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矛と盾 第14章 停戦と会談

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです

 防衛局長官直轄部隊である陸海空自衛隊で編成された、統合運用部隊の海自部隊のイージス護衛艦[うねび]は、僚艦として汎用護衛艦[さざなみ]と共に、首都圏の空襲を行ったアメリカ海軍攻撃隊の母艦である航空母艦[サラトガ]と[ワスプ]を基幹とする空母機動部隊を対水上レーダーで完全に捕捉している。


[うねび]は、8200トン型イージス護衛艦建造計画で最初に建造された、イージス護衛艦だ。


 同じく、8200トン型イージス護衛艦である[あかぎ]型イージス護衛艦の準同型艦でもある。


 性能諸元としては、イージス護衛艦[うねび]は全長169メートル([あかぎ]型イージス護衛艦よりも1メートル短い)、基準排水量8200トン等と変わるところは無いが、[あかぎ]型と異なり、かなり民生品等の格安の部品を使用しているため、建造予算は前型の[あたご]型イージス護衛艦よりも予算の削減に成功した。


 しかし、情勢が大きく変わり、結局[うねび]型イージス護衛艦2番艦の建造計画は中止された。


 中止の理由は、国産の巡航ミサイルの装備やBMDモード状態での対地上攻撃の向上が必要となり、[うねび]型イージス護衛艦を、そのまま流用する形でシステムをすべて変更して再建造されたのが[あかぎ]型イージス護衛艦だ。


[うねび]は[はやぶさ]型ミサイル艇と同様に戦闘AIが搭載されているため、[あかぎ]型イージス護衛艦の防衛戦略装備が追加できなかったのが、最大の原因でもある。


 防衛局長官直轄部隊であるため、[うねび]には防衛局長官叉は、副長官が乗艦する場合もある。


 そのため、他の護衛艦とは違う規定も存在する。


 防衛局長官叉は副長官が乗艦した場合は、[うねび]の司令席にそのどちらかが座り、司令が艦長席に腰掛ける事になっている。


 ただし、統合大臣が[うねび]に乗艦する事は無い(統合大臣は練習艦[かしい]に乗艦する)。


 日本共和区統合省防衛局長官の村主(すぐり)葉子(ようこ)は、防衛局の作業服姿で[うねび]のCICに立っていた。


 防衛局長官直轄部隊の実働部隊である同部隊は菊水総隊、破軍集団と比べれば規模は陸海空自衛隊を合わせても小さい、陸上型イージスシステムを運用する部隊も、防衛局長官から直接の指揮を受ける。


 陸上部隊は、日本共和区の防衛と警備を行える最低限の部隊と日本共和区の電力をまかなっている発電所及び変電所の警備も担当している。


 他の海空部隊も、同様である。


「浅羽司令。空母機動部隊からの連絡は無いか?」


 村主は腕時計を見ながら、髭と顎髭を生やした厳格な顔つきをした中年男に聞いた。


 彼が防衛局長官直轄部隊の統合運用部隊指揮官であり、麾下の艦隊司令も兼任している浅羽(あさば)(きよ)(さと)1等海佐だ。


「いえ、まだ何もありません」


 浅羽は、即答する。


「ミサイル艇[うみたか]は?」


 村主が、[うみたか]の状況を聞く。


「[うみたか]は作戦計画通り、空母機動部隊から距離をとり、監視活動を行っています」


 浅羽の報告に、村主はうなずく。


「・・・・・・」


[うねび]艦長の海田(かいだ)憲司(けんじ)1等海佐は、CICの艦長席で腰掛けたまま目を閉じている。


 村主も浅羽も、彼の性格は知っている。


 イージス護衛艦の艦長たちの中では、もっとも戦いを好まない平和主義者である。


 村主や浅羽と初めて顔を合わせた時、彼はこう告げた。


「不戦の軍隊である自衛官の制服を着ている事が、自分にとって最大の名誉な事です」


 その意見には、村主も浅羽も同感だった。





 回答期限時間まで、1分を切った。


[うねび]も、[すずなみ]以下第1ミサイル艇隊も、SSMの発射準備を完了している。


 すでに、横須賀鎮守府警備戦隊の軽巡洋艦と駆逐艦や、海上警備隊第1海上警備管区隊第1沿海警備集隊の沿海警備艦も、雷撃戦に備えて突入準備を完了している。


 もちろん、[うみたか]が離れたからと言って、監視は怠っていない。


 大日本帝国海軍が、伊号型潜水艦の後継として[黒潮]型水中高速攻撃型潜水艦と同時に就役した沿海型潜水艦である[荒潮]型沿海型潜水艦[満潮]が、海中から監視を行っている。


