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矛と盾 第13.5章 矛と盾

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 防衛局長官命令が、統合防衛総監部航空総監部経由で日本帝国首都圏防空を任されている、陸上型イージス[イージス・アショア]の防空指揮所に届いた。


 防衛局長官直轄部隊航空自衛隊広域防空団第1広域防空群司令の1等空佐は、イージス艦のCICを思わせる戦闘指揮所の司令席で、防衛局長官命令書に目を通した。


「ふむ」


 1佐は命令書を読み終えると、マイクをとり、施設内及び施設外に勤務する航空自衛官たちに訓示を行った。


「菊水総隊の若造からは、無用の長物とコキ降ろされ、我々は現場で戦っている陸海空自衛官たちを、遠くの本土からただ眺めるだけで、常に訓練の日々を過ごしていた。その結果、日本共和区に住む日本国民からも、その存在は忘れられてしまい。記者会見で我々の存在が明かされても、思い出すのに時間がかかる始末だった。しかし!今日からはそんな日々を過ごさなくて良い日が始まる。それが、単なる税金無駄の使いか、叉は日本本土を守る最後の盾になるかは我々次第だ!」


 群司令の言葉に、戦闘指揮所にいる航空自衛官たちの表情が、一斉に引き締まった。


 戦闘指揮所には、陸上自衛隊や海上自衛隊の隊員たちの姿もある。


「隊司令!ソ連極東方面から出撃した300機以上のB-29及びB-17が迎撃開始圏内に接近します!」


「具体的な時間は?」


[イージス・アショア]での戦闘指揮を担当する、第1広域防空隊司令の2佐が聞く。


「約5分!」


「群司令。迎撃準備に入ります」


 隊司令の言葉に、群司令はうなずく。


「システムを、戦略爆撃機迎撃モードに設定!SM-2及び中SAM、スタンバイ!」


 陸上発射型VLSには、弾頭ミサイル迎撃用のSM-3と、高々度から接近する戦略爆撃機群と護衛の電子戦闘機に対処するSM-2、巡航ミサイルや中高度接近する戦闘攻撃機に対処する中SAMが装填されている。


 戦略爆撃機軍団からの攻撃に対する、首都圏防衛は3段階に別れている。


 第1段階が[イージス・アショア]による迎撃、第2段階が破軍集団航空自衛隊のF-22UJ[ラプター]隊による迎撃、第3段階が破軍集団航空自衛隊、菊水総隊航空自衛隊、防衛局長官直轄部隊航空自衛隊のそれぞれの高射隊による迎撃である。


