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矛と盾 第15章 幸島飛行場の攻防戦

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 南幸島にある幸島飛行場と、幸島駐屯地を奪還した連合空挺部隊と幸島警備隊は、飛行場と駐屯地の防衛態勢を強化した。


 第1空挺団第1特科大隊から1個特科中隊も派遣され、120ミリ重迫撃砲陣地を構築し、装備の空中投下のために、護衛機にエスコートされたC-2輸送機とC-130Hから、新たに第1空挺団第1機械化普通科群(第1空挺団の中で唯一装甲車等を主装備にした機動部隊)第1中隊が、装備と共に人員が降下した。


 彼らは、96式装輪装甲車の空挺団仕様に改良したC型を装備している。


 軽量化の新型防弾装甲板を使用し、14.5トンもあった本車を、10トン程度まで軽量化させた装甲車だ(ただし、いくつかの問題点は存在する)。


 第1空挺団第1普通科大隊(他部隊も含む)、第21空輸特殊作戦旅団第1大隊、第2外人落下傘連隊第2中隊は、幸島奪還のために次の作戦段階に入っていた。


 那覇航空基地から離陸する、C-1輸送機を無事に着陸させる事だ。


 C-1輸送機には、第8機動師団第12普通科連隊の第1陣が増援部隊として搭乗している。


 増援部隊の空輸は、3回に分けて行われる。


 その第1回目が、これから行われようとしている。


 防衛陣地では、英蘭印連合軍上陸部隊が増援部隊到着を阻止するための、殴り込み攻撃に備えて機関銃陣地の増設と、迫撃砲による火力支援向上のために、予備の砲弾もすべて迫撃砲陣地に運んだ。


 第1空挺団第1普通科大隊第2中隊第3小隊は、塹壕を掘り、もっとも敵の歩兵部隊が突撃する可能性がある陣地に、第21空輸特殊作戦旅団第1大隊第4中隊第6小隊と共に護りについていた。


