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矛と盾 第18章 撤退 もう1つのダイナモ作戦

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 英蘭印連合軍総司令官であるフリップ・クララ・ベドソン・チャールトン大将は、総旗艦である[ヴァンガード]級戦艦1番艦[ヴァンガード](史実に登場した[ヴァンガード]級戦艦とは異なる。ドイツ第3帝国国防軍海軍の潜水艦と戦艦決戦思想に対抗するために、急建造された戦艦である)の作戦室で、英蘭印連合軍首脳部と、会議を開いていた。


 10分前に、日の丸をつけたジェット戦闘攻撃機による攻撃と思われるロケット弾攻撃を受けて、主力艦隊の広域対空索敵を行っていたレーダーピケット艦が撃沈され、さらに大日本帝国海軍の空母、叉は秘密基地から出撃したと思われるレシプロ攻撃機に、輸送船と護衛駆逐艦を撃沈された。


「すでに我が連合海軍は、作戦開始当初の半数の空母、戦艦、巡洋艦、潜水艦等を撃沈され、輸送船も3割以上を失いました。幸いにも日本軍は、駆逐艦やフリゲートへの攻撃は行っていませんが、今後はどうなるか、わかりません」


 チャールトンの次席幕僚である、参謀長が説明した。


「アメリカ軍は、日本本土空襲のために、我々を敵中奥深くの日本固有の領土である、この島の攻略を命じた。アメリカ軍は、本土空襲を成功させながら、なぜ、我々を助けに来ない!当初の計画では、アメリカ軍による大規模反撃が、予定されていたはず!」


 会議の席で、1人のオランダ海軍の提督が、立ち上がった。


 彼は、オランダ海軍艦隊の指揮を任されている、カレル・ウィリアム・フレデリック・マリー・ドールマン少将である。


 作戦室が、冷気に包まれてように静まり返った。


「お前たちは、答えを知っているのに答えない。ならば私が答えてやる。最初からアメリカ軍は、そのような反撃を予定していなかった。私の知人が教えてくれた。アメリカ軍は、この日本本土侵攻のどさくさに紛れて、南大西洋から南太平洋に、大規模な新造空母機動部隊、戦艦部隊を移動させ、ハワイ奪還の作戦準備をしている。我々は、単にアメリカの捨て石にされただけだ」


 ドールマンが言った後、周囲を見回した。


「「「・・・・・・」」」


 誰も、反論しない。


 しばらくの沈黙の後、口を開いたのはチャールトンだった。


「侵攻作戦は中止する。ただちに、残存艦は撤退準備を開始しろ。上陸した陸上部隊には、全兵器及び装備は放棄し、輸送船に乗り込ませろ。それと人員を多く乗せられる駆逐艦をすべて使い、1人でも多くの軽傷者以下のイギリス兵、オランダ兵、インド兵を乗せる」


 チャールトンの言葉に、参謀の1人が発言した。


「提督!現在の残存する輸送船と駆逐艦の数では、上陸部隊全将兵を収容できません!負傷兵が多く、輸送船が3割も沈められた状態では・・・」


 チャールトンは、参謀の言葉にうなずいた。


「ああ、そうだ。だから、私は軽傷者以下のイギリス兵、オランダ兵、インド兵だと言った。これは動ける将兵だけだ」


 その場にいた全員は、チャールトンの言葉を思い出した。


 英蘭印連合軍の幕僚たちは、一瞬だけ言葉を失った。


「それでは、担架で運ばなければならない負傷兵たちは・・・それと、この作戦のために徴兵されたマレー人、インドネシア人等の義勇兵は?」


 チャールトンの言葉の意味は、全員が理解した。


 そして、それが何を意味するかも・・・それでも。


 参謀の1人が、恐る恐る総司令官に尋ねた。


「ああ、貴官等の想像通りだ。日本軍の足止めになって貰う」


 チャールトンの冷酷とも言える決断に、誰もが息を呑んだ。


 しかし、異義を唱えられないのも確かだ。


 この状況下で、完全に撤退させるには、この方法しか無い。


 ただし、このような冷酷な撤退作戦でも、半数の輸送船等の艦船は、日本軍やゴースト・フリートの追撃で沈められるか、拿捕されるだろう。


「では、総司令官。陸上部隊の撤退作戦の護衛部隊の指揮は、私にやらせてください」


 志願したのは、ドールマンだった。





 英蘭印連合軍上陸部隊の、主力部隊が上陸した中幸島アルファ地点の砂浜では、イギリス陸軍、オランダ陸軍、インド陸軍の兵士たちが上陸舟艇に乗り込み、輸送船や人員を多く乗せられる駆逐艦に運ばれていた。


