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死闘南方戦線 第0章 剣を抜かば

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟海軍西海攻略艦隊旗艦である[キーロフ]級重原子力ミサイル巡洋艦[ジダーヌフ]は、フォークランド諸島近海を速力12ノットで航行していた。


 随伴の護衛艦として[ウダロイⅡ]級駆逐艦[アドミラル・クチェロフ]が、前方800メートルの位置で、対潜警戒を行っている。


「提督。ロシアンティーを、お持ちしました」


 水兵が、ティーカップをトレイに乗せて艦橋に現れ、老将に手渡した。


「うむ、いい味だ。これは貴官が淹れてくれたのか?」


 ロシア人男性の平均身長よりも少し低く、体格もどちらかというと、痩身の部類に入る50代後半(60歳前)の男は、アラン・ブイコフ・ドミトリエフ海軍中将。


 西海攻略艦隊司令官も務める老将、年齢は60歳前ではあるが、老け顔であるため、70歳くらいに見える。


「はい。自分が淹れました」


 若い水兵が、答えた。


「実に良い味だ。我が艦隊の、初陣の予備戦での勝利に相応しい味だ。私の艦隊が本格的な実戦を迎えた後に、貴官が淹れたロシアンティーをいただこう」


「はい!ありがとうございます」


 かつて、ロシア連邦海軍のみならず、西側諸国の海軍関係者からも、戦術家としてだけで無く、高潔な軍人精神の持ち主として、叉は、人格者として尊敬されていたブイコフの言葉に、若い水兵は嬉しそうに、表情をほころばせた。


[ジダーヌフ]は、1980年に登場した[キーロフ]級重原子力ミサイル巡洋艦の最新鋭艦であり、経済回復したロシア連邦海軍新艦隊建造計画で建造された、新造艦の1隻である。


 新システムの搭載から、ステルス性の向上等でバージョンアップした[ジダーヌフ]は、準同型艦と言ってもいい。


 動力である原子炉の燃料棒は、40年間交換不要であり、搭載する長射程の対艦ミサイルや巡航ミサイルの搭載量は増量され、自艦防空の対空ミサイルや艦隊防空の対空ミサイルも同様である。


 西側諸国海軍が運用する、イージスシステム搭載の防空艦に匹敵する防空システムを搭載しているため、諸外国ではロシア版イージスシステムを搭載した原子力巡洋戦艦と呼称されている。


 近接防空火器として、発展型複合CIWSを4基と、新型の短距離防空兵器を2基搭載している。


[キーロフ]級重原子力ミサイル巡洋艦に搭載されていた艦載砲(後部のみ)は存在せず、ロシア連邦の技術者たちが冷戦時代から研究していた次世代対地対艦攻撃用の艦砲を開発し、それを搭載している。


「提督。ソナーに感あり!」


 参謀長である少将が、報告した。


「史実の記録に無い潜水艦の、スクリュー音を探知しました。音紋から、[ロメオ]級潜水艦に似ています」


 参謀長の報告に、ブイコフはロシアンティーを一口すする。


「ニューワールド連合が、外貨を稼ぐために大日本帝国経由で友好関係の国家に輸出した、[ロメオ]級潜水艦だな・・・と言う事は、ナチス・ドイツだな」


 ブイコフの言葉に、参謀長はうなずいた。


「間違いありません。本艦の巡航ミサイルを、ナチス・ドイツと同盟関係であるアルゼンチンのドイツ軍施設に撃ち込みましたから、何者がアルゼンチン駐留のドイツ軍施設を破壊したのか、偵察に来たのでしょう。いかがしますか?」


 参謀長は、[ジダーヌフ]が搭載するVLSの対潜ミサイルで、いつでも撃沈できると言いたげな表情だった。


「いや、我々以上に、この時代で初戦果を望んでいる同志がいる。彼らに任せる事にしよう」


「了解しました。同志提督!」


 参謀長はうなずき、海中で西海攻略艦隊の指揮下では無く、南海攻略艦隊に所属する通常動力型潜水艦に連絡した。


「さて、新ソビエト社会主義共和国連邦と、新中華人民共和国建国のための準備は、準備段階から、実行段階に移るか・・・」


 ブイコフは、サヴァイヴァーニィ同盟軍統帥本部から届けられた、機密電文の内容を思い出しながら、つぶやいた。





 サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟海軍南海攻略艦隊第2水中打撃群に所属する[039A]型([元(ユアン)]型)攻撃型潜水艦[元344]は、深度200メートルで西海攻略艦隊旗艦[ジダーヌフ]の真下にいた。


 サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟海軍南海攻略艦隊は、崩壊した旧中華人民共和国解放軍海軍で編成された主力艦隊だ。


 サヴァイヴァーニィ同盟軍に参加する中国人民解放軍は、生粋の共産主義思想を持つ中国解放軍将兵たちで構成され、同盟軍の傘下に入っている。


 丁度、民主派中国人民解放軍が、新世界連合軍の別組織である連合支援軍の中核的存在となっているのと、真逆ながら似たような状態であろう。


 中国人民解放軍陸海空軍の中では、主に3軍の中でも精強精鋭の陸軍、海軍、空軍が参加しているため、最新鋭戦車、最新鋭のミサイル駆逐艦、ミサイルフリゲート、戦略原潜、攻撃型原潜、潜水艦、新鋭戦闘機等が取り揃えられている。


[元344]は、今回、西海攻略艦隊の支援と、フォークランド諸島に隠密上陸する特殊部隊の輸送等を、行うために派遣された。


「艦長、[ジダーヌフ]から入電です」


 士官から報告を受けた、[元344]の艦長である毛史(マオシー)(ウェン)中校(中佐に相当)は、組んでいた腕を解いた。


「なんだ?」


「はっ!西海攻略艦隊に接近中の、[ロメオ]級潜水艦を撃沈せよ。以上です」


 毛は、通信電文を受け取り、目を通した。


「命令は、了解した。下がっていい」


 毛が短く告げると、士官は下がった。


 中国人民解放軍では、士官は西側諸国軍の幹部を示す士官では無く、下士官に区分される。


 毛は、艦内マイクを持って、艦内放送を行った。


「艦長だ。この世界にタイムスリップしてから、我々はこの世界で生きるすべての者に、均等の平等をもたらし、社会的差別や迫害等を抹消し、恒久的世界平和を構築する準備を行ってきた。我々は長い間、中国共産党に忠誠を尽したが、諸君等も知っての通り、第2次世界大戦後に建国された中華人民共和国は、共産主義の名を借りた偽りの国家だった。本来、共産主義は、すべての富を持つ者は富を持たない者に分け与えるための主義だ。しかし、中国の上層階級の豚どもは、本来救われなくてはならない下層者たちから富を騙し取り、自分たちだけの都合のいい共産主義態勢を確立した。我らが憎むべきは、偽共産主義を語る害虫と、本来平等であるべき人類に、格差社会と人種差別を強要する民主主義思想者たちである。我々が最初に放つ1発が、かつて中国統一を果たした秦の始皇帝が小国の王だった頃に行った、大陸統一戦争の第一歩だ!」