 増援部隊第1陣が到着する時間帯は、雨が降り出した。


 夜間であるため、月明かりも無く、激しい雨の音で、自然界の出す音もかき消され、人間の耳では歩く音等を判別するのは難しい状況だ。


 第1普通科大隊の小隊長である2等陸尉は、暗視装置付の双眼鏡で周囲を念入りに監視する。


「ん?」


 その時、茂みが奇妙な動きをしている事に気付いた。


 それも1つ、2つでは無い。


 複数箇所だ。


「どうやら、敵のお出ましだ」


 同じく、敵の奇襲攻撃に備えて監視していた、第21空輸特殊作戦旅団第1大隊の小隊長である中尉が静かにつぶやいた。


「小隊!3点射射撃用意」


 2尉は部下たちに指示を出し、自信も89式5.56ミリ小銃折曲式銃床を安全装置から3点射制限射撃にした。


 連発射撃にしないのは、彼らが本隊では無く威力偵察を目的とした偵察部隊の可能性があるからだ。


 もし、威力偵察を目的とした偵察部隊であれば、必ずその後方から本隊が突撃してくる。


 機関銃陣地では、5.56ミリ機関銃MINIMIを構え直す機関銃手。


「よし、小銃擲弾手。擲弾発射!これで敵の動向を見る!」


 2尉の指示で、89式5.56ミリ小銃折曲式銃床の銃口に装着した06式小銃擲弾を発射した。


 発射された小銃擲弾は、前方の茂み地域に命中し、いくつもの炸裂音が響いた。


 第21空輸特殊作戦旅団第1大隊から派遣されている小隊も、6発弾倉の20ミリ擲弾が付属したK20複合型小銃から擲弾が発射された。


 炸裂音の後、茂みに隠れていた敵部隊が姿を現し、小銃から短機関銃等を乱射してきた。


 しかし、姿を現した部隊は、少数(それでも1個中隊クラスはいる)だった。


「やはり、敵の威力偵察だ!次に敵の本隊が突撃してくるぞ!中隊指揮所に連絡、迫撃砲の火力支援要請!」


 2尉が、小隊長付無線手に叫んだ。





 第1空挺団第1普通科大隊第2中隊指揮所では、第3小隊が敵の威力偵察部隊と交戦状態に入った事が、知らされた。


 中隊長は、幸島飛行場と周辺の地形が記載された地図に、印をつけた。


「敵の規模は?」


「およそ1個中隊クラス!報告では主に小火器を中心としているだけで、迫撃砲等を含む歩兵部隊支援用の重火器は確認されていません!」


 中隊指揮所にいる幹部からの報告を聞きながら、中隊長は考え込んだ。


「威力偵察にしては火力が少ないな・・・どちらかと言うと、威力偵察と隠密偵察の中間的な偵察行動だな・・・」


「どうしますか?念のため、大隊本部に応援部隊を要請しますか?どちらかと言えば、我々以上に情報は収集しているはずです」


 中隊副長が、具申する。


「中隊長!大隊本部から緊急連絡です。予定通り、第12普通科連隊の第1陣を乗せたC-1輸送機群が、飛行場に着陸する。敵の攻勢に注意せよ、です」


 中隊指揮所の無線手が報告する。


「わかった。無線手、大隊本部からの通信を全部隊に連絡せよ!」


「はい!」





 那覇航空基地で、燃料を満タンにしたC-1中型輸送機は、1機につき60名の第12普通科連隊員と彼らの武器、弾薬等を乗せた状態で、幸島飛行場に接近していた。


 C-1は、戦後初めて開発された国産の輸送機であり、C-2輸送機が量産されると同時に、その姿を消しつつあったが、日本国内のみで軽量の物資及び人員輸送では、本機が活躍できる場所はいくつもあったため、機体寿命が十分にある10数機が、この時代に派遣された。


 しかし、C-1輸送機は中型輸送機でありながら、他国の輸送機と比べると航続距離は極端に短い。


 だから、すでにC-1の燃料計は3分の1程度であり、帰還する燃料は無い。


「幸島警備隊からの連絡だ!飛行場周辺では英蘭印連合軍上陸部隊の攻撃を受けている。小規模な攻撃だが、恐らく俺たちが着陸コースに入ったと同時に、本格的な攻撃が開始されるだろう!気を引き締めろよ。C-1は50年間航空自衛隊の輸送機として活躍した。C-2やその後の防衛計画の見直しで導入された、戦略輸送機の若造どもに老兵の意地を見せるぞ!」


 C-1飛行隊の指揮官である2等空佐は、自身が率いるC-1隊のパイロットたちに喝を飛ばした。


「機長。幸島飛行場より、着陸許可が出ました!」


 副操縦士の2等空尉が、報告する。


「了解!これより、着陸する。先陣は1番機だ!」


 2佐はそう叫び、操縦桿をゆっくり押す。


 C-1輸送機が、ゆっくりと高度を下げた。


 激しい雨が、コックピットの風貌ガラスに叩き付けられる。


 幸島飛行場の滑走路では、夜間着陸用の着陸誘導灯が点灯していた。


「幸島警備隊本部からC-1飛行隊へ、敵が攻撃を開始した!迫撃砲から軽野砲による砲撃だ!着陸を中止できるか?」


 幸島警備隊本部からの通報に、2佐は迷わず即答した。


「それは無理だ!もう、燃料が無い。これ以上、上空待機していても、結局強行着陸だ。このまま着陸を強行する!」


「了解。万一に備えて、消火部隊と救難部隊を、滑走路周辺に待機させる」


 幸島警備隊本部からの通信に、2佐は苦笑した。


「縁起の悪い事を、さらりと言ってくれるね・・・」


「まったくです」


 複数の場所から、野砲から発射されたと思われる砲弾が、次々と飛行場内に着弾しているが、どうやら観測部隊が存在しないのか、砲弾は滑走路手前に着弾する砲弾もあれば、明後日の方角に着弾している砲弾もある。





