用駆逐艦1隻が随行する)。





「第2次世界大戦時代の、空母対空母の対決が開始される」


 南郷は、司令部作戦室で艦載機の発艦報告を受けながら、つぶやいた。


 ある意味では、第2航空艦隊が新設されてから初めてと言える、本格的な実戦を経験する事になる。





 第2航空戦隊[翔鶴]型航空母艦2番艦[瑞鶴]から発艦した瑞鶴飛行隊第23飛行戦隊長の斧田(おのだ)敬一(けいいち)大尉は、零式艦上戦闘機の発展型である[海鷹]に搭乗し、自身の指揮する[海鷹]18機で、瑞鶴飛行隊第23飛行戦爆隊叉は、第23飛行戦攻隊の艦上爆撃機や艦上攻撃機を護衛する。


 斧田は開戦前からの戦闘機乗りであり、真珠湾攻撃前は中尉で、大尉に昇進したのは2週間前だ。


「戦隊長!上方から敵機です!」


 斧田が直接指揮する、斧田編隊(3機編隊)の3番機から無線が入った。


「アメリカも目が良いようだ!全機散開!」


 斧田は、操縦桿を倒し、上方から急降下し、機銃掃射してくるアメリカ海軍の艦上戦闘機の攻撃を回避する。


 機動力、格闘戦能力に置いて零戦[海鷹]に劣るアメリカ海軍艦上戦闘機F4F[ワイルドキャット]が唯一、[海鷹]に先手を打てる戦法として、一撃離脱戦法がある。


 だが、第2航空艦隊の攻撃隊搭乗員たちは、1000時間以上の飛行時間を有し、さまざまな経験を積んでいる。


「こいつ等は、空母機動部隊を守る迎撃戦闘機だ!各機、各個に応戦!攻撃機と爆撃機を守れ!」


 斧田は叫びながら、[海鷹]をまるで手足のように操り、F4Fの後ろをとる。


 照準器を覗き、十字線と敵機を合わさる一瞬を見逃さず、機銃の発射ボタンを押す。


[海鷹]の左右主翼に搭載されている二〇粍航空機関砲と機首に搭載されている一二.七粍航空機関砲が火を噴き、F4Fを火の塊にする。


 周囲では、米仏連合軍アメリカ海軍空母機動部隊の迎撃戦闘機と、瑞鶴飛行隊第23飛行戦隊の護衛戦闘機が空中戦を繰り広げている。





 米機動部隊の迎撃戦闘機からの迎撃を受けながら、第2航空艦隊第1次攻撃隊艦爆隊及び、艦攻隊40機は、空母[ホーネット]と[レンジャー]を含む10隻以上の大艦隊を目視した。


 駆逐艦や、軽巡から対空砲火を受ける。


 魚雷を搭載した艦攻隊は、海面スレスレを飛行し、対空砲火をすり抜けながら航空魚雷を投下する。


 2隻の空母は、25ノット以上の速力でジグザグに舵を切り、回避行動をしながら対空砲や対空機銃を撃ちまくる。


 高度3000から急降下した艦爆隊は、主翼下に搭載した500キロ爆弾を2発投下した。


 投下した500キロ爆弾は、装甲板を貫通する事を目的とした貫通爆弾であり、空母の飛行甲板に直撃すればそのまま甲板を貫き、内部の格納庫や場合によっては、機関室等にも達する事が可能だ。


 しかし、2隻の空母を指揮する艦長や護衛の駆逐艦等の艦長たちは、かなり優秀なのか巧妙な回避行動と対空砲火で、急降下爆撃機の貫通爆弾を回避し、命中したのは2発無いし3発だった。





 第2航空艦隊の第1次航空攻撃で、空母[ホーネット]と[レンジャー]を小破ないし中破にする事ができたが、米機動部隊からも第1次攻撃隊100機以上が出撃し、第2航空艦隊に航空攻撃を行った。


 米機動部隊第1次攻撃隊4割以上を撃墜したが、空母[翔鶴]、[日向]、[伊勢]が飛行甲板を損傷し、着艦はどうにかできるが、艦載機の発艦は安全点検をしなければ困難だった。


