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矛と盾 終章 傷心の自衛官

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

[いつくしま]型多機能支援艦1番艦[いつくしま]が南幸島近海に接近し、ヘリコプター発着甲板で駐機していた第1ヘリコプター団第1ヘリコプター群に所属するCH-47JAが、1機発艦し、南幸島飛行場で緊急性は無いが、本土に搬送しなくてはならない重傷者や、傷病者を収容し、[いつくしま]に搬送する。


[いつくしま]型多機能支援艦は、自衛隊員たちの時代で建造された自衛艦では無く、この時代にタイムスリップし、日本共和区で自衛隊の装備を研究、開発等を引き受ける民間工業が管理する造船所で、初めて建造された自衛艦だ。


 建造したと言っても、[いそぎく]型多機能護衛艦をベースに建造した艦であり、民生品を多数取り入れたため、[いそぎく]型多機能護衛艦よりも安価で建造する事ができた。


[いつくしま]型多機能支援艦は、後方支援を目的とした支援艦として建造され、その主任務は病院船に近いところがある。


 第1病室には100床の入院設備があり、女性用の入院設備がある第2病室(40床)、精神病患者を収容する第3病室(60床)がある。集中治療室も完備され、隔離が必要な患者用の設備として、24時間360度監視可能な個室が10部屋ある。


 第1病室と第2病室のベッドは、シングルでは無く2段式である。


 総合病院に相当する医療設備が、[いつくしま]型多機能支援艦に設置されている。


 これ以外にも、糧食や飲料水等の保存するドライカーゴもある。


 自衛艦であるため、自艦防衛用の装備が搭載されている。


 自艦近接防空用として、SeaRAMとCIWS(水上目標射撃も可能)、複数箇所に12.7ミリ重機関銃用の銃架があるだけで、後は個人装備の64式7.62ミリ小銃、9ミリ機関拳銃と9ミリ拳銃があるだけだ。





 本土に搬送される重傷者及び傷病者(感染する可能性が低い者)を収容したCH-47JAは、[いつくしま]に所属する第5分隊長兼飛行長からの着艦管制誘導に従い、飛行甲板に着艦した。


 幸島警備隊普通科中隊第5小隊長であった、伊花睦生3等陸尉もいた。


 彼は森林戦での1件により、戦闘ストレスを発症し、小隊指揮どころか職務遂行不能になるまでの状態だった。


 日本共和区にある統合自衛隊総合病院精神科病棟に、入院させる必要が出たため、[いつくしま]に搬送された(緊急搬送されなかったのは、彼以上に重度の戦場神経症を発症している自衛官や帝国陸海軍兵がいるからだ)。


 伊花は、[いつくしま]に乗艦する精神科医から問診を受けた後、戦闘ストレス症のレベルを認定された。


 24時間監視可能な個室への収容は必要ないという事で、大部屋に入れられた。


 シングルベッドに座らされて、看護官から簡単な検査を受けた後は、しばらくここが自分の居住する場所になる。


 他のシングルベッドにも、自分と同じく収容された自衛官や、大日本帝国陸海軍兵がいる。


「伊花さん。具合はどうですか?」


 第3病室に勤務する医官が、声をかける。


「・・・・・・」


 伊花は、事務的用語以外の会話をする気になれない。


 そんな気分では無い。


「もうすぐ昼食です。本艦も病院食ではありますが、本艦には腕の良い給養員が勤務しています。とても美味しい食事を提供してくれますよ」


 医官が、にこやかな表情で話しかける。


「・・・そうですか・・・」


 伊花は、弱々しく虚ろに答える。


 食事が美味しいと言われても、食べる気にもなれない。


 何も食べたくも無いし、何も飲みたく無い、そんな状態であった。


 伊花は、南幸島駐屯地の医療天幕でも、食事はほとんど喉を通らず、水も飲む事ができなかった。


 ほとんど点滴による水分補給と栄養補給だけであり、喉を潤すにしても、うがいをするだけだ。


 しかし、この2、3日で、みじん切りにした具材が入ったスープや、お粥程度なら口に運べるぐらいまでになった。


 医官に言われてから、数10分後に看護官から「お食事です」という声が聞こえて、昼食の配膳が行われた。


 伊花の前に置かれた、トレイの上に乗せられた昼食のメニューは主食として卵粥、細かく切られた具材が入ったスープ、そしてお茶である。


 彼は、ゆっくりとその食事に口を運ぶ。


(・・・・・・)


 何も味を感じない。


 彼が心に受けた傷は、その味覚を奪っていた。


「うぅ・・・」


 伊花のすぐ側のベッドに腰掛けたままの、自分と同じ歳くらいの青年は、食事をしようともせず、呻くような声を上げていた。


 どうやらすすり泣いているらしい。


「どうしました、西野さん?」


 食事を配っていた看護官が、声をかける。


「・・・自分が指揮した小隊は、敵の榴弾に吹き飛ばされたというのに・・・自分もすぐ側にいたのに・・・部下たちは死んで・・・自分だけが生き残るなんて・・・こんな事・・・許されるのか・・・」


 帝国陸軍下級将校らしい西野という男は、そう言いながら涙を流していた。


「・・・・・・」


 それを、ぼんやりと眺めながら、伊花は無言だった。


 何も感じない。


 心にポッカリと空いた昏い穴。


 その中に、伊花はゆっくりと沈んでいこうとしていた。

 矛と盾 終章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますがご了承ください。

 伊花については復活の過程があります。

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