 幸島警備隊隊長の土谷正就1等陸佐は、幸島飛行場の管制塔から増援部隊を乗せたC-1輸送機の着陸の瞬間を見守っていた。


 その間にも英蘭印連合軍上陸部隊の砲兵部隊からの、砲撃は続いている。


 だが、上空にはC-1を援護するために、新世界連合軍多国籍特殊作戦軍アメリカ統合特殊作戦軍空軍特殊作戦コマンド第20特殊作戦航空団第201特殊作戦飛行隊に所属するAC-130J[ゴーストライダー]が、赤外線暗視装置付のカメラで発射点を確認し、迫撃砲や野砲陣地に対し、側面に搭載されている105ミリ榴弾砲を撃ち込んで、野砲陣地を吹き飛ばす。


 地上で連合空挺部隊に攻撃を仕掛けている敵部隊に対しては、30ミリ機関砲が火を噴き、地上部隊を制圧する。


 C-1の最初の1機が滑走路に進入し、そのまま滑走路に着陸した。


 1機目の着陸は、何事も無く成功した。


「成功だ」


 土谷は、珍しく安堵の声を漏らした。


 最初の1機が成功すれば、上空にいるパイロットたちの自信にも繋がるし、士気も向上する。


 2機目が続いて滑走路に進入し、着陸態勢に入る。


 2番機も無事に着陸した。


 続いて3番機も着陸に成功する。


 4機目が着陸態勢に入ろうとした時、再び榴弾が飛来した。


 今度は正確に滑走路に着陸しようとしているC-1輸送機の手前に命中した。


 突然の砲撃に、パイロットは驚いたのか、C-1の機首を上げてしまった。


 着陸態勢であり、速度もかなり低速だった。


 その状況下で上昇してしまえばどうなるか、言わずともわかる。


 失速である。


 C-1はそのまま推力を失って、滑走路に機首をぶつけた。


 衝撃は、相当なものであったのだろう。


 車輪が折れ、2器あるエンジンの1つを滑走路でこすった。


 しかし、幸いにも墜落したC-1が爆発する事も火災炎上する事も無かった。


 事前に敵の攻撃は予期していため、余った燃料は着陸寸前で捨てていたからだ。


 そのため、たとえ、墜落して機体は大破しても、中の積み荷や人員の被害はある程度は押さえられる。


 すぐに、機内に積まれている物が出火するのを防ぐために、救難隊と消火隊が救難車、消防車で駆け付ける。


 残りの機は、予備滑走路である誘導路にそのまま着陸する指示が飛び、上空にいるAC-130Jは、無人偵察機からの精密高性能地上監視システムで、どこかに観測部隊が観測点を置いている可能性のある地点を捜索する。