 このアルファ地点が、撤退作戦の場所として査定され、北幸島及び南幸島に上陸した英蘭印連合軍上陸部隊は、ここまで移動しなくてはならない。


 なぜ、他の上陸地点では撤退作戦が行えないと言うと、イギリス海軍空母から出撃できる艦上戦闘機が、度重なる出撃で日本軍機等と戦闘で撃墜され、とても他の場所まで制空戦闘が行えないからだ。


 砂浜では、上陸舟艇に英蘭印連合軍上陸部隊の重軽傷者が、乗り込んでいた。


 重傷者と言っても、自力で歩行可能な兵士だけだ。


 総司令部の命令では、重傷者は見捨てる事になっていたが、撤退作戦の指揮官2人の独断で重傷者も乗せる事にした。


 撤退作戦の指揮官は、イギリス海軍のエドウィン・ルース・ペイリン少将と、イギリス陸軍のアルヴィ・キャス・ペアード准将の2人である。


「ペイリン提督。海軍は、どのくらいの期間を与えてくれているのですか?」


 ペアードが、尋ねた。


「撤退期間は、一週間だけだ。ただし、海軍の主力艦隊は護衛艦隊を残し、3日後に撤退する」


「3日!?」


 ペイリンの説明に、ペアードは声を上げた。


「戦艦や巡洋艦も使えば、ここにいる将兵たちを乗せられるのですよ!」


「ああ、そうだ。だが、日本軍機やゴースト・フリートの攻撃機から逃げるには、3日後までが限界だ。包囲網が完成する前に、主力艦隊が撤退すれば、その追撃を日本軍とゴースト・フリートはするはずだ。その間に、足の遅い輸送船で退却する。足の速い駆逐艦なら、包囲網を突破できるが、輸送船はそうはいかない」


 ペイリンはそう言った後、砂浜からペアードに視線を向けた。


「それで、臨時の桟橋は、どのくらいでできる?」


「サー。現在、工兵隊を総動員して、放棄するトラックや戦車を使って、桟橋を構築中です。順調に行けば、明日の朝には使用可能になります」


 ペアードの言葉に、ペイリンはうなずいた。


「このまま日本軍が、黙っている訳が無いだろうな。彼らからすれば、神聖なる都が焼け野原にされる事を、交戦国に通告された。国内の安定と怒りを覚ますには、我々を徹底的に叩きにかかるだろう・・・」


 ペイリンは、そう予想した。


 本土空襲される・・・それも象徴的な都もその標的である、という事がどういう事か、それは本土空襲を経験した将軍と提督なら理解できる。


 これからの日本軍は、さらに一層凶暴化するだろう・・・どのような報復があるか、それはある程度は理解できる。


 その時、突然、サイレンが鳴り響いた。


「空襲!!空襲!!」


 対空警戒をしている兵士が叫ぶ。


 砂浜にいた将兵たちは慌てて、塹壕に逃げ込む。


 10数機の、日本軍機が来襲した。


 対空砲が火を噴くが、日本軍機はそれに怯まず、アルファ地点や洋上にいる輸送船に、空爆や機銃掃射を行った。


「海軍の戦闘機は、何をやっているのだ!?」


 塹壕にうずくまっていたイギリス兵が叫んだ。


「知るか!どうせ、尻尾を巻いて逃げたんだよ!!」


 塹壕内では、いろいろな声が響く。





 統合防衛総監部の地下指揮所では、南東諸島での戦況が報告されていた。


「南幸島には第1空挺団を含む連合空挺部隊1個連隊強と、第8機動師団第12普通科連隊が増援部隊として幸島警備隊の指揮下に入り、行動開始計画を細かく調整中だ。中幸島では、帝国陸軍第32軍に沖縄本島から派遣された増援部隊が到着し、作戦行動に入った。北幸島も同様だ」