[荒潮]型沿海型潜水艦は[黒潮]型水中高速攻撃型潜水艦とは異なり、水中高速航行能力を犠牲に隠密性と静粛性を重視した。


 水中速力10ノットだが、全速水中航行状態でも[黒潮]型潜水艦よりも静かであり、さらに海上索敵能力も高い。


[満潮]は洋上にいる駆逐艦に探知される事も無く、空母[サラトガ]叉は[ワスプ]に雷撃を行える位置で待機している。


 アメリカ海軍の決死部隊である、空母機動部隊の司令官がどのように判断するか、それで彼らの運命は決まる。


「回答時間まで30秒!」


[うねび]のCICでカウントしている、幹部自衛官が報告する。


「我々の条件を受け入れる気があるのか・・・」


 CICで、火器管制を担当する幹部自衛官がつぶやく。


 CIC内では、刻々と迫る期限時間に、緊張が高まっている。


「落ち着け」


 海田が、声を掛ける。


「あっ!防衛局長官、司令。空母[サラトガ]より返信です!」


 通信士が叫ぶ。


「返答内容は?」


 村主が聞く。


「はい。アメリカ海軍太平洋艦隊奇襲攻撃艦隊司令官マーク・アンドリュー・ミッチャー少将。アジア艦隊司令官トーマス・チャールズ・ハート大将の要請に従い、戦闘行動を停止し、アメリカ本国に帰国を望むアメリカ陸海軍の捕虜を収容し、ただちにアメリカ本国に撤退する。以上です」


 通信士の報告に、村主は安堵の息を吐いた。


「ハート提督。これでよろしいですか?」


 村主はCICで自分の席から立ち上がり、後ろで事態の進展を見守っていた、ハートに尋ねた。


「ありがとうございます。村主長官」


 ハートは、素直に礼を言った。


 本来、交戦国軍の高級士官を防秘の塊であるイージス護衛艦のCICに入れる等、正気の沙汰では無いが、実際には世界の戦争を見ると、このような処置も珍しい事では無い。


 確かにCICは防秘の塊だが、常に全システムをフル稼働にしている訳では無い。


 つまり、場合に置いては交戦国軍将校や仮想敵国軍将校を迎え入れる事例が無い訳ではでは無い。


 もともと、自衛隊が他国軍のように軍事機密の塊施設を公開しないのは、平和憲法で禁止されている威嚇行動に該当する可能性があるからだ。


 例えば、某国のように本来なら絶対に表に出さない特殊部隊に所属する兵士たちで編成した、特定指定人物を暗殺する部隊の存在や、訓練内容を公開するのも威嚇が目的だからだ。

  

 さらにそれは対象国だけでは無く、他の国にも・・・例えば同盟国や友好国にも、同じように威嚇するためでもある。


 これは、国家の安全保障上必要な処置でもある。


 日本の場合は、アメリカという圧倒的軍事力を持つ国を背景に自国の安全を保った、と説明すればわかりやすいだろう(現在ではアメリカの軍備は弱体化し、アメリカを背景にした対話による外交は意味をなさなくなったが・・・)。


「状況終了」


 村主は、小さく告げた。


「状況終了」


 浅羽が、復唱した。





 日本共和区統合省庁舎本棟地下に設置されている国防指令センターでは、統合大臣の加藤(かとう)(しげる)が、各長官叉は副長官たちと、第2次日本本土空襲の被害報告を受けていた。


 第1次日本本土空襲とは異なり、連合軍による個別本土侵攻作戦により、連合軍の遠征軍に対し、各個撃破のために主力部隊を分散投入しなくてはならなかったため、防衛網が低下した場所を精密に攻撃された。


「日本共和区中央地区上空に侵入した戦闘機及び爆撃機30機は、機銃掃射と250キロ以上の爆弾を投下しました。被害状況は現在確認中ですが、少なくとも民間人に100名以上の死傷者を出しました。大日本帝国首都圏に侵入した攻撃隊100機は、航空予備軍の対空高射砲や破軍集団陸上自衛隊陸上総隊第1師団第1高射特科連隊高射部隊による迎撃で、6割を撃墜しましたが、残存機は防空網をすり抜け、爆撃を実行しました。爆撃されましたのは、軍事工場や近辺の下町です」


