死闘南方戦線 第3章 ペリリュー島飛行場の攻防戦
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
パラオ諸島ペリリュー島に上陸した米仏連合軍は、橋頭堡を確保し、防衛陣地を素早く構築した。
アメリカ海兵隊で新設されたばかりの、第2海兵師団第5海兵連隊第18海兵大隊A中隊に所属するライフル小隊付語学下士官のアラン・スタンプ伍長は、慣れないM1[ガーラント]半自動小銃の整備点検を行っていた。
スタンプは、大日本帝国に2年程滞在していた経験があり、日常会話程度なら日本語を話す事もできるし、ある程度の漢字等も読み書きできる。
最初は、第5海兵連隊本部付の解読班に配属されるはずだったが、彼の日本語能力レベルより優秀な連隊本部付解読班候補下士官は大勢いた事から、小隊付になった。
「スタンプ。小隊には慣れたか?」
M1を分解し、丁寧に整備していると、背後から男の声がした。
「軍曹殿!これは、失礼しました・・・」
スタンプは慌てて立ち上がり、挙手の敬礼をしようとした。
「おっと、ここは戦場だ。敬称も階級の呼称も敬礼はしないでくれ。奴らのスナイパーは俺たちの口の動きで下士官か将校が分かるらしい」
スタンプに声をかけた軍曹は、彼の護衛役を任されているリックス3等軍曹だ。
彼は、自分のM1918自動小銃を肩にかけている。
「スタンプ。念入りにライフルの整備をするのはいいが、お前の任務はライフル兵と肩を並べて、突入する事では無い。突撃命令が出れば、お前は衛生兵と一緒に一番後ろで待機している事、そんなにライフルを念入りに整備されたら、お前より前に出て戦う他の兵士は、自分が信用されていないと思ってしまう。整備は、ほどほどでいい」
リックスの言葉に、スタンプは疑問に思った。
「ですが、自分も兵士です。こいつで仲間を援護できます」
「基本教練の射撃訓練しか、受けていないのに、か?」
「・・・・・・」
リックスの台詞に、スタンプは黙った。
リックスの言う事は、事実だからだ。
勿論、彼はスタンプを馬鹿にしている訳では無い。
「リックス、スタンプ。小隊召集命令だ」
ライフル小隊に所属する新兵が、2人を呼んだ。
戦場である以上、新兵や熟練兵の違いを敵のスナイパーや偵察兵に簡単に把握されないために、基本的に敬称、階級による呼称はせず、敬語等の年長者に対する言葉遣いも原則使用しない。
そのため、新兵であっても上官に対して、同格者に対するような言葉や態度で接する。
3人が小隊テントに移動すると、小隊長の少尉が状況説明を行う。
「明日、第18海兵大隊は、ペリリュー島南部に建設されている飛行場を、自由フランス陸軍第4歩兵連隊と共に奪取する」
小隊長の言葉に、ライフル兵たちが顔を見合わせた。
「隊長。飛行場奪取は、陸軍が担当していただろう?2個歩兵連隊と1個戦車中隊は、どうなった?」
ライフル兵の言葉に、小隊長は一瞬だけ言葉を詰まらせた。
「飛行場奪取に出撃した陸軍部隊は、壊滅した。2個歩兵連隊は、7割を失った」
「「「そんな、馬鹿な!!?」」」
小隊長の言葉に、100戦錬磨の猛者揃いである海兵たちが絶叫した。
ペリリュー島飛行場奪取作戦は、上陸開始からそんなに時間も経過していない時に行われた。
飛行場奪取作戦が行われたのは、24時間前だ。
わずか1日足らずで、飛行場奪取部隊は、それだけの損害を出した。
「これが、飛行場周辺の詳細地図だ。もっとも陸軍が、1000人以上の戦死傷者を出して、把握できたものだ」
少尉が、飛行場周辺の地図を出す。
機関銃座陣地、野砲陣地、迫撃砲陣地等が記されている。