 陸上総監の、御蔵(みくら)(りゅう)陸将が説明する。


「那覇基地から離陸させた、RF-4EJからの航空偵察によれば、英蘭印連合軍は撤退準備を開始している。このまま放置しても、一週間程度で島は奪還される。念のために那覇のF-4EJ改に爆装の準備はしているが、できれば出撃は避けたい。これまでの度重なる出撃で、どの機も整備点検叉は部品の交換や修理が必要だ」


 航空総監の、小川(おがわ)(しゅん)空将が言った。


 2人の総監からの報告に、南東諸島での統合運用部隊指揮官である海上総監の(しの)()真人(まこと)海将は腕を組んだ。


「帝国陸軍航空隊は、英蘭印連合軍上陸部隊の撤退陣地に対して、盛んに航空攻撃を行っています。同じく海軍も沿海潜水艦を忍ばせて、輸送船に雷撃を加えています」


 海上総監部の幕僚が、説明した。


「気持ちはわかるが・・・まるで、ダイナモ作戦・・・ダンケルクのようではないか・・・」


「人道的に考えますと、ここは攻撃を控えるべきでは無いでしょうか?」


 海上総監部の運用部長である幕僚が、意見を述べた。


「武士の情けという事で、自分も攻撃を控えるのに賛成です」


 幕僚たちの意見を聞きながら、篠野が口を開いた。


「じゃっどん(しかし)・・・」


 つい、篠野が地元の方言を、口にしてしまった。


 不意を突かれたとは、まさにこの事であり、普段、地元の方言は一切口にせず、厳格な口調である篠野が希に出す方言であるため、一瞬、いつもの癖で篠野以外の高級幹部叉は上級幹部たちに、笑いの神様(この場合は悪魔と呼称すべきだろうが・・・)が忍び寄った。


 御蔵は、笑い出しそうになるのを誤魔化すかのように、おほん、おほん、と咳払いをする。


 小川は、眼鏡が曇った、等とつぶやき、綺麗に手入れされている眼鏡を布で拭く。


 他の者も、いろいろと悪戦苦闘をしながら、笑いの神様ならぬ笑いの悪魔を遠ざける。


「おほん!」


 篠野が大きく咳払いをして、説明を開始した。


「英蘭印連合軍は、日本帝国陸海軍及び航空予備軍と我が自衛隊の哨戒網を巧妙にくぐり抜け、やすやすと本土侵攻を行った。この状況下で敵をみすみす見逃すのは、国の安全保障と国防を担う組織の威信を汚す事だ。行きは楽に来たのだから、帰りは相当の苦を味わってもらわないと困る。二度と、日本に手を出す気を起こさないようにな。いっすん(絶対)!」


