表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
130/452

矛と盾 第16章 奪取と奪還

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 中幸島に、いくつも設置されている野戦救護所と野戦病院では、毎日の戦闘で負傷した日本兵たちが、次々と運び込まれている。


 幸島市郷土防衛隊第1地区救護隊に所属する、入江(いりえ)・ステレ・フィンコは、昨夜の激戦で負傷した日本兵の治療に追われていた。


 幸島市郷土防衛隊は、兵役期間を終了した兵士や補助兵が、部隊の中核を担い、18歳を迎えた成年男子たちの中で、改正兵役法により、常備兵叉は予備役兵では無い者たちが所属している。


 18歳未満16歳以上の男子も、志願制で希望すれば志願できる。


 女子は18歳以上が志願制であるが、18歳未満16歳以上の女子は、選考試験に合格すれば郷土防衛隊に入隊できる。


 名前から理解できるように、ステレはヨーロッパ系であるが、彼女の先祖が生粋のヨーロッパ人だったのは、100年以上前の話である。


 幸島は、中国やその属国からの罪人や、ヨーロッパがアジアに貿易の手を伸ばした際に、貴族の罪人叉は追放者や、売れ残ったり、怪我や病気で使い道の無くなった、奴隷等が流れ着いたり、棄てられた島であるから、西洋人、東洋人等の血が混ざっている人々が多い。


 しかし、明治になって大日本帝国に併合されてからは、ヨーロッパ系の名前を持つ者は、大日本帝国人である事を証明するために、日系の性を付ける事が習わしになった。


 鹿児島県下であるため、彼らは中国人等の東洋人系の血を引こうが、ヨーロッパ系の西洋人の血を引こうが大日本帝国の鹿児島県人として扱われた。


 そのため、併合叉は統治下になった外地人よりも、大日本帝国人の信頼は強く、彼らよりも大日本帝国人として認められている。


 フィンコは、ヨーロッパ系の血と中国系の血に、さらに日本人の血も引いているため、顔立ちは日本人に近いが、髪の色、目の色はヨーロッパ系である金髪碧眼である。


 彼女も先月17歳になったばかりで、厳しい選考試験を通過して、郷土防衛隊救護員(女子の配置はすべてここである)に任命された。


「少し痛いですが、我慢してください」


「ああ。わかっている。早くしてくれ」


 爆風で骨折した、海軍陸戦隊の兵長に話しかけながら、骨折箇所の固定処置を行う。


「ステレ!隊長が呼んでいる。それが終わったら、早く来てくれ!」


「わかったわ!」


 彼女を呼びに来た、同じ歳のオレンジ色が少し混じった黒髪の少年兵が、手に三八式手動装填式小銃を持って叫んだ。


 彼は、郷土防衛隊防衛員である。


 防衛員は、保護下にいる市民や避難所、救護所の防衛、警備のために必要最低限の個人携帯火器の所持を認められている。


 しかし、これは陸海軍の地上部隊と戦うためでは無い。


 あくまでも市民及び自己の生命、財産の防護、避難所、救護所の安全を守るためだけに、武器の携帯と使用が認められているだけで、特別な理由が無い限り交戦国の軍隊を陸海軍その他の地上部隊と戦う事は禁じられている。


 交戦国の軍隊が接近した場合は、無防備宣言をする事が義務付けられている。


 彼女は、自分が担当する負傷兵の応急処置が完了すると、そのまま同部隊に所属している他の救護員に後を任せた。


 隊長や班長たちが集まっている、小型の天幕に入った。


「ステレ。よく来てくれた。君は第3地区救護隊の応援に向かってくれ、恐らく、これからはそこが、ここ以上の激戦地になる。第32軍司令部からは増援部隊が到着し、本格的な島の奪還作戦が開始される。ここは必要最低限の人員で対応する」


 救護所の隊長が、彼女に指示した。





 中幸島の標高400メートルの山に、大日本帝国陸軍第32軍第32飛行団第321飛行戦隊の秘密基地がある。


 山の中に偵察機、観測機、戦闘攻撃機、連絡機等が収納されており、飛行団司令部からの命令を受けると、すぐに秘密基地に隣接する簡易な滑走路から離陸する。


 大日本帝国陸軍航空隊は、その主任務は陸上部隊の航空支援であり、航空予備軍や海軍航空隊と異なり、航空戦略を目的とした運用では無く、あくまでも航空戦術に重点を置いている。