どれも巧妙に隠蔽され、砲爆撃に耐えられる自然の防壁で固められている。
「いいか、日本兵が使用する小火器、汎用機関銃の火力は極めて高い。しかも射撃は正確だ。攻略するには相当の覚悟がいる。だから我々、海兵に出番が回ってきた。陸軍の連中に、アメリカ軍海兵隊の底力を思う存分見せつけてやるぞ!!」
「「「サー・イエス・サー!!!」」」
ペリリュー島で、橋頭堡を確保した米仏連合軍上陸部隊の第5海兵連隊第18海兵大隊と自由フランス陸軍第2歩兵師団第4歩兵連隊は、飛行場奪取作戦に参加したアメリカ陸軍2個歩兵連隊残存部隊を再編成した混成歩兵群を第18海兵大隊の指揮下に組み込んだ状態で、飛行場奪取作戦を再開した。
第18海兵大隊A中隊は、飛行場防衛陣地への突入部隊の先陣を切る事になった。
飛行場防衛陣地まで身を隠す遮蔽物は存在せず、洋上にいる戦艦部隊からの艦砲射撃やアメリカ陸軍航空軍から出撃したB-25爆撃機による中高度からの水平爆撃により、作られた蛸壺があるぐらいだ。
「いいか!我々が突撃する前に、海軍の戦艦から艦砲射撃が開始される。その後は砲兵部隊から支援砲撃がある!」
中隊長の大尉が、部下たちを安心させるために叫んだ。
艦砲射撃の時刻を迎えると、洋上から大口径の砲と思われる咆吼が突撃準備を整えている海兵たちの耳に微かに聞こえた。
その後、地面がものすごく揺れ、飛行場防衛陣地が目視できない程の集中砲火が浴びせられた。
「総攻撃態勢!」
中隊長の号令で、海兵たちはM1[ガーラント]に銃剣を装着する。
長時間に及んだ艦砲射撃は終わり、砲撃終了と共に海兵たちが突撃する。
「行け!行け!突っ込め!」
将校からの、怒号のような突撃命令が聞こえる。
アメリカ海兵と陸兵、フランス陸兵が姿を現し、平地を駆け出した時・・・飛行場防衛陣地から複数の野砲らしき砲撃音の咆吼が聞こえた。
突撃した飛行場奪取部隊の頭上から、雨のように榴弾が降り注いだ。
地面が吹き飛び、多くの兵士たちが、木の葉のように空中に吹き飛ばされる。
その砲撃後、各所から猛烈な火力が集中する。
「どれだけ、機関銃座があるのだ!トーチカや塹壕から見える火点は、すべて機関銃クラスだぞ!!」
リックスが、スタンプの頭を押さえながら、近くにあった砲爆撃でできた、窪みに身を潜めながら叫んだ。
スタンプも、窪みから僅かに顔を出す。
日本軍の防衛陣地から、トーチカや塹壕から、連発射撃が行われている。
歩兵支援の迫撃砲部隊が迫撃砲を設置し、火力支援をようやく開始した。
「スモークだ!スモーク・グレネードを投げろ!!」
海兵たちは、その指示に従いスモーク・グレネードを投げる。
アメリカ海兵隊や自由フランス陸軍が保有する中戦車や軽戦車が前進するが、対戦車兵器に妨害されて思うように前進できない。
「どおりで陸軍が、壊滅する訳だ!」
リックスはそう叫びながら、M1918の2脚を立てて、射撃を開始する。
「こちらA中隊!!支援砲撃の火力向上を要請する!!とても身動きできない!!繰り返す、支援砲撃の火力向上を!!!」
近くの窪みから、中隊長が無線兵から無線機を受け取り、大隊本部と交信している。
「火力支援できないだと!!?それでは飛行場奪取は無理だ!!!・・・・・明日の朝一なら陸軍航空軍が爆撃機を差し向けてくれるだろう!!?・・・こんな状況で、明日の朝まで待てるか!!!」
中隊長の怒鳴り声は、銃声や砲声より響いている。
「中隊長の怒鳴り声が、日本兵に聞こえてないといいな・・・あれじゃあ、日本軍の防衛陣地まで聞こえるぞ・・・」
リックスが、ぼやく。