 統合省官房長官の出間(いずま)(とおる)が消防本部、警察総監部、統合幕僚本部、大日本帝国外務省から上がってきた報告を説明した。


「敵もかなり知恵を絞ってきたな。宮城を空襲しなくても、日本国民や大日本帝国民に心理的打撃を与える場所を、攻撃したのだからな」


 加藤が、つぶやいた。


「そうです。爆弾なら、どうにかできましたが、ビラを京都市と奈良市にばらまかれたのは、かなり強烈な攻撃です」


 穏やかそうな顔つきをした、加藤と同じ歳ぐらいの男がつぶやいた。


 穏やかな顔つきを、さらに眼鏡が強調している。


 彼は、防衛局副長官の金森(かなもり)(さとし)である。


 一見穏やかそうに見えるが、彼も村主長官と同じく、防衛大学校を卒業後、海上自衛隊幹部候補生学校に進み、定年まで勤めた元海上自衛官だ。


 最終階級は海将補である。


 定年後は地元の平和博物館で、遠足や修学旅行で訪れた学生たちに、戦争と平和について講演する毎日を過ごしていた。


「我々が行った心理戦を、そのまま敵は返してきた。それも巧妙に我々の弱点をついた。ソ連軍についての報告は受けたが、南東諸島についての状況はどうなっている?」


 加藤が聞くと、金森が説明した。


「南幸島の飛行場は、空挺部隊の降下作戦で奪還しました。現在、幸島警備隊と共に飛行場の防衛陣地を構築しています。増援部隊はいつでも那覇航空基地から投入できます」


「大日本帝国軍部と、新世界連合軍との共同作戦の状況は?」


 加藤の問いに、金森が再び答える。


「大日本帝国軍部とは、菊水総隊統合防衛総監部が担当し、新世界連合軍とは破軍集団統合運用部隊司令部が担当しています。最終的な作戦判断は、統合幕僚本部長の本財(ほんざい)保夫(やすお)陸帥に一任しています」


「うん。ともかく日本本土に上陸した連合軍は、早く排除しなくてはどうにもならない。これからの対応は、その後からだ・・・」


 加藤の言葉に、出席している長官叉は副長官たちがうなずいた。


 連合軍の上陸侵攻を受けているのは、日本本土だけでは無い。


 パラオ諸島には米仏連合軍が、南シナ海ではイギリス海軍の戦艦部隊が攻勢に出ている。


 これらの対処に、菊水総隊司令官である山縣幹也(やまがたみきや)海将と、聯合艦隊司令長官の山本五十六(やまもといそろく)大将がそれぞれ対処している。





[うねび]の艦載機であるSH-60Kは、奇襲攻撃艦隊旗艦である空母[サラトガ]から来艦者を乗せて、[うねび]の後部甲板にある飛行甲板に着艦した。


 SH-60Kから、数人のアメリカ海軍将校たちが降りた。


 来艦者の代表は、マーク・アンドリュー・ミッチャー少将である。


[うねび]からの出迎えは、艦長である海田と、司令の浅羽。


 そして、拳銃を携帯した警衛海曹たちが出迎えた。


 ハートの副官である、アメリカ海軍の士官もいる。


 双方は簡単な挨拶をした後、海田が来艦者たちを案内した。


[うねび]の士官室に隣接する、士官予備室と呼ばれる小さな部屋がある。


 主に幹部自衛官が雑務や初級幹部たちが集まり、勉強会叉は研究会等をするための部屋であるが、時としては、他国軍の高級士官と随行員たちとの会談する時にも使われる。


 士官予備室には、背広に着替えた村主と、カーキ色の海軍将校用の作業服から、冬服の制服姿のハートが、応接用の椅子に腰掛けて待っていた。


 背後には、デジタル迷彩服姿のMPが2人背後に立っていた。


 部屋の外にも、MPが2人いる。


 ミッチャーたちが、士官予備室に入室すると、村主とハートは立ち上がった。


「ご無事で何よりです。ハート提督」


 ミッチャーは、アジア艦隊司令官だった、ハートに告げた。


「お目にかかれて光栄です。村主閣下」


 ミッチャーは、アメリカ合衆国の陸軍長官叉は、海軍長官に相当する地位の人物が、女性であることに僅かながら、驚きを見せながらも手を差し出した。


「こちらこそ、光栄です。提督」


 村主は、差し出された手を握る。


 挨拶が終わると、会談が開始された。


 まず、ミッチャーが率いる奇襲攻撃艦隊の入港、及び大日本帝国本土にいるアメリカ軍捕虜の返還と艦隊に武器、弾薬を除く、燃料、糧食、飲料水、医薬品の補給と捕虜が生活するために必要な最低限の生活必需品や衣類、毛布等も提供される。


 出航後の、大日本帝国から日本統治下のハワイまでの安全な航海の約束等である。


 そのため、打ち合わせはかなりの時間がかかった。


 誤解による戦闘を避けるため、大日本帝国海上警備隊から護衛警備艦と海上保安本部から巡視船が随行し、航海の安全を約束した。


 村主は、私物のコーヒーを自分で淹れて、彼ら来艦者たちに振る舞った。


 彼女が好んでいる、元の時代の生産国でも限定的に作られるコーヒー豆であり、村主自身も滅多に飲む事が無い。


 前に、従弟の氷室(ひむろ)匡人(まさと)に淹れてやると、子供の頃から変わらない喜びを見せた。


(まったく、匡人はああいう時だけは私に懐く・・・そう言えば、私が料理を作る日には必ずいたが、京子の時はいつもいなかったな・・・まあ、仕方無い)


 村主はそんな昔の事を思い出しながら、コーヒーをコーヒーカップに淹れた。


 彼女の妹である菊水総隊海上自衛隊第1護衛隊群首席幕僚の村主(すぐり)京子(きょうこ)1等海佐は、学問や仕事等はどれもトップクラスだが、ただ1つ、料理だけは無理だった。


 うまく作れるのは、レンジで加熱する冷凍食品か、お湯でできるインスタント食品だけである。


 余談だが、それすらもたまに口にできないような、事態を起こすそうだ・・・

 矛と盾 第14章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますがご了承ください。

 次回の投稿は11月21日を予定しています。


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