 陸軍の主力戦闘機は、制空戦闘能力と対地爆撃能力を有する戦闘攻撃機が主力である。


 運用機は、一式戦闘攻撃機[禿鷹]である。


[禿鷹]は、史実の一式戦闘機[隼]とは異なり、零式艦上戦闘機の新型機である[海鷹]をベースに開発された戦闘攻撃機だ。


 長距離飛行能力を犠牲に、その分、機銃弾数と爆弾の搭載量を増加し、エンジン出力をさらに向上させて、完全戦闘兵装状態でも制空戦闘を可能にした。


 秘密基地では、第321飛行戦隊第2中隊に出動命令を知らせる喇叭が響き、第2中隊に所属する操縦者たちが居住区から飛び出した。


[禿鷹]に飛び乗り、エンジンを始動させる。


 第2中隊第3小隊長の川西(かわにし)三男(みつお)少尉は、同中隊の整備班の兵卒から整備状況を聞かされた。


「油圧と電気系統の点検は完了しましたが、燃料系統の点検は不十分ですので、注意してください。少尉殿!」


「わかった!燃料計には、注意する!」


「無事な帰還を、お待ちしています!」


 川西が[禿鷹]の発動機を回し、計器類を見回す。


 第321飛行戦隊第2中隊に所属する[禿鷹]が、次々と滑走路に移動し離陸する。


 陸軍機は、基本的に不整地での離着陸ができるように設計されている。


 これは、航空予備軍とは大きく異なる。


 そのため、滑走路が無くても、ある程度の平地であれば、どこでも離着陸はできる。


 ただし、その後の整備点検や、機体のダメージには注意しなくてはならないし、離着陸をするにも、それなりの距離が必要だ。


 川西は風防ガラスを閉めて、そのまま臨時滑走路を滑走し、[禿鷹]を浮かせる。


 飛行戦隊の編制は1個分隊が3機であり、これが2個で1個小隊である。


 1個中隊は、3個小隊で編成されている。


 川西は、傘下に4機の[禿鷹]を率いる。


「中隊長機より、全機!飛戦本部からの情報では昨夜、第32軍傘下の独立旅団歩兵聯隊の突撃で奪取した敵の補給拠点の1つを、英蘭印連合軍上陸部隊は、陸と空から奪還に出向いている!ここが再び敵の手に落ちれば、また、我が陸軍兵がその拠点で血を流す事になる。第1小隊は、俺と上空の戦闘機を片付ける。第2小隊は、搭載する爆弾を残らずばらまき、敵の地上部隊にできる限りの損害を与えろ。第3小隊は第2次地上攻撃に備えろ!」


 中隊長機からの通信に、川西以下2人の小隊長が返答する。


「「「はい!」」」


 川西は、自分が率いる4機の[禿鷹]に、必要な指示を伝えた。


 目標上空に接近し、中隊長機以下3個小隊はそれぞれの役目を果たすため、分散した。


 川西は操縦桿を押して、[禿鷹]の高度を下げた。


 地上では、英蘭印連合軍上陸部隊の戦車が、友軍陣地に砲撃を行っている。


 対する味方の歩兵部隊も、対戦車砲で応戦している。


 川西は、攻撃目標に小爆弾をばらまいた。


 地上部隊支援爆弾である小爆弾は炸薬量60キロだが、[禿鷹]に1機当り、9発搭載可能である。


 それが5機であるから、45発の小爆弾が連合軍攻撃部隊の頭上に降り注いだ。





 陸軍機[禿鷹]からの援護により、拠点の奪還に来たインド帝国陸軍歩兵部隊と、彼らが運用する軽戦車群は一時的ではあるが混乱した。


「敵の攻勢が乱れた!中隊、突撃!」


 拠点を制圧していた歩兵聯隊大隊(この大隊以外に2個大隊存在)麾下の中隊を預かる大尉が、軍刀を抜いて叫んだ。


 銃剣を装着した一式半自動小銃を持った小銃兵たちが、一斉に防衛陣地から飛び出した。


 もちろん、その間、歩兵中隊に1個小隊編成されている機関銃小隊から、零式汎用機関銃を装備した機関銃兵と火力小隊から対戦車砲、迫撃砲による援護射撃と支援砲撃が行われる。