 また、語尾に方言が入った。


 一瞬だが、誰かの頭に、わざとやっているという単語が過ぎるが、すぐに打ち消された。


 そんな事を、言っている場合では無い。


「わかりました。ただちに新世界連合軍連合海軍と、大日本帝国陸海軍等と、打ち合わせを行い、追撃及び撤退作業中の艦船等への攻撃を速やかに立案します!」


 海上総監部運用部長が、叫んだ。


 日本には、古からこんな歌がある。


 行きは楽だが、帰りは恐ろしい事があるという意味が子供でも理解できる物だ。


 しかし、これにはいくつもの諸説があり、戦争の諸説もあるそうだ。


 その意味は、攻めるのは簡単だが、逃げる時はとても危険だと、言う事だ。


 攻める時は、大抵の場合はうまく行くのだが、何らかの事情で攻めるのが困難になり、引き上げを余儀なくされた時、攻められた側は復讐に燃え、見境無く襲ってくる。





 日本軍機から機銃掃射が終わった後、ペイリンとペアードは塹壕から顔を出した。


 辺りには機銃掃射の犠牲になった、逃げ遅れたイギリス兵、オランダ兵、インド兵が血を流して倒れていた。


 中には、衛生兵を叫ぶ兵士もいる。


「被害状況を確認して、撤退作業を再開せよ!」


 ペアードが叫ぶ。


「輸送船や駆逐艦も、何隻かが炎上しているな・・・」


 ペイリンは双眼鏡で洋上を確認しながら、つぶやいた。


 中には爆弾が甲板を深く貫き、内部の奥深くで爆発したのか、1隻の輸送船が大炎上しながら傾いている。


「あの様子だと、機関室がやられたな・・・どうやら、浸水もしている」


 炎上している輸送船はさらに爆発し、黒煙と炎が上がる。


 すると、船内にいたイギリス兵やオランダ兵たちが、次々と海に飛び込む。


「通信兵!」


 ペイリンは、近くにいた通信兵を呼んだ。


「あの輸送船があのままではまずい、錨を上げて出航態勢に入ったところを攻撃され、操舵不能になっている。放置しても時間が経てば沈むが、潮に流されて、ここに漂着したり、海上にオイルが広がるのは危険すぎる。駆逐艦に連絡して、雷撃処分するよう指示してくれ」


「ですが!提督、歩行可能とは言え、動きがとれない負傷兵もあの船にいます!彼らを救助してから、雷撃処分にしてはいかがでしょうか?」


 通信兵が、異義を唱えた。


 確かに、彼の言い分は当然だ。


 しかし、自分たちには時間が無い。


 降伏しない以上は、敵の包囲網が完成しないうちに撤退する必要がある。


 こちらは、戦う意思を示している。


 今後は、攻撃がエスカレートするだろう。


 その前に、できる限りの将兵を脱出させなくてはならない。


 残酷な命令ではあるが、仕方無い。


 戦う以上は・・・


「再度言う!雷撃処分しろ!」


「・・・サー!」


 通信兵は通信機で近くの駆逐艦に連絡し、ペイリンの指示を伝えた。


 駆逐艦が魚雷発射管を旋回させて、炎上する輸送船に魚雷を撃ち込む。


 輸送船に魚雷が命中し、巨大な水柱が上がる。


 その瞬間、輸送船は転覆しながら、あっと言う間に海中に沈んだ。


 流れ出たオイルに引火し、海上が炎上するが、幸いにも自沈処分が早かったため、炎上は最小限だ。


「通信兵。それと空母に連絡し、上空警戒の戦闘機をよこせと要請を続けろ」


 ともかく、戦闘機が1機もないのでは、どうにもならない。


「提督。先ほど、空母機動部隊より、シーファイアを4機、ここに派遣するそうです!」


 通信兵が通信機から総旗艦との交信を行っていると、通信兵が報告した。


「たったの、4機だと!?」


 ペイリンは、頭を抱えた。


 4機のシーファイアの上空援護で、何ができる。


 日本軍機は、レシプロ戦闘機なら12機から16機が来襲する。


 ジェット戦闘機であれば、2機から4機だ。


 とても話にならない。


 ペイリンは、砂浜を見渡す。


 工兵隊が、必死に臨時の桟橋を作っている。


 防衛陣地では、最後の英蘭印連合軍上陸部隊兵を確認するまで、日本軍の攻撃を押さえるだろう。


「どれだけの将兵が撤退できるか・・・」


 ペイリンは、つぶやいた。


 撤退できる兵は、まだ良い。


 日本軍の足止めのために、使い捨てにされるマレーやインドネシアの義勇兵たち。


 総司令官にとっても、苦渋の選択だということは理解できる。


「しかし・・・」


 ペイリンには、どうしても納得できない事がある。


 最新鋭戦車の巡航戦車センチュリオンは、第1陣の輸送艦に揚艦させて、早々に戦場を離脱している。


 あれがあれば、陸上からの日本軍の追撃に対処できるのに、だ。


 鹵獲されるのを、恐れるなら爆薬で爆破すれば良い。


 そうすれば、もっと大勢の負傷兵を乗艦させられるのに、だ。


「・・・アメリカの甘言に、乗ったばかりに、貴重な将兵を見捨てる事になるとは・・・」


 ペイリンは、唇を噛んだ。

 矛と盾 第18章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますがご了承ください。

 次回の投稿は12月5日を予定しています。

 次話の第20章で行方不明だったスターリンが登場します。

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