 恐らく観測点は、飛行場を見渡せる山間部だろうが、問題はどこに潜んでいるかだ。


 山頂であれば、すぐに偵察機に発見されるのは、敵も知っている。


 ならば、山の中腹だろう。


「監視員!山腹の中で、一番温度の低い場所は無いか?」


 AC-130Jの機長が聞いた。


「ありました!ここだけ、温度が他よりも低いです!」


「よし、そこだ!そこに敵の観測部隊がいる!」


 機長が叫んだ。


 熱画像装置や暗視装置の理論は、この時代ではすでに存在していた。


 そのため、夜間にもこれだけの正確無比の攻撃をしているのだから、どんな頭の悪い人間でも気がつく。


 敵は熱画像装置や暗視装置、若しくはそれに類する装置を利用しているのでは無いか・・・


 熱画像装置を攪乱する方法はいくつもあるが、古典的で一番誰もがすぐに思いつくのは、身体に濡れた泥を塗る、叉は濡れた泥で覆った観測所等を設置する、だ。


 これなら、赤外線暗視装置を攪乱できるが、それも長くは続かない。


 自然界は、常に一定の温度を保っている。


 しかし、一カ所だけ温度が低いというのはありえない。


 もちろん、自然界である以上は、人間の知恵や知識が遠くに及ばない事もあり得るが、普通は疑う。


 AC-130JからAGM-114[ヘルファイア・ミサイル]が発射され、そのポイントを吹き飛ばした。


 機長の予想通り、そこには人工物が存在していた。


 その後、残りのC-1は無事に着陸した。


 墜落したC-1は、機長と数名の自衛官が墜落時の衝撃で死亡し、10数名が重軽傷を負ったが、他の隊員は奇跡的に問題無かった。


 機長も副操縦士も、C-1の飛行時間は1000時間を超えている。


 だから、たとえ、不測の事態が発生しても被害を最小限に押さえられる。


 まさにベテランパイロットの腕だった。



 南幸島に空輸で増援部隊が送られている頃、多目的護衛艦[かいよう]を旗艦とする第1統合任務隊群は、英蘭印連合軍上陸部隊が、もっとも上陸している中幸島に破軍集団陸上自衛隊陸上総隊第1師団等から選出された第1戦闘群が乗艇する上陸舟艇と、CH-47JAの援護のために、SH-60Kを発艦させた。


 上陸、着陸地点では、中幸島に駐屯している大日本帝国陸軍南西軍第12軍から派遣された、上陸誘導隊と周辺警戒隊が、上陸地点の安全確保を行っている。


 増援部隊兼支援部隊として、土地勘の強い幸島市民の郷土防衛隊もいる。


[かいよう]に搭載されている上陸舟艇は、[しょうない]型輸送艦や[おおすみ]型輸送艦のようにLCACでは無く、国産の艦載艇に建造された1号型汎用上陸舟艇1号である。


 全長45メートル、排水量550トン、速力10ノット、搭載量は200トン以上積載可能である。


 汎用上陸舟艇1号が砂浜に乗り上げると、そのまま艦首にある観音開きの門扉が開放されて、破軍集団陸上自衛隊のみに配備されている10式戦車改が現れる。


 10式戦車改と言っても、ほとんど10式戦車と変わらない。


 語尾に改を付けているが、実際はB型である。


 主な改良点は、新型の軽量化複合装甲と55口径120ミリ滑腔砲に変更されているのと、砲塔上面に設置されている12.7ミリ重機関銃と同じく上面に設置されている7.62ミリ6銃身連装機関銃は、自爆攻撃や人海戦術に備えて自動射撃機能が装備されている([はやぶさ]型ミサイル艇や[うねび]型イージス護衛艦のように戦闘AIは戦車用の小型化が不可能だったため、装備されていないが、戦闘支援システムで装備されている)。


 10式戦車改は、第1師団第1戦車大隊に主配備されているが、今回、ここに運ばれたのは1個小隊4輛のみで後、大口径クラスに該当する戦闘車両は、16式機動戦闘車、装輪155ミリ榴弾砲である。


 第1戦闘群は戦闘部隊、後方支援部隊、本部を合わせて400名程度だが、海と空からの支援があるため、その戦力は1個旅団に匹敵するだろう。


 中幸島では、第32軍に属する1個師団と2個独立旅団が英蘭印連合軍上陸部隊と戦車対戦車の激戦や、野砲対野砲の砲撃戦を行っている。


 昼間は大規模な戦車や野砲等の砲撃戦、さらに双方の戦闘機や地上攻撃機が地上部隊の支援や制空戦を繰り広げている。


 夜間は歩兵部隊による、大中小の歩兵対歩兵の戦闘である。


 どちらも一歩も引かないのが、現在の戦況だ。


 大日本帝国陸軍や海軍陸戦隊が、夜間の奇襲攻撃や昼間の通常戦で奪還した拠点は、すぐに英蘭印連合軍上陸部隊に奪取される。


 それの繰り返しだ。


「これは、まるで沖縄地上戦のようだ・・・」


 次々と報告に上がってくる、敵味方の損失の報告に、中幸島に上陸した第1普通科群指揮所で指揮を執っている群長(2等陸佐)がつぶやいた。


「いや、むしろ朝鮮戦争の高地戦のようだ・・・」


 第21空輸作戦旅団から派遣されてきた、連絡将校がつぶやく。


 ある意味では、南幸島や北幸島よりも中幸島が激戦地である。

 矛と盾 第15章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

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