 小銃兵たちは、混乱したインド兵に対し正面から突撃し、一式半自動小銃の火力に物を言わせて、インド兵の真っ正面にまで迫った。


 銃剣をインド兵の胸元に突き刺し、絶命させる。


 大日本帝国陸軍のお家芸である白兵戦は、未来からの助言で近代戦においても、さらに効率よく白兵戦術を向上させた。


 インド兵たちが装備する小銃等の個人携帯火器は、すべてイギリス陸軍からの払い下げであり、火力が不足していた。


 恐れをなしたインド帝国陸軍部隊は、撤退命令を出した。


「追撃の必要は無い!一端、我々も後退し、次の総攻撃に備えろ!」


 突撃命令を出した中隊長は、敵が撤退する姿勢を見せると、攻撃を控えるように指示した。


 まだまだ、戦闘は続く、ここで弾薬の大量消費は避けるべきだ。


 だが、その次の総攻撃はすぐに行われた。


「中隊長殿!新たな敵の攻撃です!」


 部下からの報告に、中隊長は双眼鏡を構えた。


「なんだ・・・あの重戦車は・・・?」


 中隊長は英蘭印連合軍との激戦で、一度も見た事が無い重戦車を見て、驚愕した。


「幽霊総隊陸軍の戦車クラス・・・」


 中隊長は、イギリス陸軍の重戦車部隊(1個小隊クラス)の重戦車を見てつぶやいた。


 彼らが目撃したイギリス陸軍の重戦車は、史実では第2次世界大戦後期に開発された戦後の第1世代戦車に分類される巡航戦車センチュリオンである。


 ドイツ第3帝国国防軍陸軍の重戦車である、ティーガーも撃破可能な17ポンド砲を搭載した打撃力、防護力、機動力が極めて高い戦車だ。


 北アフリカ戦線で、早々に登場し、凄まじい戦果を挙げるティーガ-Ⅰ、Ⅱに対し対抗するために、製造されたのだが、まさか初戦が北アフリカでは無く、日本になるとは、当のイギリス陸軍でさえ予想していなかった。


「対戦車砲!砲撃準備!目標、英軍の新鋭戦車!」


 中隊長は叫んだ。


 対戦車砲小隊は、対戦車砲に徹甲弾を装填した。


「装填完了!」


 装填手が報告し、小隊長が叫ぶ。


「撃てぇぇぇ!」


 対戦車砲が一斉に火を噴き、徹甲弾がセンチュリオンの正面装甲に直撃した。


 しかし、カン!という大きな音と共に、砲弾ははじかれた。


 それは、幽霊総隊こと菊水総隊陸上自衛隊の74式戦車や90式戦車に対する、アメリカ軍を含む連合軍の対戦車砲隊の攻撃の結果と同じ光景だった。


 その重戦車小隊の重戦車群の砲塔が旋回し、その砲口が中隊長以下、中隊の防衛陣地に向いた。


 その砲口群から、一斉にオレンジ色の閃光と咆吼が響いた。


 中隊長以下その他の中隊の将校や下士官、兵たちは、まばゆい炎に包まれた。


 それが、彼らの見た最後の光景だった。


 その後、センチュリオン、その他の巡航戦車、歩兵戦車に援護され、イギリス陸軍の1個歩兵大隊は、自動小銃を乱射しながら、突撃。


 上空にいる[禿鷹]も地上支援を行ったが、空母から発艦したシーファイアに邪魔をされては思うような支援はできない。


 結局、昨夜、多くの日本陸軍兵の血を流して奪取した敵の補給拠点は、24時間も持たず再び、英蘭印連合軍に奪還された。





 川西が操縦する[禿鷹]は、シーファイアとドッグファイトを繰り広げていた。


[禿鷹]は、爆装状態でも530キロという飛行速度を持つ戦闘攻撃機であるため、爆弾を投下した川西機はその分、機体が軽くなるため、飛行速度はさらに上がる。


 旋回性能、加速性能、格闘性能は零式艦上戦闘機を上回り、機体強度も高い分、レシプロ戦闘機の陸軍機の中では上位に入るだろう(その分、燃費が悪く、搭載できる燃料が少ないため、総合的に見れば高いとは言えない)。