 毛は、自身が率いる57人の部下たちに演説した。


「先任航海士。最大戦速、捕捉している[ロメオ]級潜水艦から距離3000まで接近せよ」


 毛の指示を、先任航海士である上尉が復唱する。


[元]型潜水艦は、水中速力23ノットという水中高速航行能力を有する。


「ソナー。敵潜との距離は?」


「前方6000を切りました」


 毛の問いに、ソナー員が答える。


「気づかれたか?」


「いえ、こちらの存在には、気づいていない様子です」


「だろうな。本艦の最大速力航行状態での静粛性は、この時代のパッシブ・ソナーでは探知するのは難しい、という事だ」


 毛が、自信に満ちた口調でうなずいた。


 中国人民解放軍海軍の仮想敵国である極東の島国は、対潜水艦探知能力や対潜水艦攻撃能力に特化した水上艦を主力にしている。


 当然、それに対抗するために、静粛性や隠密性の向上には力を入れている。


 その島国を仮想敵国にしたおかげで、人民解放軍海軍は30年かかる外洋艦隊を、10年で新設する事ができた。





 ドイツ第3帝国国防軍海軍潜水艦隊第4外洋潜水艦隊第40潜水戦隊に所属する、Uボート[XXⅢ]型U-4001は、深度100メートルを速力7ノットで航行していた。


 日独伊三国軍事同盟を、大日本帝国側が一方的に破棄した際に、賠償として新型高性能潜水艦の設計図を渡された。


 ドイツ第3帝国造船所で、設計図を元に建造したのが本級だ。


 大日本帝国が提供した潜水艦の設計図は、[ロメオ]級潜水艦であり、性能等もほとんど変わらない。


 ドイツ第3帝国海軍が運用する潜水艦よりも、遥かに劣る伊号型潜水艦を運用する大日本帝国海軍が、どうして、これ程の高性能潜水艦の設計図と建造技術を有する事ができたのか、まったく不明だが・・・大日本帝国海軍は、1941年を迎えてから、格段に軍事力を進歩させた。


 その技術は、ドイツ第3帝国の技術力を遥かに上回る。


 潜航最大深度は300メートル、水中速力13ノット、潜航時間は8時間程だが、どれも現在ドイツ海軍が運用するUボートを上回る性能だ。


「艦長。本艦がいかに静粛性や隠密性が高くても、敵は太平洋で暴れ回っているスペース・アグレッサー軍と同じ勢力の可能性があります。速力を、もう3ノット落とすべきです」