 この3段構えを突破されたら、大日本帝国航空予備軍による迎撃戦闘機が迎撃する手筈になっている。


「敵戦略爆撃機団!迎撃可能圏内に侵入!」


 レーダー員が、叫んだ。


「了解。SM-2を敵戦略爆撃機軍団に向けて連続発射!早期警戒機は、ただちに現場空域を離脱せよ!」


 隊司令の指示を受けて、戦闘指揮所のスクリーンの1つに映し出されているレーダー画面から、友軍機である識別信号を出している機が、ただちに針路を変更した。


 VLSの運用員と、ミサイル発射を担当する幹部たちが、コンソールを操作し、データを入力する。


「第1射、全弾発射!」


 幹部が叫ぶと、SM-2の発射ボタンを押す。


 敷地内に設置されている、陸上発射型VLSから轟音と振動が戦闘指揮所にも響いた。


 敷地内に設置されているカメラの映像には、VLSから連続してSM-2が発射される様子が映し出された。


「弾頭ミサイル防衛のために、日本本土に配備されたイージス・アショアの初陣が、現代では無く80年前になるとは、誰も予想しなかっただろうな」


 群司令が、つぶやく。


「第2射発射準備完了!」


 VLSの運用担当者が、報告する。


「第2射、第2目標の中高度に展開しているB-17群に向けて、中SAMを連続発射!」


 発射担当の幹部が叫び、発射ボタンを押す。


 VLSから中SAMが、轟音と振動と共に発射される。





「インターセプトまで、5秒前!4、3、2、1、着弾、今!」


 SM-2の光点が、接近中のB-29群の光点と重なった。


 一瞬にして、10機以上のB-29が撃墜される。


「ターゲット2にも、中SAMが命中!」


 レーダー画面を映し出しているスクリーンには、B-17の大編隊が飛行している中高度にも中SAMが命中し、同じく10機以上が撃墜された。


「もしも、これが現代戦だったら、イージス・アショアの正確な位置情報は、すぐに割り出される。交戦国及び対立国は、日本本土への奇襲攻撃を計画していたら、ここは真っ先に潰されるだろうな・・・」


 群司令が、つぶやく。


 海上に展開するイージス艦とは異なり、陸上に設置するイージスは秘匿性には限界があり、平時であれば日本と戦争状態に踏み込もうと考えている国は、諜報員を送り込んでくるだろう。


 現代の日本には、スパイに対する対処法案は存在しない。


テロ等準備罪や対テロ特別法案は存在するが、どれもテロやコマンド攻撃を未然に防ぐに関しては、かなり不十分な部分も存在する。


「我々の国のテロ関連法案は、どれもテロ攻撃が計画され、その準備段階で対処できるが、そもそもそれらを計画された時点で、日本の重要施設等の情報はテロ組織や各国政府に筒抜けだ」


 一部のお花畑脳野党の反対演説に、扇動された国民は、これまた、ちゃんと調べたのか?と聞きたくなる位に、お粗末な報道しかしない、一部のマスコミの情報で、まったく的外れの方向に、テロ対策関連法案の意識が向けられた。


(まあ、それで国民に法案の不備を気づかせないための、カモフラージュだろうが・・・まったく、野党だの与党だの、結局は親戚同士の庇い合いをしている訳か・・・)


 群司令は、心中でつぶやいた。


 多少の救いは、日本共和区の議会は当然与党も野党も存在するが、これらの法案の問題点を、短期間で洗い出し、ある程度真面に機能するようにした事だろう(少なくとも、反対のための反対等という、レベルの低い事をする無能は1人もいない)。


(しかし、それでもまだ、不備が解消された訳では無い)


 彼の思惑は的中し、すでに法案の問題点に、突込まれていた。





 日本とアメリカとの戦争に介入していないヨーロッパの某国からの旅行客と偽って、アメリカ合衆国の小さな報道局に勤める2人のジャーナリストは、特ダネを狙って大日本帝国に不法入国していた。


 2人は、父と娘という設定である。


「地元民からの情報は正確だな。この辺りがMPや私服警官どもが巡回しているし、検問も厳しい」


 40代後半の男。サム・アーチャー(偽名はミラー)が、怪しまれないように森の中を慎重に進みながらつぶやいた。


「ですが、アーチャーさん。こんな場所に何があるのですか?」


 去年、名門私立大学を卒業し、報道局に入社した新人女性社員のアンジェラ・バトラー(偽名はタチアナ)が、疲れたような口調で尋ねた。


「どうしたバトラー。親父さんは連邦議会の下院議員で、父やその友人と一緒に狩猟によく出かけましたって、面接で言わなかったか?」


 体力が無いな。と言うような口調でつぶやく。


「どうやら、休憩はお預けのようだ?」


 アーチャーのつぶやきに、バトラーは首を傾げる。


「それはどういう・・・?・・・!!?」


 バトラーが、上司の視線の先を眺めると、そこには角張った奇妙な建物があった。


「軍の基地ですか?」


 バトラーのつぶやきに、アーチャーは首を振る。


「それにしては小さい・・・」


 だが、その基地らしき敷地内は大日本帝国軍と戦っている友人の、アメリカ海軍将校から話を聞き、捕虜返還で帰還した捕虜が口々に言っていた、見慣れない軍装の日本兵たちが警備していた。