[海鷹]型零式艦上戦闘機と同様、艦上攻撃機、艦上爆撃機も発展型であり、性能は大幅な向上を見せているが、その分、整備には時間がかかり、発着艦の飛行甲板には不純物等が存在してはならない。





 第2航空艦隊第2航空戦隊空母[瑞鶴]の艦載機搭乗員待機室で、帰投した斧田たちは、戦闘配食の出来たての塩握飯を食べながら、[瑞鶴]飛行長(中佐)からの、作戦説明を受けていた。


「[翔鶴]、[日向]、[伊勢]が一時的に作戦行動不能になった以上、瑞鶴飛行隊のみで、本日最後の航空攻撃を行い。米空母にとどめをさす」


 飛行長からの説明を受けて、母艦に帰投したばかりの瑞鶴飛行隊は搭乗機の整備と爆装、弾薬の補給が完了してから、再び[瑞鶴]から発艦した。


 斧田は再び零戦[海鷹]に搭乗し、自身が率いる部下たちと交信を行った。


「各機へ、敵の空母は傷ついているが、航空攻撃が終了した頃は、日が沈んでいる。飛行長からの説明があったように、作戦終了後はフィリピンの陸上基地に着陸する」


 斧田は再度作戦を見直し、米空母機動部隊に針路を向けた。


[瑞鶴]は、搭載する全艦載機を発艦させて、米機動部隊への航空攻撃を敢行した。


 米機動部隊への第2次攻撃隊(瑞鶴飛行隊で編成)は、米機動部隊のレーダー探知圏内に侵入した時、真上から突然、機銃掃射を受けた。


「何ぃ!?」


 斧田は驚き、直上を見上げた。


 彼らの真上から、攻撃を仕掛けたのは、アメリカ陸軍航空軍の大型戦闘機だった。


「P-38[ライトニング]!!」


 斧田が、叫んだ。


「いったい、どこから出撃した!?」


 瑞鶴飛行隊に所属する戦闘機隊の通信から、そのような交信内容が飛び交う。


(聞くまでも無い。ニューギニアから、だ)


 ハワイ諸島が陥落してから、アメリカ軍は航空機の研究、開発に力を入れている。


 戦闘機の航続距離を延長し、さらに空中給油という方法で、長時間飛行を可能にする態勢を整えた。


 しかし、滑走距離に制約がある艦上機では、そのようなゆとり設備を追加する事はできず、主に、陸軍機がそのような追加設備で改良を行っている。


 一介の飛行機乗りだが、かなり敵勢力の正確な情報は与えられている。


 瑞鶴飛行隊で編成された第2次攻撃隊は、陸軍機からの一撃離脱戦法を受けながらも、作戦完遂のために、そのまま針路を維持した。


 P-38は、660キロ程の最高速力であるため、爆装や増槽を搭載した状態の零戦[海鷹]の最高速度では、追跡は困難だった。


 撃墜のために、爆弾や増槽を投棄したら、米空母機動部隊への攻撃に支障が出るだけでは無く、フィリピンの陸上基地に帰投する燃料も無くなる。


 斧田の脳裏に、南郷司令長官の訓示が過ぎる。


「戦である以上、戦闘で命を落とすのは仕方が無い事だ。しかし!命は大事にしろ。諸君等には、今後も数々の苦難が待ち受けている。その状況下で、1000時間以上の飛行時間と度重なる実戦を経験した熟練兵は、戦中及び戦後にも貴重な存在だ。無駄に命を捨てる事は、皇国への反逆である!!以上だ!」