「そうか、わかった!!それなら、明日の朝一に総攻撃をかけるが、予備の弾薬と、さらに1個中隊以上の応援を要請する!!いいな!絶対だぞ!!大隊長!!!」
中隊長が少し落ち着いた口調で交信しているが、やはり、声がでかい。
その後、各小隊に伝令兵が中隊長からの命令を伝えるために走った。
総攻撃を明日の朝に変更するため、攻撃は威力偵察レベルの攻撃に留めよ、という命令が伝えられた。
アメリカ海兵隊のモットーに、[撤退]や[作戦中止]等は存在しない。
「死ぬまで戦え」若しくは、「最後の一兵まで戦え」である。
彼らは最前線の真只中で、一晩を過ごす事になった。
その間、嫌がらせ程度の攻撃を、双方共に行っている。
日の出と共に、ペリリュー島飛行場で動きがあった。
飛行場地下陣地から、ペリリュー島守備に配置されている歩兵大隊600人が、地下壕から姿を現し、64式7.62ミリ小銃改Ⅰ型の先端に銃剣を取り付け、アメリカ軍が即席の陣地を構築している陣地に突撃を開始する。
「「「天皇陛下万歳!!!」」」
「「「大日本帝国万歳!!!」」」
史実のアメリカ軍を含む、連合軍に恐れられたバンザイ突撃であるが、史実とは大きく異なるバンザイ突撃である。
新バンザイ突撃が開始される時間に合せて、ペリリュー島近海に接近した菊水総隊海上自衛隊第2護衛隊群旗艦である、ヘリコプター搭載型護衛艦[かが]の飛行甲板からシンガポール陸軍砲兵部隊が運用するMLRSの小型版であり、緊急展開部隊が運用するために開発された、高機動ロケット砲システム[HIMARS]の地対地ミサイルを、新バンザイ突撃援護のために発射した。
新バンザイ突撃戦法は、基本的には陸海空からの三次元支援の下で行われる突撃戦法であり、火力の高い64式7.62ミリ小銃改や一式半自動小銃を撃ちまくりながら、混乱した敵陣地に殴り込みをかけるのが基本戦法だ。
突撃支援のために、62式7.62ミリ汎用機関銃改等の機関銃による援護射撃を行う。
突然、上空からロケット弾が現れ、アメリカ海兵隊と自由フランス陸軍部隊の陣地に降り注ぎ、前線が大混乱した状況下で、日本軍のバンザイ突撃である。
米仏連合軍の陣地は、混乱した。
凄まじい接近戦が、日米仏軍の間で行われた。
日本兵は火力の高い64式7.62ミリ小銃改の弾を、目の前のアメリカ兵や自由フランス兵に撃ち込みながら、突撃し、至近距離に近付けば先端に取り付けた銃剣で突き刺す。
陸軍ペリリュー島守備隊歩兵大隊の突撃を正面から受けたのは、アメリカ海兵隊第2海兵師団第5海兵連隊第18海兵大隊である。
アメリカ海兵たちは、海兵隊らしく新バンザイ突撃の前にも屈する事無く、勇敢にも戦い抜き、汎用機関銃から半自動小銃等のありとあらゆる歩兵携行火器や歩兵支援火器を駆使して戦った。
しかし、日本軍の攻勢は、凄まじかった。
「戦車だ!戦車の支援が必要だ!!」
第18海兵大隊の大隊長が戦況を把握し、連隊本部に戦車の支援要請を出した。
彼らと共に同行していた戦車部隊は、ロケット弾攻撃により、壊滅している。
「大隊長!ペリリュー島各地で、日本軍の大規模反撃が開始されました!フィリピンからも日本軍やスペース・アグレッサーの増援部隊が急行中との連絡が入りました!」
大隊本部で指揮をとっていた大隊長に、大隊付の通信兵が報告する。
「・・・た・・・退却だ!退却しろ!」
大隊長が叫び、戦線維持不可能な飛行場奪取部隊は、退却が命じられた。
しかし、このような状況下で退却命令が出ても、100人以上の将兵たちを見捨てる事になる。
日の出と共に、ペリリュー島防衛作戦が、本格的に開始された。