「見ろ!帰還兵たちが口を揃えて唱えるロケット弾発射器だ。トラックの荷台に搭載し、自走可能なのか・・・」


 アーチャーは、持ってきたカメラを構えて、迷彩服姿の見慣れない小銃を持った日本兵やロケット弾発射器を搭載した車輌等を撮影する。


 その時、角張った建物の近くに設置されている巨大な箱のような物から、突然、垂直に扉らしき物が解放され、そこからロケット弾がオレンジ色の閃光と白い煙を出しながら、飛翔した。


 しかも、信じられない速さでロケット弾が連続飛翔していく。


 最初の第1弾は撮り損ねたが、2発目からの発射は撮影に成功した。


「アメリカ陸海軍を苦しめているロケット弾は、このように発射されていたのか・・・」


 アーチャーは、角張った建物も撮影する。


 その時、バトラーがアーチャーの肩を叩いた。


「アーチャーさん!日本兵に見つかりました。気配を感じます!」


「やはり、警備態勢は厳重だったか」


 アーチャーは、新人社員の言葉を信じた。


 彼女を選んだのは、このためだ。


 彼女は、狩猟の経験がある。


 猛獣の狩猟も、子供の頃から経験がある。


 そのため、動物が発する気配や、自然の音や人為的な音を、感知する能力は高い。


 2人がそこから、早足で離れようとした時・・・


「動くな!!」


 かなりレベルの高い、英語で警告された。


 数人の、迷彩服姿の日本兵が見えた。


「動くと撃つぞ!!」


 日本兵の1人が警告すると、空に向けて見慣れない小銃を、空に向けて数発発砲した。


 アーチャーと、バトラーは全力疾走で逃走した。


 すると、今度は明らかに自分たちへの、殺傷を目的とした射撃を行ってきた。


「うわぁ!!」


「ひっ!!」


 その恐るべき正確な射撃に、2人は悲鳴を上げる。





 イージス・アショアの近辺で、不審な人物を発見という報せを受けて、イージス・アショアの警備のために派遣されている、菊水総隊航空自衛隊から防衛局長官直轄部隊航空自衛隊の指揮下に戻った、自衛隊施設警備機能と特別司法警察員権限の2つを与えられている航空自衛隊即応展開警備団第1警備群から選抜編成された、派遣警備隊の1個分隊が不審者拘束に出撃した。


 不審者2人が早足で逃げだそうとしたため、分隊長の2等空曹が警告したが、2人は警告を無視して逃走した。


 分隊長は64式7.62ミリ小銃を単発射撃にして、空に向けて警告射撃を行った。


「不審者2名!警告射撃効果無し!」


 隊員の1人が報告する。


「武器を持たない者を撃つのは気が引けるが・・・仕方無い」


 分隊長がつぶやいた後、分隊員の中で選抜射手に認定されている隊員に、不審者が逃走する目の前の樹木に発砲する指示を出した。


 選抜射手に認定されている空士は、64式7.62小銃の安全装置を解除し、単発射撃で威嚇射撃を行った。


 だが・・・


「まだ、逃走するか・・・」


「警備隊本部より、各警備分隊に命令を伝える。逃走中の不審者に対し、状況に応じて射殺しても構わん!繰り返す、逃走中の不審者に対し、状況に応じて射殺しても構わん!」


 警備隊本部からの命令を受けて、分隊長は分隊員たちに射殺を前提とした、展開を指示した。


 すると、突然、不審者の1人が踵を返して、こちらにジグザグに走りながら、突撃してきた。


 地面に落ちている石を、こちらに投げてくる。


 選抜射手の隊員が、膝撃ちの姿勢をとった。


「俺がやる」


 選抜射手の隊員がつぶやくと深く息を吸って、止め、引き金を引いた。


 64式7.62ミリ小銃の銃口から1発の弾丸が発射され、その弾丸はジグザグ走りをしている不審者の太股に命中した。


「ぐあぁ!」


 不審者は倒れた。

 矛と盾 第13.5章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますがご了承ください。

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