 照準器の十字線を、シーファイアに合わせようと川西は操縦桿等を細かく動かし、追跡中のシーファイアに照準を合わせる。


「よし!」


 川西は、20粍機銃の発射ボタンを押した。


 主翼に搭載されている20粍航空機関砲が火を噴き、シーファイアを撃墜する。


 川西は、撃墜した戦果を喜ぶ暇も無く、燃料計を見る。


 すでに、燃料計の針は1を指している。


「これ以上の戦闘飛行はできないな・・・」


 川西はそうつぶやき、自分が率いる飛行小隊に帰投の指示を出そうとした時、目の前にシーファイアに追跡されている[禿鷹]がいた。


 シーファイアから機銃掃射を受け、[禿鷹]は必死に回避飛行を行っている。


「させるか!」


 川西は叫び、友軍機の援護に向かう。


 すぐにシーファイアの後ろにつき、イギリス海軍のパイロットが気付く前に機銃掃射を行う。


 シーファイアは被弾するが、墜落する事無く、離脱コースをとった。


 敵機に追跡されていた[禿鷹]が川西機の横に並び、操縦席に座る操縦士が挙手の敬礼をする。


 見たところ、操縦している操縦士は、まだ10代後半のように見える。


 しかし、戦場での油断は禁物・・・その隙をイギリス海軍の別のシーファイアは、見逃さなかった。


 川西機の上方から、シーファイアが襲いかかった。


 彼はとっさに操縦桿を右に倒し回避飛行したが、気付くのが遅く、右主翼に被弾し、一部が欠損した。


「しまった!」


[禿鷹]は耐久性も強く、片方の主翼が2割程度欠損しても、飛行が可能なように設計されている。


 ただし、うまく飛行できるかは搭乗員の腕しだいだが・・・


 川西は何とか、機体のバランスを回復させ、どうにか飛行可能にした。


 しかし、被害は主翼の破損だけでは無かった。


 燃料計に赤ランプが点灯した。


 燃料漏れが発生している事を知らせている。


 川西は後方を見る。


 別のシーファイアに、後ろを取られた。


「くっ!」


 これまでか、そう思った時・・・


 そのシーファイアの後方から、何か飛翔物体が高速で、接近してきた。


「あれは!?」


 その飛翔物体が何か理解した時、川西機を撃墜しようとしていた、シーファイアは火の塊となった。


 それだけでは無い。


 地上部隊の退却の援護を行っていた、他の[禿鷹]を攻撃していた他のシーファイアも、次々と撃墜された。


 シーファイアを撃墜したのは、恐るべき追跡性能と射程距離がある空対空誘導噴進弾だ。


 その噴進弾に遅れて、2機のジェット戦闘機が彼の視界に入った。


 主翼と機体に、日の丸が付いたジェット戦闘機である。


 しかし、そのジェット戦闘機は川西が知っている幽霊総隊空軍のジェット戦闘機(F-15J改等)では無い。


 その時、川西が付けている通信機から通信が入った。


「第32飛行団第321飛行戦隊第2中隊残存機へ、貴機等は無事か?」


 外国訛りの無い日本語が聞こえた。


「こちらは陸軍第32軍第32飛行団第321飛行戦隊第2中隊第3小隊長の川西三男少尉。貴隊の支援に感謝するが、貴隊の所属と姓名は?」


 すると、そのジェット戦闘機の操縦士から返信が来た。


「こちらは帝国海軍秘匿艦隊航空母艦[回天]所属、航空予備軍第1空母航空団第11戦闘飛行中隊長の加藤(かとう)建夫(たてお)少佐。秘匿艦隊司令長官である南雲(なぐも)忠一(ちゅういち)大将の命令で出撃した。貴隊は燃料弾薬の補給のために基地に帰投せよ」


 川西たちを援護したジェット戦闘機部隊は、幽霊総隊等の連合軍の操縦士では無く、大日本帝国軍人が操縦するジェット戦闘機だった。


 第321飛行戦隊第2中隊の操縦士たちが見たジェット戦闘機は、1973年から運用が開始された、アメリカ海軍の艦上戦闘機であるF-14である(ただし、オリジナルのF-14とは異なり、海軍予備機として保管されていたF-14A[トムキャット]を大日本帝国航空産業でもどうにか運用できるように、性能の低下と引き替えに新世界連合、日本共和区、大日本帝国航空産業が共同で開発したF-14もどきだ)。

 矛と盾 第16章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますがご了承ください。

 次回の投稿は11月28日を予定しています。

 IF 外伝1の韓国編前編と糸瀬巡査を主役としたショート・ストーリーを11月27日に投稿する予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