現在、菊水総隊海上自衛隊第2護衛隊群の、[あしがら]と[てるづき]は、新世界連合軍連合海軍艦隊総軍第3艦隊第4空母戦隊群と、イギリス海軍の戦艦部隊とイギリス空軍航空部隊を迎撃するために、マレー方面に向かっている。
大日本帝国海軍聯合艦隊第2航空艦隊は、別の作戦行動を行っている。
第2護衛隊群旗艦の[かが]は、この時代の正規空母に匹敵する規模であるため、その持ち前の能力を最大限に使い、新世界連合軍連合陸軍第4軍に属するシンガポール陸軍軽歩兵師団砲兵部隊を飛行甲板上で展開し、HIMARSのMGM-140地対地ミサイルによる陸上支援を行っている。
もちろん、SH-60K[シーホーク]が発艦できるスペースは確保している。
同時にフィリピン本土に駐留する菊水総隊陸上自衛隊第12機動旅団第12ヘリコプター隊は、第2普通科連隊を完全装備状態でペリリュー島まで空輸した。
第12機動旅団は、空中機動を主体とした即応近代化旅団である。
UH-60JAとCH-47JAで編成された第12ヘリコプター隊が、第12機動旅団に所属する3個普通科連隊の空輸を行う(一度に空輸できる部隊は1個普通科連隊)。
ただし、空輸できるのは、普通科隊員と携行可能な小火器に限られており、車輌及び迫撃砲等の重火器は、航空自衛隊のC-2輸送機が空中投下する事になっている。
第2普通科連隊が運用する82式指揮通信車、高機動車、軽装甲機動車、120ミリ迫撃砲、中距離多目的誘導弾等は、クラーク航空基地から離陸するC-2輸送機に積み込まれている。
ペリリュー島に接近した第12ヘリコプター隊第1飛行隊のUH-60JA群に乗り込んだ第2普通科連隊の先遣部隊は、低空で海面スレスレを飛行し、事前に査定された降下ポイントでホバリングし、先遣隊員が降下する。
89式5.56ミリ小銃を構えて素早く展開した第2普通科連隊先遣隊は、周囲を警戒配置しながら、行動を開始する。
彼らの任務は、第2飛行隊のCH-47JA群に乗り込んでいる第2普通科連隊の隊員たちが降下するポイントの完全確保及び降下誘導である。
第12機動旅団では、他の師団や旅団の中に常設のレンジャー部隊は編成されていない。
3個の普通科連隊に所属するレンジャー資格を有するレンジャー隊員たちが、ローテーションで各普通科連隊傘下のレンジャー部隊に編成される。
元の時代でも、山岳地方が多い地区の防衛と警備を任されていたため、彼らの行動は極めて速く、一切、無駄の無い動きだ。
「02-セン1より、連隊本部。これより、第1降下地点に移動する」
第2普通科連隊先遣隊隊長の1等陸尉が無線員から無線機を受け取り、本部に連絡する。
連隊本部から、作戦変更なし、という連絡を受けると指揮官携行火器である9ミリ機関拳銃を持って、部下たちに前進を合図した。
彼らは極めて軽装備であり、ブッシュハットを被り、顔は迷彩塗装されている。
事前の作戦計画による陽動戦法が大きく効果が発揮され、第2普通科連隊を乗せた第2飛行隊の降下ポイントに敵影の姿は無かった。
CH-47JAは着陸し、普通科隊員たちを吐き出す。
同じ頃、フィリピン本土から出港した高速輸送艦が、第14歩兵師団第2歩兵聯隊をペリリュー島に運び、同聯隊を上陸させた。
予備の武器、弾薬やその他の軍事物資の輸送は、第1ヘリコプター団のCH-47JAが担当する。
菊水総隊陸上自衛隊と、大日本帝国陸軍共同の、ペリリュー島防衛作戦が開始された。
死闘南方戦線 第3章をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますがご了承ください。