 先任将校である中尉が、具申する。


「・・・・・・」


 艦長である大尉は、黙ったままである。


「!!」


 ソナー員が、音を拾った。


「艦長!前方3500に高速スクリュー音!潜水艦です!!」


「やはり、見つかっていたか・・・」


 艦長は、小さくつぶやく。


「潜水艦より、魚雷発射管開放音!少なくとも4門!」


 ソナー員から報告が入る。


「機関全速!左舵一杯!」


 艦長が、叫ぶ。


 U-4001は、左に大きく旋回し回避行動に移る。


「魚雷発射を探知!2本、高速で接近中!!」


「艦尾魚雷発射管開放!射線確保と同時に魚雷を発射!」


 艦長が、水雷士官に叫ぶ。


「ヤー!」


 水雷士官が、叫ぶ。


 U-4001は艦首だけでは無く、艦尾にも魚雷発射管を装備している。


「ソナー!敵魚雷は?」


「1500メートルもありません!」


 ソナー員からの報告を聞き、艦長は素早く計算する。


「という事は、艦尾の射線確保をした時には500メートルぐらいか・・・」


 艦長は、艦尾の魚雷発射要員にマイクで叫ぶ。


「俺の合図で、いつでも発射できるようにしろ!」


 敵の潜水艦が発射した魚雷は、高速でU-4001に接近してくる。


「艦長!射線確保の針路に入りました!!」


「艦尾魚雷発射!!」


 艦長の発射命令で、艦尾魚雷発射管に装填されている魚雷が発射される。


「急速潜航!深度300!!」


 艦長は魚雷発射と同時に、最後の賭けをする。


「艦長!敵魚雷、本艦を追跡してきます!距離300!!」


 ソナー員が、ヘッドホンを外す。


 敵の潜水艦から発射された魚雷は、U-4001を完全に捕捉し、そのまま艦尾に直撃した。


 凄まじい衝撃がU-4001の艦体を襲い、艦内にいる乗員たちは、床や壁に叩き付けられる。


 轟音と共に、艦体から嫌な音が艦内全域に響く。


 その後、猛烈な勢いで海水が流れ込む。


 深度200メートルの海中で、潜水艦の艦体破壊音と破裂音が響き、乗員の悲鳴がそれにまじり、海中に響く。


[039A]型潜水艦[元344]から発射された魚雷2本は、[ロメオ]級潜水艦に直撃、乗員50名以上と共に海中に沈めた。





[元344]が距離3000で魚雷を2本発射し、そのまま速力と針路を維持していた。


「艦長!敵潜が魚雷を2本発射!本艦への命中コースです!」


 ソナー員からの報告に、毛は感嘆の声を漏らした。


「魚雷から逃げ切れない事を悟り、僅かな可能性を捨てて、本艦への攻撃を優先したか・・・」


 毛は、楽しそうな表情でつぶやく。


 その表情は、戦場で戦う武人としての笑みだった。


 武人であるなら、祖国である国家と国民を食い物にしながら、偽共産主義を唱えるトップたちを見限るのも理解できる。


「消える前の蝋燭は、一瞬だけ一段と輝きを見せます。敵潜の艦長は武人として、賞賛に値します」


 副長である少校が、告げる。


「あのような艦長とは、五分五分の条件で、正面対決をしたかった・・・しかし・・・」


「武人は一度、剣を抜き相手と戦う事を決めたら、いかなる理由があろうとも、剣を引く事は許されない。相手を斬るまで・・・ですか?」


 副長が、毛の口癖を告げた。


「そうだ」


 艦長がうなずくと、航海士に指示を飛ばした。


「速度そのまま、急速潜航。深度300」


 操舵員は復唱し、舵を押し込む。


[元344]の艦首が下を向き、そのまま海中深くに突っ込む。


 その時・・・


 遠方から、爆発音が響いた。


[元344]が発射した誘導魚雷2本が、敵潜水艦に命中したのである。


「艦体破壊音を確認!遅れながら艦体破裂音も聞こえます」


 ソナー員が、報告する。


 毛は、中国人民解放軍海軍将校用勤務帽を脱ぎ、小さく頭を下げる。


 この仕草は、中国5000年の歴史で中国史が記録された頃から行われてきた、中国武人の礼法である。


 優れた兵士や指揮官、軍師だけでは無く、同じく優れた敵や、敵将にも行われる。


「敵魚雷、本艦の真上を通過します!」


 ソナー員が、報告する。


「ソ連の体制と中国の体制は、これから大きく変わる。その後は新世界連合と、彼らに味方をする連合国との戦争が勃発する可能性があるだろう。その時は、我々も大忙しだぞ。中東での多国籍軍との戦闘とは比べ物にならない」


 毛は顔を上げながら、つぶやく。


 元の時代で中国が崩壊する前に、中東で2つの某国による原油の利権を巡る、紛争が勃発した際に、中国は極秘裏に解放軍陸海空軍を派兵した。


 その時、[元344]も派兵された。


 彼の適切な指揮能力と統率能力で、たったの1隻でアメリカ海軍の[ロサンゼルス]級攻撃型原子力潜水艦2隻と、イギリス海軍の[トラファルガー]級攻撃型原子力潜水艦1隻を撃沈した。





「同志提督。南海攻略艦隊所属の[元344]が、[ロメオ]級潜水艦もどきを、撃沈しました」


[ジダーヌフ]の艦橋で、司令官席に腰掛けていたブイコフに、参謀長が報告した。


「全艦に、通信回線を開け」


 ブイコフが立ち上がり、マイクを持った。


「了解しました」


 参謀長が、通信回線を繋いだ。


「ブイコフだ、同志諸君。フォークランド諸島の米英軍は、組織的抵抗力を失い、もはや陥落は時間の問題だ。しかし、これは始まりに過ぎない。単なる戦争の小さな火が着いたに過ぎない。しかし、最初は小さな火種だが、小さな炎は、やがて大規模な火災に発展する。だが、すべてを焼き尽くす大火の後、焼け焦げた町や家を復興した翌日には、諸君等が一度も経験した事が無い良き日を迎えるであろう。ウラー!」


「「「ウラー!!ウラー!!ウラー!!!」」」


 ブイコフの短い演説の後、[ジダーヌフ]の艦橋に詰めていた幕僚たちや、航海要員たちが叫んだ。

 死闘南方戦線 第0章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますがご了承ください。

 来週は正月休みを頂きたく思います。

 次回の投稿は2018年1月9日を予定しています。

 次話から今まで通りの2話投稿です。

 同時に来年の1月上旬にIF設定集でニューワールド連合軍でまだ説明されていない独立軍とサヴァイヴァーニィ同盟軍の所有兵器について投稿する予定です。


 今年も残り僅かですが、私の拙い小説をお読みいただいた皆さま、ありがとうございます。

 来年も頑張って書いていきますので、よろしくお願いします。


 良いお年をお迎え下さい。

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