 斧田は、一瞬だけフィリピンの陸上基地に帰投する燃料を積んだ増槽を、投擲する事を考えたが、すぐに打ち消した。


 もし、自分がそんな事をすれば、自分がこれまで育てた部下たちも、同じ道を迷わず選択する。


 人間・・・特に日本人は、極めて忠義が厚い民族に分類される。


 これは、日本の教養である儒教が最大の原因であるが、儒教にある、年長者を敬え、とは現代人の年長者が、生意気な若者に言う意味では無い。


 年長者を敬え、とは、その人物に対し、絶対的に従う、という意味がある。


 例え、その人物が明らかに誤った行動をしてもそれを正さず、それに従うが、本来の意味である。


 もちろん、間違った行動である以上は、それを正す者が絶対必要だ。


 その場合は、それを正すのは、その人物を敬わない者の役目だ。


 単純に、年長者を敬え、とは強制では無い。


 年少者が、この年長者を敬うか敬わないかを選ぶのだ。


 それを強制するのは、単に人の上に立つ資格の無い年長者である。


 多くの人に、慕われる年長者とは、常に自らを高める努力を続けている。


 だが、才能がある者であれば、どうしても従う者たちばかりで、従わない者が現れない。


 これでは、すぐに多くの味方を死なせる原因になる。


 斧田は寸前のところで思いとどまり、追跡を断念した。





 瑞鶴飛行隊で編成した第2次攻撃隊を発艦させた、第2航空艦隊は一時、明日早朝の航空攻撃に備えて、米比連合軍戦艦部隊の作戦行動圏外に退避する針路をとった。


 いかに最新鋭の艦上戦闘機や爆撃機、攻撃機を導入しても、夜間での航空作戦は、好ましくない。


 位置や地形が絶対に変わらない、島等の陸上基地ならともかく、常に海上を移動している機動部隊や戦艦部隊等には、夜間での航空攻撃は作戦成功の可能性は低い。


 アメリカ軍も、菊水総隊や新世界連合軍との戦闘で得た情報から、対空対水上レーダーの開発に力を入れているという情報が、海軍軍令部経由で入ってきている。


 危険な賭けは、余程の勝算が無ければ出来ない。


 空母機動艦隊に該当する第2航空艦隊は、空母直属護衛の軽巡、駆逐艦は対潜戦闘と対空戦闘に重点を置き、対水上戦能力は他の艦隊よりも低く、汎用駆逐艦と軽巡が装備する対艦魚雷だけである。


「長官!本艦の対空索敵電探が、海面スレスレを飛行する航空機群を探知しました!非常に小さな反応ですが、間違いありません!」


 電子参謀が、報告した。


「ふうむ。やはり、軽巡に後付けされた広域索敵電探では、低空から接近する航空機を探知する事はできなかった、か・・・」


 南郷は顎を撫でながら、つぶやいた。


「長官。菊水総隊の汎用駆逐艦等の電探でも、限界があります。いかに電探技術が向上した、と言っても、それは彼らの技術援助があるからです。しかも、その電探も彼らからすれば50年ぐらい前に登場した物ばかりです・・・」


 航空参謀が、空母[神功]の司令部作戦室のアナログ式電子表示板を眺めながら、口を開いた。


「わかっている。だが、今さら何を言っても仕方ない事も・・・な」


 南郷はそうつぶやいた後、将校用の勤務服(史実の海軍陸戦隊服)を着用した時に被る勤務帽を被り直した。


「各艦に対空戦闘配置を発令。本艦で発艦待機中の戦闘機隊は、全機発艦せよ!」


 空母[神功]は、艦隊防衛のために、零式艦上戦闘機[海鷹]を、40機搭載している。


 南郷はその内、発艦待機中の1個飛行戦隊を空に上げた。





 第2航空艦隊に向かっているのは、アメリカ陸軍航空軍が、ニューギニア島の航空基地から離陸させた、B-25[ミッチェル]20機と、艦船、地上目標攻撃用に改良されたB-25が8機である。


 これは、1941年4月にイタリア空軍が、連合軍輸送船を撃沈した戦法を、アメリカ陸軍航空軍が研究し、対日戦に使用できるとして強行的手段を使って陸軍航空軍上層部に認めさせた対艦船用攻撃だ。


 因みに史実でも、この戦法はアメリカ陸軍航空軍が南太平洋で使用した。


 大日本帝国海軍輸送船団を壊滅した、あの戦法である。


 この戦法が、どこまでうまくいくかについては、この攻撃隊のパイロットの腕次第だ。

 死闘南方戦線 第4章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますがご了承ください。

 次回の投稿は1月23日を予定しています。

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